【完結】となりに引っ越してきた年下イケメンの性癖は、絶対にヒミツです!?

高野百加

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カフェラテの人

カフェラテの人⑤

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「私、あんまり先が長くなくて。未央の周りの方にごあいさつにきたんです。こんなことお話ししても困らせるだけですよね……、お時間とってすみませんでした」

「まってください。先が長くないとは……それは未央さんはご存じなのですか?」

「いえ、未央には言うつもりはありません。楽しい想い出のままでいてほしくて。今後とも、よろしくお願いします」

その女性はニコッと笑って、足早に店を出て行ってしまった。なんだったんだろう。ずしんと重たく女性の言葉がのしかかる。


未央というカフェラテの人が、自分を気に入っているのを亮介は知っていた。亮介目当てにお店に来て、目をハートにする女性は多いけど、カフェラテの人は別格。大好きオーラがダダ漏れだった。

屈託ない笑顔、テンポの良い話し方。素直に亮介に会うことを楽しみにして、店に来てくれているのがわかって、悪い気はしなかった。

おばあさんがあいさつにきてから、カフェラテの人を無意識で目で追うようになった。

丸みのあるショートカットに、カジュアルな格好。親しみやすい笑顔。華奢な手首が、支払いの時に見えると、ドキッとすることもあった。

彼女は出勤前にいつも寄っている様子で、カフェラテをひとつ注文し、砂糖は2袋入れる。席に着くと手帳を出して、あれこれうんうん考えながらカフェラテを飲む姿を、亮介は一生懸命でとてもかわいらしいと思っていた。

亮介は、当時まだ付き合っている恋人もいて、それ以上カフェラテの人とどうなりたいとか思うことはなかったが、朝の会話が心地よいのは自覚していた。

その後、彼女がテイクアウトのコーヒーを大量に注文したことがあり、名前を知った。篠田未央というらしい。あの初老の女性がいう、未央というのは彼女で間違いなさそうだった。

大量のテイクアウトを職場に持って行くのも手伝ったので、同じ駅ビルの料理教室の先生だというのもわかった。最初は篠田さんと呼んでいたが、試しに未央さんと呼ぶと、顔を真っ赤にしてすっごくうれしそうな顔をしていた。それがかわいらしくて、それからは未央さんと呼ぶことにした。

毎日くり返されるほんのひと時、言葉を交わし、帰り際にごちそうさまと声をかけニコッとする彼女。

亮介の様子が変だとすぐに気がついて、元気ない? とか大丈夫? とか、声をかけてきた。人のことも観察できるんだなと感心する。

例のキャラ変が原因で、恋人に振られたときも、未央は何か察した様子だった。あれで振られるのはお決まりのパターンでそんなに響いてなかったが、別れを告げられるのは素直に悲しい。必死に未央にも笑顔を向けていたが、それが伝わったようだ。

「郡司くん、泣きたいときは泣いていいと思うよ」

帰ってからその言葉がこみ上げて、わんわん泣き腫らした。未央に言われなければ、そうはしなかったかも。思ったよりひきずらず、気分スッキリ、失恋バンザイ。朝を迎えるころには気持ちも明るくなっていた。

あるとき、1週間くらい彼女が店に来ないことがあった。珍しいなと思いつつ気にする自分がいることに驚いた。

久しぶりに未央があらわれたとき、なんだかほっとした。「久しぶりですね」と声をかけると、ペット可物件に引っ越していて忙しくて来られなかったそうだ。動物でも飼うことにしたのかな。そんな未央を、好きだと自覚したのはあの人工呼吸事件だった。

未央に会ったのは本当にたまたま。駐輪場のあたりの脇道を通りかかると、彼女がいるのが見えた。店の外で会うのは初めてだったけど、確かにそうだ。
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