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第六十二話 初顔合わせ
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ブルビネ国は周辺国から魔素濃度が安定していると羨まれているが、中でもカランコエ地方は年間を通して安定しており、そのため魔物の凶暴化や突然変異も起こりにくく異常増加も少ない。ゆえに初心冒険者向けの地域として有名だ。オリンドが組んでいた幼馴染とのパーティが特に危険な目に遭うこともなかったのはそのおかげでもある。
そのカランコエの冒険者ギルドマスター、アロガンゾは執務机に着き、一日の業務の始まりに国二つ挟んだ向こうのグラプトベリア冒険者ギルドから伝書鳥が運んできた手紙を読んでいた。
「…至急受け入れ要請?…なんだあ?」
表題をざっと読み、緊張の面持ちで中を検めたアロガンゾは、ややあって禿げ上がった頭の天辺を掻きつつ短く溜め息を吐いた。
「なんだ。何事かと思えば、貴族様のお遊びか」
「…なにか面倒ごとですか?」
近くで書類の整理をしていた秘書の若い男、マルケロが片眉を上げて声を掛ける。
「あー。な。カロジェロからだ。貴族の坊ちゃんが冒険者の真似事をしたいんだとよ」
「うはあ…。それはまた思い付きの激しいお子様が居たもので。向こうのギルドで受け入れりゃあいいじゃないですか」
「それがよ。ほれ、ちょっと前に勇者一行が凱旋したって噂が流れてきたろ。どうやら本当だったらしい。そしたら休む暇もなく、今度はクラッスラで珍奇なもん探してこいと国王から無茶振りされたんだとよ」
手元の手紙を指の背で軽く叩き、アロガンゾは渋い苦笑を顔に刷いた。
「ははあ。その対応やらで手一杯だと。またぞろリィトブラド王の悪い癖が出たもんだ。勇者一行も大変ですねそりゃ。…しかし、なんだってうちなんです?近いところにやりゃあいいのに」
面倒みてくれそうな冒険者ギルドならパキフィツムでもどこでも、それこそレウクテンを出なくたって、もっと近い所にあるだろうにとマルケロは眉を寄せた。
「暖かいところがいいんだと」
「は」
「危険なのも困るんだそうな」
「…お貴族様め」
「しかも馬車の長旅は怠いんだとよ」
「はあ!?長いったって、グラプトベリアからでしょう!?真っ直ぐ来りゃあ三週間かそこら…」
「冒険者ギルドなら数日でカタぁ付くだろ、と、来たもんだ」
「うげっ!…じゃあ、なんです、急使飛獣でも使おうってんですか!?」
「おう。あー…二十四日早朝に出立予定だとさ。四頭七人だ」
「…っ!?なら夕方には…ってえ!二十四って明後日じゃねえか!…お貴族様め…!」
だん!
まとめた書類を机の端へ乱暴に置いたマルケロは泡を食って踵を返した。
「悪いな。頼むぞマルク」
急使飛獣は冒険者ギルド間であらゆる緊急時に用いられる、大型の飛行獣種を使役した伝達便だ。容易く国境を越えられる性質から各国は難色を示し続けているが、しかしながら、いつどこで暴発するとも知れない魔物の脅威を思えば伝達の滞りは非常に避けたい。そういうわけで多数の制限を課せられた上で公然の秘密という名の下に存在している。
さて、その受け入れについてだが、多くの場合は要件が済み次第速やかに帰還するため何を用意することも無い。が、当然のことながら数日滞在となると飛行獣用の食料や寝床を用意しないわけにいかなかった。
しかし人を二人も乗せて飛ぶことのできる体躯は見上げるほど大きく、おいそれと泊められる獣舎などギルドに設けられた倉庫名義の簡易な物しかない。それだって二頭までを想定しているから残り二頭は受け入れられないし、普段は蜘蛛の巣が張っている有様だ。更に食料として肉も野菜も新鮮な物を大量に準備する必要があるのだが、自ギルドで飼育している飛獣二頭のための仕入れルートがあるとはいえ唐突にいつもの三倍の量を用意しろとは無茶が過ぎる。更にこれらを一両日中に熟せとは目の回る話だ。しかも七人分の高級宿の手配と同時進行とは骨の折れる。
「ったく、このクソ忙しいのに余計な仕事増やしやがって!」
特段に忙しい事など何も無かったが、マルケロは大いに毒付きながらあちこち手配に奔走した。
そういう事情がありはしたが、おくびにも出さずアロガンゾとマルケロはグラプトベリアからの急使を迎え入れた。
四頭とも見事な毛並みの虎型飛獣だ。魔力飛行中の方向転換に利用する羽も大きく手入れが行き届いている。グラプトベリア冒険者ギルドの裕福っぷりを見せ付けられているようで劣等感が擽られた。
「ご多忙のところ大変恐れ入ります。わたくしグラプトベリア冒険者ギルドマスターの秘書を勤めております、ティツィアーナと申します。こちらは庶務手伝いとして連れてまいりました、キアーラです。以後お見知り置きを」
「受付業務主任のキアーラです、よろしくお願いいたします」
飛行路案内の先頭獣から降り立ったティツィアーナがキアーラを伴い四角四面に挨拶するのに愛想笑いで返し、次いで残る五人に目をやった二人は内心で舌打ちをする。
少しは真面目そうな態度を見せれば可愛げもあるものを、冒険者というものを自分に都合良く曲解していそうな好奇心だけで動いていることがありありとわかる、へらへらとした顔で物珍しげに辺りを見渡す十代後半ほどの男、これが件の貴族子息とやらだろう。その腕にはやたら色香を漂わせる美女がいかにもメイド服を着ただけという出立ちでまとわりついていた。どう考えても情婦だと思われた。背後で渋面をほんのり隠しきれていない護衛の者らしき青年二人、一人は魔法使いだろう理知的な見目の長身細身、もう一人は戦闘職だろう見事な筋肉の大男だ。彼らには大いに同情の念を禁じ得ない。さらにその後ろに控える、下働きと思われる庶民然とした壮年の男が帰りたそうにしょんぼりしている姿には哀れみすら感じた。
斯様に絵に描いたような困ったお坊っちゃまと振り回される面々を前に、なるほどカロジェロも遠くに厄介払いしたくなるはずだ、よくも押し付けやがって次の会合では覚えてやがれ。と、アロガンゾはいたく共感するとともに確かな恨みも胸に抱く。
「ようこそお越しくださいました。不肖、カランコエ冒険者ギルドマスター秘書のマルケロが承ります。こちらはマスターのアロガンゾです」
やはり顔には出さずマルケロは丁寧な挨拶を返した。とはいえ、どこまでも営業向けの笑顔にティツィアーナも無表情のまま礼を返す。
「この度は多大なるご配慮をいただきまして、誠に痛み入ります。こちらが冒険者の体験を希望しておられるアレクサンドリ・アレグリニ伯爵閣下のご子息、アドルフォ・アレクサンドリ・アレグリニ様にあらせられます」
紹介されたアドルフォ・アレクサンドリ・アレグリニは意気込んで話そうとして気管支に唾液でも入り込んだのか一瞬盛大に咽せたが、明日からよろしく頼むと強めの握手をひとつ、会話もそこそこに切り上げ、持参した荷物を運び込むと言って馬車に乗り込むと早々に聞き出した宿へ向かってしまった。こりゃあ明日の冒険者登録を済ませれば、すぐにでも臆面もなく観光に勤しむことだろうとアロガンゾとマルケロは盛大な溜め息を吐き、手を煩わせられないことを祈りつつ業務へ戻ることにした。
「ってえか、なんでアレクサンドリ・アレグリニだよ!俺の名前掠ってるどころかめっちゃ入ってんじゃん!」
手配された部屋は時計まで完備された豪華な一室だった。隣には従者用の部屋も設けられており、それぞれ風呂付きという破格の高級宿だ。壁には当然のように隠遁魔法の魔法陣がしっかりと、それでいて調度品の雰囲気を損なわないよう壁紙の模様に扮して刻まれている。おかげで腹の底から叫べると腕輪の機能を解いたアレグはティツィアーナに詰め寄った。
「は。わかりやすいお名前かと」
「そりゃ、わかりやすいけど!」
「いいんじゃないの?アレグリニ伯爵なら、あたしたちも知らないわけじゃないし」
ウェンシェスランも同じく腕輪を解きながら軽く呆れた声を上げた。今回彼らが借りているのは、活動をクラッスラのみに絞っているBランクパーティの姿だ。無断で拝借するのには抵抗があったが、孤児院上がりという生い立ちが非常に助かるため、カロジェロの提案ということもあってありがたく変化させてもらっている。今回のことが終わったらグラプトベリアに戻り次第、孤児院に寄付という形で遠回りなお礼をしようと画策してもいる。
「それに、急に呼ばれた時にアルちゃんが反応できなくても困るもの」
「それもそうなんだけどさあ!」
「いいじゃねえか。何を気にしてんだよおまえは。…ところでオーリン、どうだ?こっちのギルマスはおまえが居た頃と同じやつだったか?」
ここらで話題を切り替えねば、アルのやつ引き下がれなくなりかけてるなこれは。
気を利かせたイドリックがオリンドに振ると、途端にアレグも彼を正面から見据えた。
「あっ!それそれ!それだよ!どうだった!?おんなじ奴!?」
「えっ、うんっ、変わってなかった!同じ人。ええと、マスターも秘書の人も」
どうやら向こうは俺のことすっかり忘れているようだけれど。
十六年経っていることもあろうが、素顔のままでもアロガンゾもマルケロも気付く様子は無かった。おかげで落ち着くことができたオリンドは、いつも通り堂々とオドオドできると胸を撫で下ろしているところだ。
「それは良かったわ!あとはリンちゃんの魔法適正を見た検査官が変わってなけりゃあ、探す手間も省けて助かるんだけど…」
親指の先を下唇に当てて虚空を睨むウェンシェスランに、キアーラは片手を挙げた。
「はい。そこも評議会の方で調べは付いているようです。カランコエは初心者推奨とあってギルド職員の流出入も非常に穏やかで、目立った配置換えや転勤の記録もありません。年齢を理由に退職した者が二名ほど、ですね。件の検査官もばっちり在籍中です。…腹立たしいことではありますが」
「おっ。そうかオーリンに確認取るまでも無かったか。さすがの評議会だな。…明日合流するんだっけか?」
「それはもちろん、舐めないでちょうだい。合流はアドルフォの仮登録が済み次第受ける依頼先を、上手い時点で伝書して落ち合うことを予定してる」
「うえああ、キアまでアドルフォとか呼ぶなよおお」
「仕方ないでしょ?お仕事お仕事。ギルド員モードの私相手よりはマシでしょうに」
情けない声を上げるアレグをくすくす笑いながら嗜めるキアーラを見て、はたとオリンドは気付いた。キアーラとイドリックが幼馴染ということは、アレグとも幼馴染だということだ。
きっと小さい頃からあの商店街を駆けずり回って遊んだりと、とても仲が良かっただろうと伺える睦まじさで話す三人に胸が温まる一方で、バティスタたちともこんな風に話すことができたら良かったのに、そう考えかけてやめた。
どう転んでもそれはあり得なかった過去だ。オリンドがオリンドである限り、特にバティスタとは馬の合うことは無かったはずなのだから。
「…おっと、みなさんそろそろ腕輪を着け直してくださいね。あと三十分ほどで夕食が届きますよ」
頃合いを測っていたのか時計の文字盤を指すエウフェリオの、いつもより少し大きめの声にオリンドは軽く弾かれたように顔を上げた。そういえば宿の受付で夕食は部屋まで運ばれると言っていたか。
同じく時計を見たアレグ達がわあわあと慌てて腕輪を着け直し始める中、彼の温かな手の平がこっそりと背中に当てられる。
「…やはり、思うところはありますよね…」
どれだけ酷い目に遭わされた過去でも、故郷の思い出はオリンドの中で様々な支えになっているはず。その一部を担う人物に明日からの数日で逃れられない制裁が科されるのだ、心中穏やかであろうはずも無かろう。思いを込めてエウフェリオは彼の背中を撫で労わった。
「…フェリ…」
優しい温もりと穏やかな感触にゆるゆると気持ちを解きほぐされて、ほんのり涙腺の緩みかけた目で仮の姿を取るエウフェリオを見上げる。無意識のうちに発動された探査スキルが腕輪の効力をも超えて正確な彼の姿を脳裏に描いた。少しだけ眉尻を下げた心配げな笑みが、オリンドの心に決めた意志をより強固に高める。
「ううん。大丈夫。…色々、たくさん迷うこともあると思うけど、今回のことは、いいケジメだと、思う。俺、ちゃんと暁の盃の一員になりたい、から」
囁きあった言葉はかろうじてお互いの耳にだけ届く大きさで、──あった筈なのだがきちんと全員に聞かれていて、他人の姿を借りているという緊張感が無ければ危うく号泣夕食会になるところであった。
明けて翌日。
寝具がひと組しか無いという理由からティツィアーナとキアーラに譲った主人部屋で落ち合ったアレグたちは、エウフェリオの鞄から取り出した魔導書を発動させた。今回のカランコエ冒険者ギルドへの殴り込みもとい告発遂行のため、前もってサヂェットに聞き込み確保しておいた一冊である。
「…うーん?…特に変わった感じはしないけどな」
魔力や能力といったあらゆる力を半分に抑え込む魔法ということだったが、発動されてみても特段これといった違和感もなく、ソファの背凭れに身を預けてアレグは首を傾げた。
「あ。…わ、すごい。みんなの魔素が…ん、と、…こう、半分くらい、ぎゅっ、て、こう…うんんー…」
「圧縮されたように見えますか?」
小さく笑いながらエウフェリオに問われたオリンドは、ああ!と手を打って、拍子にソファのあまりの柔らかさに崩れた体勢を立て直しながら頷く。
「それ!そう見える!圧縮して動かなくされてる感じ。…たぶん俺のもそうなってるのかな。いつもみたいな探査できない」
「へええ…よくわからん。ってか、オーリン自分の魔素見てみりゃ良いじゃん」
「んや、自分のは見えないんだ。なんでかわからないけど」
過去に何度か試した素振りでオリンドは照れ笑うようにして首を振った。
「ええっ!?そうなの?…ああ、そっか。それでリンちゃん自分の魔力量とか把握できて無かったのね」
「うん…」
「へー。不思議だな。…例えば鏡なんかに映して見てみてもダメなのか?」
「そう。水面とか窓とかも試してみたけど、見えない。腕とか足とか直接見られるとこでも見えないし、そういうものなのかなって思ってる」
言ってオリンドは自分の両腕をじっと見た。
「ふむ。本人の魔素同士では同化してしまって見えないというところですかね」
「おん?…ああ、なるほどな。オーリンの魔素をオーリンの魔素を使って探査って図式で…いや、よくわからんな」
そもそも魔素に誰それのという性質があるものなのか。イドリックは首を傾げたが、どれだけ考えたところでわかるはずも無いと浮かんだ疑問を頭から払った。
「ふああ~…そうか、そういう仕組みかもしれないのか」
「研究するには探査スキルを持った人を数百人は集めねばなりませんから、解明は難しそうですけれども…」
「あわわ!…いい!解明までしなくていい!」
この辺で納得しとくから!とオリンドは慌てて両手を振る。そもそも何百人と集まる気もしない。
「はあ…聞き及ぶしかありませんでしたけれど、オリンドさんの探査スキルとは本当に相当に規格外なんですね…」
そして本人の純粋な反応も歳から離れていて愛らしい。という感想は喉の奥に引っ込めてキアーラは惚れ惚れと溜め息を漏らした。
「や、やややっ、そ、そんな大層なものじゃ…」
「ある!」
何度も見てきたがオリンドのこの反応は緊張している相手に対する反射のようなものだ。だいぶ自信が付いてきているはずの今でも自分を落ち着かせようと下に置こうとする。そうとわかっているからこそアレグたちは元気付ける笑顔を作り、異口同音にやや強く返した。
「おまえにそう思い込ませた馬鹿野郎どもを、不正の現場捕まえてコテンパンにしに行くんだからな!ギルドとかじゃ緊張しても、そーいうの引っ込めとけよオーリン!」
「へあっ!…うん、ごめん…」
「寂寥に駆られたり尻込むこともあるかと思いますけれど、できるだけ堂々としていてください。私たちが付いていますからね」
「う、うん。ありがとう」
「大丈夫だ。いつも通り、アカーン、となったらフェリの背中にくっ付け。後は俺たちが何とかする」
「わかった…!」
「落ち着いてねリンちゃん。あたしたちから離れないことだけ気を付けて」
「がんばる!」
「そんで、えーと、何をどうすんだっけ!?」
「おまえなあ、アル!」
昨日、夕飯の後であれだけ打ち合わせたってのに、全く締まらない野郎だ。思わず大声を上げたイドリックは額に手の甲を当てて自らを落ち着かせた。
「…なるほど、こういうときにも偽名が似てんのはありがたいな。とにかく、フェリがもっかい説明するからそのお飾りの耳い掻っ穿ってよおく聞け」
「おう!」
「本気で掻き穿ることはありません。血が出ますよやめなさい。というか説明は私任せですかリック。いいですけど。…いいですかアル、ギルドではまず貴方のアドルフォ名義での仮登録を済ませます…」
エウフェリオはアレグがすぐ理解できるよう、簡単にまとめて今日取る行動を伝えにかかった。
「おう!わかった!…えー、登録んときは好きな戦闘職を選ぶ。…ま、剣士だな。んで受付を急かして中級の依頼請けさせろってごねる。でもってフェリが適当に選ぶから、さっさと飛び出して、道中で評議会の連中に伝書鳥で連絡する。と。からの任務先で合流、か。ちっと時間掛かりそうだな。そこらで野宿して、続きは明日になる感じ?」
「おそらくそうなるでしょうね。私とリックが護衛するからと宥めて、できるだけ遠い場所を選びますので」
「うっし、了解!…早い目に片が付くといいな、オーリン!」
「えっ?…うん!早目に片付いたら…、ええと…」
終わったらみんなには是非ともこの辺りを案内したいし、ゆっくりしてほしい。そう考えたオリンドはどこを案内しようかと記憶を漁り、ふと窓から見える大通りの飾りを目にして破顔する。
「あっ!祭の案内できるかもしれない…!」
「えーっ!お祭あるの!?いつ!?どんなお祭!?見て回りたいわー!」
「うん!ええと、今年の終わりと、来年の始まりを祝う祭があって、樺月一日を真ん中に五日間だから…ん…と、…今日、何日だっけ?」
大通りで始まっているのは毎年この地方で行われる年末年始を祝う祭の準備だ。
「本日は接骨木月二十五日です」
ソファの後ろにこっそりと控え、つつがなく答えるティツィアーナに居たのかと一瞬飛び上がったオリンドは、さっと指折り数えた。
「ええ、と、二十九日からだから…あっ、じゃあ、今日合わせてあと五日…?で始まる!」
「っしゃあ!超速で片付けるわよ、あんたたちぃーっっ!」
片手を振り上げつつ仁王立ちしたウェンシェスランの号令に、隠遁魔法が無ければ外の廊下の端まで響いたであろう歓声が上がった。
年の終わり、接骨木月三十日はもうすぐそこだった。
そのカランコエの冒険者ギルドマスター、アロガンゾは執務机に着き、一日の業務の始まりに国二つ挟んだ向こうのグラプトベリア冒険者ギルドから伝書鳥が運んできた手紙を読んでいた。
「…至急受け入れ要請?…なんだあ?」
表題をざっと読み、緊張の面持ちで中を検めたアロガンゾは、ややあって禿げ上がった頭の天辺を掻きつつ短く溜め息を吐いた。
「なんだ。何事かと思えば、貴族様のお遊びか」
「…なにか面倒ごとですか?」
近くで書類の整理をしていた秘書の若い男、マルケロが片眉を上げて声を掛ける。
「あー。な。カロジェロからだ。貴族の坊ちゃんが冒険者の真似事をしたいんだとよ」
「うはあ…。それはまた思い付きの激しいお子様が居たもので。向こうのギルドで受け入れりゃあいいじゃないですか」
「それがよ。ほれ、ちょっと前に勇者一行が凱旋したって噂が流れてきたろ。どうやら本当だったらしい。そしたら休む暇もなく、今度はクラッスラで珍奇なもん探してこいと国王から無茶振りされたんだとよ」
手元の手紙を指の背で軽く叩き、アロガンゾは渋い苦笑を顔に刷いた。
「ははあ。その対応やらで手一杯だと。またぞろリィトブラド王の悪い癖が出たもんだ。勇者一行も大変ですねそりゃ。…しかし、なんだってうちなんです?近いところにやりゃあいいのに」
面倒みてくれそうな冒険者ギルドならパキフィツムでもどこでも、それこそレウクテンを出なくたって、もっと近い所にあるだろうにとマルケロは眉を寄せた。
「暖かいところがいいんだと」
「は」
「危険なのも困るんだそうな」
「…お貴族様め」
「しかも馬車の長旅は怠いんだとよ」
「はあ!?長いったって、グラプトベリアからでしょう!?真っ直ぐ来りゃあ三週間かそこら…」
「冒険者ギルドなら数日でカタぁ付くだろ、と、来たもんだ」
「うげっ!…じゃあ、なんです、急使飛獣でも使おうってんですか!?」
「おう。あー…二十四日早朝に出立予定だとさ。四頭七人だ」
「…っ!?なら夕方には…ってえ!二十四って明後日じゃねえか!…お貴族様め…!」
だん!
まとめた書類を机の端へ乱暴に置いたマルケロは泡を食って踵を返した。
「悪いな。頼むぞマルク」
急使飛獣は冒険者ギルド間であらゆる緊急時に用いられる、大型の飛行獣種を使役した伝達便だ。容易く国境を越えられる性質から各国は難色を示し続けているが、しかしながら、いつどこで暴発するとも知れない魔物の脅威を思えば伝達の滞りは非常に避けたい。そういうわけで多数の制限を課せられた上で公然の秘密という名の下に存在している。
さて、その受け入れについてだが、多くの場合は要件が済み次第速やかに帰還するため何を用意することも無い。が、当然のことながら数日滞在となると飛行獣用の食料や寝床を用意しないわけにいかなかった。
しかし人を二人も乗せて飛ぶことのできる体躯は見上げるほど大きく、おいそれと泊められる獣舎などギルドに設けられた倉庫名義の簡易な物しかない。それだって二頭までを想定しているから残り二頭は受け入れられないし、普段は蜘蛛の巣が張っている有様だ。更に食料として肉も野菜も新鮮な物を大量に準備する必要があるのだが、自ギルドで飼育している飛獣二頭のための仕入れルートがあるとはいえ唐突にいつもの三倍の量を用意しろとは無茶が過ぎる。更にこれらを一両日中に熟せとは目の回る話だ。しかも七人分の高級宿の手配と同時進行とは骨の折れる。
「ったく、このクソ忙しいのに余計な仕事増やしやがって!」
特段に忙しい事など何も無かったが、マルケロは大いに毒付きながらあちこち手配に奔走した。
そういう事情がありはしたが、おくびにも出さずアロガンゾとマルケロはグラプトベリアからの急使を迎え入れた。
四頭とも見事な毛並みの虎型飛獣だ。魔力飛行中の方向転換に利用する羽も大きく手入れが行き届いている。グラプトベリア冒険者ギルドの裕福っぷりを見せ付けられているようで劣等感が擽られた。
「ご多忙のところ大変恐れ入ります。わたくしグラプトベリア冒険者ギルドマスターの秘書を勤めております、ティツィアーナと申します。こちらは庶務手伝いとして連れてまいりました、キアーラです。以後お見知り置きを」
「受付業務主任のキアーラです、よろしくお願いいたします」
飛行路案内の先頭獣から降り立ったティツィアーナがキアーラを伴い四角四面に挨拶するのに愛想笑いで返し、次いで残る五人に目をやった二人は内心で舌打ちをする。
少しは真面目そうな態度を見せれば可愛げもあるものを、冒険者というものを自分に都合良く曲解していそうな好奇心だけで動いていることがありありとわかる、へらへらとした顔で物珍しげに辺りを見渡す十代後半ほどの男、これが件の貴族子息とやらだろう。その腕にはやたら色香を漂わせる美女がいかにもメイド服を着ただけという出立ちでまとわりついていた。どう考えても情婦だと思われた。背後で渋面をほんのり隠しきれていない護衛の者らしき青年二人、一人は魔法使いだろう理知的な見目の長身細身、もう一人は戦闘職だろう見事な筋肉の大男だ。彼らには大いに同情の念を禁じ得ない。さらにその後ろに控える、下働きと思われる庶民然とした壮年の男が帰りたそうにしょんぼりしている姿には哀れみすら感じた。
斯様に絵に描いたような困ったお坊っちゃまと振り回される面々を前に、なるほどカロジェロも遠くに厄介払いしたくなるはずだ、よくも押し付けやがって次の会合では覚えてやがれ。と、アロガンゾはいたく共感するとともに確かな恨みも胸に抱く。
「ようこそお越しくださいました。不肖、カランコエ冒険者ギルドマスター秘書のマルケロが承ります。こちらはマスターのアロガンゾです」
やはり顔には出さずマルケロは丁寧な挨拶を返した。とはいえ、どこまでも営業向けの笑顔にティツィアーナも無表情のまま礼を返す。
「この度は多大なるご配慮をいただきまして、誠に痛み入ります。こちらが冒険者の体験を希望しておられるアレクサンドリ・アレグリニ伯爵閣下のご子息、アドルフォ・アレクサンドリ・アレグリニ様にあらせられます」
紹介されたアドルフォ・アレクサンドリ・アレグリニは意気込んで話そうとして気管支に唾液でも入り込んだのか一瞬盛大に咽せたが、明日からよろしく頼むと強めの握手をひとつ、会話もそこそこに切り上げ、持参した荷物を運び込むと言って馬車に乗り込むと早々に聞き出した宿へ向かってしまった。こりゃあ明日の冒険者登録を済ませれば、すぐにでも臆面もなく観光に勤しむことだろうとアロガンゾとマルケロは盛大な溜め息を吐き、手を煩わせられないことを祈りつつ業務へ戻ることにした。
「ってえか、なんでアレクサンドリ・アレグリニだよ!俺の名前掠ってるどころかめっちゃ入ってんじゃん!」
手配された部屋は時計まで完備された豪華な一室だった。隣には従者用の部屋も設けられており、それぞれ風呂付きという破格の高級宿だ。壁には当然のように隠遁魔法の魔法陣がしっかりと、それでいて調度品の雰囲気を損なわないよう壁紙の模様に扮して刻まれている。おかげで腹の底から叫べると腕輪の機能を解いたアレグはティツィアーナに詰め寄った。
「は。わかりやすいお名前かと」
「そりゃ、わかりやすいけど!」
「いいんじゃないの?アレグリニ伯爵なら、あたしたちも知らないわけじゃないし」
ウェンシェスランも同じく腕輪を解きながら軽く呆れた声を上げた。今回彼らが借りているのは、活動をクラッスラのみに絞っているBランクパーティの姿だ。無断で拝借するのには抵抗があったが、孤児院上がりという生い立ちが非常に助かるため、カロジェロの提案ということもあってありがたく変化させてもらっている。今回のことが終わったらグラプトベリアに戻り次第、孤児院に寄付という形で遠回りなお礼をしようと画策してもいる。
「それに、急に呼ばれた時にアルちゃんが反応できなくても困るもの」
「それもそうなんだけどさあ!」
「いいじゃねえか。何を気にしてんだよおまえは。…ところでオーリン、どうだ?こっちのギルマスはおまえが居た頃と同じやつだったか?」
ここらで話題を切り替えねば、アルのやつ引き下がれなくなりかけてるなこれは。
気を利かせたイドリックがオリンドに振ると、途端にアレグも彼を正面から見据えた。
「あっ!それそれ!それだよ!どうだった!?おんなじ奴!?」
「えっ、うんっ、変わってなかった!同じ人。ええと、マスターも秘書の人も」
どうやら向こうは俺のことすっかり忘れているようだけれど。
十六年経っていることもあろうが、素顔のままでもアロガンゾもマルケロも気付く様子は無かった。おかげで落ち着くことができたオリンドは、いつも通り堂々とオドオドできると胸を撫で下ろしているところだ。
「それは良かったわ!あとはリンちゃんの魔法適正を見た検査官が変わってなけりゃあ、探す手間も省けて助かるんだけど…」
親指の先を下唇に当てて虚空を睨むウェンシェスランに、キアーラは片手を挙げた。
「はい。そこも評議会の方で調べは付いているようです。カランコエは初心者推奨とあってギルド職員の流出入も非常に穏やかで、目立った配置換えや転勤の記録もありません。年齢を理由に退職した者が二名ほど、ですね。件の検査官もばっちり在籍中です。…腹立たしいことではありますが」
「おっ。そうかオーリンに確認取るまでも無かったか。さすがの評議会だな。…明日合流するんだっけか?」
「それはもちろん、舐めないでちょうだい。合流はアドルフォの仮登録が済み次第受ける依頼先を、上手い時点で伝書して落ち合うことを予定してる」
「うえああ、キアまでアドルフォとか呼ぶなよおお」
「仕方ないでしょ?お仕事お仕事。ギルド員モードの私相手よりはマシでしょうに」
情けない声を上げるアレグをくすくす笑いながら嗜めるキアーラを見て、はたとオリンドは気付いた。キアーラとイドリックが幼馴染ということは、アレグとも幼馴染だということだ。
きっと小さい頃からあの商店街を駆けずり回って遊んだりと、とても仲が良かっただろうと伺える睦まじさで話す三人に胸が温まる一方で、バティスタたちともこんな風に話すことができたら良かったのに、そう考えかけてやめた。
どう転んでもそれはあり得なかった過去だ。オリンドがオリンドである限り、特にバティスタとは馬の合うことは無かったはずなのだから。
「…おっと、みなさんそろそろ腕輪を着け直してくださいね。あと三十分ほどで夕食が届きますよ」
頃合いを測っていたのか時計の文字盤を指すエウフェリオの、いつもより少し大きめの声にオリンドは軽く弾かれたように顔を上げた。そういえば宿の受付で夕食は部屋まで運ばれると言っていたか。
同じく時計を見たアレグ達がわあわあと慌てて腕輪を着け直し始める中、彼の温かな手の平がこっそりと背中に当てられる。
「…やはり、思うところはありますよね…」
どれだけ酷い目に遭わされた過去でも、故郷の思い出はオリンドの中で様々な支えになっているはず。その一部を担う人物に明日からの数日で逃れられない制裁が科されるのだ、心中穏やかであろうはずも無かろう。思いを込めてエウフェリオは彼の背中を撫で労わった。
「…フェリ…」
優しい温もりと穏やかな感触にゆるゆると気持ちを解きほぐされて、ほんのり涙腺の緩みかけた目で仮の姿を取るエウフェリオを見上げる。無意識のうちに発動された探査スキルが腕輪の効力をも超えて正確な彼の姿を脳裏に描いた。少しだけ眉尻を下げた心配げな笑みが、オリンドの心に決めた意志をより強固に高める。
「ううん。大丈夫。…色々、たくさん迷うこともあると思うけど、今回のことは、いいケジメだと、思う。俺、ちゃんと暁の盃の一員になりたい、から」
囁きあった言葉はかろうじてお互いの耳にだけ届く大きさで、──あった筈なのだがきちんと全員に聞かれていて、他人の姿を借りているという緊張感が無ければ危うく号泣夕食会になるところであった。
明けて翌日。
寝具がひと組しか無いという理由からティツィアーナとキアーラに譲った主人部屋で落ち合ったアレグたちは、エウフェリオの鞄から取り出した魔導書を発動させた。今回のカランコエ冒険者ギルドへの殴り込みもとい告発遂行のため、前もってサヂェットに聞き込み確保しておいた一冊である。
「…うーん?…特に変わった感じはしないけどな」
魔力や能力といったあらゆる力を半分に抑え込む魔法ということだったが、発動されてみても特段これといった違和感もなく、ソファの背凭れに身を預けてアレグは首を傾げた。
「あ。…わ、すごい。みんなの魔素が…ん、と、…こう、半分くらい、ぎゅっ、て、こう…うんんー…」
「圧縮されたように見えますか?」
小さく笑いながらエウフェリオに問われたオリンドは、ああ!と手を打って、拍子にソファのあまりの柔らかさに崩れた体勢を立て直しながら頷く。
「それ!そう見える!圧縮して動かなくされてる感じ。…たぶん俺のもそうなってるのかな。いつもみたいな探査できない」
「へええ…よくわからん。ってか、オーリン自分の魔素見てみりゃ良いじゃん」
「んや、自分のは見えないんだ。なんでかわからないけど」
過去に何度か試した素振りでオリンドは照れ笑うようにして首を振った。
「ええっ!?そうなの?…ああ、そっか。それでリンちゃん自分の魔力量とか把握できて無かったのね」
「うん…」
「へー。不思議だな。…例えば鏡なんかに映して見てみてもダメなのか?」
「そう。水面とか窓とかも試してみたけど、見えない。腕とか足とか直接見られるとこでも見えないし、そういうものなのかなって思ってる」
言ってオリンドは自分の両腕をじっと見た。
「ふむ。本人の魔素同士では同化してしまって見えないというところですかね」
「おん?…ああ、なるほどな。オーリンの魔素をオーリンの魔素を使って探査って図式で…いや、よくわからんな」
そもそも魔素に誰それのという性質があるものなのか。イドリックは首を傾げたが、どれだけ考えたところでわかるはずも無いと浮かんだ疑問を頭から払った。
「ふああ~…そうか、そういう仕組みかもしれないのか」
「研究するには探査スキルを持った人を数百人は集めねばなりませんから、解明は難しそうですけれども…」
「あわわ!…いい!解明までしなくていい!」
この辺で納得しとくから!とオリンドは慌てて両手を振る。そもそも何百人と集まる気もしない。
「はあ…聞き及ぶしかありませんでしたけれど、オリンドさんの探査スキルとは本当に相当に規格外なんですね…」
そして本人の純粋な反応も歳から離れていて愛らしい。という感想は喉の奥に引っ込めてキアーラは惚れ惚れと溜め息を漏らした。
「や、やややっ、そ、そんな大層なものじゃ…」
「ある!」
何度も見てきたがオリンドのこの反応は緊張している相手に対する反射のようなものだ。だいぶ自信が付いてきているはずの今でも自分を落ち着かせようと下に置こうとする。そうとわかっているからこそアレグたちは元気付ける笑顔を作り、異口同音にやや強く返した。
「おまえにそう思い込ませた馬鹿野郎どもを、不正の現場捕まえてコテンパンにしに行くんだからな!ギルドとかじゃ緊張しても、そーいうの引っ込めとけよオーリン!」
「へあっ!…うん、ごめん…」
「寂寥に駆られたり尻込むこともあるかと思いますけれど、できるだけ堂々としていてください。私たちが付いていますからね」
「う、うん。ありがとう」
「大丈夫だ。いつも通り、アカーン、となったらフェリの背中にくっ付け。後は俺たちが何とかする」
「わかった…!」
「落ち着いてねリンちゃん。あたしたちから離れないことだけ気を付けて」
「がんばる!」
「そんで、えーと、何をどうすんだっけ!?」
「おまえなあ、アル!」
昨日、夕飯の後であれだけ打ち合わせたってのに、全く締まらない野郎だ。思わず大声を上げたイドリックは額に手の甲を当てて自らを落ち着かせた。
「…なるほど、こういうときにも偽名が似てんのはありがたいな。とにかく、フェリがもっかい説明するからそのお飾りの耳い掻っ穿ってよおく聞け」
「おう!」
「本気で掻き穿ることはありません。血が出ますよやめなさい。というか説明は私任せですかリック。いいですけど。…いいですかアル、ギルドではまず貴方のアドルフォ名義での仮登録を済ませます…」
エウフェリオはアレグがすぐ理解できるよう、簡単にまとめて今日取る行動を伝えにかかった。
「おう!わかった!…えー、登録んときは好きな戦闘職を選ぶ。…ま、剣士だな。んで受付を急かして中級の依頼請けさせろってごねる。でもってフェリが適当に選ぶから、さっさと飛び出して、道中で評議会の連中に伝書鳥で連絡する。と。からの任務先で合流、か。ちっと時間掛かりそうだな。そこらで野宿して、続きは明日になる感じ?」
「おそらくそうなるでしょうね。私とリックが護衛するからと宥めて、できるだけ遠い場所を選びますので」
「うっし、了解!…早い目に片が付くといいな、オーリン!」
「えっ?…うん!早目に片付いたら…、ええと…」
終わったらみんなには是非ともこの辺りを案内したいし、ゆっくりしてほしい。そう考えたオリンドはどこを案内しようかと記憶を漁り、ふと窓から見える大通りの飾りを目にして破顔する。
「あっ!祭の案内できるかもしれない…!」
「えーっ!お祭あるの!?いつ!?どんなお祭!?見て回りたいわー!」
「うん!ええと、今年の終わりと、来年の始まりを祝う祭があって、樺月一日を真ん中に五日間だから…ん…と、…今日、何日だっけ?」
大通りで始まっているのは毎年この地方で行われる年末年始を祝う祭の準備だ。
「本日は接骨木月二十五日です」
ソファの後ろにこっそりと控え、つつがなく答えるティツィアーナに居たのかと一瞬飛び上がったオリンドは、さっと指折り数えた。
「ええ、と、二十九日からだから…あっ、じゃあ、今日合わせてあと五日…?で始まる!」
「っしゃあ!超速で片付けるわよ、あんたたちぃーっっ!」
片手を振り上げつつ仁王立ちしたウェンシェスランの号令に、隠遁魔法が無ければ外の廊下の端まで響いたであろう歓声が上がった。
年の終わり、接骨木月三十日はもうすぐそこだった。
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