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第3話:2人
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転校生が来たらしい。
5月中旬。しかも、高校3年生というこの時期にしては珍しく、3-Bでも話題になっていた。
「転校生ってどんな人なんだろうな。女の子だったらいいな」
いつもの村田優斗。
「そんなに興味ない」
いつもの俺。
そんないつも通りの会話をしつつ、いつも通りの日常を送っていた。でも最近、小さな変化が起こった。
「おはよう。橘君」
「おはよう。青葉さん」
こうして青葉夏菜と度々会話をするようになった。小さな変化だったが、それは、俺の殺風景な日常に花を添えるようだった。
「お前なんで青葉さんと挨拶してるんだよ」
と優斗が突っかかってくる。
「この前の絡み見ただろ。それからだよ」
そんな俺と優斗の会話を聞いたのか、青葉さんは優斗にも微笑みながら声をかける。
「村田君もおはよう」
「おはようございます」
優斗は消え入りそうな声で返事をする。その表情には、喜びや青葉夏菜に対する憧れ、そんな憧れと話してしまったことによる居心地の悪さや後悔など様々な感情が表れていた。面倒くさい奴だな。
そんな面倒くさい奴の相手をしているうちにチャイムが鳴り、いつも通りの授業が始まっていく。
眠くなるような午前の授業を終え、昼休みを迎える。多くの生徒が学食へ行ったり、お気に入りの場所へ行ったりする中、俺と優斗は教室で机を近づけながら隣り合って昼食をとる。すると。
「ねぇ橘君。今日のお昼一緒に食べてもいい?」
と青葉夏菜が声をかけてくる。
「いいよ」
俺がそう言うと、青葉夏菜は近くにあった机を寄せ、俺たちの向かいに座り、弁当を広げる。その弁当はおかずが多く、彩も綺麗で、手の込んだ弁当だった。
「その弁当、青葉さんが作ったの?」
「ううん。お母さんに作ってもらった。私料理とかあんまり得意じゃなくて。たまに、お母さんに教えてもらったりするんだけどね」
と照れ笑いを浮かべる
「へぇ、青葉さん料理下手なんだ。万能だと思ってたからなんか意外」
「全然万能じゃないよ。私だって人間だし、できないことのほうが多いよ」
「そりゃそうだ。そういえばさ、あれってお守りだったの?」
「んー、お守りかなぁ。昔に友達からもらったものなんだけど。うん。今ではお守りみたな感じ」
お守りをもらったことを思い出しているのだろう。どこか懐かしそうな表情を浮かべる。
「いつも持ち歩いてるの?」
「ううん。あの時はたまたま」
「そうなんだ。で、なんでお前はずっと黙ったままなんだよ」
そう言って隣を見ると黙々とパンをかじる優斗の姿があった。
「いやなんていうかね」
「ごめんね。こいつ青葉さんのこと崇拝してるからうまく話せないんだよ」
「おいばか、本人にそれ言うなよ」
「村田君と私同い年じゃん。全然気使わなくてもいいのに」
「いや、気を使ってるとかじゃなくて。遠くから眺めてるのがいいっていうか」
「その発言は変態だぞ」
「変態だから」
「自覚あったのかよ」
そんな会話をしながら、俺たちは笑い合っていた。結構楽しい。
あっそういえばと優斗が話題を変える。
「俺、休憩時間に転校生見てきたぜ」
その言葉を聞いた青葉夏菜の表情が一瞬曇ったような気がした。
「へーどうだった」
「男だった。それだけ」
「男って分かった瞬間に興味なくなったのかよ」
「当たり前だろ」
「青葉さんは転校生のことどう?興味ある?」
俺は青葉夏菜の表情が気になって話しを振ってみたが、彼女は、そんなに興味ないかな。と一言だけだった。
放課後、優斗と一緒に帰ろうかと思い、誘いの言葉をかけると用事があるからと先に帰ってしまった。俺があいつの誘いを断るならまだしも、あいつが俺の誘いを断るなんて珍しいなと思った。優斗は少し気持ち悪いところがあるが、優しく、付き合いがいいやつなのだ。
今日はどこか寄って帰ろうかと考えていると、青葉夏菜が声をかけてきた。
「橘君、この後暇?よかったらどこか寄っていかない?」
「えっ?」
間抜けな声が出る。青葉夏菜に誘われるなんて思いもよらなかった。
「お・れ・い。お守り拾ってくれたでしょ?そのお礼をしようかと思って」
「え、あぁ。でも」
「いいからいいから。私のせいでぶつかって転んじゃったんだし、橘君は被害者でしょ」
確かにそう言われてみればそうだが、いきなりのことで返事がうまくできず、しどろもどろになっていた。そんな水樹を見て青葉夏菜は、次々と誘いの言葉を並べ、そんなに言うならと水樹も誘いを受けることにした。
「どこにしよっか」
俺たちは並んで歩いていた。ちょうどお腹も空いてきたし、落ち着いて何か食べられるところがいいよねという話しになったのだ。
「だったら近くにいいお店あるよ。青葉さんカフェ好き?」
「好き好き。どんなところ?」
そして、俺たちはログハウス風のカフェに来た。店内に入ると青葉夏菜はまず深呼吸して木の香りを堪能していた。その後、本棚を見つけ、本を手にとって開いては閉じ、また別の本を手にとって開いては閉じを繰り返す。あたりを見渡し、目に入ったもの1つ1つに興味を示すのでその反応が面白かった。
「楽しそうだね」
「とっても楽しい。素敵なお店だね」
弾んだ声でそう言い、なんだかこっちまで楽しくなってくる。
「ここ、出てくる料理も飲み物もおいしいんだよ」
「そうなの?早く頼もう」
そう言うとすぐさま席に着き、店員を呼ぶ。なんだか子供みたいだ。
俺はサンドイッチとアイスティーを注文し、青葉夏菜はパンケーキとリンゴジュースを注文する。このお店は軽食やオシャレなデザートなども提供しており、客の年齢層は幅広い。
「このお店すごくオシャレだよね。名前も英語?で書かれてたし」
「laurier、ローリエ。フランス語で月桂樹って意味らしいよ」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「ずっと前に店員さんに聞いただけだけどね」
「へぇ、じゃあここ結構くるんだ」
「2、3週間に1回くらいかな。家が近くにあるから」
「いいなぁ。こういうお店が近くにあって」
「青葉さんの家の近所にはこういうところないの?」
「全然ないよー」
悔しそうにそう言うと、店員がトレイを持ってやってきた。俺たちは注文したものが来ると、10分ほどで平らげてしまった。おいしかったとねとしばらく2人で余韻に浸る。
「そういえば、青葉さんの家ってどのへんなの?」
青葉夏菜から地名を聞くと、ここからそう離れてはいなかった。俺の家からもそこまで遠くない。中学が別だったのはお互いの家がそれぞれの区域の端にあり、ちょうど境目の近くにあったためだった。もしかしたら同じ中学に通っていたかもしれないなと、そんな話をする。
そして、話し初めて30分くらい経った頃、入り口の扉が開いた。何気なく入ってくる人物を見ると、そこには雨宮香里の姿があった。
「先輩...」
そう言うと、青葉夏菜も入り口のほうに目を向ける。
「きれいな人」
先輩は店内を一通り見渡すと俺たちに気づき、近づいてくる。
「久しぶり。水樹。1ヵ月ぶりくらい?」
「たぶん、それくらい。偶然だね。こんなところで会うなんて」
「まぁ、私の家この近くだしここで会うこともあるでしょ。その子は?」
「私、青葉夏菜って言います。橘君とは最近仲良くなって」
「そう」
それだけ言って香里先輩は奥の席へ行く。
「ごめん。青葉さん。あの人は雨宮香里先輩って言って俺の中学の頃の先輩。悪い人じゃないんだけど」
「ううん。全然いいよ。気にしないで」
笑顔でそう言った青葉夏菜は、先輩に冷たくされても全く気にしていないようだった。
「じゃあ、私そろそろ行くね。この後予定あるんだ。思ったよりも長居しちゃった。お金は払っておくから」
「分かった。今日はありがとう。ごちそうさまでした」
「いえいえ、お粗末様でした。私が作ったわけじゃないけど。それじゃあ、また明日ね」
そして、青葉夏菜は帰っていった。
俺は香里先輩のもとへ行く。
「先輩」
「...」
「香里先輩」
「なに?」
「なんで怒ってるんだよ」
「怒ってないよ。不機嫌なだけ」
「なんで不機嫌なのか分からないけど、さっきの態度はないと思うよ」
「確かに大人げなかったかもしれない。ごめんなさい」
「俺じゃなくて青葉さんに謝ってくれ」
「ふーん。あの子、青葉さんって言うんだ。もし次に会うことがあったらね」
「で、なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「教えない」
「先輩」
「私をもっと不機嫌にしたいの?」
「...はぁ。じゃあ俺先に帰るから」
そう言って、水樹はお店を出る。香里先輩をあのまま不機嫌にさせておくと、後々めんどくさい事になりそうだと思い、出てくるまで待つことにした。時間が経てば香里先輩の頭も冷えるだろう。でもなんであんなに不機嫌だったんだ。大学で嫌なことでもあったのか。あの人平気で八つ当たりするからな。
程なくして、香里先輩がローリエから出てくる。
「なんでいるの?」
香里先輩は不思議そうに水樹を見つめながら言う。
「先輩を不機嫌なまま放置したら後々めんどくさいことになりそうだったから」
そう言いうと香里先輩は微笑み、ありがとうと言う。そして1枚のチケットを俺に渡す。
これは映画館のチケット?
「先輩これなんですか?」
「本当はこれを渡すために水樹を呼び出そうと思ってたんだけど、ほかの子と居たから」
香里先輩は苦笑のような照れたような笑顔を浮かべる。
「そろそろ中間テストだよね。それが終わったら遊びに行かない?」
水樹は何とも言えない気持ちになっていた。断ろうかとも思ったが、断る理由が見当たらなかったので、誘いを受けることにする。
「よかった。じゃあ、来月楽しみにしてる」
そう言って香里先輩は帰っていった。
「...なんでだよ」
なんで今更なんだよ、香里先輩。
5月中旬。しかも、高校3年生というこの時期にしては珍しく、3-Bでも話題になっていた。
「転校生ってどんな人なんだろうな。女の子だったらいいな」
いつもの村田優斗。
「そんなに興味ない」
いつもの俺。
そんないつも通りの会話をしつつ、いつも通りの日常を送っていた。でも最近、小さな変化が起こった。
「おはよう。橘君」
「おはよう。青葉さん」
こうして青葉夏菜と度々会話をするようになった。小さな変化だったが、それは、俺の殺風景な日常に花を添えるようだった。
「お前なんで青葉さんと挨拶してるんだよ」
と優斗が突っかかってくる。
「この前の絡み見ただろ。それからだよ」
そんな俺と優斗の会話を聞いたのか、青葉さんは優斗にも微笑みながら声をかける。
「村田君もおはよう」
「おはようございます」
優斗は消え入りそうな声で返事をする。その表情には、喜びや青葉夏菜に対する憧れ、そんな憧れと話してしまったことによる居心地の悪さや後悔など様々な感情が表れていた。面倒くさい奴だな。
そんな面倒くさい奴の相手をしているうちにチャイムが鳴り、いつも通りの授業が始まっていく。
眠くなるような午前の授業を終え、昼休みを迎える。多くの生徒が学食へ行ったり、お気に入りの場所へ行ったりする中、俺と優斗は教室で机を近づけながら隣り合って昼食をとる。すると。
「ねぇ橘君。今日のお昼一緒に食べてもいい?」
と青葉夏菜が声をかけてくる。
「いいよ」
俺がそう言うと、青葉夏菜は近くにあった机を寄せ、俺たちの向かいに座り、弁当を広げる。その弁当はおかずが多く、彩も綺麗で、手の込んだ弁当だった。
「その弁当、青葉さんが作ったの?」
「ううん。お母さんに作ってもらった。私料理とかあんまり得意じゃなくて。たまに、お母さんに教えてもらったりするんだけどね」
と照れ笑いを浮かべる
「へぇ、青葉さん料理下手なんだ。万能だと思ってたからなんか意外」
「全然万能じゃないよ。私だって人間だし、できないことのほうが多いよ」
「そりゃそうだ。そういえばさ、あれってお守りだったの?」
「んー、お守りかなぁ。昔に友達からもらったものなんだけど。うん。今ではお守りみたな感じ」
お守りをもらったことを思い出しているのだろう。どこか懐かしそうな表情を浮かべる。
「いつも持ち歩いてるの?」
「ううん。あの時はたまたま」
「そうなんだ。で、なんでお前はずっと黙ったままなんだよ」
そう言って隣を見ると黙々とパンをかじる優斗の姿があった。
「いやなんていうかね」
「ごめんね。こいつ青葉さんのこと崇拝してるからうまく話せないんだよ」
「おいばか、本人にそれ言うなよ」
「村田君と私同い年じゃん。全然気使わなくてもいいのに」
「いや、気を使ってるとかじゃなくて。遠くから眺めてるのがいいっていうか」
「その発言は変態だぞ」
「変態だから」
「自覚あったのかよ」
そんな会話をしながら、俺たちは笑い合っていた。結構楽しい。
あっそういえばと優斗が話題を変える。
「俺、休憩時間に転校生見てきたぜ」
その言葉を聞いた青葉夏菜の表情が一瞬曇ったような気がした。
「へーどうだった」
「男だった。それだけ」
「男って分かった瞬間に興味なくなったのかよ」
「当たり前だろ」
「青葉さんは転校生のことどう?興味ある?」
俺は青葉夏菜の表情が気になって話しを振ってみたが、彼女は、そんなに興味ないかな。と一言だけだった。
放課後、優斗と一緒に帰ろうかと思い、誘いの言葉をかけると用事があるからと先に帰ってしまった。俺があいつの誘いを断るならまだしも、あいつが俺の誘いを断るなんて珍しいなと思った。優斗は少し気持ち悪いところがあるが、優しく、付き合いがいいやつなのだ。
今日はどこか寄って帰ろうかと考えていると、青葉夏菜が声をかけてきた。
「橘君、この後暇?よかったらどこか寄っていかない?」
「えっ?」
間抜けな声が出る。青葉夏菜に誘われるなんて思いもよらなかった。
「お・れ・い。お守り拾ってくれたでしょ?そのお礼をしようかと思って」
「え、あぁ。でも」
「いいからいいから。私のせいでぶつかって転んじゃったんだし、橘君は被害者でしょ」
確かにそう言われてみればそうだが、いきなりのことで返事がうまくできず、しどろもどろになっていた。そんな水樹を見て青葉夏菜は、次々と誘いの言葉を並べ、そんなに言うならと水樹も誘いを受けることにした。
「どこにしよっか」
俺たちは並んで歩いていた。ちょうどお腹も空いてきたし、落ち着いて何か食べられるところがいいよねという話しになったのだ。
「だったら近くにいいお店あるよ。青葉さんカフェ好き?」
「好き好き。どんなところ?」
そして、俺たちはログハウス風のカフェに来た。店内に入ると青葉夏菜はまず深呼吸して木の香りを堪能していた。その後、本棚を見つけ、本を手にとって開いては閉じ、また別の本を手にとって開いては閉じを繰り返す。あたりを見渡し、目に入ったもの1つ1つに興味を示すのでその反応が面白かった。
「楽しそうだね」
「とっても楽しい。素敵なお店だね」
弾んだ声でそう言い、なんだかこっちまで楽しくなってくる。
「ここ、出てくる料理も飲み物もおいしいんだよ」
「そうなの?早く頼もう」
そう言うとすぐさま席に着き、店員を呼ぶ。なんだか子供みたいだ。
俺はサンドイッチとアイスティーを注文し、青葉夏菜はパンケーキとリンゴジュースを注文する。このお店は軽食やオシャレなデザートなども提供しており、客の年齢層は幅広い。
「このお店すごくオシャレだよね。名前も英語?で書かれてたし」
「laurier、ローリエ。フランス語で月桂樹って意味らしいよ」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「ずっと前に店員さんに聞いただけだけどね」
「へぇ、じゃあここ結構くるんだ」
「2、3週間に1回くらいかな。家が近くにあるから」
「いいなぁ。こういうお店が近くにあって」
「青葉さんの家の近所にはこういうところないの?」
「全然ないよー」
悔しそうにそう言うと、店員がトレイを持ってやってきた。俺たちは注文したものが来ると、10分ほどで平らげてしまった。おいしかったとねとしばらく2人で余韻に浸る。
「そういえば、青葉さんの家ってどのへんなの?」
青葉夏菜から地名を聞くと、ここからそう離れてはいなかった。俺の家からもそこまで遠くない。中学が別だったのはお互いの家がそれぞれの区域の端にあり、ちょうど境目の近くにあったためだった。もしかしたら同じ中学に通っていたかもしれないなと、そんな話をする。
そして、話し初めて30分くらい経った頃、入り口の扉が開いた。何気なく入ってくる人物を見ると、そこには雨宮香里の姿があった。
「先輩...」
そう言うと、青葉夏菜も入り口のほうに目を向ける。
「きれいな人」
先輩は店内を一通り見渡すと俺たちに気づき、近づいてくる。
「久しぶり。水樹。1ヵ月ぶりくらい?」
「たぶん、それくらい。偶然だね。こんなところで会うなんて」
「まぁ、私の家この近くだしここで会うこともあるでしょ。その子は?」
「私、青葉夏菜って言います。橘君とは最近仲良くなって」
「そう」
それだけ言って香里先輩は奥の席へ行く。
「ごめん。青葉さん。あの人は雨宮香里先輩って言って俺の中学の頃の先輩。悪い人じゃないんだけど」
「ううん。全然いいよ。気にしないで」
笑顔でそう言った青葉夏菜は、先輩に冷たくされても全く気にしていないようだった。
「じゃあ、私そろそろ行くね。この後予定あるんだ。思ったよりも長居しちゃった。お金は払っておくから」
「分かった。今日はありがとう。ごちそうさまでした」
「いえいえ、お粗末様でした。私が作ったわけじゃないけど。それじゃあ、また明日ね」
そして、青葉夏菜は帰っていった。
俺は香里先輩のもとへ行く。
「先輩」
「...」
「香里先輩」
「なに?」
「なんで怒ってるんだよ」
「怒ってないよ。不機嫌なだけ」
「なんで不機嫌なのか分からないけど、さっきの態度はないと思うよ」
「確かに大人げなかったかもしれない。ごめんなさい」
「俺じゃなくて青葉さんに謝ってくれ」
「ふーん。あの子、青葉さんって言うんだ。もし次に会うことがあったらね」
「で、なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「教えない」
「先輩」
「私をもっと不機嫌にしたいの?」
「...はぁ。じゃあ俺先に帰るから」
そう言って、水樹はお店を出る。香里先輩をあのまま不機嫌にさせておくと、後々めんどくさい事になりそうだと思い、出てくるまで待つことにした。時間が経てば香里先輩の頭も冷えるだろう。でもなんであんなに不機嫌だったんだ。大学で嫌なことでもあったのか。あの人平気で八つ当たりするからな。
程なくして、香里先輩がローリエから出てくる。
「なんでいるの?」
香里先輩は不思議そうに水樹を見つめながら言う。
「先輩を不機嫌なまま放置したら後々めんどくさいことになりそうだったから」
そう言いうと香里先輩は微笑み、ありがとうと言う。そして1枚のチケットを俺に渡す。
これは映画館のチケット?
「先輩これなんですか?」
「本当はこれを渡すために水樹を呼び出そうと思ってたんだけど、ほかの子と居たから」
香里先輩は苦笑のような照れたような笑顔を浮かべる。
「そろそろ中間テストだよね。それが終わったら遊びに行かない?」
水樹は何とも言えない気持ちになっていた。断ろうかとも思ったが、断る理由が見当たらなかったので、誘いを受けることにする。
「よかった。じゃあ、来月楽しみにしてる」
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「...なんでだよ」
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