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後編
二人の距離がゼロになるまで後編
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──翌日の土曜日、ひかりとの待ち合わせ場所の駅前、休日ということもあり、人は多かった。家族連れだったり、カップルだったり、わたしは待ち合わせ時間よりも、少し早く来てしまった。
特にすることもなく、こうして駅前の噴水の近くにある木製のベンチに座ってぼーっとしている。
すると、駅から階段を駆け足で降りてくるポニーテールの女の子が見えた。女の子は階段を降りてそのまま、わたしのほうに向かってきた。かなり息が切れてるみたい。
「はあーごめん、待たせた?」
そう言って、いつもの制服とは違う、おしゃれな私服姿のひかりが息を必死に整えている。
──おしゃれだ、なんか、モテる女子大生みたいな・・・・こんなのインスタでしか見たことない・・・・
「ううん、全然大丈夫。少し早いくらいじゃないかな」
「えー本当に、時計もスマホもわすれちゃってさ・・・・」
おっちょこちょいなところが、なんか可愛い・・・・わたしは自分の服を見る、地味だ・・・・本当に普通の子供っぽい服。
「ひかりの裏切り者、わたしたち仲間だと思ってたのに・・・・」
「なに言ってるの、あの、お姉さんの行きつけの美容院に行くんだからこれくらいのおしゃれしないと」
そんなに凄いお店なのか・・・・なんか帰りたくなってきた・・・・。
ひかりは萎縮したわたしの手を取って、
「あかりもほら──三秋くんが見惚れるくらい可愛くなりに行くよ」
「うう・・・・その名前出されると弱い・・・・」
こうして、わたしはひかりに半ば引っ張られるようにして、駅前通りにあるという美容院に向かった。
「ひかり・・・・ここに入るの・・・・?」
「このお店で間違いないよ、店名もメモと同じだし」
そのお店はまるで、おしゃれさん専用みたいな店だった。実際、窓から見える店内で髪を切ってもらっている男女は今のひかりに負けないくらいのおしゃれさんや容姿の人ばかりだし。
──お姉ちゃんいつもこんなお店で髪切ってるの、確かに・・・・お姉ちゃんは美人だけど。
「ささ、まずはここで髪型から大変身させよう、行くよ」
ひかりはわたしを強引に引っ張り店内に入る。
「──いらっしゃいませ!ご予約の方ですね!お名前を」
そう言って、カウンターで綺麗なお姉さんが微笑んでくる。眩しい。
緊張して中々言い出せないわたしの代わりにひかりが、
「曾山あかりです、この子です。」
ひかりがわたしを指さして言った。受付のお姉さんはわたしの顔を少し見て、
「あなたが曽山さんの妹さん──確かに面影がありますね! どうぞこちらへ」
お姉さんはそう言って前の壁に鏡がかけてある椅子へ案内する。
お客さんに見られてる気がしてそわそわしながら、椅子に座ると奥から美容師さんが来た。
ひかりは付き添い用のソファに座ってこちらを見守っていた。
「あなたが曾山さんの妹さんね、お姉さんから髪型の要望は聞いてるわ」
そう言って、わたしの顔を見ながら何やら数秒考え始め、微笑んでから、
「これは──切るまえから楽しみね・・・・!」
そして手慣れた手つきでハサミを持ち切り始めた──。
「わあ・・・・」
最初に驚いたのはわたしだった。鏡の前に居るわたしは別人のように見える。
長かった髪は丸みがあるおしゃれなショートヘアになっていた。髪を切っている時は目をつぶっていたから分からなかった。
前髪を少し残しながらも、目はしっかりと出す。前は、目に掛かるくらい前髪が長かったから、自分の目が比較的大きいことに気が付かなかった。なにより、この髪型は、絶妙にわたしの顔の輪郭や骨格に合っていた。
「凄いよ!あかり別人のように可愛いくなったね。やっぱり、私の目に狂いはなかった!」
ひかりはわたしの姿を見ると目を輝かせて言った。
「お姉さんからショートボブが似合うからって、流石、お姉さん譲りの顔立ちね」
そうして、お会計を済ませる。
実は、家を出る前にお姉ちゃんがお金の入った封筒を渡してくれた──。
「妹のためならバイト代も惜しくない、持っていきなさい」
高校生のお姉ちゃんがバイトをしてるのは知っていたけど。
「いいの? お姉ちゃんだって──」
わたしが言い終わる前にお姉ちゃんが言った。
「気にしないで、その代わり、好きな子を射止めた時は真っ先に私に紹介しなさい」
──ひかりとわたしは、お店を出てから駅前のデパートでメモに書いてある品と服を買った。
その中でも気に入った白いワンピース、シンプルさと、着るとどこか大人の女性感が出て好きになった。
ひかりはわたしの変わりように隣ではしゃいでいる。
「本当に可愛いし、綺麗になったね!」
「髪型変えて少し服を変えただけなのにびっくりだよ・・・・」
「人間、髪型が見た目に与える影響は凄いんだよ」
そして、デパート内のカフェ、本が沢山置いてあって、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そのカフェの席で珈琲を飲みながら本を読んでいる男子に視線が固定される。
──え、あれ三秋くんだよね・・・・
「見て、あかり、あれ間違いなく三秋くんだよ!」
「う、うんそうだね・・・・」
するとひかりはわたしの背中を軽く叩いて、
「なにしてるの、その姿見てもらいに行かないと」
「で、でもひかりは?」
「先に帰るよ、邪魔しちゃ悪いでしょ。だから気にしないで行きなよ」
わたしは勇気を出して、三秋くんの居るカフェに向かって歩く。
──変わった姿を三秋くんはどう思うだろうか、不安になってきた・・・・
「こんばんは、三秋くん、こんな所で偶然だね」
三秋くんに近づいて出来るだけ平静を装って声をかけた。
三秋くんは一瞬誰だか分からなかったらしく、少し警戒してたけど、
「もしかして──あかりさん?」
三秋くんは大きく目を見開いていた。
「う、うん、その・・・・どうかな」
三秋くんは目を細めて感慨深そうに言った。
「ずいぶん変わったね・・・・その綺麗になったよ凄く」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいな」
三秋くんは立ち上がって向かい側の席を引いて、
「座って、せっかくだし少し話そう」
わたしは引いてくれた席に座り、三秋くんは座っていた席に戻り、お互い向かいあった。
三秋くんは机の横に立てられたメニュー表をわたしに渡して微笑んで、
「僕が出すから好きなもの頼んでいいよ」
「そんな、自分で出すよ」
「まあまあ、そう遠慮しないでよ、お祝いみたいなものだからさ」
「じゃあ、お言葉に甘えて──」
わたしはチョコレートのケーキとコーヒーを頼んだ。ケーキだけ頼もうとしたら、
「ここのケーキはコーヒーをお供にするのがおすすめだよ」
と三秋くんは笑顔で勧めてきたので、コーヒーも頼んだ。
「それにしても、本当に綺麗になったと思うよ。休み明けは皆驚くんじゃないかな」
三秋くんは手元のコーヒーを少し口に含む。
「それはそれで、なんか恥ずかしいよ・・・・」
そう言うと三秋くんはそんな、わたしを見て、
「まあ、そうだよね。新しい自分を晒すのは緊張するよね」
わたしは少し疑問に思ったことを聞いてみる。
「三秋くんも・・・・イメチェンとかして今のかっこよさになったの?」
三秋くんは少し苦笑して、
「まあ、僕がかっこいいかどうかは分からないけど・・・・中学入学前にイメチェンしたのは間違いないよ」
コーヒーをまた一口飲んでから、なにか思い出すように、
「小学校の頃はよく暗いやつっていじめられててさ・・・・今よりも色々気を使ってなかったから」
三秋くんがいじめられていた、そんな・・・・。
「信じられないでしょ、でも本当だよ、悔しくてそこから出来る限りのことはやったなー」
僕ではなく俺に変えたり、髪型変えたり、色々、もちろん元の良さもあるんだろうけど、わたしはそれよりも無理してる今の三秋くんが心配だった。
「疲れたら、言ってわたしも力になりたいから」
「うん、その時はまたこうしてお話できたらいいな、あかりさんの前だと自然体でいられるから」
わたしの前だとというのが嬉しくて心の温度が上がる──。
「お、ケーキとコーヒー来たよ、僕も追加でなにか頼もうかな・・・・」
そしてわたしたちはお互いに頼んだものを口に運びながら、三秋くんに今日あったことを話したり、他にも色々な会話をして過ごした。
──わたしたちは駅前まで一緒に歩いてきた。デパートを出た時のは夕方で今は街や駅前の灯りが目立つくらい日が落ちていた。
「三秋くんも乗る電車同じ?」
「うん、降りる駅も同じだと思うよ」
──一緒に帰ろうって言ってみよう、まだ離れたくない
「その、一緒に帰らない?」
「ん、同じ駅で同じ電車だから全然いいけど、あかりさんからそう言うのは珍しいね」
そう言うと三秋くんは駅の方を向いて、
「じゃ、行こうか」
──その電車の席は空いていて、わたしと三秋くんは並んで座った。
「そうそう、アイライブ聴いてみたよ」
「どうだった?」
んーっと言ってズボンのポケットからスマホを取り出して、手慣れたように操作してわたしに画面を見せてきた。これは確か、恋する男子が好きな人の為にかっこよくなろうと奮闘する内容の歌詞で構成された男子がターゲットの曲。
「気に入ったよ、何曲か聞いたけど一番好きだね」
「これの女子バージョンの曲は聞いてないよね」
「そんな曲があるの、家に帰ったら聞いてみるよ」
──今までのわたしだったら、無理かもしれないけど・・・・今のわたしなら
わたしはスマホを操作して今言った曲を出してから、イヤホンを繋いで片方を自分の耳につけてもう片方を、恐る恐る三秋くんに差し出す。目的地までは一五分くらいある。
「そ、そのまだ到着まで時間あるし、良かったら一緒に聞きませんか」
緊張して最後、敬語になってしまった・・・・三秋くんはイヤホンを見ている。付き合ってもないし、やっぱりわたしなんかがこんな大胆なこと迷惑だと思われてるかもしれない。
しばらく、電車の揺れる音だけが車内に響く。
三秋くんはゆっくりとイヤホンを受け取ってくれた。
「ごめん、色々考えてた」
三秋くんは受け取ったイヤホンを片耳につけると少し視線をわたしから外して、
「なんか緊張する・・・・」
こんな様子初めて見た、少し照れくさそうに視線を斜め下に向け、緊張を隠し切れないのか身体が力んでいるように見える。
「じゃ、じゃあ流すね・・・・」
「う、うん」
曲が流れ始めてしばらく経つと、三秋くんは落ち着いてきたのか身体の力みがなくなっていき、その辺りから目を閉じて聴いている。
わたしは終始落ち着かなかった。そのまま一曲が終わると三秋くんは目を開けてこちらを向く。
「いい曲だね、なんか曲の主人公があかりさんみたい」
「そ、そうかな」
すると三秋くんは、わたしのアイライブお気に入りプレイリストを見つけて、
「良かったら、これ再生して聞かせてくれないかな」
「うん、いいよ」
わたしはプレイリストを開き先頭の『春の出会い』を再生した。
わたしも落ち着いてきてこの時間を堪能する。
外は日が落ち切って夜になっていた──。
三秋くんとわたしは窓の外の流れていく街の明かりを眺めながら、再生される曲を聞いている。
──夢のような時間だと思った。わたしは今、三秋くんと同じ景色を見て、同じ曲を聞いて、距離はゼロではないけど触れそうなくらい近い。
いくつか駅を過ぎ、目的の駅に近づいていく。
──終わりたくない、この時間が永遠に続けばいいのに、触れたい手、預けたい肩、三秋くんが好き、お願い夜景じゃなくてもっとわたしを見て。
──三秋くんに恋してるわたし、三秋くんに可愛いと思われたくて、振り向いて欲しくて、おしゃれになって、少し自信も付けて、わたしは三秋くんの傍に居たくて、頑張ってるんだ。
休み明けのクラスメイトの驚きなんてどうでもいいの、三秋くん、わたしを見て、今のわたしはきっと夜景よりも綺麗で街の明かりより輝いてるから、なんてね、流石におごりかな──。
そして目的の駅まであとひと駅。わたしは覚悟を決めた。
──わたしは駅に着いたら三秋くんに告白しよう。
流れている曲は『告白前夜』次に再生される曲は『形になった思い』この曲は思いが成就したパターンとしなかったパターンがある。どちらも思いは形になっている。わたしはどっちの形になるだろうか・・・・
「今日は本当にありがとう凄く楽しかった」
「うん、わたしも凄く楽しかったよ」
わたしたちの降りた駅は小さい駅で人はほとんどいない。
「じゃあまたね、あかりさん」
そう言って、歩き出そうとする三秋くんの袖を掴んで、
「嫌だ・・・・」
三秋くんは立ち止まってこちらに向き直る、恥ずかしさと緊張でうつむくわたし。
「あかりさん?」
「わたし、三秋くんとまだ離れたくない、出来ればずっと離れたくないの」
三秋くんはただ黙って聞いている。わたしは続ける。
「──助けてもらった時から三秋くんに三秋優くんに恋をしてました、あなたのことが好きです」
三秋くんの顔はうつむいているわたしには分からない。
「僕はね、初めて見た時は昔の自分みたいに控えめで地味な子だなって思ったよ」
「だからかもしれない、あかりさんの前では飾ってない自分でいられた」
三秋くんは袖から離れた手をとって続ける。
「本当は僕からいつか伝えるつもりだったんだけどね、中々言えなくて」
それって──。
「あかりさんには飾りを身に着けて毎日、嘘ついて生きる僕は釣り合わないかなってね」
「そんなの──わたしの方が」
そう言って、顔を上げると三秋くんは照れくさそうに言った。
「昔のあかりさんも変わったあかりさんも、僕は好きだよ」
そう言って、真っ直ぐ私を見て
「僕なんかでよければ──」
「よろしくお願いします」
そう言って、わたしの手を取ったまま頭を下げる
「こちらこそよろしくお願いします」
──わたしの思い叶ったんだ、いやまだ。
わたしは繋いだ両手を離して、ゆっくりと近い三秋くんとの距離をさらに縮めて──。
両手で抱きしめた。三秋くんの体温を感じる──。
「あかりさん・・・・」
「ほんとはね、電車に乗ってる時から三秋くんに触れたかったんだ」
「僕も、本当はずっと夜景見てる感じ出して横に居るあかりさんを意識してたよ」
三秋くんも両手をわたしの背中に置く
「本当かなー」
──わたしたちの距離はゼロになった。そして三秋くんはわたしのかばんの中のイヤホンをわたしと三秋くんの耳につけようとする。
「プレイリスト再生しっぱなしだよね」
「うん、止め忘れてた」
そして三秋くんとわたしはイヤホンをつける流れていた曲は──。
──『ゼロ距離の幸せ』結ばれて思い人との距離がゼロになった時の幸せを歌う曲。
特にすることもなく、こうして駅前の噴水の近くにある木製のベンチに座ってぼーっとしている。
すると、駅から階段を駆け足で降りてくるポニーテールの女の子が見えた。女の子は階段を降りてそのまま、わたしのほうに向かってきた。かなり息が切れてるみたい。
「はあーごめん、待たせた?」
そう言って、いつもの制服とは違う、おしゃれな私服姿のひかりが息を必死に整えている。
──おしゃれだ、なんか、モテる女子大生みたいな・・・・こんなのインスタでしか見たことない・・・・
「ううん、全然大丈夫。少し早いくらいじゃないかな」
「えー本当に、時計もスマホもわすれちゃってさ・・・・」
おっちょこちょいなところが、なんか可愛い・・・・わたしは自分の服を見る、地味だ・・・・本当に普通の子供っぽい服。
「ひかりの裏切り者、わたしたち仲間だと思ってたのに・・・・」
「なに言ってるの、あの、お姉さんの行きつけの美容院に行くんだからこれくらいのおしゃれしないと」
そんなに凄いお店なのか・・・・なんか帰りたくなってきた・・・・。
ひかりは萎縮したわたしの手を取って、
「あかりもほら──三秋くんが見惚れるくらい可愛くなりに行くよ」
「うう・・・・その名前出されると弱い・・・・」
こうして、わたしはひかりに半ば引っ張られるようにして、駅前通りにあるという美容院に向かった。
「ひかり・・・・ここに入るの・・・・?」
「このお店で間違いないよ、店名もメモと同じだし」
そのお店はまるで、おしゃれさん専用みたいな店だった。実際、窓から見える店内で髪を切ってもらっている男女は今のひかりに負けないくらいのおしゃれさんや容姿の人ばかりだし。
──お姉ちゃんいつもこんなお店で髪切ってるの、確かに・・・・お姉ちゃんは美人だけど。
「ささ、まずはここで髪型から大変身させよう、行くよ」
ひかりはわたしを強引に引っ張り店内に入る。
「──いらっしゃいませ!ご予約の方ですね!お名前を」
そう言って、カウンターで綺麗なお姉さんが微笑んでくる。眩しい。
緊張して中々言い出せないわたしの代わりにひかりが、
「曾山あかりです、この子です。」
ひかりがわたしを指さして言った。受付のお姉さんはわたしの顔を少し見て、
「あなたが曽山さんの妹さん──確かに面影がありますね! どうぞこちらへ」
お姉さんはそう言って前の壁に鏡がかけてある椅子へ案内する。
お客さんに見られてる気がしてそわそわしながら、椅子に座ると奥から美容師さんが来た。
ひかりは付き添い用のソファに座ってこちらを見守っていた。
「あなたが曾山さんの妹さんね、お姉さんから髪型の要望は聞いてるわ」
そう言って、わたしの顔を見ながら何やら数秒考え始め、微笑んでから、
「これは──切るまえから楽しみね・・・・!」
そして手慣れた手つきでハサミを持ち切り始めた──。
「わあ・・・・」
最初に驚いたのはわたしだった。鏡の前に居るわたしは別人のように見える。
長かった髪は丸みがあるおしゃれなショートヘアになっていた。髪を切っている時は目をつぶっていたから分からなかった。
前髪を少し残しながらも、目はしっかりと出す。前は、目に掛かるくらい前髪が長かったから、自分の目が比較的大きいことに気が付かなかった。なにより、この髪型は、絶妙にわたしの顔の輪郭や骨格に合っていた。
「凄いよ!あかり別人のように可愛いくなったね。やっぱり、私の目に狂いはなかった!」
ひかりはわたしの姿を見ると目を輝かせて言った。
「お姉さんからショートボブが似合うからって、流石、お姉さん譲りの顔立ちね」
そうして、お会計を済ませる。
実は、家を出る前にお姉ちゃんがお金の入った封筒を渡してくれた──。
「妹のためならバイト代も惜しくない、持っていきなさい」
高校生のお姉ちゃんがバイトをしてるのは知っていたけど。
「いいの? お姉ちゃんだって──」
わたしが言い終わる前にお姉ちゃんが言った。
「気にしないで、その代わり、好きな子を射止めた時は真っ先に私に紹介しなさい」
──ひかりとわたしは、お店を出てから駅前のデパートでメモに書いてある品と服を買った。
その中でも気に入った白いワンピース、シンプルさと、着るとどこか大人の女性感が出て好きになった。
ひかりはわたしの変わりように隣ではしゃいでいる。
「本当に可愛いし、綺麗になったね!」
「髪型変えて少し服を変えただけなのにびっくりだよ・・・・」
「人間、髪型が見た目に与える影響は凄いんだよ」
そして、デパート内のカフェ、本が沢山置いてあって、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そのカフェの席で珈琲を飲みながら本を読んでいる男子に視線が固定される。
──え、あれ三秋くんだよね・・・・
「見て、あかり、あれ間違いなく三秋くんだよ!」
「う、うんそうだね・・・・」
するとひかりはわたしの背中を軽く叩いて、
「なにしてるの、その姿見てもらいに行かないと」
「で、でもひかりは?」
「先に帰るよ、邪魔しちゃ悪いでしょ。だから気にしないで行きなよ」
わたしは勇気を出して、三秋くんの居るカフェに向かって歩く。
──変わった姿を三秋くんはどう思うだろうか、不安になってきた・・・・
「こんばんは、三秋くん、こんな所で偶然だね」
三秋くんに近づいて出来るだけ平静を装って声をかけた。
三秋くんは一瞬誰だか分からなかったらしく、少し警戒してたけど、
「もしかして──あかりさん?」
三秋くんは大きく目を見開いていた。
「う、うん、その・・・・どうかな」
三秋くんは目を細めて感慨深そうに言った。
「ずいぶん変わったね・・・・その綺麗になったよ凄く」
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいな」
三秋くんは立ち上がって向かい側の席を引いて、
「座って、せっかくだし少し話そう」
わたしは引いてくれた席に座り、三秋くんは座っていた席に戻り、お互い向かいあった。
三秋くんは机の横に立てられたメニュー表をわたしに渡して微笑んで、
「僕が出すから好きなもの頼んでいいよ」
「そんな、自分で出すよ」
「まあまあ、そう遠慮しないでよ、お祝いみたいなものだからさ」
「じゃあ、お言葉に甘えて──」
わたしはチョコレートのケーキとコーヒーを頼んだ。ケーキだけ頼もうとしたら、
「ここのケーキはコーヒーをお供にするのがおすすめだよ」
と三秋くんは笑顔で勧めてきたので、コーヒーも頼んだ。
「それにしても、本当に綺麗になったと思うよ。休み明けは皆驚くんじゃないかな」
三秋くんは手元のコーヒーを少し口に含む。
「それはそれで、なんか恥ずかしいよ・・・・」
そう言うと三秋くんはそんな、わたしを見て、
「まあ、そうだよね。新しい自分を晒すのは緊張するよね」
わたしは少し疑問に思ったことを聞いてみる。
「三秋くんも・・・・イメチェンとかして今のかっこよさになったの?」
三秋くんは少し苦笑して、
「まあ、僕がかっこいいかどうかは分からないけど・・・・中学入学前にイメチェンしたのは間違いないよ」
コーヒーをまた一口飲んでから、なにか思い出すように、
「小学校の頃はよく暗いやつっていじめられててさ・・・・今よりも色々気を使ってなかったから」
三秋くんがいじめられていた、そんな・・・・。
「信じられないでしょ、でも本当だよ、悔しくてそこから出来る限りのことはやったなー」
僕ではなく俺に変えたり、髪型変えたり、色々、もちろん元の良さもあるんだろうけど、わたしはそれよりも無理してる今の三秋くんが心配だった。
「疲れたら、言ってわたしも力になりたいから」
「うん、その時はまたこうしてお話できたらいいな、あかりさんの前だと自然体でいられるから」
わたしの前だとというのが嬉しくて心の温度が上がる──。
「お、ケーキとコーヒー来たよ、僕も追加でなにか頼もうかな・・・・」
そしてわたしたちはお互いに頼んだものを口に運びながら、三秋くんに今日あったことを話したり、他にも色々な会話をして過ごした。
──わたしたちは駅前まで一緒に歩いてきた。デパートを出た時のは夕方で今は街や駅前の灯りが目立つくらい日が落ちていた。
「三秋くんも乗る電車同じ?」
「うん、降りる駅も同じだと思うよ」
──一緒に帰ろうって言ってみよう、まだ離れたくない
「その、一緒に帰らない?」
「ん、同じ駅で同じ電車だから全然いいけど、あかりさんからそう言うのは珍しいね」
そう言うと三秋くんは駅の方を向いて、
「じゃ、行こうか」
──その電車の席は空いていて、わたしと三秋くんは並んで座った。
「そうそう、アイライブ聴いてみたよ」
「どうだった?」
んーっと言ってズボンのポケットからスマホを取り出して、手慣れたように操作してわたしに画面を見せてきた。これは確か、恋する男子が好きな人の為にかっこよくなろうと奮闘する内容の歌詞で構成された男子がターゲットの曲。
「気に入ったよ、何曲か聞いたけど一番好きだね」
「これの女子バージョンの曲は聞いてないよね」
「そんな曲があるの、家に帰ったら聞いてみるよ」
──今までのわたしだったら、無理かもしれないけど・・・・今のわたしなら
わたしはスマホを操作して今言った曲を出してから、イヤホンを繋いで片方を自分の耳につけてもう片方を、恐る恐る三秋くんに差し出す。目的地までは一五分くらいある。
「そ、そのまだ到着まで時間あるし、良かったら一緒に聞きませんか」
緊張して最後、敬語になってしまった・・・・三秋くんはイヤホンを見ている。付き合ってもないし、やっぱりわたしなんかがこんな大胆なこと迷惑だと思われてるかもしれない。
しばらく、電車の揺れる音だけが車内に響く。
三秋くんはゆっくりとイヤホンを受け取ってくれた。
「ごめん、色々考えてた」
三秋くんは受け取ったイヤホンを片耳につけると少し視線をわたしから外して、
「なんか緊張する・・・・」
こんな様子初めて見た、少し照れくさそうに視線を斜め下に向け、緊張を隠し切れないのか身体が力んでいるように見える。
「じゃ、じゃあ流すね・・・・」
「う、うん」
曲が流れ始めてしばらく経つと、三秋くんは落ち着いてきたのか身体の力みがなくなっていき、その辺りから目を閉じて聴いている。
わたしは終始落ち着かなかった。そのまま一曲が終わると三秋くんは目を開けてこちらを向く。
「いい曲だね、なんか曲の主人公があかりさんみたい」
「そ、そうかな」
すると三秋くんは、わたしのアイライブお気に入りプレイリストを見つけて、
「良かったら、これ再生して聞かせてくれないかな」
「うん、いいよ」
わたしはプレイリストを開き先頭の『春の出会い』を再生した。
わたしも落ち着いてきてこの時間を堪能する。
外は日が落ち切って夜になっていた──。
三秋くんとわたしは窓の外の流れていく街の明かりを眺めながら、再生される曲を聞いている。
──夢のような時間だと思った。わたしは今、三秋くんと同じ景色を見て、同じ曲を聞いて、距離はゼロではないけど触れそうなくらい近い。
いくつか駅を過ぎ、目的の駅に近づいていく。
──終わりたくない、この時間が永遠に続けばいいのに、触れたい手、預けたい肩、三秋くんが好き、お願い夜景じゃなくてもっとわたしを見て。
──三秋くんに恋してるわたし、三秋くんに可愛いと思われたくて、振り向いて欲しくて、おしゃれになって、少し自信も付けて、わたしは三秋くんの傍に居たくて、頑張ってるんだ。
休み明けのクラスメイトの驚きなんてどうでもいいの、三秋くん、わたしを見て、今のわたしはきっと夜景よりも綺麗で街の明かりより輝いてるから、なんてね、流石におごりかな──。
そして目的の駅まであとひと駅。わたしは覚悟を決めた。
──わたしは駅に着いたら三秋くんに告白しよう。
流れている曲は『告白前夜』次に再生される曲は『形になった思い』この曲は思いが成就したパターンとしなかったパターンがある。どちらも思いは形になっている。わたしはどっちの形になるだろうか・・・・
「今日は本当にありがとう凄く楽しかった」
「うん、わたしも凄く楽しかったよ」
わたしたちの降りた駅は小さい駅で人はほとんどいない。
「じゃあまたね、あかりさん」
そう言って、歩き出そうとする三秋くんの袖を掴んで、
「嫌だ・・・・」
三秋くんは立ち止まってこちらに向き直る、恥ずかしさと緊張でうつむくわたし。
「あかりさん?」
「わたし、三秋くんとまだ離れたくない、出来ればずっと離れたくないの」
三秋くんはただ黙って聞いている。わたしは続ける。
「──助けてもらった時から三秋くんに三秋優くんに恋をしてました、あなたのことが好きです」
三秋くんの顔はうつむいているわたしには分からない。
「僕はね、初めて見た時は昔の自分みたいに控えめで地味な子だなって思ったよ」
「だからかもしれない、あかりさんの前では飾ってない自分でいられた」
三秋くんは袖から離れた手をとって続ける。
「本当は僕からいつか伝えるつもりだったんだけどね、中々言えなくて」
それって──。
「あかりさんには飾りを身に着けて毎日、嘘ついて生きる僕は釣り合わないかなってね」
「そんなの──わたしの方が」
そう言って、顔を上げると三秋くんは照れくさそうに言った。
「昔のあかりさんも変わったあかりさんも、僕は好きだよ」
そう言って、真っ直ぐ私を見て
「僕なんかでよければ──」
「よろしくお願いします」
そう言って、わたしの手を取ったまま頭を下げる
「こちらこそよろしくお願いします」
──わたしの思い叶ったんだ、いやまだ。
わたしは繋いだ両手を離して、ゆっくりと近い三秋くんとの距離をさらに縮めて──。
両手で抱きしめた。三秋くんの体温を感じる──。
「あかりさん・・・・」
「ほんとはね、電車に乗ってる時から三秋くんに触れたかったんだ」
「僕も、本当はずっと夜景見てる感じ出して横に居るあかりさんを意識してたよ」
三秋くんも両手をわたしの背中に置く
「本当かなー」
──わたしたちの距離はゼロになった。そして三秋くんはわたしのかばんの中のイヤホンをわたしと三秋くんの耳につけようとする。
「プレイリスト再生しっぱなしだよね」
「うん、止め忘れてた」
そして三秋くんとわたしはイヤホンをつける流れていた曲は──。
──『ゼロ距離の幸せ』結ばれて思い人との距離がゼロになった時の幸せを歌う曲。
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烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
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