ヘタレ淫魔は変態小説家に偏愛される

須藤うどん

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ヘタレ淫魔と淡雪少年

ヘタレ淫魔と淡雪少年(3)

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「君。自分は薄幸だからってイコールいい子のように自認してるだろう。違うからね。そこそこ悪い子だよ」

 ソノオはアサユキの病室に着くなり、自己紹介もそこそこに言い放った。
 初手から圧が強い! たしかに来る前に宣言したとおり、暴力は振るってないけども!

「あなたは……誰?」
 アサユキはアサユキで存外、驚く様子もなく尋ねる。
「僕は簪 苑生〈かんざし そのお〉。リケと、それから君の従兄の傘お兄さんとの共通の友人だよ」
「そう。で、その立場の苑生さんは、どうしていきなり僕に因縁をつけにきたの?」
 ソノオは淡々と答え、アサユキは淡々と次の質問をぶつける。何こいつら!? なんでこんな冷静でいられんの? おれだったらソノオの最初の一言目で泣いちゃう。二人とも怖いよぉ~!

「君がリケに対してあまりにも私物化が酷いからね、お灸を据えにきたんだよ」
 ソノオはぴりりと言い放った。おれまで心がチクッとする。むしろ、とうのアサユキよりおれのほうがソノオの棘棘しさに参っているかもしれない。
「そう……。たしかに僕のリケへの態度は良くない。それを承知した上で言います。リケをください、くれないのなら死んでやる! どうせこんな腐りゆく命だ!」
 ええっ! アサユキっておれのことそこまで想ってたの!? でも、おれは答えられないし、ただでさえ、体が弱くて短い人生になってしまうかもしれないアサユキなのに、自分からさっさと終わらせようだなんて、そんな悲しい話ってないよ!
 おれは目を潤ませるが、ソノオは飽くまで冷静だった。ふうと溜息をついて冷淡とも慈悲深いとも取れる声色と表情で言う。
「君。生き永らえたまえよ。それから、『ください』なんてリケをモノ扱いするな」
 ソノオは凛とした声で言った。
「そ、そーだぜ! おれだって、おまえの命の対価として人質みたいにおまえのモノになるなんてすっごく嫌だ!」
 それだけはおれの本心だった。危険な精神状態にある今のアサユキを刺激するかもしれなくてもどうしても伝えたかった。

「はー、やれやれ、センセも相変わらず性格きっついなー」
 小便してくるとかなんとか言って途中で別れた傘が遅れてやってきた。
 そして、よくこいつが浮かべがちな読めない笑顔で告げる。
「朝雪。おまえ、嫌な奴な」
「樹〈いつき〉兄ちゃん!?」
 見知らぬ人間であるソノオが突撃したときよりも余程、驚いて叫ぶ。
 こいつ、本名「樹〈いつき〉」だったのか……。

「そうだな、僕は嫌な子だ。病弱に生まれて壊れ物扱いで育ったからって、それを逆手に取って駄々をこねて嫌な子だ」

「そういう意味じゃねえよ。実際、おまえは病弱でない子たちが浴びなくていいような理不尽な痛みを生まれた時から浴びてきた。それにしちゃぁ世界を呪い足りねえくらいいい子だ。ただ、おまえの年頃は軒並みみんな反抗期だし、同い年の子と並べたときにおまえも月並みに憎たらしい嫌なガキってこった。嫌な子でいんだよ。病弱キャラだからって、世間が押しつけてくる聖人君子キャラまで引き受けるこたァねえ」
「樹兄ちゃん……」
 ソノオが人間みの出てきた和らいだ表情で傘の台詞に続く。
「天使はきっといい子の魂のほうが好きだ。優先して取りに来る。朝雪くんは嫌な子でいて天使を追っ払って長生きしなければだよ」

「えっと……あなたは……すみません、えっと」
 アサユキにとってソノオの名前を記憶しておくことは大切なことのようだった。
「苑生。簪苑生」
「苑生さん。ありがとうございます」

 素直に礼を言うアサユキを見て、皮肉ばかりで大人びて見えたアサユキの年相応の少年の顔をアサユキの中に初めて見つけた。

 おれたちが帰る間際に
「僕は生きるよ」
と宣言したアサユキは、おれにだけ聞こえるように耳許で
「苑生さんがリケの好きな人でしょ?」
 と囁いた。おれは真っ赤になった。
「ビンゴ? へへ」
 悪戯っぽく笑う朝雪はこれまでのどの瞬間よりも元気そうに見えた。


 帰宅したおれとソノオは布団の中で抱き合っていた。おれは布団の中で手さぐりで服を脱がされる。
「外は寒くて冷えたねえ」
「うん」
「君のもちもちした肌も、求肥のアイスみたいに冷えきってしまって、尚のこともちもちひんやりとしているよ」
「なあにそれ~? ……あっ♡♡」
 首筋にキスをされた。最初は顎の付け根から、やがて、鎖骨、胸へと下がっていき、乳首の位置まで舌で舐め下ろされる。
「んぉっほ♡♡♡」
 とてももどかしくて、焦れったくて恥ずかしくて、精神的にもムズムズした。もちろん、おなかの奥も、おしりの穴も。
「ソノオぉ……♡♡」
 ソノオはおれがソノオのこと好きって知ってる? アサユキは知ってたよ。
 おれは心の中で一人で喋る。
 告白すれば済むこと、なのかもしれない。でも、フラれるかもだし、玉砕覚悟……なんて、到底、勇気が出なくて、自分のヘタレな性分が憎い。
「ソノオっ♡ ソノオ♡♡」
「なんだい、可愛いねえ」
 ソノオは犬を撫でるようにしておれを撫でて、それから、おれにフェラしてくれた。
 おれの短小ちんぽ――ソノオの長くてでかいのからしたら余計に――を、飴玉みたいにれろれろと口の中で転がしてくれるのが嬉しい。嬉しいのもあって足の指がぎゅっと丸まった。
「う、ぅ……ん♡♡ ソノオ、きもちいよお♡♡♡」
 おれの反応に気を良くしたソノオは敏感な先端を舌先でちろちろ責めた。
「ひやあぁぁぁぁあ♡♡ ぴゃっっっ♡♡♡ んほぉっ♡♡♡」
 自分は誘惑に関してはポンコツでも伊達に淫魔じゃないと思うのは、やはり、この感度だろうか。
「あァァ~~♡♡♡ おほッ♡♡ イっちゃ♡♡ イッひゃうぅぅぅう♡♡♡」

 ぴゅるっ♡♡ ぴゅるんっっっ♡♡♡

「はひ♡ あぁぁぁ~~♡♡♡」

「君は、精液を飲めないときも僕に抱かれたら喜ぶだろう? 朝雪くんとの関係で悩んで相談してくれたときに言っていた『おれは人間を食糧としてしか見れてないのかな?』って問いには、僕はエビデンスを持ってして改めてノーと答えるよ」

 余韻の中でソノオの低く甘い囁きを聞いた。
 えびでんす、ってなあに?
 ソノオの話は相変わらず難しいけれど、おれにとって嬉しい話ということだけはわかった。


(つづく)
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