「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

文字の大きさ
3 / 30

3 我が家の精鋭侍女

 お家に帰ってまいりましたわ……。
 門の向こうに消えてゆく、ラフィ殿下の乗っている馬車。
 うぅぅ……。

「しばらく一人でお部屋にこもりますわ」
「かしこまりました」

 表面上は冷静沈着に――やっぱりラフィ殿下と離れるだなんて、悲しすぎますわ……。

「呼んでいただけましたら、洗顔用のお水をご用意いたしますので」
「・・・わかりましたわ」

 本当になんなんですの、この侍女は?!
 今朝もこの方でしたわよ、わたくしの類まれなる猫かぶりを見破ったのは。
 お部屋にこもりましたら、お行儀が悪いですけれども、ベッドにダイブ、でございます。
 とても気持ちよいですけれども……やっぱり、寂しいですわね。
 それに、ちょっと胸の奥が苦しいですわ……。

 別に、ラフィ殿下にわたくしと同じ気持ちを持ってほしいなどという烏滸おこがましいことは考えておりませんの。
 ただ、ラフィ殿下の黄身について語るお姿を見ると……わたくしにはその表情を引き出せるだけの魅力がない、ということを実感してしまうのですわ。
 わたくしは卵の黄身に――お菓子の材料にすら劣る、という現実を知ってしまったのです。
 お菓子に罪はございませんが、やはり少々気が滅入りますわね……。

 さあ、塞ぎ込んでいても仕方ありませんわ、現実は変わりませんもの。
 ベルを鳴らしますと、やっぱり猫かぶり見破り侍女がお水を持ってきてくださりましたわ。

「お嬢様、早く洗いましょう。せっかくの美しい顔が」
「ええ、お願いしますわ」

 さすがは我が家の精鋭侍女ですわね、手つきが丁寧で心地好いですわ。

「そういえば、セリーヌはどうしましたの?」
「夜逃げいたしました。どうやらご一緒していた男性に騙されたそうでして――借金まみれになってしまったそうです」
「まぁ……」

 あのセリーヌが……健気で良い方でしたのに、残念ですわ。

「居場所はわかりませんの?」
「……申し訳ございません」

 やっぱりそうですわよね。
 なぜ悲しむべき現実というものはこう、一度に降り掛かってくるんですの?

「改めてご挨拶させていただきます。お嬢様の専属侍女になりました、レア・ブシェと申します」
「よろしくお願いしますわ」

 こうして、新しい人間関係というものは出来上がってゆくのですわ……。
 ・・・わたくし、妙に感傷的になってはいませんこと?

「それから、お嬢様」
「はい」

 慈愛に満ちた微笑みを浮かべたレアは――ラフィ殿下ほどではございませんが、癒し効果がありますわね。
 それに、浄化効果もあるようですわ。

「お気に触ったら申し訳ないのですが……わたしの前では素のお嬢様でいてください」

 数秒間、目を瞬かせて固まってしまいましたわ。
 だって、あまりにも思いもよらないことで思考が追いつかなかったのですもの。

「猫かぶりは、私の前では無意味ですので。ならばむしろ、気楽になさったほうがよろしいかと思ったんです」

 侍女の鏡、ですわね。
 主人の心に寄り添えるって、とても大事なことなんですのよ。

「ありがとう存じますわ」

 心からの感謝、ですわね。
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約を解消します

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 初対面で婚約者と紹介された時、二人きりになった瞬間に開口一番に言われた言葉がこれだった。 面識の全くない、紹介された直後の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く死に消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・以前書いていた作品を色々改稿して、11万文字~13万文字くらいに改稿したものです。内容は少しずつ変わっていると思います。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】

皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」 お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。 初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。 好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。 ****** ・感想欄は完結してから開きます。