「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

間瀬

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20 王太子殿下との話し合い

 午前の授業が終わってしばらくいたしますと、教室の出入り口がざわりと騒々しくなりましたの。

「アリア」

 ……とうとう、いらっしゃいましたわ。
 胸の痛みを封じ込めて無視し、妃教育で教えていただいた淑女の微笑みを貼り付け、わたくしは振り向きましたわ。
 ――あぁ、今日もなんと麗しいのでしょう。
 そんな心の内も笑顔の裏に隠し、わたくしはゆったりとした歩調でラファエル王太子殿下のおそばに向かいましたわ。

「ごきげんよう、ラファエル王太子殿下」
「……あぁ」

 わたくしがレヴェランスを終えて顔を上げますと、彼がいつも浮かべていらっしゃる微笑みは消え去っておりました。
 ……わたくしが十二のときのあの誓いは、もうきっと、ラファエル王太子殿下のお心には残っていらっしゃらないのでしょう。
 もしくは、わたくしのことなど何をしても良いと思っていらっしゃるか。

「……行こうか」

 ラファエル王太子殿下がわたくしの左側で歩いていらっしゃることに気が付き、わずかに気が緩みましたわ。
 まだ、わたくしのことをエスコートはしてくださるのだということに。
 いざというときには守るという心構えは、まだ持っていらっしゃるということに。
 ここ最近のラファエル王太子殿下は、何かが変わってしまわれたような気がいたしておりました。
 ですので、紳士としての行動を忘れない、以前と同じお姿が嬉しかったのですわ。
 王族専用の部屋に着き、開いていただいたドアをくぐりましたわ。

「部屋の人払いを。昼休みの間は誰も通さないように」

 ラファエル王太子殿下のご命令に、付いていらっしゃった護衛の方々は退室していかれました。
 ……未婚の男女ということで部屋のドアは完全には閉まっておりませんけれども、いくらなんでも不用心というものではございませんの?
 思わず扇子を広げ、その陰で口端を歪めてしまいましたわ。

「何を考えているんだい?」

 わたくしの向かいのラファエル王太子殿下の問いかけに、胸中に苦い思いが広がりましたわ。

「いえ、わざわざラファエル王太子殿下のお耳に入れるようなこ」
「アリア」

 わたくしの言葉を遮った普段の余裕など微塵も感じられない厳しいお声に、思わずびくりと肩を揺らしてしまいましたわ。
 そして、これ以上の醜態をさらさないよう、扇子の裏でぐっと唇を噛みんでこみ上げる感情を抑え込みましたの。

「……言葉を遮ってしまって、すまなかった」
「いえ」

 ラファエル王太子殿下は何かを鎮めようとするかのようにまぶたを閉じて息を吐いた後、わたくしを見据えられましたわ。
 一見普段通りの微笑みからにじみ出る、険しい光。
 わたくしは半ば意地でなんとか動揺を隠しましたけれども、心は荒れ狂う海さながらでしたわ。

「本題に入ろう」

 互いに発した張り詰めた空気が、息苦しいほどに部屋中に充満しましたわ。

「アリア、なぜ突然、婚約解消をしたいと言い出したんだ?」

 目の前が、視界が、闇に染まりましたわ。
 心臓の鼓動の音が、やけにはっきりと耳元で響いております。
 ……よりによって、ラファエル王太子殿下あなた様がそれをおっしゃいますの……?
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