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麻里奈の「意味深な」説得。
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『カオルちゃんについて相談したいコトがあるので都合のいい日を連絡してください』
ボクから麻里奈にショートメールを送ったのはこれが初めてだった。
直後に携帯電話の着信音が鳴り、三日後にいつもの店で会うことにした。
約束は午後二時。
少し遅れるかもしれないと、当日朝に連絡が入った。ボクは昼食を済ませていたから、ホットコーヒーだけを注文し、いつも麻里奈が座っていた入口の見える椅子に座り、彼女が到着するのを待った。
呼び出したのはボクの方だから、家庭のスケジュールを調整し都合を付けてやって来る麻里奈が多少遅刻するのは致し方ないと思い、気長に待つ積りでいた。
だが麻里奈の遅刻は五分ほどだった。時間をかけて会いに来るのに、その誤差で済んだのは、ボクと真剣に向き合ってくれている証だと感動し、親子ほどの歳の差のある彼女を頼もしくも感じた。
「あれからママと何か話をした?」
カレーの上に更にチーズを載せたディッシュセットの、ボリュームのある三〇〇グラムにライス大盛を注文(コーンスープ付きにドリンクはホットコーヒーで)した麻里奈は、ウエイトレスがテーブルを離れるのを見届け、身を乗り出して口を開いた。
「この前、希の一か月検診にボクも付き添って行ったんだ。それでカオルちゃんに、希のコト以外にも大事な話があるから、たっくんも一緒に聞いてって言われて診察室に入った」
「それで?」
「それで大事な話って何かと思ったら『私たちセックスしていいですか?』って単刀直入に質問してるから、凄く恥ずかしかった。それも嬉しそうに……」
「ふうん、まるでヤリたくて仕方ない、若い奥さんみたいだね。たっくんも増々大変だね」
麻里奈は神妙な顔つきで同情した。
間を置かず、注文の品が届いた。お昼時を少し外れていたから相変わらずの速さ。
「それで夜の生活、OK出たの?」
だが同情的な態度は一瞬だった。麻里奈はすぐに事務的な報告を聞くような真顔に戻り、いつものようにハンバーグを一切れ口の中に放り込んだ。
「う、うん」
麻里奈はハンバーグをさらに一切れ口に運ぶと、コーヒーを一口すすり、ボクを見た。
「そうか、いよいよだね」
「いよいよ?」
分かってはいるが訊ねてみた。
「いよいよ本格的に始まるね。人類滅亡へのカウントダウン」
麻里奈はもう一度ボクを見つめ、不敵な笑みを浮かべた。だが緊張感は全くない。まるで傍観者が楽しみにしている口ぶりだった。
「カオルが次の子が欲しいって言ったら、たっくん迷わず受けて立ちなよ。ガンガンね」
麻里奈は身を乗り出し、士気を鼓舞するために立てたフォークにはハンバーグが一切れ刺さっていた。
「それで検診の夜、次の子が欲しいって……」
「早速きたんだね!」
麻里奈は目を輝かせた。
「でもカオルちゃん、次は女の子を産みたいって言うんだ。ボクが最初に女の子が欲しいって本音を話したから二人目はどうしても女の子を産みたいって」
「それは違うよ。カオルが欲しいのは男の子だけ。本心じゃない」
「でも、カオルちゃんは女の子を産む方法を知ってるって」
「確かにママは何かを知ってるかもしれない。でもそれはきっとたっくんをその気にさせるための嘘だと思う」
「それじゃあ」
「ううん、それでも私が前に話したように、カオルから誘いがあったらガンガン攻めた方がいい、それはたっくんの今後のためでもある」
「でもボクは希が生まれたばかりで、次の子のことなんて今は全然考えられない。希は可愛いし、見る度にその可愛さが増している。極端なコトを言えば一日の内でもそう。その日の朝見た希と夜の希が違っていて、その変化に素直に感動する。だからしばらくの間は成長していく希を、四六時中でも見ていたい。毎日の暮らしを希中心にしていきたい。マリちゃんや葉子、それに優深とも彼という歳の離れた弟を中心にもっと仲良くなれそうな気がするから、しばらくは今のままでもいいと思っている。それにカオルちゃんは今までも『ボクが望むコト』を優先してくれた。だから強くお願いすれば、ボクの考えを聞き入れてくれる気がするんだ」
麻里奈は黙り込み、腕組みして視線は宙を舞った。
「そう言えば、希のコトは大丈夫?」
「マリちゃんが『希を手に掛けるかも』って言ってたから訊ねた」
「なんて?」
「もし女の子が出来ても希を同じように慈しんで愛してくれるかって」
「そうしたら?」
「『もちろんよ』って。それに『パパの時に過ちを犯したから、希を死なせるようなことは絶対しない』って」
「やっぱりママは心の傷になってたんだね。それを聞いて安心した。希に手を掛ける可能性はなくなったよ」
麻里奈は大きく頷くと、それでねと話を続けた。
「確かにたっくんの言うコトもよく分かる。でも、たとえたっくんの願いをママが素直に聞き入れたとしても、人類滅亡のカウントダウンは決して止まらないし、消えるコトもない。根本的な解決にはならないから、いつまで経ってもたっくんに安らぎの時間は来ないよ。それに振り回されもするけど、たっくんに従順なカオルにこのまま甘えて時間稼ぎばかりしていると、奴らはもっと過酷な条件でカオルの誘いを断れない状況にたっくんを追い込むかもしれない。だからたっくん、その誘いに素直に乗っちゃいなよ。そうしたら麻里奈が『必ず』、『絶対』、『確実に』、救いの手を差し伸べてあげるからさ。それも間違いなくたっくんが奴らとの戦いがこんなにも楽しいコトなのかって思うような方法でね。だから本当に安心して」
人類滅亡の危機をそんなお気楽で回避できるのだろうか?
ボクから麻里奈にショートメールを送ったのはこれが初めてだった。
直後に携帯電話の着信音が鳴り、三日後にいつもの店で会うことにした。
約束は午後二時。
少し遅れるかもしれないと、当日朝に連絡が入った。ボクは昼食を済ませていたから、ホットコーヒーだけを注文し、いつも麻里奈が座っていた入口の見える椅子に座り、彼女が到着するのを待った。
呼び出したのはボクの方だから、家庭のスケジュールを調整し都合を付けてやって来る麻里奈が多少遅刻するのは致し方ないと思い、気長に待つ積りでいた。
だが麻里奈の遅刻は五分ほどだった。時間をかけて会いに来るのに、その誤差で済んだのは、ボクと真剣に向き合ってくれている証だと感動し、親子ほどの歳の差のある彼女を頼もしくも感じた。
「あれからママと何か話をした?」
カレーの上に更にチーズを載せたディッシュセットの、ボリュームのある三〇〇グラムにライス大盛を注文(コーンスープ付きにドリンクはホットコーヒーで)した麻里奈は、ウエイトレスがテーブルを離れるのを見届け、身を乗り出して口を開いた。
「この前、希の一か月検診にボクも付き添って行ったんだ。それでカオルちゃんに、希のコト以外にも大事な話があるから、たっくんも一緒に聞いてって言われて診察室に入った」
「それで?」
「それで大事な話って何かと思ったら『私たちセックスしていいですか?』って単刀直入に質問してるから、凄く恥ずかしかった。それも嬉しそうに……」
「ふうん、まるでヤリたくて仕方ない、若い奥さんみたいだね。たっくんも増々大変だね」
麻里奈は神妙な顔つきで同情した。
間を置かず、注文の品が届いた。お昼時を少し外れていたから相変わらずの速さ。
「それで夜の生活、OK出たの?」
だが同情的な態度は一瞬だった。麻里奈はすぐに事務的な報告を聞くような真顔に戻り、いつものようにハンバーグを一切れ口の中に放り込んだ。
「う、うん」
麻里奈はハンバーグをさらに一切れ口に運ぶと、コーヒーを一口すすり、ボクを見た。
「そうか、いよいよだね」
「いよいよ?」
分かってはいるが訊ねてみた。
「いよいよ本格的に始まるね。人類滅亡へのカウントダウン」
麻里奈はもう一度ボクを見つめ、不敵な笑みを浮かべた。だが緊張感は全くない。まるで傍観者が楽しみにしている口ぶりだった。
「カオルが次の子が欲しいって言ったら、たっくん迷わず受けて立ちなよ。ガンガンね」
麻里奈は身を乗り出し、士気を鼓舞するために立てたフォークにはハンバーグが一切れ刺さっていた。
「それで検診の夜、次の子が欲しいって……」
「早速きたんだね!」
麻里奈は目を輝かせた。
「でもカオルちゃん、次は女の子を産みたいって言うんだ。ボクが最初に女の子が欲しいって本音を話したから二人目はどうしても女の子を産みたいって」
「それは違うよ。カオルが欲しいのは男の子だけ。本心じゃない」
「でも、カオルちゃんは女の子を産む方法を知ってるって」
「確かにママは何かを知ってるかもしれない。でもそれはきっとたっくんをその気にさせるための嘘だと思う」
「それじゃあ」
「ううん、それでも私が前に話したように、カオルから誘いがあったらガンガン攻めた方がいい、それはたっくんの今後のためでもある」
「でもボクは希が生まれたばかりで、次の子のことなんて今は全然考えられない。希は可愛いし、見る度にその可愛さが増している。極端なコトを言えば一日の内でもそう。その日の朝見た希と夜の希が違っていて、その変化に素直に感動する。だからしばらくの間は成長していく希を、四六時中でも見ていたい。毎日の暮らしを希中心にしていきたい。マリちゃんや葉子、それに優深とも彼という歳の離れた弟を中心にもっと仲良くなれそうな気がするから、しばらくは今のままでもいいと思っている。それにカオルちゃんは今までも『ボクが望むコト』を優先してくれた。だから強くお願いすれば、ボクの考えを聞き入れてくれる気がするんだ」
麻里奈は黙り込み、腕組みして視線は宙を舞った。
「そう言えば、希のコトは大丈夫?」
「マリちゃんが『希を手に掛けるかも』って言ってたから訊ねた」
「なんて?」
「もし女の子が出来ても希を同じように慈しんで愛してくれるかって」
「そうしたら?」
「『もちろんよ』って。それに『パパの時に過ちを犯したから、希を死なせるようなことは絶対しない』って」
「やっぱりママは心の傷になってたんだね。それを聞いて安心した。希に手を掛ける可能性はなくなったよ」
麻里奈は大きく頷くと、それでねと話を続けた。
「確かにたっくんの言うコトもよく分かる。でも、たとえたっくんの願いをママが素直に聞き入れたとしても、人類滅亡のカウントダウンは決して止まらないし、消えるコトもない。根本的な解決にはならないから、いつまで経ってもたっくんに安らぎの時間は来ないよ。それに振り回されもするけど、たっくんに従順なカオルにこのまま甘えて時間稼ぎばかりしていると、奴らはもっと過酷な条件でカオルの誘いを断れない状況にたっくんを追い込むかもしれない。だからたっくん、その誘いに素直に乗っちゃいなよ。そうしたら麻里奈が『必ず』、『絶対』、『確実に』、救いの手を差し伸べてあげるからさ。それも間違いなくたっくんが奴らとの戦いがこんなにも楽しいコトなのかって思うような方法でね。だから本当に安心して」
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