短き者達

雨彩 色時

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独音

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 僕はうるさいのが昔から嫌いだ。雑音は本当に苦痛で耐え難いものであった。耳を24時間365日と手で塞ぐことは難しい。でも、極力は苦痛から逃れたい一心でイヤホンをして音楽を最大音量で聴いていた。


 これは必然なのだろう。イヤホンをして音を遮断している僕はいつも独りだった。何をするにも独りだから、独りで出来ないといけない。その為、僕は独りで何でも出来る様になった。ただの孤独ではなく孤高である為に足掻いた。
 孤高になって、独りでも馬鹿にはされなくなった。どんな行動を取っても意味があると紐付けされる。


 そんな僕に一人の女子が雑音を混ぜてきた。女はイヤホンを勝手に取って雑音しか喋らない。僕はそれが耳障りで仕方がなかった。彼女のこえが雑音にしか聞こえないからだ。
 彼女は僕が嫌な顔をすると不貞腐れた顔で離れて行った。これは彼女に限らず、変わり者と言われる僕に興味を一時的に持った人達がよくすることだから慣れている。


 僕は静かな場所が好きである。教室はいつも騒がしいので、離れた屋上の入口の踊り場で昼食をとる。踊り場に着いたが、いつもとは違った。屋上へ入れる扉が開いているのだ。
 いつもなら鍵が閉まっている。僕は好奇心のみで、扉を思い切り開いた。その先には男女二人が立っている。男子はこちらへ歩いきて、僕を見向きもせず横切った。


 こちらに気付いた女子は僕に近付き肩を激しく揺さぶる。何と言っているか分からない。彼女が何を伝えたいか分からない。
 ただ僕が分かることは彼女が泣いていることだ。涙だと言うことが、はっきりと分かる。しかし、何を意味する涙かは分からない。僕は初めて雑音こえを聴こうとイヤホンを自ら外した。

「聞いてるの!? ねぇアンタ、あいつの言ってたこと聞いてた!? あり得ないでしょ!?」
「い、いや聞いてないけどっ」
「何それ!? いっつも、イヤホンして話しかけたら無視をして、自分以外は興味がないんでしょ?」


 雑音を聞いていなくても状況はある程度は理解が出来る。彼女は告白で振られて僕に八つ当たり…といった所だろう。イヤホンを外したことを後悔する。僕は彼女の手を振り払った。

「僕はうるさいのが嫌いなだけだ。自分の失敗を僕に当たらないでくれ」
「何よっ! こんなの…こうよっ!!」


 僕のイヤホンを屋上から彼女は投げた。通常の人間ではありえない行動に全身が硬直する。そして、数秒後にことの重大さに気づいて先に動いたのは口だった。

「お前っ!! 何すんだよっ!!」
「普通は女の子が目の前で泣いてたら慰めんのよ! この馬鹿っ!」


 泣き顔にも関わらず、我儘で図々しいものだ。人のイヤホンを投げることなんて彼女にとったら、普通なのだろうか。僕は彼女のペースに飲まれたせいなのか、怒りの次に呆れが来る。彼女が座り込んで呟く。

「ねぇ、私のどこがダメなんだろう」
「わっかんねぇけど、良かったじゃん。彼氏なんて、うるさそうだし」
「そんな事ない。彼氏彼女って言うのは喋らなくても落ち着くもんなの」
「そんなもんか?」


 恋人って奴はそんな便利なモノなんて知らなかった。音を聞かなくても分かる。口喧嘩、どちらかが一方的に喋るカップルなんて沢山も見てきた。それを見る度に居なくて良かったと実感してきたものだ。

「はい、これ。これないと駄目なんでしょ」


 彼女はピンクのイヤホンを手渡してきた。無いよりはマシか。そう思い受け取ってイヤホンを耳にはめる。僕は音楽を流して、立ち去ろうとすると彼女は袖を掴んだ。黙って僕も座ると片耳のイヤホンを取られる。彼女はその片方のイヤホンを自分の耳へはめた。
 僕らに沈黙が生まれる。この曲良いねなんて雑談すらなく、ただ流れる曲をお互い共有した。


 僕だけか分からないけど、音楽とは別に心臓の鼓動が早くなる音が聞こえる。僕は無意識に目元を真っ赤に腫らした彼女の頭に手を置いていた。いつも独りで聞いてきた音楽と雑音が混ざり、聞こえて僕はなぜか心地良かった。
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