堕ちた世界

序章1 瞬きの日

いつもと違うことを意味もなく察することがある。
その日は妙に寝付けなかった。
身体が熱っていたこともあり、この熱を何とかしないと眠れないと不意に思ったのだ。
小さかったこともあって日が沈み真っ暗になった後は家から外に出てはいけないと言われていたが、その日は特に抵抗もなく外に出てしまった。
育て親であった祖母に怒られることも何も気にすることなくまるでそうすることが正しいかのように外に出た。

「おぉぉぉぉぉ」

外に出ると祖母が天を見て祈っていた。
まるで世界最後の日が来て、せめて自分だけは殺さないでくれと懇願するかのようだった。
いやに空気が澄んでいるようだった。
肌を指す空気の冷たさが不快ではなく、心地よく、祖母の動きは妙にスローモーションに見えた。
その時、私の感覚は妙に鋭敏だったのだ。

空を見る。
大量の星が瞬いていた。
都会の空気は汚れている。
我ら星読の一族は力を養うために都会を離れ、山奥に籠るのだ、と祖母は言っていた。
そのせいで私は都会から見える空というものを知らない。
だから私が見ている夜空がどの程度、星に満たされているのかを私は分からなかった。

それでもその日が異常だったことは分かる。
星が至る所で瞬き、夜は照らされ星の明かりで空気は熱せられた。
眩しくて目を逸らすはずの星の瞬きから目を逸らすことなく魅了された。
それほど綺麗な光景だった。

「おぉぉぉぉ」

祖母はいつまでもうめいている。
正直、邪魔だった。
こんなに綺麗なのに、こんなに暖かいのに、こんなに気持ちがいいのに。
振り返ると恐怖を覚えるべき光景なのにこんな風に魅了されたのは私に知識がなかったせいだろうか、それとも私が愚かなせいなのか・・・。

その答えを祖母の小さな呟きと共に私はいまだに探し続けている。

「滅びが決まったのだ」

という呟きと共に。

その日は後にこう呼ばれることになる。
「瞬きの日」と。