二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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十九話 自覚した恋

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「いい景色……焚火を囲んで皆さん踊っていますね」

「そうだろ? まぁ座ってくれ。祝いの品をここで渡そうと思ってたんだ」

 私と忍は岩に隣り合って座った。そこまで大きくない岩だったので、いつもの丸太にそれぞれ座って対面する旗の下よりも距離感が近く、思わず緊張してしまった。

 忍は布にくるまれた掌と同じくらいの大きさのものを膝の上に取り出した。布を取ると、そこには黒い漆で加工された木製の櫛があった。

「嬉しい……。大切にします」

「気に入ってくれたなら嬉しい」

 ふと、思いつくことがあった。忍にしてもらいたいことができた。その行為自体は母にされたこともある、ありふれた日常の動作なのだが忍にしてもらうことは、特別な意味合いを持つことだった。

「一つお願いがあるのですけど……その櫛で私の髪を梳いてくれませんか?」

「え、いや……それはいいのだろうか?」

 忍は視線を泳がせ慌てていたので、私は神酒を掲げて一気に飲み干した。

「お酒のせいにしてしまいましょう。さぁ忍も飲んで……」

 忍も覚悟を決めたのか、神酒を一気に飲み干した。それを確認して、私は忍に背中を向けた。

 数日前、私の髪に触れようとした下衆の退治屋がいたのを思い出してしまった。あの日からは到底、今の状況を想像できなかった。

 自分から髪を触れさせるまで心を許せる存在が現れるとは思っていなかった。忍はこの世で唯一無二の存在であることは、もはや疑いようはなかった。

 認めよう。



 これは、やはり恋である。



 疑った自分が愚かだった。

 忍に感情を向けられることが心地良いのだ。両親から感じる安心とはまた違う温かさとでも言うのだろうか。

(……あぁ、ようやく私の髪に触れてくれた。そんなにも慎重にならなくても、別に気にしないのに……)

 恐る恐る触れる忍の手つきすら、愛おしい。そして、ゆっくりと私の髪に櫛が通された。まるで一度も書き直しの許されない書類に筆を入れるかのように、緩やかに、確かに、梳かれていった。

「綺麗な黒髪だと、ずっと思ってた」

「言ってくれればよかったのに……。そうだ。忍は何色の髪が好き? 髪の長さも変えられるの」

 かつて母が私に見せてくれたように、私は髪の色を白、赤、青、緑、黃に変えながら、髪の長さも調整して見せた。

 今の私は変化の基本は習得したのだ。両親にも見せたかった。

 一方の、忍は猛烈に悩み込んでしまった。

「どれも捨て難いが……やっはり、いつもの黒い長髪がしっくりくる気がする」

 いつもの状態は尻尾と耳こそ隠しているが、ほとんど変化で調整していない姿だった。それを良いと言ってくれたのは嬉しいことだった。

「ありがとう。櫛もらうね」

 私は忍から櫛を受け取ると、隣り合った忍の手を握った。今度は恐怖からではない。触れたいと思い、愛情を示すべく自然に動いたのだ。

 握り返す忍の手には力が入っていた。

「俺は、ずっと失い続けてきた。もう失いたくないんだ。守ってみせる。あの白峰が相手でも俺は戦ってみせるよ」

 忍の心象風景は赤く燻った木々の全てがパチパチと音を立てて爆ぜていた。あと一押しで炎が燃え上がりそうな光景だった。

(忍にとっての、あと一押しは何になるのだろうか?)

「ねぇ忍。私の母は父に憑依して援護するという形で最大の戦闘力を発揮していたの。私も忍に憑依して、忍の死角を補ったり私が相手の行動を読んだりして援護できると思うの。明日の洪水が対処できたら、近辺の妖怪を根こそぎ狩りつくして可能な限り忍の身体能力をあげましょう。そして、その戦いの中で憑依での支援を慣らす。これでどう?」

 私はまだ狐火の出し方がわからないので火力の支援はできないが、しないよりは、マシに思ったので提案してみた。

「正真正銘、二人で白峰に立ち向かうんだな。君たちの両親はさぞ強かったんだろうな」

「そう……強かった……の……?」

 ふと、疑問に思ってしまった。

 父は何故、あんなにも無抵抗に殺されたのだろうか。
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