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二十三話 理解者がいた
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佐倉町の露店はいつ凍った洪水が溶けても被害が出ないように、市場の場所を移して商いをしていた。
そんな新しい露店が並ぶ一画を歩いていると、伊世を見つけた。向こうもこちらに気付くと大根から土を洗い流す作業をやめて私の方へと駆け寄って頭を下げた。
「葛さん、昨日は助けてもらって本当に感謝しておる。葛さんは命の恩人じゃ。何か恩返ししたいのじゃが……何か希望はあるかのう?」
「大丈夫ですよ。退治屋が人を助けるのは当たり前ですから」
「いいや、何かお礼の品を用意させてもらうよ。今日は少しお話しできるかな?」
「……大丈夫ですよ。でも、いつもの旗の下にいるように言われているので、そこでもいいですか?」
伊世は頷くと夫に目配せをして、私と旗の下に向かって歩いていった。仕事を夫に任せてでも私と話をしてきても良いという了解があったかのようだ。
新しく移動した露店の通りを歩く伊世は足取りも軽く、機嫌が良いように感じられた。私に気付いた露店の商人たちは感謝の言葉を私に投げかけてくれた。
私はそれに、会釈をして応えた。体の中から力が湧いてくるような感覚がして心地よかった。町の専属退治屋になったことは、私の成長にとって良い選択だったかもしれない。
「見てくだされ。皆、変わらずに商売が出来とる。これも葛さんのおかげじゃ」
「たまたまですよ。私が雪女と戦っている最中に丁度よく洪水が来ただけです」
「……他の皆にとっては、そんな理由が丁度いいのじゃろうな」
伊世の呟きに思わず私は、どきっとした。その意味深な言い方では、まるで事の顛末を知っているかのようだった。
それから旗の下に着くまでは、天気が良いとか、野菜の収穫がうまくいっているとか、なんてことはない世間話をしていた。
私と伊世はそれぞれ丸太に腰をかけると、伊世の方から小声で話しかけてきた。
「私、葛さんが鷹に変化するのを見てしもうた。でも、誰にも話すつもりはない。私を助け、町を救ってくれたのは事実じゃからな」
思わず私は頭を抱えてしまった。でも、伊世は私の正体を知った上で町の人間に告発することをしていなかったことには驚いてしまった。きっと、あの瞬間は焦っていて完全に隠れていたと誤認していたのだろう。
「見られてしまったからには認めます。そうです、私は人間ではありません。三尾の妖狐として二十年生きた妖怪です」
「そうか……妖狐か。氷を使える逸話は聞いたことがなかったが……実際に洪水は固まっておるから信じるしかないのう」
「そうでしょうね。父は変化の得意な妖狐でして、その才能を私はお裾分けしてもらっているようなものです。なので氷への変化もできました。……ちなみに私の正体を告発しない理由は何かあるのでしょうか?」
「私は若い頃に一度、鬼に襲われそうになったところを天狗に助けられたことがある。妖怪の全てが人間の敵ではないことは知っておる。あの時、岩塊のような特大剣を持った天狗の姿は今でも忘れられぬ。あれは、そうじゃな……初恋じゃった」
懐かしむように語る伊世の表情は穏やかであった。
伊世が言う天狗とは、明らかに白峰のことを指しているのだろう。
白峰にとって私は敵対者でしかないが、一般人は天狗としては庇護の対象なのかもしれない。白峰がしきりに口にする「安定」という言葉にも合致する。
「葛さん昨日、洪水が起こること知っておったのではないか? だから、川沿いを歩いていた私と夫に気がついて逃がしてくれた……そんな恩を仇で返すわけにはいかぬよ」
恩という理由だけで、黙っていると言われたら少し不安になってしまったかもしれない。だが、過去に天狗に助けられたという経験から、妖怪に対して一定の理解がある。それをを知ることができたことで私は納得できた。
「ありがとうございます。妖狐という種族は妖怪の社会で居場所を失ったので人間の社会に紛れて生きることが必要なのです。だから、命の危険などは心配しなくていいですよ。人間とうまく付き合っていくことが今の私には必要なのです」
「そうなのか。ちなみに、忍さんは葛さんの正体を知っておるのか?」
伊世は思い出したかのように目を輝かせ食い入るように尋ねてきた。
「えぇ、知られています。忍さんは離別を繰り返した人なので、簡単には死なない私のような人外の方が隣に立つ者としては好みだったようです」
「それってお互いに唯一無二の人ってことじゃな! そんな関係性憧れるのう」
伊世があまりにも楽しそうに感想を語るので、私も思わず頬が緩んでしまった。正体を知られた人間でこんなにも友好的に話してくれる人が現れるなんて意外だった。
「でも、近々私と忍は運命を懸けた戦いをします。死ぬ気はありませんが、両方生きて帰れる保障はできません」
「詳しく……聞かせてくれませぬか?」
急に真面目な表情になった伊世へ私は、妖狐の迫害の理由、鞍馬から受けた死の予言について話した。
そんな新しい露店が並ぶ一画を歩いていると、伊世を見つけた。向こうもこちらに気付くと大根から土を洗い流す作業をやめて私の方へと駆け寄って頭を下げた。
「葛さん、昨日は助けてもらって本当に感謝しておる。葛さんは命の恩人じゃ。何か恩返ししたいのじゃが……何か希望はあるかのう?」
「大丈夫ですよ。退治屋が人を助けるのは当たり前ですから」
「いいや、何かお礼の品を用意させてもらうよ。今日は少しお話しできるかな?」
「……大丈夫ですよ。でも、いつもの旗の下にいるように言われているので、そこでもいいですか?」
伊世は頷くと夫に目配せをして、私と旗の下に向かって歩いていった。仕事を夫に任せてでも私と話をしてきても良いという了解があったかのようだ。
新しく移動した露店の通りを歩く伊世は足取りも軽く、機嫌が良いように感じられた。私に気付いた露店の商人たちは感謝の言葉を私に投げかけてくれた。
私はそれに、会釈をして応えた。体の中から力が湧いてくるような感覚がして心地よかった。町の専属退治屋になったことは、私の成長にとって良い選択だったかもしれない。
「見てくだされ。皆、変わらずに商売が出来とる。これも葛さんのおかげじゃ」
「たまたまですよ。私が雪女と戦っている最中に丁度よく洪水が来ただけです」
「……他の皆にとっては、そんな理由が丁度いいのじゃろうな」
伊世の呟きに思わず私は、どきっとした。その意味深な言い方では、まるで事の顛末を知っているかのようだった。
それから旗の下に着くまでは、天気が良いとか、野菜の収穫がうまくいっているとか、なんてことはない世間話をしていた。
私と伊世はそれぞれ丸太に腰をかけると、伊世の方から小声で話しかけてきた。
「私、葛さんが鷹に変化するのを見てしもうた。でも、誰にも話すつもりはない。私を助け、町を救ってくれたのは事実じゃからな」
思わず私は頭を抱えてしまった。でも、伊世は私の正体を知った上で町の人間に告発することをしていなかったことには驚いてしまった。きっと、あの瞬間は焦っていて完全に隠れていたと誤認していたのだろう。
「見られてしまったからには認めます。そうです、私は人間ではありません。三尾の妖狐として二十年生きた妖怪です」
「そうか……妖狐か。氷を使える逸話は聞いたことがなかったが……実際に洪水は固まっておるから信じるしかないのう」
「そうでしょうね。父は変化の得意な妖狐でして、その才能を私はお裾分けしてもらっているようなものです。なので氷への変化もできました。……ちなみに私の正体を告発しない理由は何かあるのでしょうか?」
「私は若い頃に一度、鬼に襲われそうになったところを天狗に助けられたことがある。妖怪の全てが人間の敵ではないことは知っておる。あの時、岩塊のような特大剣を持った天狗の姿は今でも忘れられぬ。あれは、そうじゃな……初恋じゃった」
懐かしむように語る伊世の表情は穏やかであった。
伊世が言う天狗とは、明らかに白峰のことを指しているのだろう。
白峰にとって私は敵対者でしかないが、一般人は天狗としては庇護の対象なのかもしれない。白峰がしきりに口にする「安定」という言葉にも合致する。
「葛さん昨日、洪水が起こること知っておったのではないか? だから、川沿いを歩いていた私と夫に気がついて逃がしてくれた……そんな恩を仇で返すわけにはいかぬよ」
恩という理由だけで、黙っていると言われたら少し不安になってしまったかもしれない。だが、過去に天狗に助けられたという経験から、妖怪に対して一定の理解がある。それをを知ることができたことで私は納得できた。
「ありがとうございます。妖狐という種族は妖怪の社会で居場所を失ったので人間の社会に紛れて生きることが必要なのです。だから、命の危険などは心配しなくていいですよ。人間とうまく付き合っていくことが今の私には必要なのです」
「そうなのか。ちなみに、忍さんは葛さんの正体を知っておるのか?」
伊世は思い出したかのように目を輝かせ食い入るように尋ねてきた。
「えぇ、知られています。忍さんは離別を繰り返した人なので、簡単には死なない私のような人外の方が隣に立つ者としては好みだったようです」
「それってお互いに唯一無二の人ってことじゃな! そんな関係性憧れるのう」
伊世があまりにも楽しそうに感想を語るので、私も思わず頬が緩んでしまった。正体を知られた人間でこんなにも友好的に話してくれる人が現れるなんて意外だった。
「でも、近々私と忍は運命を懸けた戦いをします。死ぬ気はありませんが、両方生きて帰れる保障はできません」
「詳しく……聞かせてくれませぬか?」
急に真面目な表情になった伊世へ私は、妖狐の迫害の理由、鞍馬から受けた死の予言について話した。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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