異世界からの友好的侵略者にバカ惚れしたのでひたすら口説く

浦門

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二 最上霞は沈んでいる

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「そっち行ってもいい?」
「少し待て」
 行ってもいいんだ。おれはどうせ邪魔しかしないと思うんだけど。
 でも待てと言われたから待つ。しかし何で待たないといけないんだ? 少し、ってのはどのくらいだ。
 数秒か、一分、二分か……人間相手だったらこういう場合対面で少し、と言われて十分も待たされたら、それなりに長時間を待たされたという感想になるな、と考えた。じゃあ異世界人はどう考える?
 部屋の中に時計を探した。が、壁のどこにもかかっていない。代わりにポケットから自分の形態式端末を取り出す。薄い長方形の金属体は、ごく普通の一般的な、春に買い替えたばかりの最新式の機種だ。そいつは手のひらの上に乗せると通電し表面のディスプレイが強烈な青の光を放った。
 かと思うと同時に、なぜかおれは手を滑らせて、その端末を宙に放り投げそうになった。
「もう一歩下がれ」
「なんで?」
「天井がお前の頭にぶつかる」
 答えは不自然で難解だ。質問したいがその前に言われたとおりに一歩下がって、まだ来ない「少し」を待つ。手のひらに握り直した端末が急に重さを増した。錯覚や比喩ではなく。
 ディスプレイ上に表示したアナログの針が秒を刻んでいる。それから待つほどの合間もなく、部屋の真ん中から隊長が降りてきた。宙に広がっていた長い髪もストンと落ちる。
「なるほど」
「何だ?」
 おれが頷くと、相手は眉をひそめる。なんてことはない、言葉の定義を確認しただけだ。端末に目を落とすと、現在時刻が表示されている。
 はじめに待てと言われてから、端末を投げ飛ばしそうになって、その後改めて時刻を確認して……となると、いくらか計りそこねてはいるものの、経過したのは二分か三分ぐらい。ということは「少し」という時間の認識は、おれが思ったのとあまり変わらないらしい。元々こいつら自体がそう考えているのか、それともこっちに合わせて対応しているのかどうか。まだ知りたいことは沢山ある。
「お前は一人黙って笑っていることが随分と多いな」
「誰かと喋りながら笑ってることも多いでしょ。何やってんの?」
「仕事だ」
「その周囲の金属に反重力を発生させるやつで?」
「これ自体はただの電子計算機だ。しかし中の処理装置の使用するエネルギー量が多いので使用中に反動で周囲に反重力が発生する」
 と手に握ったキューブに視線を向けながら解説する。さっきまで光っていたそれは今は完全に沈黙している。おれのために電源を切ったのか。
 そいつは四角いばかりで入出力装置に当たるものがおれには見分けられない。そういうのは専門性があって面倒くさそうだ。
「さっきおれの手だけ反重力のとこ入ってた?」
「そうだ。我々は単体で反重力下での活動は制御できなくはないが、人間はそうではないということは知っている。だから少し待てと言った」
「ふーん。ミリちゃんとかだったら言われる前に突撃してそ」
 言われてから気付いた、みたいな顔をした。こいつ知能が高いんじゃなかったのか。興味関心と常識が違えばそんなもんか。
「いつもそれ使ってるならこの部屋鍵掛けたほうがよくない?」
「考えたこともなかった。これから人間がここに寄り付くと?」
「その人間ってのは、おれのこと?」
「……いや」
 また眉をひそめる。ほんの少し顔がゆがむ。さっきの「何だ」の訝しむ表情とは違う。近くで眺めていると、案外いろいろな顔をする。
「おれ以外に寄り付く奴がいるかどうかはわかんないけど、他の奴がうっかり天井に落ちる可能性は摘んでおいた方がいいでしょ。こんなことで怪我人が出たらあんたも困るだろう」
「今までは、必要なかったが」
「これからはあるかもしれない。それ使ってるときに鍵かけてくれてれば、まずおれは助かる」
「貴様がドアをノックするか、間違いなく私の命令に素早く従うか、それだけで済む話ではないのか」
「おれはあんたに予告もなく会いに来たいが、あんたの命令をすぐに聞くかどうかはその時々で判断するし、そのためにそいつが稼働中かどうかを確認するのは面倒くさい」
「そうか。鍵をかけておけば貴様を締め出すことができるな」
「それは嫌だ。安全確保できたら開けてよ」
 視線をそらして、少し考え込む。少し、の間。
 おれは別に、こんな話をして良い返事がもらえると思っているわけではない。人類に対する感情なんて元々ろくでもないものだろう、と予測すると、人類相手に常識的にするようないい顔をしても成果はないだろうと踏んでいる。それなら好奇心を優先した方が得だ。
 人類に対し友好的態度を見せる表側の異世界人は全体として、人類を相手に人類の常識での友好的な態度を学習し強調するという方針らしいが。それは無個性な表情で、事務的で、几帳面で、表面的だ。個人間のやり取りとしては、そんなものはつまらない。
「貴様との会話は我々にとって建設的ではない」
「そう」
 ようやく出てきた返事は、今までのやり取りを放棄した内容だった。全くの無表情で、苛立った様子もなく、さっきまでの意見反論より随分冷たい。でもさっきまでよりもっと感情むき出しじゃないか? おれは機嫌よく相槌を打つ。
「ところでこの部屋椅子とかテーブルとか置かないの? 立ち話も何だし」
「置いたところで全て天井に落ちるが」
「床に打ち付けたらいいじゃん」
「必要ない」
 で、突っ立ったまま非建設的な会話を続ける、と。
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