異世界からの友好的侵略者にバカ惚れしたのでひたすら口説く

浦門

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三 坂井ミリはまだ知らない

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「だああああああ」
 反射的に背後に飛び退いた。自分の腕が引きちぎれる感覚が、目の前のビルの隙間から差し込む昼間の強烈な眩しさと同等の強さで脳に到達する。まだ痛くはない。広くない路地は背後に薄汚れたビルの壁がある。
 白昼真っ只中に、そう騒ぐもんじゃない。騒ぐ権利はありそうだけど――声は、どうにか低く抑え込んだ。
 千切れた関節から血が噴き出して、この路地の隙間に漂った。
「そんなに驚くとは思わなかった」
 肘から先はナユさんと握手をしたままそこにある。受け取るべき電気信号を失ったそれはかすかに痙攣していた。そんなものと手をつないだままで、彼女は心底意外だとでも言いたげに肩を竦める。
「反撃するところだった!」
「なんでだよ。お前を囮にするって言っただろうが」
「いきなり千切ってくるとは思わないよ!」
「ん……ああ、まあいいだろ。死ぬほどのことでもねえし。そんな騒ぐなよ」
 騒ぐ権利はあると思うんだけど……。
「いいからこれの血、抜いてくれ。匂いが抜ければ多分あいつらは騙される」
「おれの腕を? 囮にするって?」
「そう言ってんだろ」
 おれの意思で動かなくなったおれの腕を、生きている腕の方に手渡される。
 警戒してなかったからナユさんに差し出したのは利き腕の方だった。最悪だ。自分の腕を抱えてみると、予測できなかったことではないけど、かなり重い。千切られた断面から血と体液が止まらずにアスファルトの上へ流れ落ちている。
「こういうの苦手なんだよね」
 傷口を下に吊るしてもう一方の傷口の上へ血を落とす。冷静になってくると痛みがじわじわと利いてくるが、それより吐き気の方がデカい。自分の血を自分に輸血するってのは……なんだか。うまく血液を操作できれば、流れ落ちたものをまた体内に循環させることもできるんだろうけど、訳もなくそれは嫌だ。
 それにおれはそういう細かい操作は苦手だ。この間も、自分じゃ無理だからってカスミちゃんにナイフ作ってもらったし。
「案外脳筋なのな」
「ナユさんほどじゃないけど」
「皆見た目に騙される」
「いきなり人の腕を引きちぎるタイプには見えないよね」
 腕が白く乾いていく。全身の血を抜かれた人間を見たことがあるが、この白色はその土気色の皮膚の色とも違う。おれだけではなく、同じ改造を受けたやつが身体から血を抜くとみんなそう。どこかで見たことのある質感だ。少し表側の異世界人の肌の色に近づく、ような気がする。が、吐き気には変わりない。
 とにかく流れた血は戻らない。千切れた腕も戻らない。血抜きして白くなった腕の代わりに、生きてる方の傷口の上に腕のような形の血の塊を生やした。せめてもの慰めに。ないと不便だし。赤いけど。こういうの苦手だ。
「おれホントかわいそう」
「どうせすぐ治してもらえるさ。お前の大好きな異世界人にな」
「義手にされんのかな。どんどん人間じゃなくなってくなー」
「お前まだ人間保ってるつもりなの?」
 ナユさんの軽口、本気なのかどうかわかんなくて時々ぐさっと来る。
 全くそのとおりだ。おれだった腕から雫になって流れ落ちる血、もうすぐ枯れそうなこの血は、細胞分裂、新陳代謝、元々人間に備わった生理的反応を繰り返し、人間だった頃のものとはすっかり入れ替わってしまっているはずだ。
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