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三 坂井ミリはまだ知らない
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イスから立ち上がって、ウサギみたいに跳ねて、休憩室を飛び出した。
「さっきも言ったけど――俺はそれ手伝わないよ」
「なんでですか!?」
ミリは休憩室の出口で立ち止まって、もどかしそうにその場で足踏みをした。
「だって面倒くさいから。あいつらサポートいらないって言ってたし」
「でも今はピンチかもしれないですよぉ」
ジタバタしてる。やりたいなら一人でやれば、と大人げない意地悪を言いそうになった。けどそれこそ本当に、子供に対して大人げない。
「なんかあったら連絡寄こすように言ってあるから、それまで大人しく宿題しとけば」
「それじゃだめなんですよ。カイさんが思いも寄らないすごくいいタイミングで助けに入らないと仕返しにならないです!」
地団駄を踏む、というその表現の通りに、その場で何度も足を踏み直す。ドアの外はすぐに階段だ。ここで「一人でやる」と叫んで飛び出せば、すぐ下に降りていかなければならない。後がない。
飛び出して階段を降りて、ビルを飛び出したとしても、行き場もない。西川はミリに行き先も隠していた。
「信之さんならカイさんたちのいる場所見つけられるんじゃないですか?」
「まあね」
「ピンチな感じになってないか、見てもらえませんかね……。そして危なそうだったらわたしがバーン! と行くので!」
「嫌だって」
癇癪を起こして騒ぐミリの相手をするのも面倒だった。俺の本意じゃない。
俺は西川のように、別に、ミリを庇う必要はないと思う。生まれながらに押し付けられた役目だとしても、現状本人が望んでここにいる。俺や西川のように不本意に、渋々、仕方なくやってるわけじゃない。
ただ、西川ならミリを止めるだろうと――というか西川がミリを置いていったわけだから――友情のよしみと、今どき使わないような言い回ししか相応しい言い方は思いつかないけど、そういうつもりで付き合っている。
開け放たれたドアの向こう、天井の上、上の階から足音が聞こえた。
いや、もう一つ理由があった。それは以前からの俺の行動理念だったはずなのに、最近は西川のせいで、ひどく曖昧になっている。少なくともこの休憩室で管を巻いている間は。
金属の軋む足音だ。それは明らかに人類のものではない。奴らの肉体の比重は鉛に近い。それで鳥のように空を飛ぶこともあるのだから、この世の法則にインチキを働いているんじゃないかと、感情的に疑わしい。
ミリもすぐに足音に気がついた。あからさまに喜んで目を輝かせ、階段の上を覗き込む。
そして階段の半ばまで降りてきていたそれは、階段内側の手摺りから身を乗り出してこっちを確認した。
その仕草が思ったよりも子供っぽかったせいで、俺は認識の不意を突かれたような気分になった。同時に、こちらを向いた白い顔が作り物のように美しく整っていることに薄ら寒さを感じた。
「隊長! あの! わたしもカイさんたちのとこ行きたいんですけど! なんていうかこう、遠くからこう、助けたいんです!」
「そうか。手伝おうか?」
「はい! やったー!」
それがミリの要求に答えたとき、その石膏のような顔がわずかに柔らかく口角を釣り上げたように見えた。見間違いかもしれない。
ただ、改めて思い出した。こいつらがそれを選ぶなら、俺はそれに反対だ。
「さっきも言ったけど――俺はそれ手伝わないよ」
「なんでですか!?」
ミリは休憩室の出口で立ち止まって、もどかしそうにその場で足踏みをした。
「だって面倒くさいから。あいつらサポートいらないって言ってたし」
「でも今はピンチかもしれないですよぉ」
ジタバタしてる。やりたいなら一人でやれば、と大人げない意地悪を言いそうになった。けどそれこそ本当に、子供に対して大人げない。
「なんかあったら連絡寄こすように言ってあるから、それまで大人しく宿題しとけば」
「それじゃだめなんですよ。カイさんが思いも寄らないすごくいいタイミングで助けに入らないと仕返しにならないです!」
地団駄を踏む、というその表現の通りに、その場で何度も足を踏み直す。ドアの外はすぐに階段だ。ここで「一人でやる」と叫んで飛び出せば、すぐ下に降りていかなければならない。後がない。
飛び出して階段を降りて、ビルを飛び出したとしても、行き場もない。西川はミリに行き先も隠していた。
「信之さんならカイさんたちのいる場所見つけられるんじゃないですか?」
「まあね」
「ピンチな感じになってないか、見てもらえませんかね……。そして危なそうだったらわたしがバーン! と行くので!」
「嫌だって」
癇癪を起こして騒ぐミリの相手をするのも面倒だった。俺の本意じゃない。
俺は西川のように、別に、ミリを庇う必要はないと思う。生まれながらに押し付けられた役目だとしても、現状本人が望んでここにいる。俺や西川のように不本意に、渋々、仕方なくやってるわけじゃない。
ただ、西川ならミリを止めるだろうと――というか西川がミリを置いていったわけだから――友情のよしみと、今どき使わないような言い回ししか相応しい言い方は思いつかないけど、そういうつもりで付き合っている。
開け放たれたドアの向こう、天井の上、上の階から足音が聞こえた。
いや、もう一つ理由があった。それは以前からの俺の行動理念だったはずなのに、最近は西川のせいで、ひどく曖昧になっている。少なくともこの休憩室で管を巻いている間は。
金属の軋む足音だ。それは明らかに人類のものではない。奴らの肉体の比重は鉛に近い。それで鳥のように空を飛ぶこともあるのだから、この世の法則にインチキを働いているんじゃないかと、感情的に疑わしい。
ミリもすぐに足音に気がついた。あからさまに喜んで目を輝かせ、階段の上を覗き込む。
そして階段の半ばまで降りてきていたそれは、階段内側の手摺りから身を乗り出してこっちを確認した。
その仕草が思ったよりも子供っぽかったせいで、俺は認識の不意を突かれたような気分になった。同時に、こちらを向いた白い顔が作り物のように美しく整っていることに薄ら寒さを感じた。
「隊長! あの! わたしもカイさんたちのとこ行きたいんですけど! なんていうかこう、遠くからこう、助けたいんです!」
「そうか。手伝おうか?」
「はい! やったー!」
それがミリの要求に答えたとき、その石膏のような顔がわずかに柔らかく口角を釣り上げたように見えた。見間違いかもしれない。
ただ、改めて思い出した。こいつらがそれを選ぶなら、俺はそれに反対だ。
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