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繋がれた手
187.
やっと唇が離れた。飲みきれなかった唾液が口の端から散々零れ、戯れのように唇を食まれる。
ソンリェンの恍惚とした声色は、今のトイの喘ぎ声とよく似ていた。ソンリェンもトイと同じような満足感を味わっているのだろうか。そうであればいい。
「かわいいな……」
愛おし気に、ソンリェンがトイのふくりと腫れた唇を舌でなぞってきた。そしてまた食らいつくすように唇を塞がれ、離さないとばかりに身体を抱かれてもっと深く求められる。
それから暫く唇を貪られ続けていたが流石に限界がきて、ソンリェンの肩を叩いた。
名残惜しそうに何度かちゅ、と唇を重ねられ、ソンリェンがゆっくりと離れていった。
こつりと額と額をくっつけられる。ソンリェンの瞬く睫毛に引き寄せられるように、トイは湿った唇を開いた。
「そんりぇん」
「ん?」
「オレ男、だよ」
「んなこたとっくの昔に知ってる」
耳の裏を撫でていた指先が、トイの長い髪を確かめるようにゆったりと撫ぜてきた。
トイは今までずっと男として生きてきた。ディアナのような女の子を見ると素直に可愛らしいと思うし、ドキドキもする。単純に女の性を持つディアナに男としての性が刺激されていたのだと思う。
彼女のようになれたらソンリェンに優しくして貰えるかなとは思ってはいたけれど、それは女になりたいという意味ではない。それに、こんな過去でなければ同性にそういった感情は抱かなかったはずだ。
身体的に女性としての役割も担ってはいるのだろうが、根本的にトイは男性だという自覚があった。
ソンリェン以外の男性に、抱かれたいとも抱きたいとも思わない。だから。
「い、移民の血、入ってるし」
「見りゃわかる」
「声変わりも、してるし……」
「聞きゃわかる」
「喉仏も、あるし」
「あるな」
「体だって、角ばってるし、柔らかくも、ねえし」
「……何が言いてえんだ」
「だから、もしかしたら、そのうち身体もでかく、なっちまって……」
今はよくても、大きくなったトイにソンリェンが嫌な思いをしてしまったら。
「トイ」
やんわりと遮られる。ソンリェンの瞳に歪な体を持つトイへの嫌悪感というものは見当たらなかった。
「女だろうが男だろうがそのどれでもなかろうが、かわいいもんはかわいいんだよ」
「そ……」
面と向かってそんなことを言われて、流石に顔が赤らんだ。
「あのな、お前勘違いしてねえか」
「か、勘違いって、なにが」
「俺の元々の好みは、胸がデカくて尻がデカくて腰のくびれた色白の女なんだよ」
「し、知ってるよ。だから……」
トイは胸がなくて尻が小さくて寸胴で腰にくびれもなくなおかつ褐色の肌を持つ、男だ。だからこそ、ソンリェンの好みとはかけ離れているはずだ。
「でももう、お前じゃなきゃ勃たねえ」
「たっ……!」
「わかるか? お前以外に勃起しねえからお前以外に突っ込めねえっつってんだ」
「な、な……」
ソンリェンは、直接的な言葉に今度こそ言葉を失ったトイに酷く真面目な顔をした。
「……ダメなんだよ」
トイの頬を撫でる手つきは、壊れ物を扱うように柔らかなものだった。
「お前じゃなきゃ、ダメなんだよ……トイ」
ぽすんと、ソンリェンの頭が肩に乗せられる。
「そん、りぇん……」
「……そんなに言うんだったらさっさとデカくなれ、俺ぐらい」
「え?」
「お前細すぎんだよ。ヤッてる時に抱き潰しそうでこええ」
「ヤッ……って、そんりぇん」
ソンリェンは、もうトイには触れないという彼自身がしていた約束をもう忘れたのだろうか。
呆れたように眉を下げて見せればソンリェンが顔を上げ、多少堂々とした面持ちで鼻を鳴らした。
とんとんと会話を繰り返すことで、どうやらいつもの傲慢さが戻って来たらしい。
でもその方が、ソンリェンらしくて、いい。安心する。
「ソン、リェン」
「ああ」
するりと、ソンリェンの厚い唇をなぞる。濡れていた。かしりと白い歯でやわく指を噛まれる。
「傍に、いてくれんの……オレの」
「──いさせてくれ」
瞬時に返された懇願めいた台詞に胸の奥が高鳴った。ソンリェンに手を捉えられ、ちゅと指の先に口付けられる。柔らかくてあたたかくて、散々泣いたというのにまた泣きたくなった。
トイの指から愛しさを伝えてくる青年を見つめながら、トイはほうと息を吐いた。もうずっと、トイはソンリェンという存在に見惚れていた。
いつからだろう。たぶん、前から。
どうしても認めたくなかっただけだ。認めてしまえばソンリェンに再び捨てられることに耐えられなくなるから。
でももう、怯えなくても、いい。
ソンリェンはきっとトイの手を離さない。側にいてくれる。
ソンリェンの恍惚とした声色は、今のトイの喘ぎ声とよく似ていた。ソンリェンもトイと同じような満足感を味わっているのだろうか。そうであればいい。
「かわいいな……」
愛おし気に、ソンリェンがトイのふくりと腫れた唇を舌でなぞってきた。そしてまた食らいつくすように唇を塞がれ、離さないとばかりに身体を抱かれてもっと深く求められる。
それから暫く唇を貪られ続けていたが流石に限界がきて、ソンリェンの肩を叩いた。
名残惜しそうに何度かちゅ、と唇を重ねられ、ソンリェンがゆっくりと離れていった。
こつりと額と額をくっつけられる。ソンリェンの瞬く睫毛に引き寄せられるように、トイは湿った唇を開いた。
「そんりぇん」
「ん?」
「オレ男、だよ」
「んなこたとっくの昔に知ってる」
耳の裏を撫でていた指先が、トイの長い髪を確かめるようにゆったりと撫ぜてきた。
トイは今までずっと男として生きてきた。ディアナのような女の子を見ると素直に可愛らしいと思うし、ドキドキもする。単純に女の性を持つディアナに男としての性が刺激されていたのだと思う。
彼女のようになれたらソンリェンに優しくして貰えるかなとは思ってはいたけれど、それは女になりたいという意味ではない。それに、こんな過去でなければ同性にそういった感情は抱かなかったはずだ。
身体的に女性としての役割も担ってはいるのだろうが、根本的にトイは男性だという自覚があった。
ソンリェン以外の男性に、抱かれたいとも抱きたいとも思わない。だから。
「い、移民の血、入ってるし」
「見りゃわかる」
「声変わりも、してるし……」
「聞きゃわかる」
「喉仏も、あるし」
「あるな」
「体だって、角ばってるし、柔らかくも、ねえし」
「……何が言いてえんだ」
「だから、もしかしたら、そのうち身体もでかく、なっちまって……」
今はよくても、大きくなったトイにソンリェンが嫌な思いをしてしまったら。
「トイ」
やんわりと遮られる。ソンリェンの瞳に歪な体を持つトイへの嫌悪感というものは見当たらなかった。
「女だろうが男だろうがそのどれでもなかろうが、かわいいもんはかわいいんだよ」
「そ……」
面と向かってそんなことを言われて、流石に顔が赤らんだ。
「あのな、お前勘違いしてねえか」
「か、勘違いって、なにが」
「俺の元々の好みは、胸がデカくて尻がデカくて腰のくびれた色白の女なんだよ」
「し、知ってるよ。だから……」
トイは胸がなくて尻が小さくて寸胴で腰にくびれもなくなおかつ褐色の肌を持つ、男だ。だからこそ、ソンリェンの好みとはかけ離れているはずだ。
「でももう、お前じゃなきゃ勃たねえ」
「たっ……!」
「わかるか? お前以外に勃起しねえからお前以外に突っ込めねえっつってんだ」
「な、な……」
ソンリェンは、直接的な言葉に今度こそ言葉を失ったトイに酷く真面目な顔をした。
「……ダメなんだよ」
トイの頬を撫でる手つきは、壊れ物を扱うように柔らかなものだった。
「お前じゃなきゃ、ダメなんだよ……トイ」
ぽすんと、ソンリェンの頭が肩に乗せられる。
「そん、りぇん……」
「……そんなに言うんだったらさっさとデカくなれ、俺ぐらい」
「え?」
「お前細すぎんだよ。ヤッてる時に抱き潰しそうでこええ」
「ヤッ……って、そんりぇん」
ソンリェンは、もうトイには触れないという彼自身がしていた約束をもう忘れたのだろうか。
呆れたように眉を下げて見せればソンリェンが顔を上げ、多少堂々とした面持ちで鼻を鳴らした。
とんとんと会話を繰り返すことで、どうやらいつもの傲慢さが戻って来たらしい。
でもその方が、ソンリェンらしくて、いい。安心する。
「ソン、リェン」
「ああ」
するりと、ソンリェンの厚い唇をなぞる。濡れていた。かしりと白い歯でやわく指を噛まれる。
「傍に、いてくれんの……オレの」
「──いさせてくれ」
瞬時に返された懇願めいた台詞に胸の奥が高鳴った。ソンリェンに手を捉えられ、ちゅと指の先に口付けられる。柔らかくてあたたかくて、散々泣いたというのにまた泣きたくなった。
トイの指から愛しさを伝えてくる青年を見つめながら、トイはほうと息を吐いた。もうずっと、トイはソンリェンという存在に見惚れていた。
いつからだろう。たぶん、前から。
どうしても認めたくなかっただけだ。認めてしまえばソンリェンに再び捨てられることに耐えられなくなるから。
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