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繋がれた手
186.
ぴたりとソンリェンの動きが止まった。ソンリェンの長すぎる睫毛が瞬き、端正な顔が顰めっ面へと変わっていく。
機嫌が悪くなったというより、トイの発言を訝しんでいる表情だ。
「……本気だって」
「本気もなにもお前、あの女が好きなんだろ?」
無理してんじゃねえよととんちんかんなことを言いだすソンリェンに薄く笑う。やはりまだ勘違いしているようだ。
「あの時のことは、俺からあの女に話す……お前が悪いわけじゃねえってことを」
ディアナの目の前で受けたトイへの仕打ちのことを言っているのだろう。真っ直ぐにトイを見ていた瞳が逸らされてしまった。ソンリェンにきちんと伝わるように、静かに言い募る。
「……ディアナの目って青いんだ。ソンリェンと同じ色してんの」
トイも自覚したのはついさっきだった。ディアナの花が咲き誇るような笑顔から目が離せなかったのは、同じ色を持つソンリェンに焦がれていたからだということに。
ディアナの笑顔からソンリェンの笑みを想像してしまい、いつかソンリェンもディアナのような微笑みをトイに向けてくれたらと強く切望していた。
「オレ、ディアナ見ながらさ……ずっとソンリェンのこと思い出してた」
そろりとソンリェンの頬に手を添え、逸らされた視線を此方へと戻させる。トイの方からこうして彼に触れたことは今まで数えるくらいしかない。
ソンリェンの目が少しだけ見開かれ、深い青が濃くなった。
「ディアナにキスした時も、なんでソンリェンは俺にキスすんのかなって考えてたら……しちゃってた」
友達に急にキスした挙句、しかもそれは彼女を通して別の人間を想像しての行動だったのだから最低にもほどがある。
トイの方こそディアナにも後できちんと謝らなければならない。ディアナはさぞ驚いただろう。
「ディアナに悪いこと、した」
今だって、ディアナのことを口にしていながらトイが考えているのは目の前にいる青年のことばかりだ。
「オレな、ソンリェンにもっと優しくしてもらえたらいいなって、ずっと思ってた。ディアナみたいに、ソンリェンの笑った顔、見てみたいなって」
ソンリェンがこんなにも近くにいるというのに不快感は湧きあがってこない。むしろこの麗しい顔にもっと触れたいと思った。
一度認めてしまえば、こんなにもトイの心は正直だ。
その先に行き着くソンリェンに対する感情には、正直まだ触れられそうにない。彼の想いを受け入れるにも、もう少しだけ時間がかかりそうだ。
けれども今は、ソンリェンに触りたいというこの想いを大切にしたかった。
「もしもさ、オレがこんな中途半端な体じゃなくて、ディアナみたいにちゃんとした女だったら。ソンリェンももっと優しくしてくれんのかなって、そればっかり──」
言い終える前に引き寄せられ、噛み付くように唇を重ねられた。
ソンリェンの肩に手を置いて深まるそれを受け入れる。怯えからではなく、自分の意思で。
「ん、ふ……」
ソンリェンからの口づけは最初から嵐のようだった。ソンリェンの顔に出にくい激情を、一心に集めたような。
ずっと触れるだけだったから、てっきり優しく吸われるものだとばかり思っていたのだがなだれ込んでくる舌は想像以上に激しい。
煙草の苦みを感じたのは一瞬で、あとはソンリェンの舌の味でいっぱいになる。
出来る限りの範囲で必死に舌を絡めれば、口内を舐めまわされて直ぐに息が上がる。ソンリェンの息も乱れていた。お預けを食らっていた動物に食らい尽くされるような性急さだ。ただ、頬を撫でてくる手のひらは儚いものを扱うように優しい。
「ん……そん、りぇん」
「トイ」
「ん、んァ……は、んむ」
頭を後ろから掬うように抱き込まれ、ねっとりと歯を丹念に舐められ奥歯の裏側までも愛撫される。
舌の裏側や上顎を柔らかな舌で啜られ、息を吸うために離れれば透明な糸が舌先から何本も伸びては切れ、また絡められて塞がれた。
息継ぎまでの時間が長くて直ぐに酸欠になりそうだった。
きゅっと、ソンリェンの肩を掴んでいた手を握りしめられる。口づけを受け入れながら握り返せば、湧きあがるソンリェンの激情を舌先から感じた。
腕の力が抜けて、広い背中に縋りつく。
これまで感じていた恐怖心や屈辱感はない。それどころか、ぞくぞくとした感覚が臀部から背筋を伝い這いあがってくる。
初めてソンリェンとのキスを気持ちいいと感じた。肉体的な快楽だけではなく、全部が気持ちいい。
ソンリェンの熱い呼気も、握りしめられる手も、煙草の苦みが染みついた舌も全て。
きっとこれが、満たされていくという感覚なんだろう。ごくりと喉を潤す。ソンリェンの味がした。
「はっ……ふぁ」
「──トイ」
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