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彼女の優しい嘘の理由 21
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呼び方が"さやちゃん"から、ぶっきら棒な彩香に変化したのは、思春期の芽生えとも言える中学進学を果たした頃だった。唐突に七季は、私を〝ちゃん付け〟で呼ばなくなった。相変わらず親しみのある呼び方ではあったけれど、その変化に私が戸惑いを覚えたのは確かだった。
明確な変化があったとすれば、中学校で話す機会がめっきり減ったことだと思う。七季の弁を借りるなら、「男子は女子と話さないもの」らしい。中学生にもなって女子と話しをするような男子は、軟弱者かあるいは〝ヒワイ〟なのだ、と。
私はそれを馬鹿馬鹿しいと感じたが、相手がそう言い張るのだからどうしようもない。時間が解決してくれる問題として、諦めるしかなかった。そんな私たちが唯一繋がりを持ち続けられたのは、当時、七季のお父さんが働いていた工場で〝ペット〟を飼っていたからだ。モモという名の猫で、私と七季の二人で世話を焼いていた。
当時を思い出そうとして目を瞑ると、まぶたの裏には鮮血が浮かび上がってくる。辺りに散らばる肉片が異臭を放ち、チカチカと目がくらんだ。目に映るのはただ赤い光景。
いまより少し幼かった私は、気が付くと猫を抱いていた。服が血で染まることなど頭にない。ただ助けたいと心から思った。この小さな命を救い出したいと願ったのだ。
しかし、それは善意からくる想いなどでは決してなかった。
七季との唯一の繋がりを失いたくない。きっと神様はそんな浅ましい私の姿を見ていて、小賢しい細工が二度とできないように小道具として扱った小さな命を奪ったのだ。
当時は名前もなかった動物殺し。だが、いまでは惨殺魔という名を与えられてこの町に潜んでいる。
私は、可愛がっていた猫の死すら利用しようと考えた。
犯人を必ず見つけ出すという約束が、それまで以上に七季との強い絆になると思って、彼に宣言したのがいまから四年前。それから高校に進学して一年が経ったいまでも私は犯人を探し続けている。
惨殺魔の犯行には規則性が見受けられず、次の犯行を予測するのは難しい。それでも、長年事件を起こしていれば犯人の目撃情報の一つくらいあってもよさそうなものだ。高校に進学して少し経った頃、私は一つの考えに至った。惨殺魔の目撃情報がないのは偶然ではなく、用意周到に立ち回って動物を殺しているからではないか、と。それなら闇雲に探しても見つけるのは難しい。私は町を周り、人の往来が少ない場所と時間帯を徹底的に調べ、結果いくつか人が来ない場所を見つけた。この町にはバブルの残骸のような場所が多く存在している。その場所を定期的に巡回するようになった。
いまから半年くらい前。廃墟と化したビルに人の姿を見た。息が止まりそうになったのをいまでも覚えている。首輪で繋いだ犬を連れてきたその人物は、手にしていたバットを振り上げ、犬の体めがけて振り下ろした。悲鳴のような鳴き声をあげる犬を見て、高笑いする人物。ずっと探していた惨殺魔が、十メートルもない距離にいる。そう思った瞬間、恐怖が体中を支配した。あれだけ犯人を捕まえるシミュレーションをしていたというのに、目の前にしたら体が動かなくなった。もし見つかったら、どうなってしまうのだろう。ここには誰も来ない。それがわかっている犯人が、私の姿を見つけたらどうするのだろう。恐怖心に支配された私は、犯人を捕まえることはおろか、犯行を終えて立ち去る犯人を追いかけることもできなかった。
唯一の収穫は、犯人の顔がこちら側を向いた瞬間に気づかれないように撮ることができた写真。フラッシュを焚くことができなかったため、写真は不鮮明だったが、犯人に繋がる大きな手がかりだった。
これでようやく約束を果たすことができそう。そう喜んでいた矢先に、七季に恋人ができたという話を聞かされた。
それだけではない。七季は、私との約束などすっかり忘れてしまっていたのだ。これではあまりに報われない。週末に誘ったデートを断ったのだって、惨殺魔を捕まえるための協力者に呼び出されたからだった。それを、七季は一方的に怒鳴り散らして、終いには、私以外の女を選んだ。
七季をたぶらかしたあの、更級沙良とかいう女、絶対に許せない。
明確な変化があったとすれば、中学校で話す機会がめっきり減ったことだと思う。七季の弁を借りるなら、「男子は女子と話さないもの」らしい。中学生にもなって女子と話しをするような男子は、軟弱者かあるいは〝ヒワイ〟なのだ、と。
私はそれを馬鹿馬鹿しいと感じたが、相手がそう言い張るのだからどうしようもない。時間が解決してくれる問題として、諦めるしかなかった。そんな私たちが唯一繋がりを持ち続けられたのは、当時、七季のお父さんが働いていた工場で〝ペット〟を飼っていたからだ。モモという名の猫で、私と七季の二人で世話を焼いていた。
当時を思い出そうとして目を瞑ると、まぶたの裏には鮮血が浮かび上がってくる。辺りに散らばる肉片が異臭を放ち、チカチカと目がくらんだ。目に映るのはただ赤い光景。
いまより少し幼かった私は、気が付くと猫を抱いていた。服が血で染まることなど頭にない。ただ助けたいと心から思った。この小さな命を救い出したいと願ったのだ。
しかし、それは善意からくる想いなどでは決してなかった。
七季との唯一の繋がりを失いたくない。きっと神様はそんな浅ましい私の姿を見ていて、小賢しい細工が二度とできないように小道具として扱った小さな命を奪ったのだ。
当時は名前もなかった動物殺し。だが、いまでは惨殺魔という名を与えられてこの町に潜んでいる。
私は、可愛がっていた猫の死すら利用しようと考えた。
犯人を必ず見つけ出すという約束が、それまで以上に七季との強い絆になると思って、彼に宣言したのがいまから四年前。それから高校に進学して一年が経ったいまでも私は犯人を探し続けている。
惨殺魔の犯行には規則性が見受けられず、次の犯行を予測するのは難しい。それでも、長年事件を起こしていれば犯人の目撃情報の一つくらいあってもよさそうなものだ。高校に進学して少し経った頃、私は一つの考えに至った。惨殺魔の目撃情報がないのは偶然ではなく、用意周到に立ち回って動物を殺しているからではないか、と。それなら闇雲に探しても見つけるのは難しい。私は町を周り、人の往来が少ない場所と時間帯を徹底的に調べ、結果いくつか人が来ない場所を見つけた。この町にはバブルの残骸のような場所が多く存在している。その場所を定期的に巡回するようになった。
いまから半年くらい前。廃墟と化したビルに人の姿を見た。息が止まりそうになったのをいまでも覚えている。首輪で繋いだ犬を連れてきたその人物は、手にしていたバットを振り上げ、犬の体めがけて振り下ろした。悲鳴のような鳴き声をあげる犬を見て、高笑いする人物。ずっと探していた惨殺魔が、十メートルもない距離にいる。そう思った瞬間、恐怖が体中を支配した。あれだけ犯人を捕まえるシミュレーションをしていたというのに、目の前にしたら体が動かなくなった。もし見つかったら、どうなってしまうのだろう。ここには誰も来ない。それがわかっている犯人が、私の姿を見つけたらどうするのだろう。恐怖心に支配された私は、犯人を捕まえることはおろか、犯行を終えて立ち去る犯人を追いかけることもできなかった。
唯一の収穫は、犯人の顔がこちら側を向いた瞬間に気づかれないように撮ることができた写真。フラッシュを焚くことができなかったため、写真は不鮮明だったが、犯人に繋がる大きな手がかりだった。
これでようやく約束を果たすことができそう。そう喜んでいた矢先に、七季に恋人ができたという話を聞かされた。
それだけではない。七季は、私との約束などすっかり忘れてしまっていたのだ。これではあまりに報われない。週末に誘ったデートを断ったのだって、惨殺魔を捕まえるための協力者に呼び出されたからだった。それを、七季は一方的に怒鳴り散らして、終いには、私以外の女を選んだ。
七季をたぶらかしたあの、更級沙良とかいう女、絶対に許せない。
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