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色欲も良いことばかりでは無い

《十六之罪》本戦

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結局、あの夢はなんだったのだろう。
私は目を覚ますとまず、そんな事を考えた。
夢というのはあの時見た、拷問部屋で磔にされ、剣で斬られる夢である。

あれは何かの暗示だったのだろうか?
ただの夢にそんな疑問を抱かずにはいられないほど、私の夢見は本当に珍しいのだ。

ともあれあのような悪夢、見ないに越したことは無いから別に構わないのだが。

さて、意識をこちらに戻さなければ、また殴られる。


上体を起こし周囲を見渡すと、隣のベッドでエーシュが寝ている。

幸せそうに眠っている。起きている時の表情とはまるで違う。

髪を撫でたい衝動に駆られるがそこは抑え、上半身だけで伸びをした後、ベッドを出ると、彼女の布団をかけ直した。

ルシフはの姿は無い。どうやら既に起きているようだ。
そもそもあいつは寝たのか?そんな疑問すら覚えるほどだ。

窓の外を見る。
王都を行き交う住人の喧騒がこちらにも届く。もう朝だ。

そして今日は、勇者選抜戦の本戦である。寝坊せずに起きられた事にまず感謝。

少しするとルシフが私の部屋を開けてきた。別にやましい事をしている訳では無いが、ノックくらいはして欲しいものだ、

「準備は...出来てるよな。」
「あぁ、あとはエーシュと、お前を起こすつもりだったが、その必要は無さそうだな。」

どうやら起こしに来てくれたらしい。
エーシュを起こすのは彼女に任せ、私は先に部屋を出て、扉の前で待機。

少しするとルシフが、寝起きでぽけーっとした顔をしたエーシュを連れて部屋から出てきた。

合流をすると私はエーシュの手を取とり迷彩ミラージュをかけた。
エーシュの姿が見えなくなったのを確認してから私たちは宿を出て、城へ足を進めた。

城の前はやはりというか、人が大勢いた。
本線に出場する人は勿論、予選で敗退した連中やただ観戦したいという一般市民も集まっている。

私はそこで二人と別れ、先に城へと入って行った。
エーシュの迷彩ミラージュが途切れた事により、やはり周囲の注目を浴びてしまう二人に小さく謝罪をしておく。私のせいではないが。





※※※※※




城の兵士に案内された先は、予選でも使われた広場である。
今回違うところがあるとすれば、予選で感じたあの気迫が、消えているところだ。
広場には私と案内の兵士、広場の門番が数名、各扉の前に立っているだけである。

私はさらにその奥、城内に入って長い通路を真っ直ぐ進み、途中の個室へ案内された。
恐らく木製の扉があって、恐らく待機所なのだろう、それが廊下にずらりと並んでいた。
個室の前に立つ門番が軽く会釈し、扉を開いてくれた。

中はとても質素な作りになっていて、壁や床はレンガが丸見えだ。
簡易的なベッドと丸い小さな椅子が置いてあり、壁には小さな、映像を投写する魔法器が備え付けられている。
試合の中継はおそらく、この画面で見るのだろう。

試合以外での争い事を防ぐため、完全個室になっている。
個室なのは私にとっても都合がいい。
私は案内をしてくれた兵に礼を述べ、兵が部屋の外から扉を閉めてくれた事を確認すると、ベッドに身を投げ、

寝た。

試合前は必ず十分間の仮眠。これが私のルーティーンであり、怠ると力が出ない。
最近はあまり力を発揮する機会が無かったので、この感覚は久しぶりだ。

魔法器の中で笛の音が聞こえた。
どうやら試合が始まったようだ。
備え付けの魔法器の中では既に、二人の剣士がお互いを睨み合っていた。
 
本戦、開始である。

......


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