わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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二 名取美優

第46話 お墓

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 いつの間にか、淡泊な霧が消えていた。
「良かった。けど、急に熱くなったね」
 顔の前に手をパタパタとさせた。
「そうかよ。全然熱くないんだけど」
 背後からつーちゃんが嫌味に言った。やや棘がある口調。
「なに? 何怒ってんの?」
 怪訝に訊ねると、つーちゃんは修斗くんの袖を掴んでいる私を凝視した。怪訝な表情している。その瞳の中に、袖を掴んでいる腕と私の顔が交互に映し出していた。
「ずっと握ってるなぁ……て思って」
 次にはぁ、と軽いため息をついた。
「別に、怒ってねぇしっ!!」
 そっぽを向いてしまった為、会話はきった。一体何なんだ。情緒不安定?
 すると、私たちが歩いている前からいきなり猫が飛びだしてきた。ちょうど首あたりの高さまである石垣の奥の茂みから。小さな岩から大きな岩を揃えて積み重ねた石垣。その上にある茂みは今まで歩いてきた密林よりも暗くって濃厚な闇に染まっていた。
 猫がこちらを振り向いた。黒猫だ。青白い瞳が大きく見開いている。二つの大きな玉が闇のなか浮いているようだった。
 猫はしばらく、私たちを凝視して興ざめしたのかスタスタと走って去ってしまった。
「びっくりした……」
 私はドキドキとなる心臓をおさえた。次に違和感を覚えた。熱いていって程良い間隔開けて歩いてきたはずなのに、修斗くんの顔が近い。吐息がお互いに触れるほど。
 しばらく、頭が真っ白でした。まさか、私が修斗くんの腕を組んでひっついていたなんて。修斗くんの目がまん丸と大きく見開いて口をポカンと空けている。
 顔が赤くなるのが分かった。走ったわけでもないのに、動悸がおかしい。私は急いで離れた。
「ごごご、ごめん! ごめんなさいっ!!」
 修斗くんも戸惑っている。私はずっと顔を伏せていた。直で顔が見られないし、顔が赤くなっていて、そんな顔見せられないし。
 仕方なくつーちゃんの後ろに回った。つーちゃんはどんな表情していたのか分からないが、懐中電灯を茂みのほうへと照らした。
「あ、あった」
 つーちゃんにしては間抜けな声で。
 修斗くんは戸惑いながらもつーちゃんのさす方向へと懐中電灯を照らした。二つの橙色が一つの焦点に重なる。その色は橙色が眩しいスポットライトとなっていた。
「ほんとだ……見つけた!」
 猫が急に飛び出してきた場所はお墓だった。かつて使用されてたお墓ではなく火葬それ、遺骨が置かれている墓。奇跡か単なる偶然か。私たちは急いで登るための階段を見つけ、上に登った。


 そうして、辿りついた。墓石がいくつも置いてある。数えきれないぐらい。急に寒気が。誰かに見られているような気配と体が重い。誰かがのっかっているような。
 足が竦むのはなぜ? 足が進まないのはなぜ? 冬のような寒気に頭がグワングワンとした。嘔吐しそうになる。
 すると、横にいたつーちゃんがパシと拳を叩いた。
「んしゃ、探すか」
 続いて修斗くんも物怖じせず、探索に入る。二人とも、体が重くないのかな。私だけ? 動かないと。それなのに、体が動かない。金縛りにあったみたいだ。
 少し離れた距離にいる修斗くんがある墓石に懐中電灯を照らしていた。怨念を込めているようにジッと見据えている。
「どうしたの?」
 訊ねると、何事もなかったように明るい顔で振り向いた。
「なんも」
 修斗くんがジッと見据えていたのは、矢田家のお墓でした。修斗くんなりになにかあるのかもしれない。鬼の一族と畏怖られた事件。その容疑者だった矢田家。
 あのノートに関心があるのは、きっと知りたいからだ。矢田家がどんな人物で、暁景子がなにをして鬼の一族と畏怖られたのか。
 遠くにいたつーちゃんが大きな悲鳴を叫んだ。私の足もやっと動いた。動かなければ、つーちゃんは「見つけた!」と叫んだのだ。つーちゃんのもとに行くと、菊の花が供えられたお墓がありました。墓石に彫られた名前は神田家。私は力強くつーちゃんを抱擁しました。
「ありがとう!! 偉いっ!!」
「バッ……てめっ!」
 タコのように赤くなるつーちゃんの反応が面白くって何度も抱擁しました。その他所に、修斗くんは菊の花を見下ろしこの花、とおぼろげに呟いた。
 私は膝をついて、顔の前に手を合わせた。
「まず、祖母が旅立ちました。あなたの言う通り、苦しみながら」
 後の二人は顔を見合うも、私の言動には追及してきません。
「次に、祖母を守っていただきありがとうございます。学校で身を潜めてたとき、狙われていると知って自らその身を捧げ、終止符をうった。祖母も私もできません」
 しばらく、手を合わせた。目を開けたら本当に礼子さんが立っていそう。なんだか、熱い視線が感じる。そんなわけないのに。

 すると、ガシャンと音がした。近くから。振り向くと、遠くのほうで人が立っていた。私たちと違い、頭のヘルメットにも懐中電灯をつけて、反射タスキを掲げている。
 頭のヘルメットのせいで、よく顔が分かる。白髪に黒縁眼鏡。お通夜で会った八尾村長だ。八尾村長は見たことないぐらい、大きく目を見開いている。信じられないものを見てしまったという顔。どうやら、落としたのは腕いっぱいの菊の花でした。
「君たち、一体どこから……」
「こ、これは……」
 同様に、私たちも動揺する。怒られるかと思いきや、そうでもなかった。ここに来た経緯を言うと、一緒に手を合わせてお墓参りをしました。よく見たら、ここにあるお墓には全部同じ菊の花が供えられている。八尾村長が毎月、来るようだ。
「僕は当時、無力で非力だったからね。これしかできないのさ」
 そう言って矢田家のお墓に菊の花を添えた。
 この人はそう言って、何年も前からこれを続けていたのではないか。そう考えると、胸が痛かった。
 無力で非力だったのはこの人だけじゃない。実際、そんな目に遭えば、全員無力だよ。
 菊の花を添え終え、私たちも帰宅した。道中、壊れたつり橋を見つけて八尾村長が過去を振り返るように一言呟いた。
「年貢の納めときだろう。長く持った」
 すると、私たちに厳しい顔を向けた。
「君たち、ここは一応私有地。知り合いだから目を伏せるけど、今後はないから」
 と。ちゃっかり最後は怒られました。
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