わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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二 名取美優

第48話 真相

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 部屋の中はタンスしかない。生きていたと語る物資はこれだけ。部屋の中はがらんとしている。
 宝箱を見つけ、中を開けた。つーちゃんがピッキングで開けた鍵はそのまま。もし、おばあちゃんがこれを見たら怒るだろうなぁ。
 新聞紙がパンパンに入った宝箱をひっくり返した。
 バサバサと音をたて、新聞紙が足元に落ちた。もう一回振ると、糊か隙間にひっついていた紙がひらひらと落下。
 足元には膨大な情報源が小指を隠すほどお山になっている。
 どれを見ればいいのか検討がつかない。手当たりしだいに文書を読み解く。まるで、宝の山に手をつっ込んでいるみたい。
 読んだ新聞紙は手元の右側に置いていき、左側の新聞紙の山が着々と崩れていく。そうしていくなかで、謎を解き明かすキーワードが入った文書を見つけた。

【トラクターに血痕! 犯人は死人か】
【少年Sを殺害したのは三件目の死亡者――死人に口なし】
【一九八六年――ピロリ菌の殺菌成功! 医学進歩】

 少年Sとは佐竹瞬之助でいいのだろうか。仮に、名字にSがつく少年なんて佐竹しかいない。新聞紙を読み解くと、佐竹瞬之助を殺害した真相が詳細に明らかに載っていた。
 順番に説明すると、瞬之助くんを殺害したのは三件目に死亡した駄菓子屋のおばあちゃん、金田トウさん。その人の車庫から夥しい血痕がついたトラクターを発見。
 あの時代、DNA鑑定は存在しなかった。はっきりとした確証はないが、金田トウさんに間違いはないだろう。
 動機は分からない。随分昔に亡くなってしまった人だもの。その口を割れない。
 ノートにこう綴られた文書があった。
【横断歩道も歩行者の為の白い石灰もない砂利道。高く伸びたトウモロコシ畑や生い茂る杉の木が、死角となっている。急に車が来たら危ない道だ。所詮、車が通るとしてもトラクターしかない。木を切り裂くような機械音がするものだけど、それでも耳の遠いおばあちゃんやおじいちゃんらはトラクターが目の前にきてもわからないらしい】
 これは瞬之助くんの遺体が発見される前。下校中の帰り道を綴った文書だ。
 この道は確か、十字路でできて佐竹家の家もその道を真っ直ぐ進んだ場所にある。

 これは、第三者の私の予想だが、瞬之助くんはこの道を通っていた。一人で。行方を晦ませ、帰路の途中だろう。それに気づかず、金田トウさんはトラクターで轢いてしまった。
 四角が多い道で気づかないのは無理がない。しかも、あの時代平均身長はどれほどだったのか。いいや、大人の身長でさえも頭しか見えないと考える。
 小さな子どもがいきなり飛び出して、轢かれてしまった。血痕が残らなかったのは砂利道だったから。
 そして、そのあと力を振り絞って自分の家に帰宅。手足がなくなった状態で、だるまの姿で必死に藻掻いたあげく小腸を突き破られた。
 その道から家までかなりの距離があったはず。子どもの体力で帰るにはしんどい。それほど、なにかを伝えたかったのかもしれない。


 最初の事件と三件目の事件は繫がっていた。金田トウさんは事故でも子どもを轢いてしまったことにより、罪悪感に蝕まれ自さつ。
 〝わたしは知らない〟と血文字がびっしりと壁中に描かれていた理由はこれだった。
 もしかしたら、私は勘違いしていたのかもしれない。〝何らかの行動〟ではなく〝何かの感情・・〟だったら?
 佐竹瞬之助くんと神田佐奈ちゃん、矢田家は死ぬ間際、同じ意識を持っていた。それは絶望。望みや希望が絶たれた時、目の前に現れる感情。
 おばあちゃんは何度も絶望を味わっているのに死ななかった理由は絶望の濃度があるんだと思う。おばあちゃんは絶望にたたされても側に、神田礼子さん暁景子さんがいたから。持ち前の明るい性格が功となったかも。

 一つ目の謎は解いたけど、流石に二つ目の謎は載っていない。誰に向けて行ったのか、なんの為にやったのか、矢田亜希子さんの真意がよく分からない。

 三つ目の謎はひときわ大きな文字で新聞紙に載っていた。ピロリ菌殺菌に成功! 医学的進歩と。この新聞はどの新聞紙よりも時期が最近だ。一九六〇年八月から一九八六年五月の二十六年にかけて、事件について載ってある新聞紙が全て揃ってある。
 一つの会社だけじゃない。日新聞、朝新聞、奥様新聞、など数多くの会社の新聞紙が揃ってある。同じ記事が何枚もあるのは、伝えかたや読みやすさが違っているから、情報網が最大限に多い。
 二十六年もおばあちゃんはこれを続けていた、と考えると心底、感服した。おばあちゃんはきっと、だれよりも、私よりも事件を追っていた。
 三つ目の謎は、おばあちゃん自ら解いた。研究者となったおばあちゃんは、ピロリ菌を殺菌するための抗体、薬を開発するために六年も。
 六年の歳月をあの当時、あの時代の技術で開発できるのか。いいや、できないだろう。だから去った。しかも、村人の体内は人から人へと感染するタイプ。だから早々にして帰ったのか。

 こうして、最大の謎が明かされた。頭で引っかかっていたわりには案外、解くとあっさりとしたものだ。心の中で藻掻いてた黒いモヤモヤが消え、私の心は太陽のような温もりが帯びている。
 このことについて、誰かに話しがしたい。どうしても、このことを誰かに伝えたかった。脳裏に修斗くんの顔がよぎった。
 お通夜のとき、ノートを聞いてきたあの興味を示したあの態度は明らかに、他人事ではなかった。

 両親はまだお風呂に浸かっている。そこから聞こえるシャワーの音とそれに似た肉がぶつかりあう音。
 シャワーの音でうまくかき消されるがその音は、若干、家中に響き渡っている。ここ、壁薄いんだよ。頑丈に造られてるけど。久し振りにそれにあてつけた飢えたメスの声はよく通る。
 あんなにシャワー使って、水道代がもったいない。やるんだったらベットでやりなよね。

 外ではもう、雨は降っていない。カラカラに晴れて、今や鳴けなかった時間を埋めようとミンミンゼミがけたましく鳴っていた。
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