わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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一 大倉麻耶 

第19話 猫の真相

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 集会場に集まった大人たちと逆に、来ていない子どもたちは、公園で遊んでいた。わたしの穴を埋めるようにして、洋介がリーダーになっている。

 これはあとから生存者から聞いた話しだ。大人たちが集まったあと、残った子どもたちも身を固めるように集まったらしい。
 実際に目にしていないので、どんな会話をしてどんな事が起きたのか、わたしの予想と憶測で書いたもの。

「あーあ、このところ暇で暇で仕方ないぜ」
「人が死んでいるのよ」
 ブランコに乗った礼子が呆れ口調で喋る。こんな真夏で日中の陽がガンガンあたる外でも、大好きな本を持ち歩いている。
 大きな木の下、太陽がこちらを向いているので、日陰が伸びる。ちょうど、その日陰がブランコまで伸びているので二人は休んでいる。
 夏特有の涼しい風が二人の頬を伝った。ゆらゆらと揺れ動く陽炎や木に止まった複数の蝉の鳴き声が夏の暑さを教えてくれる。
「……」
「……」
 礼子と洋介は同学年でも、滅多に喋らない。
「……なぁ」
「……」
「聞こえてますかー? ケッ、シカトかよ」
「シカトじゃないわ。声が大きい男子嫌いなだけで、目の前にその存在意義があるから目を背けていたの」
「まるきっり、シカトじゃないか」
 そんな似ても似つかない二人の前に、篤さんが駆け寄ってきた。いつも身に纏う白い白衣はなく、まちなかで歩くようなラフな格好。
「お、兄ちゃん、こんなところで遊びにきたのか?」
 洋介がおちょくる。篤さんは苦笑しながら、首を振る。
「君たちこの辺詳しいだろ? 暇なら案内してくれる?」
 礼子は読んでいた本をパタと閉じ、切れ長の瞳で篤さんを見上げた。怪しげな笑みを浮かべる。
「ええ、いいわよ」
 礼子は本を大事そうに両手で抱え、篤さんを連れて村中を歩きまわる。

 村の人しか知らない絶景のスポットだったり、大人たちに隠れて秘密基地を建てた場所だったり、礼子はいろんな場所に篤さんと歩いた。
「でも、意外だなぁ」
「なにが?」
 篤さんはニコニコとまんざらでもない笑みを浮かべ、礼子が紹介した場所をパシャパシャと写真を撮っている。
「君みたいな大人の子がこんな僕の相談にのるなんて、案外可愛いところあるんだなぁって」
 途端、礼子はお腹を抱えクスクスと笑いだした。
「あなた、本当にそんなこと思っているの? 村調査と悟られてないから私が適当にブラブラ歩いていると思って?」
 篤さんは手に持っていた高そうなカメラを落としそうになり、寸前でカメラを抱えた。図星だったらしく篤さんの挙動は大きくなる。
「……大丈夫よ、私、村の人たちに公言なんてしないから」
 礼子はあっけらかんとした感じで言った。礼子は研究者たちがこの村を土足で踏んでいることになんの気にも触れないのだろう。

 ましてや、それを願っているような妖艶な雰囲気を身にまとっている。
「村のことをもっと知りたいのなら、ここがオススメよ。ついてきて」
 くるりと踵を返し、スタスタと前を歩いた。つられて、その後ろを歩くしかない。だいぶ、年下の少女の背中を追っていることに嫌悪感を抱くが、不本意ながらバレてしまったら彼女の下につかないわけがない。

「礼子、ちゃんはこの村が嫌い?」
「ええ、嫌い。とっても……」
 後に篤さんが語ってくれた。
 このときの礼子は世界の終わりを望んでいるような口調だったと。
「自然豊かだし、空気もすいてる、こんな場所にうまれて育ちたかったなぁ」
「……あなた本気で言ってるの? ……やめといたほうがいい。ここは、あなたが思っているほど……」
 彼女はそれから言葉が詰まった。その沈黙は非常に重かった。
「それより、この立て続けに起きる不可解な死についてなにか分かった?」
 彼女から聞き出した。篤さんは苦笑しながら応える。
「二十七日に公園で無残に死んじゃった猫ちゃんかな?」
 その言葉と表情にいくつか半信半疑があったため、礼子はあまり期待するものでもなかった。村について知りたいのに、どうして猫なのだろうと、半々憤りを覚えた。ため息をついて仕方なく会話を続ける。
「殺ったのは?」
「それが、村人じゃないんだよ! 研究者の間では草刈り機か機械かじゃないかって噂で…――」
 すると、ピタリと立ち止まる。なにかに魅入られたように前方を見ていた。

 いつの間にか、奥深い森に足を踏み入れていた。透き通っていた快晴の空が密集された木々に隠れ、あんな遠くに見える。
「ここは?」
「ここはね、昔使っていた村の墓地」
 真っ昼間なのに、薄暗い。その暗さがこの場所を一層暗くさせていた。人の手入れが行き渡らず、草木は伸び、そのまま忘れ去られたように墓石だけが佇んでいる。

 小さい墓石が夥しいほど建てられてある。無造作に建てられてあったり、緑の苔が全身を覆ってあるのも。
「どうしてここに……?」
「ふふ、ここはね信仰心を薄れて反感を売った村の反逆者のお墓」
 一つの墓石に目が釘付けになった。どの墓石にも花など供えてないのに一つだけ、美しい花が供えられてある。
 野原に咲いてたそこら辺にあるお花。その墓石は〝神田〟と彫ってあった。
「神田って……」
 思わず隣にいる彼女の顔を見下ろした。一風、彼女は気にも留めず平然とした面持ちで立っていた。
「私の父よ。佐奈が赤子のとき、この村のルールを犯したの。それで矢田家に目をつけられ気がついたら、この土の下に埋まっていた――あなたはこの村に憧れ抱いているようだけど、本当にやめといたほうがいい。この村はね……ヤミヨミサマがいる限り殺戮が続く」
 礼子の切れ長の瞳が一瞬、ウルッと潤ったのを篤さんは見過ごさなかった。極秘で村調査のためカメラを持っているけど、こんな雰囲気で撮ろうとは思わなかった。

 神田礼子がどうしてこの村を嫌っていたのか、ようやく分かった篤さんは思いだしたかのように口を滑らせた。
「そうか、それで矢田家が捕まったのか」
「捕まった?……どういうこと」
 口を滑らせた篤さんは矢田家が捕まった経緯、井戸で呪詛をやった経緯を詳しくペラペラと喋った。

 礼子は落ち着いた佇まいで話しを聞いていくうちに、後半になってから顔を青ざめた。
「成功していない呪詛にどうして大人たちは感受性尖るのかしら。本当にこの村は……おかしい」
 怒りがくぐもった声が滲み出る。
 刹那、くるりと踵を返した。来た道をスタスタと戻っていく。篤さんは慌ててそのあとを追った。見知らぬ場所、しかも墓地で一人でいるなんて絶対に嫌なので。

 そのあと、一言も喋らずに森をでて村に戻った。別れる際、礼子がこんなことを口走ったらしい。感情を一切無くした無の表情で淡々と。篤さんはこれは昨日のように鮮明に覚えていると呟いた。
「さっきの話し、本当だったらこの世にはあるのでしょうね。偶然が。でも偶然じゃなく必然だったら? きっとこの夏、神隠しに瞬ちゃんが選ばれるのも、亜希子に連れて強引に呪詛をやったのも全て必然的に起きることなのね。そして、誰かが死ぬのも」
 彼女はいつも見せない寂しい表情で青い空を見上げた。澄み切った青空にモクモクと広がる入道雲は夏の景色を魅せていた。彼女がこのとき、誰を思い浮かべてたのか今では分からない。
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