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ハジメテの友達
10―1 狐のお面の裏
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病院の外でいつも見る景色はさまざまだ。
透き通った快晴、灰色に曇った雨、空に絡みついた七色の虹、仔犬がはしゃぐ寒い雪。薄い硝子でつくられた窓硝子で僕はいろんな景色を見ている。
どれも、僕には届かない場所だ。生まれつき重い病気を持っている僕は物心ついた頃から病院にいる。年に一回お家に帰れるときがあるけど、それ以外はここが僕のお家だ。
長寿患者として病院の看護師さんやお医者さんたちとは友達関係。よく外の雰囲気とか流行りの話をしてくれる。病院はいつも忙しく、看護師さんたちもたまにしか来ないときがある。
なので、僕はいつも小さい子どもの患者がいる場所で遊んでいる。そうしているだけで暇な時間が少し和らぐのだ
そんなある日、狐のお面が被った少年に出会った。お祭りで売ってあるような狐のお面。身長は僕と同じぐらいで小枝みたいにやせ細った体型。
他の子どもたちが楽しそうにサッカーしているのに、その子はひっそりと一人で遊んでいた。気になって僕は声をかけてみた。
ここに長年いるけど、こんな子見たのは初めて。もしかしたら、新しい子かもしれない。新参者が中々輪に入れないことは痛いほど分かる。だからこそ、少しでも声をかけたい。
「ねぇ、きみそんなとこで遊ばないで、こっちで遊ぼうよ」
少年は狐のお面を震わせて、首を頷く。ちょっと可愛い子だな。身長と歳は同じかも。ツンツンとした髪の毛が特徴的。その子とはサッカーやパズル、けん玉とかやってみたけどどれも、その子は遊び方を知らなかったらしい。奇妙な子どもだなぁとそれが印象。
ふと、みんなでサッカーをやっていたときに急に発作がきてしまったんだ。目の前にボールが渡ってきた絶好のチャンスなときに。
ガクと膝が折れ、背後から首を締め付けられる息苦しさ。目の前が陽炎みたいに揺れている。
周囲にみんながやってきた。敵チームもパズルをやっていた女の子たちも勢揃いで僕を囲む。はっきりと聞き取れないけど、僕の名前を大声で呼んでいる。
僕はたちまち涙が溢れそうになった。情けなくて悔しくて涙がポロポロとでてくる。そのとき、ヒンヤリと氷水の感触が額に感じた。思わず、見上げると狐のお面少年が僕の額に手を添えていた。
氷水は彼の手だったらしい。なんだか、こうしていると気持ちいい。あんなに苦しかった発作が嘘みたいにやみ、急に眠気が襲った。
『今は寝てて。必ず起こしにくるから』
誰かの囁き声を最後に僕は意識を遮断した。どっぷりと泥のような深い眠りに。
スイッチを入れたように不意に目が覚めた。意識がまだトロンとし、体全体が痺れたように重い。
目が覚めた僕にいち早く気づいたのは、ベッドの横で寝てた母親だった。顔はげっそりとやせ細ってて目袋が赤い。起きた僕を見てはねとび、ぎゅと抱きしめた。
母親の安堵した表情と抱きしめた心地よい暖かさが僕を安心してくれる。
両親もろとも共働きで忙しい人たちだ。けど、こんなときに駆けつけてくるなんてジンとや涙が込み上がってきた。
それから、検査を何度もやって状態は安定したと聞く。でも、宣告を受けた。余命3ヶ月だって。いきなりの宣告で僕も両親も現実を受け止めきれなかった。
僕は信じられなかった。いいや、信じたくなかった。昨日まで何事もなかったのに急に余命宣告なんて誰が信じるか。まだ、叶えたい夢だってあるのに。
「その叶えたい夢とはなにかな?」
不意に話しかけられた。ベッドで横になって窓の外を見上げてたときに。振り向くと病室の扉の前に狐のお面少年が佇んでいた。
「きみは……」
「子どもたち、みんな心配してたよ。あれから顔を出さないから」
静かに室内に入ってきた。大人ぽい口調はとても、子どもぽい口調じゃない。
「みんなには心配かけたね。ごめんって伝えてくれる?」
お面少年は僕のベッドまでくると立ち止まった。
「きみが伝えればいいじゃないか」
皮肉にもそうしたい、けど、できない。僕は感情を抑え、笑って言った。
「ごめん。これから用事があるんだ」
「嘘だ。君はこの病院以外用事ものなんて一つもない」
少年にきっぱりと正論をつかまれた。言い訳が欲しいも、まさに少年の言うとおりだ。僕は病院以外家の往復だけで用事なんて生まれて何もない。
僕より年下なのに、こんな小さな子どもに弱みをつかまれた気がして、悔しくなった。
「君になにが分かるんだよ! もうすぐ死ぬのに! 出ていってくれ!」
びっくりするほど僕の怒声が室内を反響した。出したことない声に僕でもびっくりした。この煮え滾る感情〝怒り〟を生まれて初めて持った。
少年は怒声を浴びたにも関わらず、微動だにしない。ついカッとなって怒ってしまった。しかも、相手は僕より幼い子どもに。
謝らなければ、と思うもなかなか言葉が出ない。少年はさっきまで微動だにしなかったのにいきなり動きだした。くるりと背をた。そのまま、扉のほうに歩いていく。扉の前に来ると急に立ち止った。
「また来るよ。バイバイ」
それだけを告げ、病室を出ていった。
嵐のごとく急に現れ、そして去っていく。
今度会ったら本当に謝らなければ、絶対に後悔する。そう考え、少年が再び顔を出すのをひたすら待った。何日も何日も。後悔だけが黒い霧になっていく。
僕は焦り、ついには自分から行動していった。もうこれ以上待っていたら後悔の海が水槽なみに溜まる。そんなのは嫌だ。
思いきって、病院の外まで来てしまったことは迂闊だった。あまりにも外の景色が綺麗すぎて、見惚れて外に来ていた。
今は春らしい。ピンク色の桜が風によってひらひらと舞っている。綺麗だ。
絶対安静の僕がこんなところにいたら、たちまち親まで呼んでこっぴどく怒られる。病院の庭を数キロ離れただけだ。大丈夫。急いで入れば誰にも見つからない。
「大胆だなぁ」
声のした方向を振り向いた。大きな桜の木の上に少年が座っている。
「君、危ないよ! 今すぐ降りてきて!」
そう言うと、少年はニコッと笑った。トレードマークの狐のお面を斜めに被って耳元にあるから。この前見れなかった素顔がはっきりと見える。
世に例えると美少年。強く尖った目尻に高い鼻。モデル並みにシュとした体格。雰囲気から堂々と勝ち気に溢れた少年だ。
透き通った快晴、灰色に曇った雨、空に絡みついた七色の虹、仔犬がはしゃぐ寒い雪。薄い硝子でつくられた窓硝子で僕はいろんな景色を見ている。
どれも、僕には届かない場所だ。生まれつき重い病気を持っている僕は物心ついた頃から病院にいる。年に一回お家に帰れるときがあるけど、それ以外はここが僕のお家だ。
長寿患者として病院の看護師さんやお医者さんたちとは友達関係。よく外の雰囲気とか流行りの話をしてくれる。病院はいつも忙しく、看護師さんたちもたまにしか来ないときがある。
なので、僕はいつも小さい子どもの患者がいる場所で遊んでいる。そうしているだけで暇な時間が少し和らぐのだ
そんなある日、狐のお面が被った少年に出会った。お祭りで売ってあるような狐のお面。身長は僕と同じぐらいで小枝みたいにやせ細った体型。
他の子どもたちが楽しそうにサッカーしているのに、その子はひっそりと一人で遊んでいた。気になって僕は声をかけてみた。
ここに長年いるけど、こんな子見たのは初めて。もしかしたら、新しい子かもしれない。新参者が中々輪に入れないことは痛いほど分かる。だからこそ、少しでも声をかけたい。
「ねぇ、きみそんなとこで遊ばないで、こっちで遊ぼうよ」
少年は狐のお面を震わせて、首を頷く。ちょっと可愛い子だな。身長と歳は同じかも。ツンツンとした髪の毛が特徴的。その子とはサッカーやパズル、けん玉とかやってみたけどどれも、その子は遊び方を知らなかったらしい。奇妙な子どもだなぁとそれが印象。
ふと、みんなでサッカーをやっていたときに急に発作がきてしまったんだ。目の前にボールが渡ってきた絶好のチャンスなときに。
ガクと膝が折れ、背後から首を締め付けられる息苦しさ。目の前が陽炎みたいに揺れている。
周囲にみんながやってきた。敵チームもパズルをやっていた女の子たちも勢揃いで僕を囲む。はっきりと聞き取れないけど、僕の名前を大声で呼んでいる。
僕はたちまち涙が溢れそうになった。情けなくて悔しくて涙がポロポロとでてくる。そのとき、ヒンヤリと氷水の感触が額に感じた。思わず、見上げると狐のお面少年が僕の額に手を添えていた。
氷水は彼の手だったらしい。なんだか、こうしていると気持ちいい。あんなに苦しかった発作が嘘みたいにやみ、急に眠気が襲った。
『今は寝てて。必ず起こしにくるから』
誰かの囁き声を最後に僕は意識を遮断した。どっぷりと泥のような深い眠りに。
スイッチを入れたように不意に目が覚めた。意識がまだトロンとし、体全体が痺れたように重い。
目が覚めた僕にいち早く気づいたのは、ベッドの横で寝てた母親だった。顔はげっそりとやせ細ってて目袋が赤い。起きた僕を見てはねとび、ぎゅと抱きしめた。
母親の安堵した表情と抱きしめた心地よい暖かさが僕を安心してくれる。
両親もろとも共働きで忙しい人たちだ。けど、こんなときに駆けつけてくるなんてジンとや涙が込み上がってきた。
それから、検査を何度もやって状態は安定したと聞く。でも、宣告を受けた。余命3ヶ月だって。いきなりの宣告で僕も両親も現実を受け止めきれなかった。
僕は信じられなかった。いいや、信じたくなかった。昨日まで何事もなかったのに急に余命宣告なんて誰が信じるか。まだ、叶えたい夢だってあるのに。
「その叶えたい夢とはなにかな?」
不意に話しかけられた。ベッドで横になって窓の外を見上げてたときに。振り向くと病室の扉の前に狐のお面少年が佇んでいた。
「きみは……」
「子どもたち、みんな心配してたよ。あれから顔を出さないから」
静かに室内に入ってきた。大人ぽい口調はとても、子どもぽい口調じゃない。
「みんなには心配かけたね。ごめんって伝えてくれる?」
お面少年は僕のベッドまでくると立ち止まった。
「きみが伝えればいいじゃないか」
皮肉にもそうしたい、けど、できない。僕は感情を抑え、笑って言った。
「ごめん。これから用事があるんだ」
「嘘だ。君はこの病院以外用事ものなんて一つもない」
少年にきっぱりと正論をつかまれた。言い訳が欲しいも、まさに少年の言うとおりだ。僕は病院以外家の往復だけで用事なんて生まれて何もない。
僕より年下なのに、こんな小さな子どもに弱みをつかまれた気がして、悔しくなった。
「君になにが分かるんだよ! もうすぐ死ぬのに! 出ていってくれ!」
びっくりするほど僕の怒声が室内を反響した。出したことない声に僕でもびっくりした。この煮え滾る感情〝怒り〟を生まれて初めて持った。
少年は怒声を浴びたにも関わらず、微動だにしない。ついカッとなって怒ってしまった。しかも、相手は僕より幼い子どもに。
謝らなければ、と思うもなかなか言葉が出ない。少年はさっきまで微動だにしなかったのにいきなり動きだした。くるりと背をた。そのまま、扉のほうに歩いていく。扉の前に来ると急に立ち止った。
「また来るよ。バイバイ」
それだけを告げ、病室を出ていった。
嵐のごとく急に現れ、そして去っていく。
今度会ったら本当に謝らなければ、絶対に後悔する。そう考え、少年が再び顔を出すのをひたすら待った。何日も何日も。後悔だけが黒い霧になっていく。
僕は焦り、ついには自分から行動していった。もうこれ以上待っていたら後悔の海が水槽なみに溜まる。そんなのは嫌だ。
思いきって、病院の外まで来てしまったことは迂闊だった。あまりにも外の景色が綺麗すぎて、見惚れて外に来ていた。
今は春らしい。ピンク色の桜が風によってひらひらと舞っている。綺麗だ。
絶対安静の僕がこんなところにいたら、たちまち親まで呼んでこっぴどく怒られる。病院の庭を数キロ離れただけだ。大丈夫。急いで入れば誰にも見つからない。
「大胆だなぁ」
声のした方向を振り向いた。大きな桜の木の上に少年が座っている。
「君、危ないよ! 今すぐ降りてきて!」
そう言うと、少年はニコッと笑った。トレードマークの狐のお面を斜めに被って耳元にあるから。この前見れなかった素顔がはっきりと見える。
世に例えると美少年。強く尖った目尻に高い鼻。モデル並みにシュとした体格。雰囲気から堂々と勝ち気に溢れた少年だ。
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