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三章 侵略者とガーディアン
第31話 制裁
しおりを挟む「侵略者が三体もいて、君たちは始末するどころか、仲良くしている。あまつさえ、もう一体の侵略者に何もせず、惑星に帰した。これは異常事態だ、問題だ。ガーディアンとは、地球を守り侵略者たちを排除する役目。なのに、君たちときたら、これは罪です。これから、君たちの制裁をくだす」
最初何を言われたのか理解できなかった。腕を拘束されて台の上に立たされたときから、頭がガンガンする。ガーディアン機関を支える上の人間が集まっている場所。
ガーディアンの長、来栖家の敷地内で、三大柱がいる。来栖家に従う三大柱はいるのに、長がいないのは三大柱が仕切っている。
暗い静かな地下で、壁面には茶色く変色した拷問器具が飾られていた。誰かの血だ。使ったきり、拭いていない。
ぞっとするほど冷たい空気。冬のように凍え、歯がカチカチとなる。喉がひどく乾き、言葉がうまく出てこない。
「待ってください! これは何かの間違いです! 土岐様! 信じてくださいっ!」
ルナが涙を流して叫んだ。その声はひどく掠れて震えている。声がこだました。三大柱にギロリと睨まれた。ひっ、と小さな悲鳴が喉の奥から漏れる。
ルナはそれ以上、何も言えなかった。
蛇に睨まれたカエルだ。
「宇宙人は全員悪じゃない。優しい宇宙人もいる!」
代わりに口を開いたのは、アポロ。
涙を押し殺しながら、震えながら言った。
三大柱の一人、土岐は周りの幹部に目で合図を送ると、三人の頭に布を被せて別々の部屋へ連れて行かれる。
それぞれの部屋から、苦痛と恐怖に歪む悲鳴が響いた。その悲鳴は、一日、二日、一週間と続いた。
§
「いてっ」
「どうしたの?」
部屋で勉強しているとペンの切っ先が指に当たった。偶々部屋にいたコスモが顔を覗く。
「いや、ちょっとペンが指に当たっただけ」
「そう」
軽く当たっただけで大袈裟にしない。 血も出ていないし、眠りこけていたらその痛みで起きたなんてな。
相原家ではいつものように宇宙人がお菓子を食べながら侵略について語っていた。
「今日は何する?」
スナック菓子を食べながら、コスモが言った。
「喋るか食べるか、どっちかにしなさいよ。飛んできたじゃない」
スターが懐からタオルを取り出して、顔に付着したクズを拭き取る。一二〇gのスナック菓子はだいだい、三分足らずで完食する。コスモの食欲旺盛とダスクがどんどん食っていくからだ。
「遠慮というものを知りなさいよ」
目を放したすきにもう食べられてて、スターは二人に向かって怒気を放った。
「いつ、いかなるときでも食べ物があるときにありったける。サバンナの常識でしょ」
「ここサバンナじゃないし、しかもそれ、久しぶりに聞いた」
オービットがいた一週間の間、その言葉を聞いていなかった。恐らく、オービットの前ではその手のボケは封じたんだろうな。
コスモが二袋を開けて、それを机の上に広げる。パクパクそれを喉の奥に流してこんでいく。食べ物じゃなくて飲水みたいだな。
「ゴミ拾い、掃除、アイドル、政治家……こんなにやってもまだ成果が出ていない」
スターがはぁ、と深いため息ついた。机の上に肘をおいて頬杖つく。色んなことに手を染めても、成果は出ていない。ゼロに等しい。
「ため息ばかりで幸せが逃げるわよ」
ダスクがサクサク食べる。
「幸せは逃げていなし、そんなのは掴むものよ」
スターはふんぞり返って、それぽく言ってみせた。コスモはキョトンとした表情で「ため息すると幸せが逃げるの?」と訊く。
「地球では古来からそんな風に言うんだと。信じられないけど」
スターは鼻で笑った。
「迷信よ。ほんとに幸せが逃げていくなんて、ありえない。偶々ため息ついたら不幸になりました、みたいなことがあったからそう言われてるんじゃない?」
ダスクも微笑を含みながらそう言った。さっきため息ついたスターは、何も不幸なことが起きていない。至って元気。
これはもしや、地球人にだけ敵面するのかもしれない。話題の主体は偶々部屋にいた俺にかかった。
「試しにため息ついてみて」
コスモが軽く言った。実験台みたいに言うな。でもしつこくつきまとわれても面倒なので、一回ため息ついた。
すると、窓から烏が入ってきてバサバサと音を立てて室内に侵入。
「ぐわっ! なんだこいつ!」
「あら、新入り? 挨拶しにきたの?」
ダスクが腕を上げると、烏がその腕に止まる。コテン、と首をかしげる。通常の烏と比べると少し小さい。子供か。カァカァと鳴いた。
部屋の中はゴミと烏の翼が散乱している。
「早く追い出せ!」
「ちょっと、新入りが挨拶しにきてるの。そういかないでしょ」
ダスクが眉間にシワを寄せて言った。
この烏は、ダスクが〈情報〉として使役している烏たちだ。その新入り。烏は文句を言った俺にカァカァと鳴いた。
部屋の中に烏がいるのも不快だし、外には烏の大群が。電線に何匹もとまって、部屋の中を覗いている。なんとも言えない視線が降り注ぐ。
コスモとダスクは、慣れた様子で烏を撫でていた。なんだこのアットホームな雰囲気。出ていけと言っても、出てくれない。むしろ、こっちが出たほうがいいのか?
烏はダスクに挨拶すると、翼を広げて出ていった。バサバサと音を出して、曇天の空に向かって羽ばたく。
俺はため息ついた。こんなのが当たり前みたいになっているけど、どうも慣れない。すると、烏の大群が庭に何かを落としていってる。糞だ。
カッとなって烏に向かって「こんにゃろー」と叫んだ。空にこだまする。烏たちは相原家をぐるりとすると、今度こそ高く飛んでいった。
もしまた来たら、追い出してやる。
「ほんとに不幸になった」
コスモが目を見開いた。
俺が試しにため息ついたとき、ほんとにため息ついたとき、不幸が立て続けに起きた。ため息つくと幸せが逃げることは迷信じゃないことが明らかになった。
俺も迷信だと思ってた。実際立て続けに起きてみないと分からないことだ。
「それじゃあ、夜中爪を切ると親の死に目に会えない、てのは?」
「試さないぞ」
「そこをなんとか!」
「爪切る前にお前らしばくぞ」
興味津々な三匹の頭にチョップをかけた。三匹は頭を悶絶し暫く、静かになる。少し冷静になったのか、部屋を片付けてくれた。お菓子のゴミと烏の羽が散乱している。
掃除をしたら、三匹は相原家を出ていった。軍手とゴミ袋を持って、ゴミ拾いにでも行くのかと思いきや、草むしりに行くらしい。近場の公園で草が荒れているのを、近所のおばさんから聞いたのを、今思い出して草むしりに行く。
太陽が真上に差し掛かり、真っ昼間。やるんだったらまだ涼しい朝のほうが良かったのに。
「ほんとに地域貢献してるんだな」
ボソリと呟くと、スターが反論した。
「違うから。わたしたち、誰も地域貢献なんてしてないから。ただ、言われたからするだけよ。人間と仲良くするのも、サターン様に言われてるからね」
どこかのツンデレかよ。
そんなキャラじゃないだろ。
一歩先に玄関を出たダスクが、顔の前に手をかざし、太陽を見上げた。
「確かに。真っ昼間にやるもんじゃないわね。早朝からやっとくべきだった」
外に出る前に紫外線対策をしっかりする。スターが顔やら足やらに日焼け止めを塗る。コスモにも塗ったくる。
コスモはそれを、最初は飲料水だと思ってペロペロ舐めた。すると、ペロと舐めた途端に微動だにしなかった。雷に撃たれた衝撃と同じような。
コスモの手から日焼け止めを掻っ攫うと、ダスクに勧めた。元々黒く褐色しているからダスクはいいと断わった。でも、スターは乙女なんだから、と押し付けた。
まだ七月にもなっていないのに、この暑さ、異常事態だ。ただ、じっとしているだけでも汗をかく。汗がジトと肌にひっついて、衣を脱ぎたくなる。
「わたしたちが侵略する前に地球温暖化で地球は破滅ね」
スターが日焼け止めを鞄の中に収めた。ダスクは塗ったくられた白い液を触らないようにカチコチ動いている。ロボットか。
「暑い、面倒くさい、明日にしない?」
コスモが一歩外に出ると、さっと家に入った。そんなコスモをスターが引っ張りあげ、陽の下に晒す。
「なんの為に日焼け止め塗ったと思うの! やるって言ったかりにはやらなきゃ!」
「私が嫌々言ってるのに、スターがそれを押し退けて白いのをぶっかけた」
「誤解を招く言い方しないでくれる?」
三匹は相原家から出ていって、暑い日差しの中を歩いていく。さて、嵐が過ぎ去ったような静けさだ。
宇宙人がいなくなると、隠れていた先住犬たちがヒョコリ出てくるはずが、今日は出てこない。時計の針の音がやけに響く。
ほんとに家の中に一人でいるみたいだ。少しだけ、ぞっとした。
気になって、様子を見てみると冷たい床面で腹を下にして寝ている。へっへっと赤い舌を出している。この暑さに、人間や犬までも死にそうだ。
エアコンをいれ部屋が涼しくなると、パタパタと駆け回ったのは言うまでもない。
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