うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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三章 侵略者とガーディアン

第32話 草むしり

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 公園の敷地内は暑いせいなのか、一人も子供の姿がいなかった。休日の昼間、いると思ったら、全くいない。そのせいか、仕事はかどりそう。
 太陽が真上にあるせいで、日陰がどこにもない。麦わら帽子を被っていてよかった。三匹はそれぞれに別れて草むしり開始。袋の中がいっぱいたまれば集合。
 ここに来る前に日焼け止めを塗ったが、汗でじとじとしてきて、溶けてきてると思ったダスクは、るんるんと動いた。スターが塗った日焼け止めは汗で溶けません。

 それぞれに別れて三十分足らずで合流した。袋の中はまだ半分以下。それでも集まったのは、暑い日差しに耐えきれなかったこと。
「地球のこの温度はなんなの。異常事態よ」
 ダスクが大きなため息ついた。
 芝生にごろりと寝転ぶ。
「はぁぁ、もう暑くて死にそう」
 スターが汗をタオルで拭き取った。

 三匹は固まって小さな日陰に座っている。アスファルトが暑い中、ここだけはひんやりしていて、尻も冷たくて感触がいい。
 向こうの景色では、炎天下を示す陽炎がゆらゆらと踊っていた。遠くの景色を惑わしている。頭もだんだんのぼせてきて、陽炎を見ていることしかできない。
「アイス、そうめん、カキ氷、スイカ……」
「やめて。今食べ物の話しないで」
「でもちょっと涼しくなった気がした」
 コスモが空を見上げてポツリポツリ言った。どう考えても独り言じゃない音量。コスモが言った夏の食べ物で少しだけ、ひんやりした空気が流れた。

 でもそれは一瞬のことで、またジリジリと暑い空気が肌を襲う。またあの涼しさが欲しくて、夏の食べ物を言い合った。 

 すると、公園の奥の道路からおばさんが声をかけてきた。
「あら、草むしりしているの? 偉いわねぇ。暑かったでしょ。ここにアイスから食べなさい」
 おばさんはニコニコしながら、マイバッグからアイス棒を差し出してきた。オレンジ色とピンクのと黄色いやつ。

 オレンジは恐らくオレンジで、ピンクはスイカ味、黄色はパイン味だろう。

 がっとそれを受け取ったのはコスモ。ピンクのやつを手に取った。袋を開け、アーンと大きく口を開けると根本まで頬張って、たった一口でアイスを食べ終わった。
 今度はスターの持っているパイン味のアイス棒に目をつけた。ギラリと光った眼差しで、アイス棒を凝視。

 狙いを定めてきていると直感したスターは、くるりと体を背けてみても、追いかけて来る。何度体を背けてみても、何度逃げても追いかけてくる。
「しっつこい! 何なのその無駄な執着は! あぁもうほら、コスモのせいで溶けてきてる」
 アイス棒がドロドロに溶けてポタポタとスターの手に落ちた。
「なら舐めればいい」
 コスモはゆっくりアイス棒に近づき、ペロペロと舐めた。
「ちょっとそれわたしの! はむ……んっ」
 便乗してスターも舐める。一本の棒を互いに舐めあって溶けていく蜜を味わっていく。おばさんは二人が仲睦ましくやっているのを見て、微笑んだ。
「元気だねぇ」
「元気があり過ぎて、逆に暑苦しいです。アイス棒、ありがとう御座いました」
 ダスクがペコリと会釈すると、おばさんは高笑いした。しわくちゃな顔がさらにしわくちゃになる。
「はははっ! 礼儀正しい子だねぇ」 
 おばさんは笑いながら手を振り、踵を返して歩いていった。一人残ったダスクは、クシャリと先端を齧った。冷たいものが口内に入ってきて、熱かった体温が急激に冷えていく。

 アイス棒を舐めたおかげか、体が冷えてまた草むしりを開始した。フェンスや遊具の隙間から、あらゆる所から生えてきている。
 誰も管理していないかのような、荒れ狂う様。草むしりだけじゃなく、ゴミ拾いまで行った。

 この公園は、確か、向かい側に住んでいる人間が管理しているはず。もうすぐ還暦になる老夫婦。動けるときと動けない時がある。
「だからといって、全部老夫婦に任せるのも問題じゃん」
 スターがむしった草を袋の中に荒く放り投げた。
「人間の感性はそうよ。特に日本人なんか『他の人がやってくれる。自分は関係ない』て目を逸らす。でもいざ、自分に矛先が向かってきたら、すぐに逃げ腰になる。弱い生き物よね」
 ダスクが向かい側の家を切なそうに見つめた。不意に冷たい風がふき、髪の毛が静かになびいた。木の葉がざわざわ揺れる。
「一樹はそんな人間じゃないよ?」
 コスモがキョトンとした表情で間に入った。スターとダスクが肩を竦める。
「あの男はそんな人間じゃないでしょ。強いし。叩くし痛いし」
 今朝のチョップのことを思い出したのか、スターが頭を抑えて言った。
「地球人でもあんな強いのいるなんてね、ギャラクシーが持たせた銃、不要だったんじゃない?」
 ダスクも頭を抑えて、眉間にシワを寄せて言った。塵が地球上で暴れていた頃、ギャラクシーが地球に降りて、持たせたあの銃。特に使うこともなく、未だにあの男の手に。
 また何かあったら、とギャラクシーが回収しなかった。
「あの男は不要でしょ。全部拳で解決できそう」
 スターが鼻で笑った。  
「でも弱いよ?」
 コスモが少しだけ、ムッとした表情で言った。コスモの〝弱い〟は自分からみたらの話。実際、宇宙人に守られている。
「そりゃ、コスモから見たら人間なんて米粒でしょうよ」
 ダスクが微笑した。コスモは「米粒」と口の中で連呼し、疎らに通る人たちを目で追いながら、米粒と呼ぶ。ダスクはすぐにそれを治した。

 人のことを米粒と言っちゃいけませんと。

 でもコスモは治らない。壊れた機械みたいに人を「米粒」と指まで指してくるので、スターとダスクはそれを封じた。

 そのとき、向かい側の家に車が止まった。郵便局員だ。男性が家のインターホンを鳴らすと奥から住民が顔を出してきた。その顔はついさっき知り合ったばかりで、草むしりしないとねぇ、と最初に言っていたおばさんだ。
「あのアイスおばさん管理者だったの!?」
「なるほどね。そういうことだったのね。なんか、騙された感がすごい」
 スターはわなわな震え、ダスクは感心したように切れ長の目をさらに細めた。
 老夫婦なりに、若者を使い慣らしている。あっぱれだ。見事に使わされた。
 

 あらかた草はむしった。入り口のほうは完璧だ。奥のほうは雑草がいっぱいでしかも、変な虫までいるせいで手が出せない。
 スターは断念した。
 コスモはエネルギー不足で休憩。昼飯はちゃんと食べてきた。アイス棒も食べてもなお、エネルギーが足りない。日陰のほうで一人横になって大空を見上げている。
 虫を見たダスクは、悲鳴を上げるどころか、すくいとって、別の場所に移す。
「さ、流石慣れてるわね」
 少し離れた場所でその後ろ姿を褒め称える。ダスクは日本に来る前、サバンナにいて、当然食べ物はサバンナにいる肉食動物と虫。

 朝食はコオロギのは依然変わらない。そんなんでよく、金城家から追い出されないな。割と金城家の家族は、マイペースで穏やか。コオロギを食べる猫なんて珍しくないと考えているに違いない。

 さっきダスクが別の場所に移したのは、芋虫だ。緑色した気持ち悪い虫。後ろでドン引きした表情で窺っているスターを見て、ダスクはため息ついた。
「この虫、今は不細工だけどいつかは美しい蝶になるのよ。あたしはこの不細工なころのほうが美味しいけど」
「食べるんかい!」
 ダスクはひょいひょいと虫たちを別の場所に移し、スターを手招きした。こちらは完了とした合図だ。でも、スターは入れなかった。虫がいないと分かっていても足が竦む。
 あのブニブニした感じの生き物がいた場所、てだけで、もう吐き気がする。

 コスモもスターも断念。ダスク一人が動いても、中々綺麗に行けない。真っ昼間からやって、暑さもあって体力が限界だ。ちょうど、お腹も鳴ったし、ここで解散とした。

 集めた草は火で燃やすことに。
 火で燃やしていると、煙を見た住民が消防署に連絡して、消防車が来て、近隣住民がわらわらと集まってきた。事がだんだんと大きくなっていく。
「何これ意味分かんない!」
「逃げるわよ!」
 ダスクはコスモを背負った。
 いい事をしたはずなのに、悪いほうにいっている。三匹は戸惑いながら、人がいない場所まで走っていった。

 疎らに通る人たちが、消防車が停まっている公園を見て、逃げる宇宙人たちを横目に、興味本位で歩んでく。

 公園から遠く離れると、ここは流石に情報が入っておらず穏やかな空気だ。周りは古びたアパート一軒しかない。他は貸家になった家ばかりで人の気配はしない。三匹は、ようやくここで足を止めた。
「ここまで来れば……大丈夫」
 肩で息をして、ダスクが言った。コスモは相変わらずぐうすか寝ている。ゆさゆさ揺れても変わらない。
「なんか、失敗した」
 悔しそうに顔を歪めるスター。ダスクは確かにと首を頷く。

 これは別に侵略ではない。なのに、腹の底からグツグツと湧き上がり、何かしていないと発狂しそうだ。
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