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二章 侵略者と訪問者 

第23話 UMAアイドルから政治家

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 宇宙人たちはUMAアイドルとして活動していき、早二日。アイドルとして徐々に慣れていき、人前でも踊れるように。記憶をいじっている設定でも、本物のファンも少なからずいて、終わったあとの握手会では「楽しかった」と言ってくれるファンがいて、どんなに心が救われたか。

 二日経ち、次の大舞台に立つためコスモたちは、事務所が貸してくれた大きな部屋でダンスの練習をしていた。
 実際に音楽をかけて、音に合わせて踊ってみることに。それぞれタイミングも合っいるし、問題なし。

 床面に腰を落として、ペットボトルの水を飲むスター。その隣には、コスモがくの字で体を折り曲げ寝ていた。連日のコンサートで疲れたのか、いびきをかいている。
 水を飲み終わると、ふと気づいた。
「そういえば、わたしたち、なんでアイドル活動してるんだっけ?」
 ふとした疑問が空気に流れた。
 ちょうど、曲が終わりスターの言葉がやけに響く。それまで鏡を見て、ダンスの練習をしていたダスクの動きが止まる。くるりと振り向き、飄々とした顔を見せた。
「そんなの、決まってるじゃない………あれ?」
 飄々とした表情がみるみるうちに暗くなっていく。眉間にしわをよせ、黙り込む。ずっとダンスの練習をしていたせいか、大粒の汗が頬から、白く柔らかそうな首筋を伝った。 
 
 隅っこで柔軟していたオービットが顔を上げ、話に入ってきた。
「そんなの、一番大事なファンの人に決まってます!」
「確かに大事だけども、他にも大事なことがあったような」
 スターは、頭を項垂れた。
 何か大事なことを忘れている。アイドルとして活動する前に、とても大事なこと。そんな気がしてきたダスクは、口をへの字にして考えてる。

 答えが出ぬまま、翌朝となり、大型のコンサートが開始。ファンの人たちに楽しんでもらうため、今日も張り切ってやるのに、中々その気が出ない。心の中にぽっかり穴が空いた感じ。
 ファンの人たちのために、全力でやらなきゃ、その心活きがあるのに反対に心が葛藤している。行く手前、エンジンを組まなきゃいけないのに、その暇さえなかった。もうそろそろ、ステージに上がる時間なのに、足が止まっている。

 今、一体どんな表情で立っている。落ち着かないまま、ファンの人たちを喜ばすことなんて、出来るのだろうか。

 落ち着かないまま、ステージに立った。わっと観客席から声があがった。いつもはそれで高揚するのに、全然しない。曲が始まりレッスン通り体が踊る。体が自然と覚えてて良かった。

 ようやく一曲歌え終わると、観客の盛り上がりは最高潮に。アンコールが回った。再び音楽が鳴り始める。汗を拭き、水を一滴飲むと表舞台へ。ファンの人たちに手を振ると答えてくれた。
 嘘みたいだ。自然と笑っている。しっかりと、ファンの人たちと向き合っている。その様が何より嬉しかった。

 そうして、コンサートが終わった。
 一時はどうなるのかと思ったけど、なんとか終わって一安心。ファンの人たちが忘れさせてくれたんだ。それぞれ、UMAアイドルの楽屋にいる。
 汗を拭いたり水を飲んだり、寝たり。それぞれ過ごしていた。
「思い出した。あたしたち、業界に入って情報操作するためにアイドルになったんだ」
 ダスクが語りだした。
 手には、タオルを持ってて汗を拭っていた。真剣な面持ち。きっと、歌って踊っている最中に気づいたのだろう。
「わたしもさっき気づいた。どうして忘れてたのかな」
 スターがはぁとため息ついた。
 
 アイドルとして売り出して、充実された毎日にソレについて忘れていた。自分たちが侵略者だってことも忘れて。アイドルとして生きていた。
「なんか、情けないわね」
 スターがポツリと呟いた。
 ただの独り言でも静かな空間では割と響く。半分くらいまで飲み干したペットボトルを机に置く。
「解散か……」
 オービットが切なく言った。
 そのとおり。UMAアイドルはこの日を持って解散。アイドルをやめ、本来やるべき事を達成しなければ。そう、宇宙人に戻るんだ。

 ファンの人たちや業界人の記憶を消す。大勢いればいるほど、時間も労力もかかる。けど、四人いるからそこは分担。
 ファンの人たちの記憶を消すのは、些か迷いが生じた。でも、本来やるべき、宇宙人として消さないといけない。迷いを捨てた。

 そうして、自分たちは宇宙人に戻っていく。明日になれば、UMAアイドルなんて存在しないし、人々の頭にも残っていない。そして、宇宙人たちも新たな侵略を立てている。

 次の侵略は『政治家になり、国民を操ること』
「アイドルと似てない?」
 スターがジト目になり、発案したオービットを睨んだ。オービットはそんなの気にしない様子で明るい表情を崩さない。
「大物政治家になれば、老若男女操れます。もう、配下に近い感じ」
 ふふふと笑った。
 またもオービットの提案したものが採用し、宇宙人たちは政治家に。

 今度は下積みからやっていこうと。
 でもやっぱり、採用されず仕方なく、業界内でも記憶をいじって政治家に入った。
「入ったけど、何をどうすればいいのか分からないよね?」
 スターが頬杖ついて、窓の外を見上げた。
 赤い絨毯が敷いており、ふかふかのソファーがある、高級そうな部屋にいる。
「まずは、われに従え的な?」
「そんなの言ったら、大炎上よ。見て。あたしたちのサイト、割と増えているのに。そんなことしたら失脚よ」
 ダスクがタブレットをみせて、やれやれとため息ついた。サイトでは、回覧数が三百以上いっている。もうすぐで四百いけそう。

 そういえば、大物政治家でも失言して国民から大バッシング受けてた。テレビで流れてた。 
 失言したらどうなるか、痛いほど見てきた。なので控えるように。基本かけない眼鏡をかけて、ダスクは不適にニヤリと笑った。
「ふふふ。まずは文部科学省になることが最優先ね」
「文部科学省?」
 スターたちは、聞いたことのない名前をオウム返しに聞いた。ダスクはタブレットに目を落としながら、スラスラ言った。
「文部科学省は、日本の行政の一つ。学術やスポーツなど日本を支えている大きな機関。そこに侵入し無事、文科省になれればこの国をいとも操れるでしょう」
 ダスクは、タブレットからこちらに目を向けた。眼鏡越しの目がギラリと光っている。照明なのか。獲物を捕らえた肉食動物みたい。

 情報について最も頼れるのは、ダスクだけどこうなると、行き過ぎて怖い。オービットは、目をハートにさせた「流石ですわ!」と興奮する。

 さて、UMAアイドルから政治家へ。
 宇宙人たちの奮闘はまだ続く。文部科学省に入るため、業界人の記憶をいじろうとしたが、ダスクに止められた。
 簡単に消すことだって出来るけど、行った数字だけは消せない。もし、政治家であれば数字はつきもの。その数字は簡単に消せない。
 それにまた、記憶をいじって消すと労力がかかるし、政治家に入ったらあの機関にも目をつけられる。

 歴史の裏にいて、歴史を詳細に書くあの機関・・・・に。歴史を動かせば、途端に現れる。ガーディアン機関よりも厄介な存在。力こそないが、暗躍にいて、必ずいつの時代眼を見張っている。恐ろしい機関だ。

「やっぱりやめときましょう」
 あの機関に目をつけられると、たまったもんじゃない。ダスクが眼鏡を外して提案した。あの機関に目をつけられると言うと、スターも引いた。でも、オービットは引かない。
「ダスク様! そんな奴ら怯える必要ないですわ! ただボソボソと生きて生命力がゴキブリ並、てだけで何の力もないんですから!」 
 オホホホと高笑いした。
 オービットは、その機関について『ボソボソと生きて生命力がゴキブリ並』だけだと思っている。実はそれだけじゃない。

 本領発揮したら、歴史だって動かせる。
 それに、一樹や麻美、自分たちの触覚が見える特別な人間も少なからずいるはず。UMAアイドルとして、お茶の間に顔を出したし、宇宙人がいること、もう知っいるはず。

 ファンの人たち業界人の記憶をいじっても、特別な人間には効かない。恐らく、既に書に書き出されているはずだ。派手に活動したせいで、もっと派手に動くと、消される可能性がある。

 政治家に入るのは断念した。元より、難しい単語なんて、ダスク以外知るわけがなく、政治家は難しいと判断。

 UMAアイドルから政治家、そしてようやくもとの生活に戻る。

 相原家に帰ると一樹に不審な目で見られた。
「もう辞めたのか? 三日坊主だな」
 アイドルとしてテレビに出ていたこともあり、UMAアイドル活動を知っている。これが侵略だってことを知らない雰囲気。台所に立っていて出迎えてくれた。夕食をつくっている最中だ。空腹を刺激するいい香りが部屋中包まっている。
 その匂いに、コスモが起きて、ダラダラとヨダレをたらした。ダスクにおぶさって。
「はぁん!? あたしら坊主じゃねぇんですけど舐めてんのか」
 オービットが合いも変わらず悪態つく。勿論その声はダスクには聞こえない。 
「まぁ、あたしたちには難しかったて、ことね」
 やれやれと天を仰ぎ、コスモを下ろす。その服には、もうすでにシミがついていた。 
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