うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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二章 侵略者と訪問者 

第29話 暴走

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 ガーディアンの三人組が交差点を間に、オービットと向かい合った。
「新たな侵略者! 悪さする侵略者は、このアポロ様が太陽に代わっておしおきよ!」
 アポロがそれぽいことを堂々と人前で叫んでいる。そばにいた宇宙人三人組がドン引きした表情で
「某アニメと同じこと言っている」
 と。

 ガーディアン機関がきて、事態は面倒くさくなる。ガーディアンは宇宙人を抹殺対象。普通ならコスモたちだってその対象だ。今は対象外だけど。
「会長、逃げましょう」
 と金城生徒会長の腕を掴んだけど、微動だにしない。真っ直ぐ、オービットを見つめていた。オービットはダスクを会長にとられたと思っている。これは逆恨みだ。
「生徒会長として、この事態じっとしてるわけにはいかない。君も逃げたまえて」
 俺は、ここに残ると言いたいところだけど、また、守られるのは嫌だ。会長と同じように生徒の避難を誘導した。校舎は窓ガラスが割れただけで、怪我している人はいない。

 校舎の中には、委員長もいてくれて体育館の誘導は、もうしていた。流石委員長だ。外の騒動を見て、青白い顔して駆け寄ってく。
「これは一体何がどうなっているの!? あの子はなんで暴れてるの!?」
 事情を知らない委員長は、外で起きた出来事を理解できない様子。事の発端は、ほんとに些細なことだ。

 ガーディアンとコスモたちが、オービットの暴走を止めてくれるに違いない。賭けるしかない。あいつらしかいないのだから。

 オービットの暴走に、さきに動いたのはガーディアンだった。この騒動を他者からみても抹殺の対象。オービットに殺意の刃を向ける。
 横断歩道を間にいるので距離がある。しかもその周りには、車や登下校している生徒がいる。あまり、武器は公に見せたくない。なので、レイが大口開けて、すぅと空気を吸った。

 お腹を風船に膨らませると、一気に吸った二酸化炭素を出した。またしても、強風が襲う。窓ガラスの破片が壁に突き刺さり、木々がざわざわと揺らめいた。木の葉がポロポロ落ちて折れる木もある。

 強風のせいで、横断歩道にいた生徒たちは腰を屈む。ただ、オービットだけがふっ飛ばされた。
「でかしたレイ!」
 ルナがぽんとレイの背中を押すと、レイはやり切った表情でコテンと眠る。ふっ飛ばされたオービットは、空中で回転して受け身を取った。
「地球人ごときが!」
 オービットの目がさらに光った。禍々しく黒く見える。視線の先はガーディアンだった。横断歩道から空中に浮いたものの、それほど離れていない。

 見下ろせば学校がある。その学校には本命の男がいる。
「オービットよしなさい!」
 地上にいるダスクが叫んだ。でも、そんな声も今のオービットには聞こえない。誰の声も聞こえない。誰に止めて、と言われても答えない。

 学校中のフェンスが深く潜っている地面から顔を出し、それを生きているかのように操る。不敵ににやりとルナが笑った。まるで、そこまで計算してたというないやらしい笑み。オービットは、ガーディアンなんか目にもくれない。ただ、相手は一人の地球人。そこをついて、アポロが宙に浮いていたオービットの頰にパンチを喰らわせた。

 たかが地球人の拳。そう軽く思っていた。だが、食らったオービットは顎を強打。そのまま地面に真っ逆さま。ガーディアンは特別な訓練をしている。そして、その拳も特別な武器を仕込んでいる。

 そうとは知らず、オービットは受け身を取らずに顔面をくらった。地上にいたルナがよし、とガッツポーズをする。

 同じく地上でそれを眺めていたコスモたちは、大口開けた。凶暴化した宇宙人をたった一撃で失神させたアポロの力が、凄まじいとようやく理解した。塵との戦闘のときは頼もしく感じてたが、敵に回ると怖い相手はこれ以上ない。

 ふっ飛ぶように地上に落下したオービットを、ダスクが受け止めた。オービットの顔面は赤黒く変色しており、顔の原型が留めていなかった。唯一右目だけは無事で、微かに右目がゆっくり開いた。
「ダスク、様……」
「オービット、大丈夫」
 ダスクは地面にオービットをおろすと、タブレットから水のペットボトルを出した。それを一滴一滴オービットの口に運ぶ。

 乾いた唇が潤っていく。唇と喉を潤していく。コクンコクンとゆっくり飲んでいくと、オービットの右目は、隣にいるダスクを捉えた。黒かった瞳が薄れ、元の真っ赤な瞳に戻っている。

 微かに唇が動いた。乾いた声。
「ダスク、様……ごめんな、さい。あた、し……」
「もういい。あたしを想ってやったんでしょ?」
 唯一残った右目からポロポロと大粒の涙が流れた。頬を伝い、ポタポタと地面を濡らす。泣いているオービットの背中を、ダスクは優しく赤子をあやすかのような手つきでポンポンと撫でた。

 それから遅れてやってきたのは、ガーディアン。
「確か、ここに落ちたと思うんだけど――あ、いたっ!」
 アポロがこちらを指差した。オービットがあからさまに体を強張る。殴られた頬はゆっくりながら完治していってる。煙が僅かに出て、肉と皮を再生していっている。その最中だ。

 強張ったのを気づいて、ダスクは自分が前に来てオービットを隠した。ルナは冷ややかな目つきで眺め、アポロは右手を天に翳した。殴った腕。
「いたいた! 大丈夫ぅ!?」
「大丈夫に見える!? 近寄ってこないで!」
 ルナはアポロを引っ張り戻した。アポロは首をかしげる。いまさっき殴った相手の状態を聞きに来るとか、ガーディアンはどんな神経しているの。
「ダスク様」
 後ろにいるオービットが、もぞもぞ動いた。振り向くと、もう大丈夫だという視線が返ってきた。
 オービットほ頬は完治して、あとは左目だけが再生していない。未だに潰れて、閉じかけている。

 残った右目だけで、訴えてきた。
 ダスクはひくと、オービットはゆっくり立ち上がりガーディアンと向き合う。ルナがじっと様子を見てきた。切れ長の瞳を一層細めて。
「ごめんなさい……」
 オービットは、ツゥと涙を流しながらペコリと頭をさげた。
 アポロもルナもダスクも驚いた。オービットは暴走したことを悔やんでいる。自分たちが思うよりよっぽど。

 アポロがふっと笑った。
「なーんだ、いい子じゃん」
「ちょっとアポロ、何ナックル仕舞ってるの。警戒を解かないで」
 ルナが鋭く睨みつけるも、アポロはそんなの気にしない。慈愛のような微笑みでオービットを見つめる。
「良かった。やっと正気を保てたんだ。やっぱり宇宙人は悪いやつらいないんだよ」 
 慈愛のような笑みに、許しをもらえて、オービットはほっとしたのか膝をくずした。それを支えるダスク。でも未だに警戒を解かないのがルナ。

「お人好しにも程があるんじゃないの。あの宇宙人のせいで今回、怪我人3名、窓硝子が割れた建物十五件、信号機や照明器具、数多の情報を遮断しました。こんなの、許せません」
 オービットの涙が引っ込み、俯いた。〈情報〉なら、ダスクがやればもとに戻る。信号機だって、監視カメラだってこの世のありとあらゆる情報を操れる。  
「そんな硬いこと言わないの! 反省してるならいいじゃん!」
 アポロがにかっと笑った。さっきまで敵対してた相手なのに、その笑顔はほんとに心が穏やかになる。黒いものがすっと溶けていくような。
 アポロの笑顔にルナの心もだんだん、解けていく。

 今回の件、ガーディアンは目を瞑ってくれた。宇宙人の暴走ではなく、街の不具合だと機関に説明する。
「大丈夫なの? それ」 
 スターが不安げに聞いた。
「隠蔽物だけど、仕方ないです。アポロがあぁ言ったらこうするしかない」
 ルナはやれやれ、とため息ついた。アポロは早速オービットと仲良くなっている。オービットも警戒を解いて、なんやかんや頭を撫でられている。
「それに、わたしたち信頼されるから!」
 話を聞いてたのか、アポロが自慢げに語る。それは本当のようで、ルナもレイも自慢に満ちた表情をしていた。それを見て、宇宙人たちはほっとする。

 一方、宇宙人は全部報告しなければならない。オービットが街を襲ったこと、危害を加えたこと。オービットにしてもこれは痛い目に合う。
 今は侵略者でもなければそれを名乗ることもできない下っ端。でもゆくゆくは、自分たちのあとを継ぐ大切な後輩。そんな大切な期間に、事件を犯してしまった。

 大切だからこそ、してはいけないこと、やってはいけないルールを知ってほしい。だからこそだ。

 割れた窓硝子や地面から抜いた柵を、今日中に戻す。
「先輩方、すみません」
 オービットがまた謝った。へにゃりと触覚が垂れ下がっている。
「違うよ。謝る対象は、違う」
 コスモが言った。一つ一つ小さな破片を戻している。
「そう。もっと言うべき相手は他にいる」
 ダスクが言った。オービットは、俯いてすぐに顔を上げた。向かった場所は体育館だった。
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