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八章 侵略者と再会
第84話 見つけた
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サターン様がどうして、地球侵略と一緒に青いものを見ろと言ったのか分からない。そもそもその青いものもコスモたちには、検討もつかない。
日を改めてまた相原家に集った。朝早くから遊びにきて、俺が学校に行っている間何をしているのかさっぱり分からない。図書館の本を借りてきては、部屋中に本を山のように積んでいるときもあれば、虫籠にいっぱいの虫を集めてきたときもあった。今日はなにをするのやら。
「くれぐれも、部屋を散らかさないようにしろよ」
学校に行く前にあいつらに忠告した。
「そんなの、言われなくても分かってますぅ童貞くん」
スターはべっと舌をだした。
「分かってねぇから言ってんだ。この前は青虫を大量に部屋の中に連れ出して、それが脱走して大変だったぞ。あと童貞じゃねぇ」
「さっさと行ってちょうだい。気が散る」
ダスクが冷たくあしらった。俺はむっとして三匹の顔を交互に見て、戸を閉めた。未だにふつふつと沸き起こる感情には、蓋できない。
お袋たちにも挨拶してから、学校に向かった。
ドスドスとした足取りで外を歩いているのを二階の窓から見下ろしたスターは、やれやれと天を仰いだ。
「やっと行ったか。たく……こっちは邪魔されたくないんだっつうの。それなのにいつまでもいて」
「あんたが変に煽るからでしょ」
ダスクが目を細めて言った。
「だってーぷぷ、童貞ていうネタ、からかわないて無理でしょ」
スターはひひひ、と意地の悪い笑みを見せた。ダスクははぁ、とため息。コスモだけは話が分からずハテナマーク。
「これだけ調べても、正解だって思うものがない」
ダスクが諦めかけている。
色々調べてみてもサターン様が見たい、と言っていたものは見つからない。調べ尽くしても労力がかかるので、困ったコスモたちは最終兵器を出した。
『姉が好きだったものですか?』
困ったコスモちはエンド様にすがった。タブレットで宇宙にいるエンド様とリモートする。
『あなた達! エンド様は大変忙しいのですよ。それなのに、こんなちょくちょく邪魔されたら迷惑です! 自分たちでなんとかしなさい!!』
エンド様の隣りに居たギャラクシーが吠える。画面いっぱいに顔を押し付けて、脂汗がべとりとくっついている。それを見ていたスターがドン引き。
エンド様は俯き、ぽつりぽつり喋りだした。
『僕はずっと、あの部屋にいたから、よく分からない。姉さんはよく、部屋に来てくれてたけど、忙しいときは声だけで……ごめんなさい。皆さんが困っているのに力に、なれ、なくて』
エンド様は急に小さくなった。
頭の上にキノコが増殖し、体を退治のように丸まった。王冠もつけて、やっと王となったのにネガティブな性格は変わらない。
『僕はなんて親不孝者だ。情けない……情けない』
『エンド様。お気を確かにっ!』
ギャラクシーが慌ててエンド様の頭に生えたキノコを伐採する。伐採してもキノコはにょきにょき生えてきて、どう足掻いても無理。一旦画面が真っ暗になった。終了ではなく、何かが伏せられている。
「どうかあのキノコを贈ってくれますように」
「どうかこの汚い脂汗を早く誰かが拭いてくれますように」
コスモとスターは胸の前で手を合せ願った。画面は変わらず真っ暗。でも奥の方からゴソゴソと音がする。
「服がめくる音と誰かの足音。ギャラクシーの声も聞こえる」
「流石サバンナ女ね……」
ダスクは画面に耳を傾け自慢げな表情。それから画面上にぱっと色がついた。映っているのはエンド様とギャラクシー。
頭の上に生えていたキノコはなし。服装も乱れもなし。ギャラクシーの整った髪の毛がさらに整っている。
『えっと、ごめんなさい……色々取り乱しちゃって』
エンド様はゴホンと咳払いして、話はギャラクシーが進める。
『サターン様は海産物が好きでしたね。以前、わたくしもあのお土産は少し分けてくださいました。とても絶品で、サターン様が骨抜きにされるのもあながち間違ってないと』
ギャラクシーは眼鏡を指で押し上げた。いつもの飄々とした表情で淡々と言った。スターはやれやれと天を仰いだ。
「だーかーらー、海産物に青いものなんてないでしょ! それに好物の話をしてないの!」
スターがふんぞり返って画面を見下ろした。コスモがくいくいと服を掴んでしゃがむように強要する。
スターが文句を言っている隣で、ダスクがハッとした表情をした。みるみるうちに血相を変えていく。
「ちょっと待って。よくよく考えるとどうしてサターン様は地球しかないものを知っていたの? 海産物は惑星で取れるけど、美味しくないし、宮殿の廊下にあった貝殻はどれも綺麗だった……地球人のこと、やたら好きだしもしかしてだけど……サターン様って地球に降りたことあるの?」
ダスクは恐る恐るギャラクシーに訊いた。ギャラクシーは目を大きく見開かせた。
『おや。知らなかったと?』
ギャラクシーの反応にスターとダスクはびっくりして身が固まった。
「え、え? それじゃあ待って待って。サターン様は地球に降りたことがあって、でもその時は侵略しなかったの?」
スターが頭を抑えて、あたふた。
「それが本当なら、サターン様はどうして自分で侵略せずにあたしたち子共を地球に行かせたの? 」
ダスクが鋭い口調で問いかけた。画面の奥にいるギャラクシーはふぅ、と息をついた。深呼吸しているような息。
『サターン様はその頃、侵略者じゃありませんでした。その頃、地球は価値のないものと認識されていたので、べスリジア星との内戦のほうが激しく、侵略の話なんて、まともに考えてなかった時代です』
ギャラクシーは淡々と言った。スターとダスクの口が開いて塞がらない。ぽかっと大口開けている。サターン様について知っていると思ってたばかりに、知らない事実を報せると、心に余裕がない。うまく受け止めきれない。
サターン様が一度地球に降り立ったことを知った三匹は、暫くしてから受け止めた。
早くに冷静になったのはダスク。話を続ける。
「サターン様はその頃から、地球に心酔してている。つまり、その頃の地球で変わらずにあったものといえば……海」
ダスクは言い当てた。サターン様が最も心酔したものを。答えを言い当てたので、リモートは終わり。最後にエンド様は微笑した。
『何も力になれなくてごめんなさい。頑張ってくださいね。僕も、精いっぱい頑張ります。皆さん、それじゃあ』
『エンド様、お別れの際は「さよなら、またね」ではないです。「また会うのを楽しみにしています」が適応です。もし、さようならでお別れしたら、相手も自分も寂しい気持ちになります。でも、楽しみだって言えばきっと、相手も貴方に会うことを快く思ってくれます』
ギャラクシーの話をきいて、エンド様は目を丸くしてそして、画面に顔を向けた。
『コスモ、スター、ダスク、また出会う日を楽しみにしています。それまで、精いっぱい頑張ってください』
今日一番の笑みを見せてリモートは終わった。三匹は真っ暗になった液晶画面をぼんやり眺める。今回明らかに出たのは自分たちの知らなかったサターン様の一面。
「まぁ、ただ侵略者として選ばれた子供だもんね。そこまで教えないもんね」
スターが苦笑した。
肩を落として、暗い表情を落とす。
「でも教えてくれてもいいと思うわ。地球には青い海があるってこととか」
ダスクが覆うように傷口に塩を塗る。
スターは俯いた角度でぎろりとダスクを睨みつける。コスモはふぅ、と息をついた。
「サターン様はもういない。責めても何も出ない」
コスモにしては、的を射た言葉。素直な言葉だった。スターとダスクは口を閉ざした。
「海?」
俺がオウム返しにその単語を呟いた。
三匹は自慢げにふんぞり返って笑っている。
「そうよ。ついに見つけたのよ! サターン様が言ってたことは、海だったのよ!」
スターがにんまり笑って、こちらにピースサインを送る。心の中では密かに「やっぱりか」と安堵した。
サターン様の過去を聞いて、それから、三匹にも託すようにそれらしき言葉を言った。青いものといえば「海」しかないだろ。割と最初から気づいていた。どうやらコスモたちは今知ったみたいで、サターン様が一度地球に降り立ったことは、三匹の心の中にはショックが大きすぎて、また部屋の中はお通夜ムード。
なによりも話してくれなかった、これが一番の衝撃と捉える。俺はサターン様から聞き出した過去を知らなかったふりをして、それなりに過ごした。
「海か。確かに青いもんな……」
「ね、どうしてすぐにぱっと思いつかなかったのか、わたしも不思議だわ」
スターは一人でにウンウンと頷く。
「どうするの? 行くの?」
コスモが寄ってきて、不安な表情で訊いてきた。
「答えを導いたのだから、行くしかない。コスモは嫌なの?」
ダスクがコスモの顔色をうかがう。コスモは「二人が行くなら行く」と承諾。もちろん、海に行くためには保護者が必要。必然的に俺もだ。
日を改めてまた相原家に集った。朝早くから遊びにきて、俺が学校に行っている間何をしているのかさっぱり分からない。図書館の本を借りてきては、部屋中に本を山のように積んでいるときもあれば、虫籠にいっぱいの虫を集めてきたときもあった。今日はなにをするのやら。
「くれぐれも、部屋を散らかさないようにしろよ」
学校に行く前にあいつらに忠告した。
「そんなの、言われなくても分かってますぅ童貞くん」
スターはべっと舌をだした。
「分かってねぇから言ってんだ。この前は青虫を大量に部屋の中に連れ出して、それが脱走して大変だったぞ。あと童貞じゃねぇ」
「さっさと行ってちょうだい。気が散る」
ダスクが冷たくあしらった。俺はむっとして三匹の顔を交互に見て、戸を閉めた。未だにふつふつと沸き起こる感情には、蓋できない。
お袋たちにも挨拶してから、学校に向かった。
ドスドスとした足取りで外を歩いているのを二階の窓から見下ろしたスターは、やれやれと天を仰いだ。
「やっと行ったか。たく……こっちは邪魔されたくないんだっつうの。それなのにいつまでもいて」
「あんたが変に煽るからでしょ」
ダスクが目を細めて言った。
「だってーぷぷ、童貞ていうネタ、からかわないて無理でしょ」
スターはひひひ、と意地の悪い笑みを見せた。ダスクははぁ、とため息。コスモだけは話が分からずハテナマーク。
「これだけ調べても、正解だって思うものがない」
ダスクが諦めかけている。
色々調べてみてもサターン様が見たい、と言っていたものは見つからない。調べ尽くしても労力がかかるので、困ったコスモたちは最終兵器を出した。
『姉が好きだったものですか?』
困ったコスモちはエンド様にすがった。タブレットで宇宙にいるエンド様とリモートする。
『あなた達! エンド様は大変忙しいのですよ。それなのに、こんなちょくちょく邪魔されたら迷惑です! 自分たちでなんとかしなさい!!』
エンド様の隣りに居たギャラクシーが吠える。画面いっぱいに顔を押し付けて、脂汗がべとりとくっついている。それを見ていたスターがドン引き。
エンド様は俯き、ぽつりぽつり喋りだした。
『僕はずっと、あの部屋にいたから、よく分からない。姉さんはよく、部屋に来てくれてたけど、忙しいときは声だけで……ごめんなさい。皆さんが困っているのに力に、なれ、なくて』
エンド様は急に小さくなった。
頭の上にキノコが増殖し、体を退治のように丸まった。王冠もつけて、やっと王となったのにネガティブな性格は変わらない。
『僕はなんて親不孝者だ。情けない……情けない』
『エンド様。お気を確かにっ!』
ギャラクシーが慌ててエンド様の頭に生えたキノコを伐採する。伐採してもキノコはにょきにょき生えてきて、どう足掻いても無理。一旦画面が真っ暗になった。終了ではなく、何かが伏せられている。
「どうかあのキノコを贈ってくれますように」
「どうかこの汚い脂汗を早く誰かが拭いてくれますように」
コスモとスターは胸の前で手を合せ願った。画面は変わらず真っ暗。でも奥の方からゴソゴソと音がする。
「服がめくる音と誰かの足音。ギャラクシーの声も聞こえる」
「流石サバンナ女ね……」
ダスクは画面に耳を傾け自慢げな表情。それから画面上にぱっと色がついた。映っているのはエンド様とギャラクシー。
頭の上に生えていたキノコはなし。服装も乱れもなし。ギャラクシーの整った髪の毛がさらに整っている。
『えっと、ごめんなさい……色々取り乱しちゃって』
エンド様はゴホンと咳払いして、話はギャラクシーが進める。
『サターン様は海産物が好きでしたね。以前、わたくしもあのお土産は少し分けてくださいました。とても絶品で、サターン様が骨抜きにされるのもあながち間違ってないと』
ギャラクシーは眼鏡を指で押し上げた。いつもの飄々とした表情で淡々と言った。スターはやれやれと天を仰いだ。
「だーかーらー、海産物に青いものなんてないでしょ! それに好物の話をしてないの!」
スターがふんぞり返って画面を見下ろした。コスモがくいくいと服を掴んでしゃがむように強要する。
スターが文句を言っている隣で、ダスクがハッとした表情をした。みるみるうちに血相を変えていく。
「ちょっと待って。よくよく考えるとどうしてサターン様は地球しかないものを知っていたの? 海産物は惑星で取れるけど、美味しくないし、宮殿の廊下にあった貝殻はどれも綺麗だった……地球人のこと、やたら好きだしもしかしてだけど……サターン様って地球に降りたことあるの?」
ダスクは恐る恐るギャラクシーに訊いた。ギャラクシーは目を大きく見開かせた。
『おや。知らなかったと?』
ギャラクシーの反応にスターとダスクはびっくりして身が固まった。
「え、え? それじゃあ待って待って。サターン様は地球に降りたことがあって、でもその時は侵略しなかったの?」
スターが頭を抑えて、あたふた。
「それが本当なら、サターン様はどうして自分で侵略せずにあたしたち子共を地球に行かせたの? 」
ダスクが鋭い口調で問いかけた。画面の奥にいるギャラクシーはふぅ、と息をついた。深呼吸しているような息。
『サターン様はその頃、侵略者じゃありませんでした。その頃、地球は価値のないものと認識されていたので、べスリジア星との内戦のほうが激しく、侵略の話なんて、まともに考えてなかった時代です』
ギャラクシーは淡々と言った。スターとダスクの口が開いて塞がらない。ぽかっと大口開けている。サターン様について知っていると思ってたばかりに、知らない事実を報せると、心に余裕がない。うまく受け止めきれない。
サターン様が一度地球に降り立ったことを知った三匹は、暫くしてから受け止めた。
早くに冷静になったのはダスク。話を続ける。
「サターン様はその頃から、地球に心酔してている。つまり、その頃の地球で変わらずにあったものといえば……海」
ダスクは言い当てた。サターン様が最も心酔したものを。答えを言い当てたので、リモートは終わり。最後にエンド様は微笑した。
『何も力になれなくてごめんなさい。頑張ってくださいね。僕も、精いっぱい頑張ります。皆さん、それじゃあ』
『エンド様、お別れの際は「さよなら、またね」ではないです。「また会うのを楽しみにしています」が適応です。もし、さようならでお別れしたら、相手も自分も寂しい気持ちになります。でも、楽しみだって言えばきっと、相手も貴方に会うことを快く思ってくれます』
ギャラクシーの話をきいて、エンド様は目を丸くしてそして、画面に顔を向けた。
『コスモ、スター、ダスク、また出会う日を楽しみにしています。それまで、精いっぱい頑張ってください』
今日一番の笑みを見せてリモートは終わった。三匹は真っ暗になった液晶画面をぼんやり眺める。今回明らかに出たのは自分たちの知らなかったサターン様の一面。
「まぁ、ただ侵略者として選ばれた子供だもんね。そこまで教えないもんね」
スターが苦笑した。
肩を落として、暗い表情を落とす。
「でも教えてくれてもいいと思うわ。地球には青い海があるってこととか」
ダスクが覆うように傷口に塩を塗る。
スターは俯いた角度でぎろりとダスクを睨みつける。コスモはふぅ、と息をついた。
「サターン様はもういない。責めても何も出ない」
コスモにしては、的を射た言葉。素直な言葉だった。スターとダスクは口を閉ざした。
「海?」
俺がオウム返しにその単語を呟いた。
三匹は自慢げにふんぞり返って笑っている。
「そうよ。ついに見つけたのよ! サターン様が言ってたことは、海だったのよ!」
スターがにんまり笑って、こちらにピースサインを送る。心の中では密かに「やっぱりか」と安堵した。
サターン様の過去を聞いて、それから、三匹にも託すようにそれらしき言葉を言った。青いものといえば「海」しかないだろ。割と最初から気づいていた。どうやらコスモたちは今知ったみたいで、サターン様が一度地球に降り立ったことは、三匹の心の中にはショックが大きすぎて、また部屋の中はお通夜ムード。
なによりも話してくれなかった、これが一番の衝撃と捉える。俺はサターン様から聞き出した過去を知らなかったふりをして、それなりに過ごした。
「海か。確かに青いもんな……」
「ね、どうしてすぐにぱっと思いつかなかったのか、わたしも不思議だわ」
スターは一人でにウンウンと頷く。
「どうするの? 行くの?」
コスモが寄ってきて、不安な表情で訊いてきた。
「答えを導いたのだから、行くしかない。コスモは嫌なの?」
ダスクがコスモの顔色をうかがう。コスモは「二人が行くなら行く」と承諾。もちろん、海に行くためには保護者が必要。必然的に俺もだ。
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