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八章 侵略者と再会
第85話 海へ
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翌朝、まだ辺りがほんのり薄暗い時間帯。寝たら叩いても蹴っても起きないコスモがこの日だけは自分で起きてきた。
「おっはー!」
「朝から元気だな」
毎度のことながら、スターのキンキンした声は朝から響く。俺たちが一階で集まっていると愛犬たちが群がってくる。本来起きてこない主人に興奮してるかもしれない。
居間にいたダスクが子猫を優しく撫でていた。
「ダスクはネコ派か~」
居間に顔を出すと、ダスクはふっと笑った。
「ふっ。そうね。こいつらは今こんな小さいけど、大きくなると牙が生えてサバンナを駆け回るもの。今のうち手なづけてないとね」
「たぶん、それ、違うねこ」
すると、居間にコスモとスターが降りてきた。
「もう! しっかりしなさいよ」
「んむぅ……眠い。温い」
コスモは立ちながら眠っている。スターはそんなコスモを支えながら歩いくる。酔っぱらいの介抱みたい。
コスモが現れてくると、ダスクが手なづけていた子猫たちが怯え、すたこらさっさと逃げていった。撫でていた手のひらが空いて、ダスクはゆっくり戻した。
「んぅ……海へレッツゴー」
コスモは寝惚けた状態で腕を頭の上にあげた。
「その前に顔を洗ってこい。あ、朝飯つくるから、洋食と和食どっちがいい?」
俺は台所に向かった。スターは和食。ダスクは洋食と答えた。毎度のことながら、好みが分かってきた。それぞれの好みを作っていると注文してくる。すっかりここが料理亭になったな。
朝飯の準備をしていると、その香りでコスモの顔が覚醒した。目をキラキラと輝き寝惚けた面が嘘のよう。
「わたしはいつものを」
コスモはドヤ顔で台所にやってきた。俺は料理亭の親父じゃねぇよ。と言うのをなんとか止めて、手を動かした。
こいつらがこんな朝早くから相原家に集っているのは、海に行くため。早く準備をして、電車に乗らないといけない。ここは海から離された街で、電車に乗らないと海へいけない。
朝食もしっかり食べて、準備も整い、朝方の電車に乗った。電車の中は混雑していなかった。むしろ、スカスカ。朝勤のためサラリーマン風の人はいる。
あとは駅員さんだけだ。混雑もしていない室内のせいでコスモたちは騒いでいる。
「むぅ、レベルが上がらない」
「違う違う! そこのアタックは右からよ! そいつは確かに強いけどそのアタッカーをやれば瞬殺だったわ、さ、もう一度!」
「コスモは弱いわね~ほんとに。リアルでは強いのに」
「電車内では静かにしてくれ」
コスモたちは家から持ってきた携帯用ゲーム機を持ってきて、格闘ゲームをしている。コスモは割とパズルゲームが得意なのに自分の苦手な格闘ゲームを自らやっている。
コスモが苦戦をしいたげられてる横で、スターが大声を張り上げている。
電車内でその声がやたら響いて、眠っていたサラリーマン風のおじさんたちがぎろりと睨んでくる。
「スター、声を抑えろ」
「この高揚を抑えろって!? 今いいとこなの。黙ってて」
黙ってろ、とピシャリと言われたがそれはこっちの台詞だ。ダスクは気づいているようだが、あえて注意していない。コスモが苦戦をしいたげられてる中静かに応援している。
スターの声は鳴り止まず、ずっと大声出している。本人は応援しているつもりだが、うるさい。やけにうるさい。おじさんたちも殺気のような眼差しでこちらを睨んでくる。
散々うるさくしたせいで、向こうから駅員さんとおじさんがやってきた。眼光が鋭く牙のよう。
「あわわ……抑えろて言っただろ!」
「もがっ!」
俺はスターの口を両手で抑えた。やってくる人たちと喧嘩したくない。やがて声がなくなり、駅員さんたちは踵を返して去っていった。
「あ、危なかった……」
「んーんー!」
「あ、ごめん」
俺はほっとした束の間、スターを力づくで抑えていたのをすっかり忘れていた。両手を解放するとスターはズルズルと、床面に落ちた。俺は慌てて手を伸ばした。その背中はやっと空気を吸って、走ったように肩が上下している。
「はぁ……はぁ……そんなに強く責めなくても……んぁ、無理やりねじこんで窒息プレイでイク女じゃ、ないんだからね」
「悪い。全然聞こえなかった。それより大丈夫か」
手を伸ばし肩を掴んだ瞬間、よほどびっくりしたのか体が痙攣させた。
「おい、ほんとに大丈夫か!? すまなかった」
俺は顔色をうかがうために、腰を落とす。スターは震える腰をなんとか浮かせ、ダスクの隣に座った。いつもはコスモの隣なのに。コスモの横はスターで、その横は俺のせいで俺を避けるためにあえて、離れているダスクの隣に座ったのか。
今も乱れている息を深呼吸しているスターを横目で見ているダスク。
「窒息プレイて何?」
コスモが首を傾げた。ゲーム機から顔を出して。
「知らなくていい世界だわ」
ダスクが冷たく言い切った。
やがて、電車は海のある街にたどり着いた。電車を降りて、海のある海岸沿いに足を運ぶ。朝早くきたのに、着いたころには辺りが昼のように明るくなり、暖かくなった時間帯。
俺はこの街の地図をスマホでダウンロードして、海のある海岸沿いをどうやって行けるのか、調べた。
「どう?」
ダスクがスマホを覗いてきた。
「こっから右に曲がるな……〈情報〉のダスクなら烏使って道案内すればいいんじゃないか?」
俺はスマホから顔を出して、ダスクに提案したがダスクは困った表情をした。
「確かに得意だけど、この頃ちょっと調子悪くてね。地球の電子機器に頼むとしますか」
「任せろ。俺のスマホはそこらの烏より負けてねぇ」
俺はスマホを顔の前まで翳して、道案内をした。来たことのない街だから、色々と危ない。
野良犬には追い掛け回されるわ、変なヤンキーに絡まれるわ、最悪だ。そして、もっと最悪なのがそうした者たちから逃れるために、逃げ回って海岸沿いから遠く離れた場所にいることだ。
「さいっっあくっ! こうなるんだったら、ハムを連れてくるんだった!」
「やめてさしあげろ。ハムスターに勝つ希望が沸かねぇ」
スターは頭を振った。コスモがその頭を鷲掴みにして、止めている。きっと頭を振ったら大変だというのを知って心配して止めているが、頭蓋骨がギシギシいってる音が。
「仕方ない……」
ダスクは大きな息をついて、懐に手を伸ばした。何か考えがあるようだ。
「何か策があるのか?」
「ええ、もうこうなったら……宇宙船を使って飛ぶ」
「まじでやめろ。宇宙人目撃情報をこれ以上広めるな!」
懐から少し顔を覗かせていた土星形の宇宙船をしぶしぶ戻した。するとコスモが一歩前に出てきた。
「もうこうなったら、飛ばすしかない」
いつもの飄々とした顔で失神しかけているスターの体を持ち上げて、空に飛ばした。
「なんてことするんだ!」
俺が抗議している間にダスクも飛ばされた。ヒョイと次に持ち上げられたのは俺。
「おおおい! 死ぬぞ! 宇宙人はともかく、俺は死ぬ!」
「大丈夫。死なせない。大船に乗ったつもりでペンギンになってて」
「ペンギンは空飛べないぞ! その船一秒で沈むわ!」
最後まで言い終わってないのにいきなり、視界が青になった。青空だ。綺麗……なんて思うわけがなく、実際失神した。
§
冷たい何かが足に浸かった。浸かっては引いていく。浸かっては引いていく。その繰り返し。
なんだろう、地面がザラザラする。ベットじゃない。そして、潮の香りがすごい。海の香りがする。
「ん?」
俺はゆるゆると起き上がると、目の前に広がっていた光景は、一面青に染まった水だった。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。油のように海面が全く動かない海。青いペンキをぶっかけたように一面に広がっている。地平線もずっと続いている。
「あ、起きた」
隣にいたのはコスモ。
飄々とした表情。俺はとんとん、と寝ていた前の記憶を思い出してきた。コスモに怒りがわく。
「コースーモー」
「それより、着いたよ海」
コスモが海面を指差した。
元々白い肌に海面の光を浴びると、さらに艶がでる。スターとダスクは下着一枚になり、海の浅いところで、遊んでいる。水を掛け合ったりしている。
コスモは俺が起きたことに、やっとほっとしたのか、自分もその中に入っていった。俺はその背中を眺め、腰を浮かせた。
潮風がさぁと靡いた。穏やかな風だ。静かに靡いている。海には波紋が広がってやがて、大きくなり俺の顔を映している顔が歪む。
『海を見たことありますか?』
サターン様が哀しく言ったのを思い出した。俺は、中学生のときキャンプのときの一度きりだ。初めてじゃない。でもどうして心の中がこんなに温かくて、高揚されるんだ。心の中がじん、とする。
「はい。来ましたよ。全員で。貴方が見たいと言っていた海を」
俺は一人で呟いた。
その声は潮風にかき消される。ひときわ、大きな風がふいてきて、海から歓迎されてるみたいだ。
「おっはー!」
「朝から元気だな」
毎度のことながら、スターのキンキンした声は朝から響く。俺たちが一階で集まっていると愛犬たちが群がってくる。本来起きてこない主人に興奮してるかもしれない。
居間にいたダスクが子猫を優しく撫でていた。
「ダスクはネコ派か~」
居間に顔を出すと、ダスクはふっと笑った。
「ふっ。そうね。こいつらは今こんな小さいけど、大きくなると牙が生えてサバンナを駆け回るもの。今のうち手なづけてないとね」
「たぶん、それ、違うねこ」
すると、居間にコスモとスターが降りてきた。
「もう! しっかりしなさいよ」
「んむぅ……眠い。温い」
コスモは立ちながら眠っている。スターはそんなコスモを支えながら歩いくる。酔っぱらいの介抱みたい。
コスモが現れてくると、ダスクが手なづけていた子猫たちが怯え、すたこらさっさと逃げていった。撫でていた手のひらが空いて、ダスクはゆっくり戻した。
「んぅ……海へレッツゴー」
コスモは寝惚けた状態で腕を頭の上にあげた。
「その前に顔を洗ってこい。あ、朝飯つくるから、洋食と和食どっちがいい?」
俺は台所に向かった。スターは和食。ダスクは洋食と答えた。毎度のことながら、好みが分かってきた。それぞれの好みを作っていると注文してくる。すっかりここが料理亭になったな。
朝飯の準備をしていると、その香りでコスモの顔が覚醒した。目をキラキラと輝き寝惚けた面が嘘のよう。
「わたしはいつものを」
コスモはドヤ顔で台所にやってきた。俺は料理亭の親父じゃねぇよ。と言うのをなんとか止めて、手を動かした。
こいつらがこんな朝早くから相原家に集っているのは、海に行くため。早く準備をして、電車に乗らないといけない。ここは海から離された街で、電車に乗らないと海へいけない。
朝食もしっかり食べて、準備も整い、朝方の電車に乗った。電車の中は混雑していなかった。むしろ、スカスカ。朝勤のためサラリーマン風の人はいる。
あとは駅員さんだけだ。混雑もしていない室内のせいでコスモたちは騒いでいる。
「むぅ、レベルが上がらない」
「違う違う! そこのアタックは右からよ! そいつは確かに強いけどそのアタッカーをやれば瞬殺だったわ、さ、もう一度!」
「コスモは弱いわね~ほんとに。リアルでは強いのに」
「電車内では静かにしてくれ」
コスモたちは家から持ってきた携帯用ゲーム機を持ってきて、格闘ゲームをしている。コスモは割とパズルゲームが得意なのに自分の苦手な格闘ゲームを自らやっている。
コスモが苦戦をしいたげられてる横で、スターが大声を張り上げている。
電車内でその声がやたら響いて、眠っていたサラリーマン風のおじさんたちがぎろりと睨んでくる。
「スター、声を抑えろ」
「この高揚を抑えろって!? 今いいとこなの。黙ってて」
黙ってろ、とピシャリと言われたがそれはこっちの台詞だ。ダスクは気づいているようだが、あえて注意していない。コスモが苦戦をしいたげられてる中静かに応援している。
スターの声は鳴り止まず、ずっと大声出している。本人は応援しているつもりだが、うるさい。やけにうるさい。おじさんたちも殺気のような眼差しでこちらを睨んでくる。
散々うるさくしたせいで、向こうから駅員さんとおじさんがやってきた。眼光が鋭く牙のよう。
「あわわ……抑えろて言っただろ!」
「もがっ!」
俺はスターの口を両手で抑えた。やってくる人たちと喧嘩したくない。やがて声がなくなり、駅員さんたちは踵を返して去っていった。
「あ、危なかった……」
「んーんー!」
「あ、ごめん」
俺はほっとした束の間、スターを力づくで抑えていたのをすっかり忘れていた。両手を解放するとスターはズルズルと、床面に落ちた。俺は慌てて手を伸ばした。その背中はやっと空気を吸って、走ったように肩が上下している。
「はぁ……はぁ……そんなに強く責めなくても……んぁ、無理やりねじこんで窒息プレイでイク女じゃ、ないんだからね」
「悪い。全然聞こえなかった。それより大丈夫か」
手を伸ばし肩を掴んだ瞬間、よほどびっくりしたのか体が痙攣させた。
「おい、ほんとに大丈夫か!? すまなかった」
俺は顔色をうかがうために、腰を落とす。スターは震える腰をなんとか浮かせ、ダスクの隣に座った。いつもはコスモの隣なのに。コスモの横はスターで、その横は俺のせいで俺を避けるためにあえて、離れているダスクの隣に座ったのか。
今も乱れている息を深呼吸しているスターを横目で見ているダスク。
「窒息プレイて何?」
コスモが首を傾げた。ゲーム機から顔を出して。
「知らなくていい世界だわ」
ダスクが冷たく言い切った。
やがて、電車は海のある街にたどり着いた。電車を降りて、海のある海岸沿いに足を運ぶ。朝早くきたのに、着いたころには辺りが昼のように明るくなり、暖かくなった時間帯。
俺はこの街の地図をスマホでダウンロードして、海のある海岸沿いをどうやって行けるのか、調べた。
「どう?」
ダスクがスマホを覗いてきた。
「こっから右に曲がるな……〈情報〉のダスクなら烏使って道案内すればいいんじゃないか?」
俺はスマホから顔を出して、ダスクに提案したがダスクは困った表情をした。
「確かに得意だけど、この頃ちょっと調子悪くてね。地球の電子機器に頼むとしますか」
「任せろ。俺のスマホはそこらの烏より負けてねぇ」
俺はスマホを顔の前まで翳して、道案内をした。来たことのない街だから、色々と危ない。
野良犬には追い掛け回されるわ、変なヤンキーに絡まれるわ、最悪だ。そして、もっと最悪なのがそうした者たちから逃れるために、逃げ回って海岸沿いから遠く離れた場所にいることだ。
「さいっっあくっ! こうなるんだったら、ハムを連れてくるんだった!」
「やめてさしあげろ。ハムスターに勝つ希望が沸かねぇ」
スターは頭を振った。コスモがその頭を鷲掴みにして、止めている。きっと頭を振ったら大変だというのを知って心配して止めているが、頭蓋骨がギシギシいってる音が。
「仕方ない……」
ダスクは大きな息をついて、懐に手を伸ばした。何か考えがあるようだ。
「何か策があるのか?」
「ええ、もうこうなったら……宇宙船を使って飛ぶ」
「まじでやめろ。宇宙人目撃情報をこれ以上広めるな!」
懐から少し顔を覗かせていた土星形の宇宙船をしぶしぶ戻した。するとコスモが一歩前に出てきた。
「もうこうなったら、飛ばすしかない」
いつもの飄々とした顔で失神しかけているスターの体を持ち上げて、空に飛ばした。
「なんてことするんだ!」
俺が抗議している間にダスクも飛ばされた。ヒョイと次に持ち上げられたのは俺。
「おおおい! 死ぬぞ! 宇宙人はともかく、俺は死ぬ!」
「大丈夫。死なせない。大船に乗ったつもりでペンギンになってて」
「ペンギンは空飛べないぞ! その船一秒で沈むわ!」
最後まで言い終わってないのにいきなり、視界が青になった。青空だ。綺麗……なんて思うわけがなく、実際失神した。
§
冷たい何かが足に浸かった。浸かっては引いていく。浸かっては引いていく。その繰り返し。
なんだろう、地面がザラザラする。ベットじゃない。そして、潮の香りがすごい。海の香りがする。
「ん?」
俺はゆるゆると起き上がると、目の前に広がっていた光景は、一面青に染まった水だった。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。油のように海面が全く動かない海。青いペンキをぶっかけたように一面に広がっている。地平線もずっと続いている。
「あ、起きた」
隣にいたのはコスモ。
飄々とした表情。俺はとんとん、と寝ていた前の記憶を思い出してきた。コスモに怒りがわく。
「コースーモー」
「それより、着いたよ海」
コスモが海面を指差した。
元々白い肌に海面の光を浴びると、さらに艶がでる。スターとダスクは下着一枚になり、海の浅いところで、遊んでいる。水を掛け合ったりしている。
コスモは俺が起きたことに、やっとほっとしたのか、自分もその中に入っていった。俺はその背中を眺め、腰を浮かせた。
潮風がさぁと靡いた。穏やかな風だ。静かに靡いている。海には波紋が広がってやがて、大きくなり俺の顔を映している顔が歪む。
『海を見たことありますか?』
サターン様が哀しく言ったのを思い出した。俺は、中学生のときキャンプのときの一度きりだ。初めてじゃない。でもどうして心の中がこんなに温かくて、高揚されるんだ。心の中がじん、とする。
「はい。来ましたよ。全員で。貴方が見たいと言っていた海を」
俺は一人で呟いた。
その声は潮風にかき消される。ひときわ、大きな風がふいてきて、海から歓迎されてるみたいだ。
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