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九章 侵略者と未来人

第86話 未来人登場

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 コスモたちと海へ行き、あれから二ヶ月は過ぎた。早いものでガーディアン機関と一緒にお花見した桜は散って、今は緑の葉が実っている。
 散った桜の葉はどこにもなく、今は来る夏のため、アイスが盛んに売ってある。
「臭い」
 コスモがくんくん嗅いだ。
「そんなの言わなくても分かるから」
 スターが冷たく言った。
「この臭い落ちないわね」
 ダスクが肩を落として言った。
 俺は相原家に居座っている宇宙人共に消臭スプレーをふんだんにかけた。
「きゃ! いきなり射精するなんて、あん!」
「喘ぐな! 臭い!」
 俺は部屋中に消臭スプレーをかけ回して、部屋の中の臭いを薄めた。それでも臭いの元がいるせいで、臭いは取れない。
「臭い」 
 コスモが自分の臭いをくんくん嗅いだ。
「もうなんなの!? やっぱりゴミ拾いはやりたくない!」
 スターが机にうつ伏せになった。額にガンと打ち付ける。机にあったオレンジジュースが少し漏れて、コップをツゥと塗らせる。
「それもこれも、地球侵略のためよ。ゴミ拾いをすれば、地球人はさらにあたしたちに頭が上がれなくて従順になるはず。ちょっと、失敗したけど……」
 ダスクは苦笑した。
 コスモは臭いせいで物が食べれなくて不機嫌だ。臭いを連発で言い放つ。臭いことをわかっているから、スターはさらに激昂する。
「臭い臭い臭い臭いうるっさい! もうこうなったら、またもう一度お風呂にっ!」
「姉貴が入ってるから一時間は無理だぞ」
 俺がそっけなく言うと、スターがさらさらと白くなった。

 コスモたちは二日前、ゴミ拾いをした。コスモとスターは一度経験済みで、もう二度とやりたくないと断言したもの。それなのに、やったのは最近道端に落ちているゴミが多いからだ。
 清潔だった場所にある日突然ゴミが出現したら、流石の宇宙人もほっとけなくて「侵略する場所が汚らしいと不清潔!」とね。

 それでゴミ拾いをしてそのゴミを、ゴミ処理場にわざわざ持っていった。山のようにあるゴミの中に入り、それを捨てに行ったせいで三匹の体はこの二日間、臭い。
 消臭スプレーが切れかけている。また買っておかないと。昨日買ってきたばかりなのに。

「この臭いのをいつ取り払おう。いつ私は食べられる? 私はこの者たちが目の前にあるのに、食べられない。食べたいのにこの呪いのようなものは、いつ取り払える」
 コスモはわなわな震えている。お菓子が目前にあるのに、食べれない。お菓子に手を付けようとしても、自分の臭いを嗅いで手を引っ込めた。その繰り返しだ。壊れたロボットかよ。
「コスモが重症ね。厨ニ病になったみたい」
 ダスクがぷぷと笑った。
 スターは机にうつ伏せになったまま、ピクリとも動かない。乙女として死んでいると言ってたから心が今、死んでいるのだ。

 すると、大きな音がし家が震えた。机にあるオレンジジュースがコポ、と溢れて机の上にオレンジ色の水溜りが出来上がった。
 照明が激しく揺れ、棚にあった本もバサバサと音をだして床面に散らばった。
「なんだ、何が起きた……?」 
 俺は咄嗟に頭を低くして、腰を浮かせた。視界も前後に揺れて、天と地が一瞬だけひっくり返るような光景が見えた。
 俺の前にコスモがいて、びっくりした。さっきまで、離れた距離にいたのに至近距離にしかも、お尻を向けている。
「下がって」
 いつの間にか後ろにいたダスクに引っ張られ、コスモ、スター、ダスクの後ろに下がるポジションに。頭の中が混乱してて、何がどうなって、何が起きたのか理解不能。半分パニックになっている。
 大きな地震だったけど、一瞬だったしコスモたちがやけに警戒している。

「庭に何かいる」
 コスモが窓に向かっていく。元々開けている窓。窓縁に立ってピヨンと飛んだ。ここは二階。飛び降りても死なない高さだが、目の前で飛び降りたら、そりゃ焦った。
「コスモっ!?」
 スターとダスクも続いて飛び降りた。
 俺は焦って窓に向かった。見下ろすと三匹は生きていてピンピンしている。そういえば、宇宙人だったというのを今更ながらに痛感した。

 庭にいるのは、コスモたちだけじゃない。ピラミッド型の宇宙船がそこにあった。これが庭に着陸して、家が揺れたんだ。
 宇宙船の近くにある木が倒れて、花壇の花たちがぺちゃんこ。近隣住民たちも騒音を聞きつけてやってきた。

 まぁ、それはダスクが何とかするだろ。それよりも問題なのはあの宇宙船に乗っている人物は誰だ。やけにコスモたちが警戒しているからべスリジア星人ときたか。
 唐突にピラミッド型宇宙船の扉が開いた。やがて顔を出してきたのは、ツインテールの少女。

 少女は一歩地面に足を落とすと、周囲を見渡してぱあと笑った。両手を頭の上に伸ばして手のひらに太陽を翳す。 
「やっと着いたあぁぁぁぁ!! ここが二十一世紀!!」
 少女は幸せに満ちた笑顔でくるくる回っている。その後ろには飛行しているロボットが。すると、コスモが突進してきた。
 少女は間一髪避けると、地面にへたり込んだ。
「痛たたた、ちょっと! びっくりしたじゃない!」
 少女はコスモを睨みつける。横にいた小型ロボットの目と思わしき場所に色が映る。赤だ。赤い目を見て少女が笑ったのを見過ごさない。ゆっくりと立ち上がった。
「ふん。なる程あんたら、宇宙人かよ。好都合だ。思い切りかかってこい!」
 コスモが倒れていた木を起こして、少女にぶん投げた。これも間一髪で避ける。少女は懐から銃のようなものを剥き出し、コスモに銃口を向けた。

 銃ぽいけど、大きな大砲。先がたちまち紅蓮の炎を纏った。周りの空気を吸い込んでメラメラと燃えている。
「しね!!」
 少女の声と一緒に大砲が放った。壁が跡形もなくなり、その裏にあった地面までも燃えて黒く変色し溶けている。小さな武器とは思えないほど大きな衝撃。
 が、狙い損ねた。肝心のコスモは空中に避けて、少女が気づいたときには踵落としされた。

 武器がドサリと落ち少女もバタリと倒れた。心配そうに小型ロボットがうかがっている。目の色が青い。
 ダスクは倒れた少女に手を伸ばすと、ロボットの目の色が再び赤くなった。
 コスモが腕を掲げた。途端に小型ロボットはびっくりして、倒れている少女の陰に隠れる。ダスクはもう一度手を伸ばし、少女の額に手を添えた。

 どれくらいしていたのだろう。ダスクの顔色がみるみるうちに青くなっていく。
「どうしたの? またべスリジア星?」
 スターが問いかけた。
 ダスクはゆっくり目を開けると、少女の顔を凝視した。
「五十世紀からやってきた未来人」
 ダスクの言うことはにわかには信じ難いが、そのダスクも信じていない。


 少女の正体は五十世紀からやってきた未来人。隣にいた小型ロボットはパートナーであり、様々なものを分析できる能力。

 よほど踵落としが痛かったのか、少女はうなされている。ダスクは近隣住民の記憶を消してその間に、スターは少女を運んだ。コスモは壊された庭をもとに戻していく。
「何!? 何の音だったの!?」
 姉貴がバスタブ一枚で玄関に駆け寄ってきた。担がされた少女をみて、口をあんぐり。
「どうしたの!? その子!」
「あぁ、これは……」
 俺でも説明できない。未来人だということ、信じてないし信じられない。姉貴は少女を掻っ攫うと風呂に連れ込んだ。やることはペットと同じだよな。


 急に奪われたので、スターは虚無な表情。俺は肩を落とした。仕事を終えた二匹も家に上がった。宇宙船はそのまま。でも人に見られたらまずいので、透過シートを敷いている。
「あの子は?」
 ダスクが怪訝に聞いてきた。
「風呂」
 俺は姉貴に連れ出されたお風呂を指差した。ダスクは目を見開いた。
「大変っ! あの子、女の子じゃない! あの子……」
「ぎゃあああああああああ!!」
 姉貴の絶叫が家中に響きわたった。地震よりも揺れた気がする。俺たちは飛ばされたようにお風呂場に向かう。
「姉貴っ、どうした!?」
 俺は風呂の扉を叩き壊すように開けると、姉貴は脱衣場で腰を落としていた。目前には下半身を晒した少女が。

 俺は咄嗟に顔の前に手を翳した。
「何も! 何も見てません!!」
 また変態なんて呼ばれるか。
 少女はくるりと振り向いた。お尻だっから良かったのに、前なんて――。
「よく見ろお前、こんなのぶら下がった女いるか?」
 俺は恐る恐る指の隙間から覗いた。すると、既視感のあるものが股の間にぶら下がっているのがみえる。
「僕は男だ!」
「ええぇ!?」
 ツインテールだし、かっこうも女の子だった。声も女の子特有で可愛らしい。なのに、その下には逞しいものがついているなんて。誰が想像つくか。
「さて、目覚めて良かった。これから何されるのか――」 
「お風呂に入るのよ」
 正気を取り戻した姉貴が起き上がり、男の子だったと分かっても尚、お風呂に入れさせる。
「嫌だ嫌だ嫌だ!! おふろ!? 誰が女と入るかあ!!」
 少年の全力の抵抗。角にしがみついて離さない。
 だが、元暴走族の頭を務めていただけがある。姉貴の力に負けて、ズルズルと風呂に向かった。 
 中から虚しい叫び声が響きわたっている。

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