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再々
第63話 琉巧と富美加
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学校帰りに他校と付き合ってる女子と元カノが鉢合わせした。偶然か否か、そんなこと考えてる間に今カノと元カノとのバトルが始まった。
髪の毛を引っ張ったり、お互いの服を持って相撲取り。これを街中で繰り広げたのである。幸い、警察沙汰にならず、穏便に解決できたのは二人して僕を殴ったから。そのまま二人して帰っていった。喧嘩を止めることなくスマホで撮っていたから怒ったんだろうな。
「はぁ痛たた」
ビンタされて情けなく尻もちつく。
よっこらせ、と立ち上がった。女の子からのビンタはこれが初めてじゃない。付き合って別れていくうちによくあったことだ。
「伊礼の勉強でも見ときゃよかった」
ヒリヒリする頬をそっと触ると少し触っただけなのにそこから痛みがズキズキと走る。すぐ冷まさないと腫れるなこりゃ。
炎天下の夏。滑稽に笑うセミの鳴き声。憎たらしいほど綺麗な青い空。見上げた青空はペンキを塗り広げたように鮮やか。この世の苦悩や窮屈さも知らない青々としたもの。
学校に戻って伊礼の勉強でも見るか、このまま家に帰るか。あの、誰も帰ってこない一人ぼっちの大きな家に。やっぱりどこか寄っていこ。
踵を返すとコン、と足元に何かが当たった。見下ろすとそこにあったのはただのジャガイモだった。
「なんでこんなところにジャガイモが?」
拾い上げるとふと視線に知ってる人物を見つけた。ジャガイモを持ってその人物に近づく。
「富美加ちゃん、買い物帰り?」
同級生の妹が道場で蹲っていた。その周辺にゴロゴロとジャガイモが転がっていた。人は疎らに通るのに誰1人助けない。都会ではあるあるだ。
「琉巧さん。ありがとうございます」
僕は一つ一つジャガイモを拾っていく。エコバックに穴が開いてる。これじゃあ仕方ないな。学校指定カバンをなんとなく肩に背負っているよりかはこういう時に役立つもんだ。
バックの中にジャガイモをいれる。富美加ちゃんはペコリと会釈する。
「すごいですね。とーきょう」
「人混みとかね。色々疲れるよね」
「あ、それもあるんですけど」
あぁ、さっき助けれてくれなかった都会人かな。予想していたものより、その口から出た言葉は違っていた。
「女の人、街中で相撲取るんか、とびっくりしてその、頬大丈夫ですか?」
「うわ~見られてたか。まぁあんなに乱闘してたし。あ、全然大丈夫。叩かれるの慣れてるから」
笑ってごまかしたたけど、富美加ちゃんは真面目な顔して笑わなかった。難しいな小学生はクールな子が多い。
友達のボロアパートの姿が見えてきた。よく見ても、よく見なくても遠目からでも分かるほどボロいな。こんなところ、実際住めれる自信ない。富美加ちゃんは慣れた様子で階段を上がり合鍵で錠を開けた。ササッと台所にいってジャガイモを下ろす。
カバンはちょっと芋臭いけど、まぁ、いいか。助けになったならそれはそれで。
「じゃあ、お兄ちゃんによろしく、て伝えといて」
僕はカバンを肩に背負うと踵を返す。
だが、それを止めたのは富美加ちゃんだ。
「え? 富美加ちゃん?」
びっくりした。いきなり手を引っ張られたからだ。柔らかい小さな手。
「そのまんま帰さんべ。ほら、こっち」
富美加ちゃん僕の手を引っ張って強引にリビングに座らせた。え、これから何始まるの。富美加ちゃんはバタバタと台所に戻って冷凍庫を開ける。
何何。何だろう。行動力凄すぎて予想が取れない。少しだけ鳥肌がたっている。あれ程暑くてべっとり汗かいていた肌がひんやりした汗になっている。
「富美加ちゃん」
「動かんで」
富美加ちゃんは漸く台所から出てきて持ってきたものを僕の顔に当てた。突如、ひんやりとしたものがあてられてることに気づく。
「え、これ」
「早めに冷めんと腫れるべ。あんた、冷まさずにどっか寄り道するタイプやろ? そんなのだめ」
富美加ちゃんは僕の両頬を持って氷水を左頬にあてる。真剣な面持ち。
「当たり前じゃないことに慣れちゃアカンべ」
母親のような優しい声。気にかけるような優しい手つき。小さな手なのに全てを包み込む優しさ。
それはまるで――。
幼少期、僕が転けたときに母親がしてくれた優しさだった。母親は時々帰ってくる。父と違う別の男と一緒に。帰っても何もしない。家事と炊事はあんなに頑張ってた母親はいつの間にかそれを放棄してしまった。僕さえも。父もそれを知ってか母と違う女といる。幸せだったあの瞬間は一時で一瞬だった。
氷水でひんやりしていたのに顔に熱が高まった。気づいたら目から涙を流している。富美加ちゃんの太腿に氷水から滴る水と一緒に俺の涙が落ちた。
「そんな痛かったけ⁉ 大丈夫け?」
富美加ちゃんは慌てた。
「ごめ、痛かったけどこの涙は違くて……」
何て言ったらいいのだろう。小学生相手に母親を思い出したなんて言えやしない。黙っていると富美加ちゃんは空いてる手で頭をヨシヨシしてきた。
「大丈夫大丈夫」
呪文のように唱える。
かぁと火の手が顔に集まった。
けたましく鳴り響くセミは静かになり、ペンキで塗った青空はいつしかオレンジ色になっていた。
髪の毛を引っ張ったり、お互いの服を持って相撲取り。これを街中で繰り広げたのである。幸い、警察沙汰にならず、穏便に解決できたのは二人して僕を殴ったから。そのまま二人して帰っていった。喧嘩を止めることなくスマホで撮っていたから怒ったんだろうな。
「はぁ痛たた」
ビンタされて情けなく尻もちつく。
よっこらせ、と立ち上がった。女の子からのビンタはこれが初めてじゃない。付き合って別れていくうちによくあったことだ。
「伊礼の勉強でも見ときゃよかった」
ヒリヒリする頬をそっと触ると少し触っただけなのにそこから痛みがズキズキと走る。すぐ冷まさないと腫れるなこりゃ。
炎天下の夏。滑稽に笑うセミの鳴き声。憎たらしいほど綺麗な青い空。見上げた青空はペンキを塗り広げたように鮮やか。この世の苦悩や窮屈さも知らない青々としたもの。
学校に戻って伊礼の勉強でも見るか、このまま家に帰るか。あの、誰も帰ってこない一人ぼっちの大きな家に。やっぱりどこか寄っていこ。
踵を返すとコン、と足元に何かが当たった。見下ろすとそこにあったのはただのジャガイモだった。
「なんでこんなところにジャガイモが?」
拾い上げるとふと視線に知ってる人物を見つけた。ジャガイモを持ってその人物に近づく。
「富美加ちゃん、買い物帰り?」
同級生の妹が道場で蹲っていた。その周辺にゴロゴロとジャガイモが転がっていた。人は疎らに通るのに誰1人助けない。都会ではあるあるだ。
「琉巧さん。ありがとうございます」
僕は一つ一つジャガイモを拾っていく。エコバックに穴が開いてる。これじゃあ仕方ないな。学校指定カバンをなんとなく肩に背負っているよりかはこういう時に役立つもんだ。
バックの中にジャガイモをいれる。富美加ちゃんはペコリと会釈する。
「すごいですね。とーきょう」
「人混みとかね。色々疲れるよね」
「あ、それもあるんですけど」
あぁ、さっき助けれてくれなかった都会人かな。予想していたものより、その口から出た言葉は違っていた。
「女の人、街中で相撲取るんか、とびっくりしてその、頬大丈夫ですか?」
「うわ~見られてたか。まぁあんなに乱闘してたし。あ、全然大丈夫。叩かれるの慣れてるから」
笑ってごまかしたたけど、富美加ちゃんは真面目な顔して笑わなかった。難しいな小学生はクールな子が多い。
友達のボロアパートの姿が見えてきた。よく見ても、よく見なくても遠目からでも分かるほどボロいな。こんなところ、実際住めれる自信ない。富美加ちゃんは慣れた様子で階段を上がり合鍵で錠を開けた。ササッと台所にいってジャガイモを下ろす。
カバンはちょっと芋臭いけど、まぁ、いいか。助けになったならそれはそれで。
「じゃあ、お兄ちゃんによろしく、て伝えといて」
僕はカバンを肩に背負うと踵を返す。
だが、それを止めたのは富美加ちゃんだ。
「え? 富美加ちゃん?」
びっくりした。いきなり手を引っ張られたからだ。柔らかい小さな手。
「そのまんま帰さんべ。ほら、こっち」
富美加ちゃん僕の手を引っ張って強引にリビングに座らせた。え、これから何始まるの。富美加ちゃんはバタバタと台所に戻って冷凍庫を開ける。
何何。何だろう。行動力凄すぎて予想が取れない。少しだけ鳥肌がたっている。あれ程暑くてべっとり汗かいていた肌がひんやりした汗になっている。
「富美加ちゃん」
「動かんで」
富美加ちゃんは漸く台所から出てきて持ってきたものを僕の顔に当てた。突如、ひんやりとしたものがあてられてることに気づく。
「え、これ」
「早めに冷めんと腫れるべ。あんた、冷まさずにどっか寄り道するタイプやろ? そんなのだめ」
富美加ちゃんは僕の両頬を持って氷水を左頬にあてる。真剣な面持ち。
「当たり前じゃないことに慣れちゃアカンべ」
母親のような優しい声。気にかけるような優しい手つき。小さな手なのに全てを包み込む優しさ。
それはまるで――。
幼少期、僕が転けたときに母親がしてくれた優しさだった。母親は時々帰ってくる。父と違う別の男と一緒に。帰っても何もしない。家事と炊事はあんなに頑張ってた母親はいつの間にかそれを放棄してしまった。僕さえも。父もそれを知ってか母と違う女といる。幸せだったあの瞬間は一時で一瞬だった。
氷水でひんやりしていたのに顔に熱が高まった。気づいたら目から涙を流している。富美加ちゃんの太腿に氷水から滴る水と一緒に俺の涙が落ちた。
「そんな痛かったけ⁉ 大丈夫け?」
富美加ちゃんは慌てた。
「ごめ、痛かったけどこの涙は違くて……」
何て言ったらいいのだろう。小学生相手に母親を思い出したなんて言えやしない。黙っていると富美加ちゃんは空いてる手で頭をヨシヨシしてきた。
「大丈夫大丈夫」
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かぁと火の手が顔に集まった。
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