魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

文字の大きさ
2 / 101
Ⅰ 刺青の魔女 

第1話 ユナ

しおりを挟む
 耳につけているイヤホンからザザッとノイズがした。そのあと、人の声がする。バディのリュウだ。少し、ノイズ混じりなのは、イヤホンから繋がる電波が遠いから。

『ユナ、今のところ順調だよ。でも距離10㍍先に奴らがいる。気をつけて』

 自信に満ちた快活の声。
 そんなリュウの声を聞いて一安心するも、安堵している場合じゃない。リュウの言う通り、10㍍先にノルンの姿が現れた。

 人間より遥か二倍の大きさで、槍も矢も貫けない硬そうな甲冑姿。大きな翼を持ったノルンやサソリのような毒を放つ長い尻尾がある奴まで。その姿は不気味で、人間の構造からは考えられないほど異端。

「いたっ!」
 わたしの心は高揚し、飛行しながら聖剣を頭上にあげる。わたしの魔女具。自慢の聖剣でいつも磨いているため、愛着がある。
 ノルンがわたしに気づいた。
 ヒラメのように離れた目の色が黒から赤へと変わる。小さくて四つある眼が全て。
 眼の色が赤くなるのは攻撃態勢。眼前までやってきて聖剣を振り下ろした。

 斬った瞬間、肉の厚みと骨の感触が。生々しい感触が剣から腕へと伝わり、体の芯に響いた。
 硬そうな甲冑でも腹を引き裂き、真っ二つに別れている。この聖剣は特殊なもので別名〝この世のものなんでも斬れる〟とのこと。
 腹を引き裂き、中からモクモクと煙のように中身が出てきた。中身の寄生獣は尻尾が長い子どもでした。親玉と瓜ふたつの子ども。
 小さいがそれ故に数が多い、子どもは親玉よりかなり凶暴。それが一斉に襲い掛かってきた。

「くっ! こんなに居るなんてっ……!」
「ユナちゃん!」
 天の如くやってきたのはわたしの親友であり、同期のココア、ナノカ。

 ココアが必殺〝浄化の矢〟を放った。ココアの前に降り立った魔法陣から白銀の矢が現れ、四方八方に散る。
 そして、その矢が当たったが最後、ノルンは、恐怖よりも畏怖よりも抑制された感情になって消えるのだ。

 わたしを囲んでいた子どもたちがサラサラと砂のように消えていった。

「ココア! 流石っ!」
 わたしはすぐさま駆け寄って抱擁すると、ココアは照れくさそうにテヘヘと笑う。炎を連想させる赤い髪の毛に、笑ったら愛嬌のある顔が特徴的な子。
「感心してる場合じゃないよ! お二人さん!」
 ナノカが叫んだ。
 いつの間にか、周囲は大きなノルンに囲まられている。さっきまで居なかったのに。三~四匹いる、こんなに。わたしたちも加わらないと。ナノカに集まり、お互い、背をくっつける。
「こんなにたくさん……みんな、どこ行ったの?」
 ココアが涙混じりに言った。ナノカは鼻で笑った。
「フン。死んだのさ腰抜けめ」
 その異様に自信に満ちた明るい声は、ここではないどこかで発してほしい。
 わたしは聖剣をギュと握った。今さらながらに手汗が酷い。イヤホンからリュウの声が。もうすぐ、転移の時間だと。サバトまで転移する時間がカウントダウン式になってきた。
 これは、他の三人身につけているイヤホンも同じ。転移の時間までに眼前にいるノルンを駆除せねば。
「みんな、用意はいい?」
 わたしが言うともちろん、と返ってくる。わたしは1にの3の合図を出す。3と言った途端、お互い背中を蹴り、眼前のノルンに立ち向かった。
 ナノカは両手に担いだ大きななたを用い、器用に振り回した。鋼の刃が動くたびキラッと光る。厚くて幅のある刃は、ノルンの神経を抜群に斬れる切れ味だ。

 ナノカの前に立ちはだかったノルンは、肉と神経が見事に真っ二つに切られる。ちょうど、下半身と上半身の間の断面からわらわらと群がる子どももが肉厚からヒョコヒョコと顔を出している。まるで、土竜のように。それを一匹一匹排除していく。

 ナノカはわたしよりも戦闘力が高い。凶悪の相手さえも真っ向から立ち向かう勇気がある。
 同期だけど負けたくない。わたしはナノカに負けないぐらい剣を振り下ろした。
 いっぽうでココアは弓を真上に向けている。はちきれんばかりに湾曲まで。一つの魔法陣が中央に現れ刹那、同じ魔法陣が左右に現れた。
 魔法陣に囲まれると、弓を一気に射た。白銀色した矢がさっきよりも細かな粒として、四方八方に散る。
 ナノカ、ココアの活躍によって、残り時間10秒でノルンは一匹まで絞れた。
「やっと、一匹……」
 わたしの声はひどく枯れていた。
 ナノカもココアも息があがっている。腕が痺れて剣を胸の前まであげるのも一苦労。
 最後の一匹が襲い掛かってきた。獲物を食すように自分の体より倍に口を開け。口内からネチャネチャした透明の液体が歯を伝っている。
 わたしの目前にはノルンの口内が。
 ネチャネチャした透明の液体がわたしの頭上にボトと滴り落ちた。
 わたしの思考は一瞬止まった。歯がもうすぐ降りてくるというのに、体が痺れて動けない。
 死ぬ。
 思考が、心臓が、神経が、死にたくないと訴えかけてくる。突然、空気を引き裂く甲高い拳銃の音が。それと同時に目前の景色が変わった。

 奥歯が覗かれた口内から、白く無機質な室内に。
 さっきまで、広大な宇宙にいた。果てしなく続く闇に、白銀で美しい星々。それが今や、学校の教室ほどの広さ。室内の中央に、わたしとココア、ナノカが呆然と立っていた。

 帰ってきたんだ、サバトに。
 背後にふと気配がした。あのなんともいえない口内の体温ゾッとするほど、体に染み付いている。もう少し時間が遅かったら、食べられていた。
 恐怖が心臓から一気に体中を巡り、神経細胞が縮小した。恐る恐る振り向くと、そこに立っていたのは、同期のシノ。
 透き通った白い髪の毛に澄んだ青空の瞳。何を考えているのか分からない、いつも能面の表情。
 わたしの後ろに立っていたときも、変わらず、能面の表情だった。
 実は、あの残った一匹を仕留めたのはシノ。シノの魔女具はライフル。別名〝絶対命中〟視認したが最後、ノルンは必ず仕留める技。
「シノ……ありがとおぉぉぉぉ!!」
 わたしは勢いよく抱きついた。
 しかし、忍者のようにそれをかわすシノ。わたしは的がないまま、床に落下。顔面からいくところを寸前で腕で保つ。急いで振り向いて立ち上がった。
「もう! いいじゃん! おいで、シノちゃん~」
 わたしはジリジリと変質者のように詰め寄ると、眉に皺を寄せた。流石の能面少女も引いていることが分かった。
 すると、扉が開く音が聞こえた。白くて無機質な部屋だが、出入りする扉ぐらいはちゃんと作られている。
 壁全体も白く作られているので、どこか分からないが慣れていけば、あれは取っ手か、と冷静に分かる。
 その作りは本当に擬似したカメレオンみたいだ。みんなして振り向くと、それまで誰もいなかった室内に一人二人人が入ってきた。バディたちだ。

 わたしたち、魔女はノルンと戦う戦闘員で、その戦闘員を補助するのがバディ。バディは主に男子だ。

 わたしのバディはリュウ。さっき、イヤホンから指示を送ったのはリュウだ。
「お疲れ様。今日も無事で良かった」
「えへへ、あんなのたいしたことないよ」
 デレデレ笑うわたし。
「でも今のはシノのおかげだったけどな」
「もう!」
 優しい面もあるが、時に痛いところを悪戯っ子の表情で言うリュウ。魔女とバディが再会したところで、一つの影がわたしたちに忍びよってきた。
「みんな、ご苦労だった」
 男性らしく低音で、聞き取りやすい落ち着いた声。魔女学校代表者、並びに、わたしたちが通うこの学校の理事長。ハヤミ先生だ。
 鍛えあげた肉体がスーツ姿でもよく分かるほど、逞しい。
「最初の授業でこれ程生き残るなんて、優秀だな」
 ふっと笑った。「優秀」という言葉を聞いてわたしは胸が踊った。
 五人の魔女がゲートを通って、ノルンと闘う。そして、再びゲートを通って帰還した。「勝って帰還しろ」それが言わずとしれた暗黙のルール。

 これは、わたしが十二歳の話しです。この当時は、ノルンを倒すことに大志を抱いてました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...