魔女は世界を救えますか?

ハコニワ

文字の大きさ
54 / 101
Ⅲ 奪取の魔女 

第53話 だって貴方は私の希望だから

しおりを挟む
 ノルンが多い。ウルド様がいるのを分かっているからだ。けどどうしてだろう。それまでノルンたちは、わたしたちと遭遇すると必ず攻撃しかけてきたのに、わたしたちがいても攻撃仕掛けてこない。

 それよか、横を通り過ぎても何もしてこない。何なの。ノルンたちも儀式みたいに雷を見つめ、微動だにしない。
 動かないのは好都合。だけど、おかしい。こんなの、ノルンじゃない。動かない相手を斬るのは、些か心が。

 学校にだんだん近づくと、雷を落とす音とともに地震が地面を伝って伝わってくる。建物が一気に崩壊し、崩れた欠片が頭上から落ちてくる。
 道路もひび割れて、真っ二つに別れてる地面もある。西側のほうは、大丈夫だろうか。建物は崩壊していなくても、この揺れ、街全体に伝わっているはずだ。
 この揺れで、新たに死傷者が。

 ナズナ先輩、マナミ先輩は大丈夫だろうか。駄菓子屋のおばちゃんも、パン屋の直美さんも、声をかけてくれてた活きのいいおじさんも、みんな大丈夫だろうか。
 そんな心配が頭によぎった。
 それに一度も見かけていない、スズカ先輩も。今何処にいるのか分からない。
「スズカ先輩、途中まで一緒だったけどな」
 リュウがボソリと呟いた。
 あのとき、本当ならリュウの他にもスズカ先輩がいたらしい。スズカ先輩があのときいたら、一喝のあとに往復ビンタ。だと思う。

 けど、リュウは「だった」という。
 わたしたちが酷い目に合わされてるときに、もうノルンは襲撃していたとなる。わたしたちが知らない間に。それじゃあ、スズカ先輩はもうとっくに、学校にいるはず。


§


 何度も雷を落とされ、大きな地震が襲う。建物全体がぐらぐら揺れ、もうここも危うい。学校には先生たちはいない。みんなして外出している。保健室の主のマリア先生も、ハヤミ先生と何処かに行くと言って、外出している。
 寮にはもちろん、生徒がいるでしょうけど、学校の中でいるのは私だけ。動けない私は、この揺れに耐えるしかない。
 隣にはバディがいて助かった。
 動ける薬を飲んで、すぐにここを立ち去らないと。すると保健室に、ドタバタと足音をたてて何者かが入ってきた。 
「スズカさん……」 
「マドカ! 大丈夫!?」
 普段汗をかかないスズカの額には、びっしりと脂汗がわき、頬を流れてる。焦った様子で保健室に入ってきた。
「マドカ! 逃げますわよ!」
 私のそばにくると、背中を向けた。その態勢は、私を背中に乗せる態勢だ。二人きりのときは、スズカさんは素をみせるけど、誰かがいる目の前でその態度は、絶対見せない。徹底していた。
 スズカさんは、それでも態勢を変えなかった。うつむいて、表情ほ読み取れない。一体どこから学校まで走ってきたのか、肩で息をしていた。それを整える暇もなく、逃げるように動いている。
「さっき、薬を飲んで……しまったので」
「そんな効果を待つよりも、逃げるのが早いですわ!」
 恐る恐るスズカさんの首元に腕をまわした。同じ女の子で、同じ歳なのにこんなに頼れる背中を見たのは、初めて。
 恐る恐る首元に腕をまわすと、スズカさんが足を掴んで、担いだ。やっぱり同じ歳ごろの女の子におんぶされてるのは、恥ずかしい。
 それに、スズカさんは私よりも細いし、今にして恥辱心がかっと溢れた。
「わっ! 私、重いと思うので、その……」
「喋ると舌噛みますわよ」
 スズカさんは、私をおんぶするとゆっくり歩いた。崩れ始める校舎。棚に入っている薬瓶が雨のように降ってくる。
 窓ガラスも割れて、廊下はめちゃくちゃ。裸足のまま進んでいたら、踏むところでした。何度も落ちていく雷に、学校が学校じゃない。
 普段の景色が、目を疑う景色。
 信じられないけど、ノルンが攻めてきた現実を、受け入れるしかない。
 火薬と血の臭いが、風の運びで鼻孔に飛んできた。頭をガンガンいわせる強烈な臭いだ。特に血の臭いが濃ゆい。鼻孔がおかしくなる。
 街の方から離れてるのに、助けてと泣き叫ぶ声が。凄惨な光景が目に浮かぶ。この体じゃなかったら、すぐに駆けつけていた。
「どうしてノルンは、地上に降りてきたのでしょう?」
「ゲートを壊したそうですわ」
「いえ、そこからの道もありますけど……ゲートを壊したら、魔女に伝わるはず。それがありませんでした」
 マドカの真剣な問いかけに、スズカは、目を伏せた。
「……そんなの、今考えるものではありませんわ。攻めてきたら、ノルンから人を守るしかない」
「そうですね」
 マドカはふと気づいた。ここに来るまで、いくつものノルンと遭遇したはず。なのに、スズカさんには魔女具を使った形跡がない。
 魔女が魔女具を使えるのは通常は宇宙空間。けれど、地上に召喚しないといけないとき、そのときは、バディが必然的にいないと召喚できない。
 スズカさんのバディの姿はいない。バディなしは、魔女具なし。どうやってここまでやってきたのか。
「スズカさん、バディはいらっしゃらないのですか?」
「あいつは西側に逃げてる。ノルンと遭遇したけど、後輩たちが何とかしてくれたわ」
 つまり、スズカさんは魔女具を使えない。私が守らないと。私は今バディと合流してるから唯一魔女具を使える。
 後輩たちも抑えられないノルンと遭遇したら、私が盾になるしかない。

 もうすぐ外の扉が。あそこを出れば、外だ。外の光だけが、暗闇の中淡く光っている。スズカさんの足取りが急に早くなった。焦ったように。私は少しでも歩を遅めようとした。だって、外にはノルンの群れが。私ならまだしも、スズカさんが餌食になる。
「スズカさん、待ってください!」
「いつ崩壊するか分からない建物の中にいろ、と申しますの!?」
 バディも顔色を暗くした。
 何度も何度も落ちてくる雷に、校舎は耐えきれない。3階のほうは炎の海に包まれている。この1階も炎に包まれるのは時間の問題。穴が空いて、その空洞にある支柱がなくなると一気に崩壊する。
「スズカさん、アリス様を守らないと」
「分かっていますわ」
「私よりも、アリス様のところに――」
 いきなり、爆炎が襲った。
 その爆炎で建物が一気に崩壊する。恐れていたことが現実に。雪崩のように崩壊し、炎が一気に拡散した。たちまち辺りは火の海に。


 熱い。 
 灼熱地獄みたい。今すぐ服を脱いでしまいたいほど熱い。どうして急に、こんな暑さが。そっと目を覚ますと、視界が暗い。瓦礫の下にいるからだ。瓦礫の山に埋もれてる。
 赤い炎がすぐそこを包んでいる。
 でも、それなのに傷一つついていない。それは、スズカさんが私を庇うように覆っていたから。
 ポタポタと真上から滴り落ちてくる、赤い血。スズカさんの頭から。
「す、スズカさん」
「っ……」
 意識がある。苦しそうに顔を歪めた。
 呼吸ができるのは、ちょうど空洞があるところに埋もれたから。私が生きているということは、彼は死んでいない。逆もまた然り。
 こんな瓦礫、魔女具で払えばすぐだ。でも、スズカさんは私の腕を掴んだ。冷たい。こんなに熱いのに、スズカさんの体温だけは氷みたい。
「やっと、守れた……」
 とても、消え入りそうな声。呼吸。満足げに満ちた表情。私は、スズカさんの態勢を軽くしようと動いた。でも、スズカさんは「このままで」と私の行動を静止させた。
 スズカさんはポツリポツリ、その胸に秘めた想いを告げた。
「わたくしを庇ったときから、貴方はずっと損してる。損して、損して、挙句の果に大事なものも失って、わたくしはそんな貴方を見ていられなかった。最強だから、強いから、みんなして貴方を損な役につける。それで宜しいの? わたくしは許せなかった。だから嫌われていましたけど、でも、こうして、守ることができた。あのときの恩返しができた」 
 滴り落ちたのは、赤い血だけじゃない。透明な雫。その雫は、つうと頬を伝った。
 スズカさんは、あのときからずっと私の周りのことをよくやってくれた。それは、ほんとに罪滅ぼしで。弁当も、水筒も、楽しく話した会話も全部。
「私は友達だと思っていました」
 急に涙が込上がってきた。
 罪滅ぼしだって、思ってても、スズカさんといるとそんなの忘れる。忘れてた。

 スズカさんの体温がより冷たくなった。熱い空気が忘れる。
「わたくしの最高の友達ですわ。だって、貴方はわたくしの希望ですから」
 にこと微笑んだ。
 それは、とても幸せに満ちた表情で。
 スズカさんはゆっくり、落ちてきた。スローモーション。彼女が支えてた瓦礫が降ってくる。
 肩に落ちてきたとき、彼女の鼓動、呼吸をしていない。苦しかったでしょう。暑かったでしょう。でも、彼女は幸せに満ちた表情で天に召された。
 スローモーションで崩れてきたものが、私たちの上を被る前に、大鎌を召喚。瓦礫の山を振り払った。
 地上へ。
 一帯の瓦礫も薙ぎ払い、バディも助ける。彼は、気絶はしてるものの怪我はしていない。

 外の空気は、決して新鮮なものじゃなかった。火に覆われた火薬の空気だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...