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Ⅴ 救済の魔女
第77話 異変
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ハルトに教えられ、今日の朝のニュースの録画を見た。開始早々クーデターを起こした人間が、スタジオにいて和気あいあいとキャスターと話している。
話の内容は、ウルド様について。他には魔女。魔女なんかがどうして契を結べたのか、渾沌意味不明だと笑いものした。
命を引き替えにした彼女たちを、笑いものした。許さない。でも、番組はこれで終わらなかった。
クーデターを起こしている奴らのアジトが、堂々とお茶の間で披露されていた。そこは少し古びてて、廃墟になった建物の中でそいつらはいた。男たちがいっぱい。
黒い服を着ている。闇に溶け込むよう、黒くしてるんだと。他にも、女性や子供がいた。まさか、連れ出して攫ったとか。
でも、その人たちは男たちと一緒にいて幸せそうにしている。テレビに向かって、ピースサインを送っている。
何だか、幸せそうに映っている。
これが敵の本拠地とは思えない。
次にスタジオが映し出されて終了。アジトが映し出されてキャスターも、その周りも、嬉しそうにしている。
普通は、クーデターを起こしている奴らのことを迷惑するのに。どうしてニコニコしているの。おかしいよ。スタジオの空気がおかしいのか、わたしの頭がおかしいのか。
本当に、クーデターは世界で容認されている。この人たちの行いが、本当に正しいと思っている。わたしは耐えきれなくて、テレビをけした。
ずっと映してたら、おかしくなりそう。
わたしは頭を抱えた。
カーテンを閉めて、テレビを見ていた。すると、カーテンがいきなり開いて、顔を出したのはリュウ。
そういえば、ここはリュウの定位置。ここでリュウは寝転がったり、珈琲飲んだり、くつろいでいる。
リュウはいつものように、中を開くと、わたしがいたからびっくりしていた。事情を話すと、なる程と理解してくれた。
リュウはビデオを淡々と見ていた。冷たい表情で。クーデターを起こしている人たちの、アジトが映りこんだとき、この建物が何処かをすぐに突き止めた。
机の上に地図表を広げ、北側の方角を指差した。わたしたちの街では遠い。宮殿では近い。宮殿の近くにクーデターたちがいるなんて、どうして捕まらないの。
最近頻発しているクーデターに、早めに仕事を切り上げるそうだ。そういえば、ハルトとは朝顔を出したきり。暇になったら少しでもここの研究室に来るのに。
やっぱり気まずかったのかな。と思いきや、バタバタと足音をたててやってきた。
「お邪魔しまーす!」
早めに仕事を切り上げるから、片付けをしていた最中だった。こっちは片付けているのに、ハルトは椅子に座った。ハルトだって、クーデターの件は知っているのに、なんて脳天気な。そういえば、ハルトはここに住んでるんだ。帰らなくていいんだ。
でも、ほんとに親御さんとか心配しないのかな。どうしてここに住んでいるのか、知りたい。
「そういえば、街のほうに、黒い集団がいたような」
ハルトがおもむろに言った。
「黒い集団?」
わたしはオウム返しに訊いた。黒い集団と聞いて、不安がよぎる。ハルトは開いている窓を指差した。窓の向こうは、街景色が見える。
魔女学校ほどではないけど、ここから見える街景色は、とても美しい。ここも街の中の建物だけど、わたしがいるここの研究室は二階。大きな建物だから、見渡せる。
街の景色が小さくて、人が蟻のよう。
だから、黒い集団がいるのを見えるはず。わたしは恐る恐る窓の外を見下ろした。黒い集団は分からない。そもそも、ここは広いから黒い服を着ている人間なんて、誰でもいる。
「黒い服着ているだけじゃない?」
「そうかな?」
ハルトは、腕を組んで考え込んでいる。その間、片付けは終わり。わたしはこれで帰るけど、ハルトはずっとここにいるんだ。
もしかして、寂しくてここに来たのかも。でも、帰らないと。それに、こんなに近くにいると変にドキドキしてしまう。
「黒い集団に気をつけろよ~」
といって、ハルトと別れた。
その表情は、置いていかれた子犬のような、寂しさに打ちのめしていた。それが、どうも頭から離れられなくて、さっき別れたばかりだけど、ハルトのところに向かった。
「あ、明日も、絶対顔出すから!」
当たり前のことを宣言した。
ハルトもびっくりして、固まっていた。わたしは恥ずかしくて、それだけ言うと別れた。言ったあとのお祭り。どうしてそんなことを言ったのか、どうしても分からない。
ただ、ハルトが寂しそうだったから、それだけ。わたし、ほんとにおかしいかも。
辺りはまだ明るい。こんな時間帯に帰ったのは、初めてだ。たぶん、まだ夜ご飯つくってないよね。材料買って帰ろうかな。
すると、すんと焦げ臭い臭いが風で運んできた。何かが燃えるような臭い。周りの人たちが騒ぎ出した。
それは、臭いが飛んでくる風の方向で。わたしは思わずその方向を見ると、建物が燃えていた。知っている場所だ。
「孤児院が、燃えている」
わたしはいても立ってもいられなくて、走った。子供たちが大変だ。あの業火の中、もし、助けを求めていたら。
わたしはがむしゃらに走った。孤児院へすすむにつれて、焦げ臭い臭いが嫌なほど頭に響き、人もたくさん群れていた。
そして、孤児院へとたどり着くと、わたしは息が止まった。目の前の光景が信じられない。この現実が悪夢のように感じる。
孤児院の建物が真っ赤の炎に包まれていた。炎が二階ある建物まで、燃え広がっている。黒煙があがり、赤い飛沫が遠くにいても飛んでくる。
こんなに遠いのに、熱がここまで伝わってくる。パキパキと燃える音と、泣き叫ぶ子供たちの声が響く。
門は開いてて、子供たちが大人の人たちに助けられていた。
「みんな!」
子供たちは、わんわん泣いて大人たちに縋っていた。怪我をしている子もいるようだけど、全員いる。良かった。わたしはほっと胸をなでおろした。束の間。
「マロちゃんがいない」
誰かが言った。
誰かが言うと、他の子にも伝わり広がっていく。マロちゃんがいないことに、みんな、パニック状態になったいた。
「落ち着いて! そのマロちゃんて子は中にいるの!?」
訊くと、子供たちは泣きながら頷く。
ダイキが抱えてたあの赤ん坊、マロちゃんがまだ中にいる。二階まで赤い炎に包まれた建物。あの中に。
みんな、マロちゃんが助からないとわんわん泣いている。わたしは服を脱いだ。厚着だから、あの中に入ると死ぬかも。
「みんな、大丈夫。マロちゃんは助かるから!」
「でも、炎が」
「大丈夫。奇跡は絶対にあるんだよ」
そう言うと、近くにあった水を頭からかぶり、業火の中へ。救急隊や消防団の声を背に、わたしは炎の中に。
熱い。赤い炎が床も天井も壁も燃えている。マロちゃんが寝ている場所は、玄関を通って右に曲がり、二つの部屋を通り過ぎて三つ目の部屋で寝ている。
大丈夫。
わたしは何度でも言い聞かせた。この言葉は、いつだってわたしを前に向く。
孤児院が燃えていることに、シノとダイキがようやく現れた。子供たちが無事なことに、一安心するも、マロちゃんを救いにわたしが中に入ったことを知り、消防団に必死に救急を求めた。
消防隊だって、必死に炎をかき消している。それでも、ゴオゴオと燃える炎は、止まらない。
中に入ると、その熱さに肌がピリピリした。赤い炎と煙が立ち込めてて、何処に進んでいいのか分からない。とりあえず、玄関は通ったのは確認した。
わたしは手を伸ばし、壁がどこにあるのか手探りで探した。白い霧が充満してて、近くでも全然見えない。
煙の臭いを吸わないように、ハンカチで鼻と口を抑えた。パキパキと天井壊れていく。もう少ししたら、二階が崩れてくるかも。早く助けないと、わたしもマロちゃも死ぬ。
死ぬ。
久しぶりの感覚だ。言葉では表現できないあの感じ、これは恐れ。わたしはこの経験を、何度も何度も経験してきた。
死ぬかもしれない、て思ったときはいっぱいあった。今こうしている。誰かを助けている。マロちゃんの悲鳴が聞こえた。すぐ近くだ。わたしは慎重に歩いた。
その時、床が崩れた。コンクリート製だから、足が落ちるとそこから、激痛が走った。感電されたような痛さが足から神経へ。足の裏の皮が剥がれる熱さ。涙が出た。
炎は全てを燃やしつくし、ついには天井が壊れた。押しつぶされる。そう思ったとき、冷たい雨が頰を伝った。
天井から雨が降ってくる。正確には、建物の天井ではなく、この世界のドームの天井から。ザァァと降りしきる大雨。前が見えないほどの豪雨だ。
おかげで炎が一気に沈下。わたしの足も対して、火傷していない。わたしはズルズル引きずって、マロちゃんのいるベットへ。マロちゃんはグスグス泣いていた。わたしは抱きかかえ、ズルズルと玄関のほうまで這いつくばる。
豪雨は一瞬で、炎が沈下したらすぐにやんだ。きっと、誰かの仕業だろう。この炎のために、雨を降らすボタンを押したんだ。助かった……。ありがとう……。
玄関までたどり着くと、わたしは一安心して意識を失った。
話の内容は、ウルド様について。他には魔女。魔女なんかがどうして契を結べたのか、渾沌意味不明だと笑いものした。
命を引き替えにした彼女たちを、笑いものした。許さない。でも、番組はこれで終わらなかった。
クーデターを起こしている奴らのアジトが、堂々とお茶の間で披露されていた。そこは少し古びてて、廃墟になった建物の中でそいつらはいた。男たちがいっぱい。
黒い服を着ている。闇に溶け込むよう、黒くしてるんだと。他にも、女性や子供がいた。まさか、連れ出して攫ったとか。
でも、その人たちは男たちと一緒にいて幸せそうにしている。テレビに向かって、ピースサインを送っている。
何だか、幸せそうに映っている。
これが敵の本拠地とは思えない。
次にスタジオが映し出されて終了。アジトが映し出されてキャスターも、その周りも、嬉しそうにしている。
普通は、クーデターを起こしている奴らのことを迷惑するのに。どうしてニコニコしているの。おかしいよ。スタジオの空気がおかしいのか、わたしの頭がおかしいのか。
本当に、クーデターは世界で容認されている。この人たちの行いが、本当に正しいと思っている。わたしは耐えきれなくて、テレビをけした。
ずっと映してたら、おかしくなりそう。
わたしは頭を抱えた。
カーテンを閉めて、テレビを見ていた。すると、カーテンがいきなり開いて、顔を出したのはリュウ。
そういえば、ここはリュウの定位置。ここでリュウは寝転がったり、珈琲飲んだり、くつろいでいる。
リュウはいつものように、中を開くと、わたしがいたからびっくりしていた。事情を話すと、なる程と理解してくれた。
リュウはビデオを淡々と見ていた。冷たい表情で。クーデターを起こしている人たちの、アジトが映りこんだとき、この建物が何処かをすぐに突き止めた。
机の上に地図表を広げ、北側の方角を指差した。わたしたちの街では遠い。宮殿では近い。宮殿の近くにクーデターたちがいるなんて、どうして捕まらないの。
最近頻発しているクーデターに、早めに仕事を切り上げるそうだ。そういえば、ハルトとは朝顔を出したきり。暇になったら少しでもここの研究室に来るのに。
やっぱり気まずかったのかな。と思いきや、バタバタと足音をたててやってきた。
「お邪魔しまーす!」
早めに仕事を切り上げるから、片付けをしていた最中だった。こっちは片付けているのに、ハルトは椅子に座った。ハルトだって、クーデターの件は知っているのに、なんて脳天気な。そういえば、ハルトはここに住んでるんだ。帰らなくていいんだ。
でも、ほんとに親御さんとか心配しないのかな。どうしてここに住んでいるのか、知りたい。
「そういえば、街のほうに、黒い集団がいたような」
ハルトがおもむろに言った。
「黒い集団?」
わたしはオウム返しに訊いた。黒い集団と聞いて、不安がよぎる。ハルトは開いている窓を指差した。窓の向こうは、街景色が見える。
魔女学校ほどではないけど、ここから見える街景色は、とても美しい。ここも街の中の建物だけど、わたしがいるここの研究室は二階。大きな建物だから、見渡せる。
街の景色が小さくて、人が蟻のよう。
だから、黒い集団がいるのを見えるはず。わたしは恐る恐る窓の外を見下ろした。黒い集団は分からない。そもそも、ここは広いから黒い服を着ている人間なんて、誰でもいる。
「黒い服着ているだけじゃない?」
「そうかな?」
ハルトは、腕を組んで考え込んでいる。その間、片付けは終わり。わたしはこれで帰るけど、ハルトはずっとここにいるんだ。
もしかして、寂しくてここに来たのかも。でも、帰らないと。それに、こんなに近くにいると変にドキドキしてしまう。
「黒い集団に気をつけろよ~」
といって、ハルトと別れた。
その表情は、置いていかれた子犬のような、寂しさに打ちのめしていた。それが、どうも頭から離れられなくて、さっき別れたばかりだけど、ハルトのところに向かった。
「あ、明日も、絶対顔出すから!」
当たり前のことを宣言した。
ハルトもびっくりして、固まっていた。わたしは恥ずかしくて、それだけ言うと別れた。言ったあとのお祭り。どうしてそんなことを言ったのか、どうしても分からない。
ただ、ハルトが寂しそうだったから、それだけ。わたし、ほんとにおかしいかも。
辺りはまだ明るい。こんな時間帯に帰ったのは、初めてだ。たぶん、まだ夜ご飯つくってないよね。材料買って帰ろうかな。
すると、すんと焦げ臭い臭いが風で運んできた。何かが燃えるような臭い。周りの人たちが騒ぎ出した。
それは、臭いが飛んでくる風の方向で。わたしは思わずその方向を見ると、建物が燃えていた。知っている場所だ。
「孤児院が、燃えている」
わたしはいても立ってもいられなくて、走った。子供たちが大変だ。あの業火の中、もし、助けを求めていたら。
わたしはがむしゃらに走った。孤児院へすすむにつれて、焦げ臭い臭いが嫌なほど頭に響き、人もたくさん群れていた。
そして、孤児院へとたどり着くと、わたしは息が止まった。目の前の光景が信じられない。この現実が悪夢のように感じる。
孤児院の建物が真っ赤の炎に包まれていた。炎が二階ある建物まで、燃え広がっている。黒煙があがり、赤い飛沫が遠くにいても飛んでくる。
こんなに遠いのに、熱がここまで伝わってくる。パキパキと燃える音と、泣き叫ぶ子供たちの声が響く。
門は開いてて、子供たちが大人の人たちに助けられていた。
「みんな!」
子供たちは、わんわん泣いて大人たちに縋っていた。怪我をしている子もいるようだけど、全員いる。良かった。わたしはほっと胸をなでおろした。束の間。
「マロちゃんがいない」
誰かが言った。
誰かが言うと、他の子にも伝わり広がっていく。マロちゃんがいないことに、みんな、パニック状態になったいた。
「落ち着いて! そのマロちゃんて子は中にいるの!?」
訊くと、子供たちは泣きながら頷く。
ダイキが抱えてたあの赤ん坊、マロちゃんがまだ中にいる。二階まで赤い炎に包まれた建物。あの中に。
みんな、マロちゃんが助からないとわんわん泣いている。わたしは服を脱いだ。厚着だから、あの中に入ると死ぬかも。
「みんな、大丈夫。マロちゃんは助かるから!」
「でも、炎が」
「大丈夫。奇跡は絶対にあるんだよ」
そう言うと、近くにあった水を頭からかぶり、業火の中へ。救急隊や消防団の声を背に、わたしは炎の中に。
熱い。赤い炎が床も天井も壁も燃えている。マロちゃんが寝ている場所は、玄関を通って右に曲がり、二つの部屋を通り過ぎて三つ目の部屋で寝ている。
大丈夫。
わたしは何度でも言い聞かせた。この言葉は、いつだってわたしを前に向く。
孤児院が燃えていることに、シノとダイキがようやく現れた。子供たちが無事なことに、一安心するも、マロちゃんを救いにわたしが中に入ったことを知り、消防団に必死に救急を求めた。
消防隊だって、必死に炎をかき消している。それでも、ゴオゴオと燃える炎は、止まらない。
中に入ると、その熱さに肌がピリピリした。赤い炎と煙が立ち込めてて、何処に進んでいいのか分からない。とりあえず、玄関は通ったのは確認した。
わたしは手を伸ばし、壁がどこにあるのか手探りで探した。白い霧が充満してて、近くでも全然見えない。
煙の臭いを吸わないように、ハンカチで鼻と口を抑えた。パキパキと天井壊れていく。もう少ししたら、二階が崩れてくるかも。早く助けないと、わたしもマロちゃも死ぬ。
死ぬ。
久しぶりの感覚だ。言葉では表現できないあの感じ、これは恐れ。わたしはこの経験を、何度も何度も経験してきた。
死ぬかもしれない、て思ったときはいっぱいあった。今こうしている。誰かを助けている。マロちゃんの悲鳴が聞こえた。すぐ近くだ。わたしは慎重に歩いた。
その時、床が崩れた。コンクリート製だから、足が落ちるとそこから、激痛が走った。感電されたような痛さが足から神経へ。足の裏の皮が剥がれる熱さ。涙が出た。
炎は全てを燃やしつくし、ついには天井が壊れた。押しつぶされる。そう思ったとき、冷たい雨が頰を伝った。
天井から雨が降ってくる。正確には、建物の天井ではなく、この世界のドームの天井から。ザァァと降りしきる大雨。前が見えないほどの豪雨だ。
おかげで炎が一気に沈下。わたしの足も対して、火傷していない。わたしはズルズル引きずって、マロちゃんのいるベットへ。マロちゃんはグスグス泣いていた。わたしは抱きかかえ、ズルズルと玄関のほうまで這いつくばる。
豪雨は一瞬で、炎が沈下したらすぐにやんだ。きっと、誰かの仕業だろう。この炎のために、雨を降らすボタンを押したんだ。助かった……。ありがとう……。
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