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第4話 それはとても焦がれて
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脱走し罰を受けたあと、父の命令通り今日はご飯が渡されなかった。その日もその日も。一日が長く感じた。
お腹が空いても、暫くは身動きが取れなかった。体が鉛のように重い。三日間、意識が暗いところにさまよっていた。冷たくて、寒い場所。
もしかしたら、死んだのかもしれない。ここは天国かもしれない。
でもそんな訳はなく、暗くて寒い場所は地下牢だった。何度覚めてもこの場所だった。三日間、亮太くんが心配して訪ねてきてくれた。
こう何度も侵入してきて、よく家族に見つからないものだ。呆れを通り越して関心している。鉄格子越しから、亮太くんは色々な話をしてくれた。
帰ってくる返事がなかろうと、亮太くんはしつこくわたしにつきまとった。どうして、そこまでわたしを心配するの、と聞いた。
亮太くんは、わたしの目を見て恍惚とした表情で言った。
「好きだからだよ。初めて見たときから、こんなところに、僕の好きなものがあったなんて、それこそ、逃せはしないよ」
初めて人から〝好き〟と言われた。
好きとは何なのか、聞かなくても分かっている。相手のことを心から想っている。相手がどんなであろうと、関係ない。
心とは、自分の中にあるモノだ。人間の中で一番重要なエネルギー源。心とは敬うこと、慕うこと、想うこと、愛とは想い合うこと。
大勢いる中でこんなノロマで要領悪くて、不細工なわたしのことを、見つけてくれた。ここに隠れていたわたしを見つけてくれた。わたしも亮太くんのことを〝好き〟。
心がじん、となった。雨のように濡れていく。なのに体が温まる。冷たい場所だというのに、胸の中がポカポカしている。
初めての感情だ。だから、こういうときどうすればいいのか分からない。
黙りこくったわたしに気づいて、亮太くんはニコリと微笑んだ。
三日の飯抜きをようやく切り抜いた。この三日間、誰とも接触しなかった。毎日のように行われた兄との儀式も、治療といって痛めつけられることもなかった。
それなりに、平和だったのかもしれない。でも、この三日で溜め込んでいた彼らの欲望がわたしを襲うのを、分かっていた。
朝だというのに、兄に呼ばれた。部屋に来いと。儀式には少し早い時間帯だ。でも、三日も溜め込んでいたのを我慢できるはずもなく。
朝から何度も何度も繰り返された。わたしの体も自然と、兄から受ける恥辱に慣れていき、兄のモノではないと満足できない体にっている。
たったの三日、たったの三日なのにわたしの体も兄のモノに奥を貫かれただけで、慈愛に満ちた声が漏れた。
こんな自分は汚い。こんな姿を、亮太くんに見られたら、どんな酷いことされた罰より、残酷だ。どうか、見られませんように。
わたしは兄のモノに貫かれながら、何度もそれを願った。
声が枯れるまで、それらを繰り返した。求め、求められるがままに、体がおぼれた。行為が終わったあと、鏡を見ると白い肌に赤い花が。
首筋やお腹、足まで。まるで蚊に刺されたように腫れている。体がスッキリしている。なのに、胸のあたりがチクリと痛い。急いで服を着替えて兄の部屋から出た。
そっと出て、もう一人の兄に見つからないように早く地下牢に戻りたかった。なのに、タイミングよく、いや正確に言えば待ち伏せだったのかもしれない。
兄に見つかり、地下牢でまた鞭を打たれた。最近になって、拷問器具を使うようになってきた。
殺されない程度に痛苦を味わせる。わたしが泣き叫ぶと、兄はそれだけで至った。この地下牢だけは、やめてほしい。誰にも見つからないからとは保証できない。
もしこんな姿、亮太くんにも見られたら。
彼は時間帯限られず、良く頻繁に現れる。今だって、そこにいるかもしれない。やだ。こんな姿見られたくない。
ようやく兄が満足して、帰っていった。嵐のような一日だった。腹の底がぐつぐつと煮ている。動いていないと発狂しそうだ。腹の中が、黒いのがぐるぐる渦巻いている。このとき芽生えた感情は〝殺意〟だった。
その禍々しさは、わたしがコントロールできないほど、大きくなっていく。今日されたこと、八年間蹂躙されたことが募りに募って、殺意に変わった。
どうしてわたしがこんな酷い目に合っているの?
どうしてわたしなの?
わたし、悪いことした?
思い当たる節がない。五歳までほんとに幸せだった。たとえあれが、家族の演技だったとしてもあれは、紛れもなく〝絵に書いたような幸せ図〟。
こんなところ、出てってやる。わたしの翼はまだ、折れていない。
暴力に蹂躙され、暫くは身動き取れないのが通常で、でもこの日は、腹の底から溢れ出るモノに耐えかねて動き回っていた。
だから見つけたんだ。普段は見なかったものが。小さな部屋の中、隅っこに何かが刻まれていた。コンクリートでできているから、薄れている。
『タスケテ』
一文字だった。爪で引っ掻いて書いたような跡。 薄くなっているけど、これを書いた年月はそれ程長くない。
わたしはここに八年間監禁されてた。八年間、ここで暮らしてた。なのに、初めて見るこの跡。わたしじゃない。他の誰かがかいたものだ。
わたしの他にも、ここに誰かがいた。その人は、誰にも届かない救いを求めて、これをここにかいた。届かなかった救い。
わたしの他にも、誰かがいたことは分かった。なぜ。どうして。その人はどうなったのか、そんな疑問ばかりが浮かぶ。
亮太くんに前聞いたことがある。この家はどの自治区でも大きな家柄で、触れる辺り祟りあり。だから街のひとたちは、わたしたちにペコペコしていたんだ。たとえ、子供であっても。
家柄のある家。昔から、偉かった。
なんでも、昔からそこで生まれた女の子だけは見たことも聞いたこともなかったと。
男兄弟の末っ子だ。母は結婚してから、この家に入ってきた。そういえば、父の家族も全員男兄弟だった。女性は誰一人見たことない。偶然? そんなのあるわけない。女の子だけが生かされてないだけ。
わたしが女の子だから、女の子に生まれたから、こんな酷い目にあっているの? 理不尽だ。
なぜこの家は、女の子だけ生かされない。それには、理由があるはずだ。生きたい。わたしはここから生きて出たい。これに、立ち向かう。
目覚めた鳥は、ついに変貌する。
兄たちに聞いても無駄だ。母に聞いても腫れ物扱いだ。家族に聞いても無駄なこと。それなら、自分から調べるしかない。
この家には、歴史がある。それも随分と長く。だったら、外の住民にも分かるはずだ。この家が何なのか、この家には何が潜んでいるのか。
生憎、外には行けない。でも外と繋がる通信器がある。亮太くんだ。亮太くんに聞けば全てが分かるはず。
彼もわたしと同じ年頃。わかる範囲で聞き出そう。早く彼が来ないか、鉄格子越しの小さな窓を見上げた。
お腹が空いても、暫くは身動きが取れなかった。体が鉛のように重い。三日間、意識が暗いところにさまよっていた。冷たくて、寒い場所。
もしかしたら、死んだのかもしれない。ここは天国かもしれない。
でもそんな訳はなく、暗くて寒い場所は地下牢だった。何度覚めてもこの場所だった。三日間、亮太くんが心配して訪ねてきてくれた。
こう何度も侵入してきて、よく家族に見つからないものだ。呆れを通り越して関心している。鉄格子越しから、亮太くんは色々な話をしてくれた。
帰ってくる返事がなかろうと、亮太くんはしつこくわたしにつきまとった。どうして、そこまでわたしを心配するの、と聞いた。
亮太くんは、わたしの目を見て恍惚とした表情で言った。
「好きだからだよ。初めて見たときから、こんなところに、僕の好きなものがあったなんて、それこそ、逃せはしないよ」
初めて人から〝好き〟と言われた。
好きとは何なのか、聞かなくても分かっている。相手のことを心から想っている。相手がどんなであろうと、関係ない。
心とは、自分の中にあるモノだ。人間の中で一番重要なエネルギー源。心とは敬うこと、慕うこと、想うこと、愛とは想い合うこと。
大勢いる中でこんなノロマで要領悪くて、不細工なわたしのことを、見つけてくれた。ここに隠れていたわたしを見つけてくれた。わたしも亮太くんのことを〝好き〟。
心がじん、となった。雨のように濡れていく。なのに体が温まる。冷たい場所だというのに、胸の中がポカポカしている。
初めての感情だ。だから、こういうときどうすればいいのか分からない。
黙りこくったわたしに気づいて、亮太くんはニコリと微笑んだ。
三日の飯抜きをようやく切り抜いた。この三日間、誰とも接触しなかった。毎日のように行われた兄との儀式も、治療といって痛めつけられることもなかった。
それなりに、平和だったのかもしれない。でも、この三日で溜め込んでいた彼らの欲望がわたしを襲うのを、分かっていた。
朝だというのに、兄に呼ばれた。部屋に来いと。儀式には少し早い時間帯だ。でも、三日も溜め込んでいたのを我慢できるはずもなく。
朝から何度も何度も繰り返された。わたしの体も自然と、兄から受ける恥辱に慣れていき、兄のモノではないと満足できない体にっている。
たったの三日、たったの三日なのにわたしの体も兄のモノに奥を貫かれただけで、慈愛に満ちた声が漏れた。
こんな自分は汚い。こんな姿を、亮太くんに見られたら、どんな酷いことされた罰より、残酷だ。どうか、見られませんように。
わたしは兄のモノに貫かれながら、何度もそれを願った。
声が枯れるまで、それらを繰り返した。求め、求められるがままに、体がおぼれた。行為が終わったあと、鏡を見ると白い肌に赤い花が。
首筋やお腹、足まで。まるで蚊に刺されたように腫れている。体がスッキリしている。なのに、胸のあたりがチクリと痛い。急いで服を着替えて兄の部屋から出た。
そっと出て、もう一人の兄に見つからないように早く地下牢に戻りたかった。なのに、タイミングよく、いや正確に言えば待ち伏せだったのかもしれない。
兄に見つかり、地下牢でまた鞭を打たれた。最近になって、拷問器具を使うようになってきた。
殺されない程度に痛苦を味わせる。わたしが泣き叫ぶと、兄はそれだけで至った。この地下牢だけは、やめてほしい。誰にも見つからないからとは保証できない。
もしこんな姿、亮太くんにも見られたら。
彼は時間帯限られず、良く頻繁に現れる。今だって、そこにいるかもしれない。やだ。こんな姿見られたくない。
ようやく兄が満足して、帰っていった。嵐のような一日だった。腹の底がぐつぐつと煮ている。動いていないと発狂しそうだ。腹の中が、黒いのがぐるぐる渦巻いている。このとき芽生えた感情は〝殺意〟だった。
その禍々しさは、わたしがコントロールできないほど、大きくなっていく。今日されたこと、八年間蹂躙されたことが募りに募って、殺意に変わった。
どうしてわたしがこんな酷い目に合っているの?
どうしてわたしなの?
わたし、悪いことした?
思い当たる節がない。五歳までほんとに幸せだった。たとえあれが、家族の演技だったとしてもあれは、紛れもなく〝絵に書いたような幸せ図〟。
こんなところ、出てってやる。わたしの翼はまだ、折れていない。
暴力に蹂躙され、暫くは身動き取れないのが通常で、でもこの日は、腹の底から溢れ出るモノに耐えかねて動き回っていた。
だから見つけたんだ。普段は見なかったものが。小さな部屋の中、隅っこに何かが刻まれていた。コンクリートでできているから、薄れている。
『タスケテ』
一文字だった。爪で引っ掻いて書いたような跡。 薄くなっているけど、これを書いた年月はそれ程長くない。
わたしはここに八年間監禁されてた。八年間、ここで暮らしてた。なのに、初めて見るこの跡。わたしじゃない。他の誰かがかいたものだ。
わたしの他にも、ここに誰かがいた。その人は、誰にも届かない救いを求めて、これをここにかいた。届かなかった救い。
わたしの他にも、誰かがいたことは分かった。なぜ。どうして。その人はどうなったのか、そんな疑問ばかりが浮かぶ。
亮太くんに前聞いたことがある。この家はどの自治区でも大きな家柄で、触れる辺り祟りあり。だから街のひとたちは、わたしたちにペコペコしていたんだ。たとえ、子供であっても。
家柄のある家。昔から、偉かった。
なんでも、昔からそこで生まれた女の子だけは見たことも聞いたこともなかったと。
男兄弟の末っ子だ。母は結婚してから、この家に入ってきた。そういえば、父の家族も全員男兄弟だった。女性は誰一人見たことない。偶然? そんなのあるわけない。女の子だけが生かされてないだけ。
わたしが女の子だから、女の子に生まれたから、こんな酷い目にあっているの? 理不尽だ。
なぜこの家は、女の子だけ生かされない。それには、理由があるはずだ。生きたい。わたしはここから生きて出たい。これに、立ち向かう。
目覚めた鳥は、ついに変貌する。
兄たちに聞いても無駄だ。母に聞いても腫れ物扱いだ。家族に聞いても無駄なこと。それなら、自分から調べるしかない。
この家には、歴史がある。それも随分と長く。だったら、外の住民にも分かるはずだ。この家が何なのか、この家には何が潜んでいるのか。
生憎、外には行けない。でも外と繋がる通信器がある。亮太くんだ。亮太くんに聞けば全てが分かるはず。
彼もわたしと同じ年頃。わかる範囲で聞き出そう。早く彼が来ないか、鉄格子越しの小さな窓を見上げた。
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