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第一章 ルード皇国 編

勇者一行の帰路・その3

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帰路42日目
~勇者・ジークの視点~

 昨日の夜にティーエがマヤカに奇跡の水を飲ませたという事だった。
「なんで、そんなことをしたんだ?」
俺は問い詰めた。

 俺は、3人に2本ずつ奇跡の水を渡していた。この北の大陸を無事に帰るためだ。なにかあったらすぐに飲めるように渡していた。しかし、マヤカは昨日奇跡の水を必要としているようには見えなかった。

「ジークは知らないかもしれないですけど、マヤカは毎晩うなされていたんですよ。あの洞窟の後からです。何らかの呪いにかかっていたのです。その呪いは、危うく私にも発症しそうでした。マヤカの呻き声を聞いていると私までおかしな感覚に陥りそうでした。……でも安心してください。私も奇跡の水を飲んで対処しておきました。」

「えっ?」
2本も使ってしまったのか……

「そもそも、マヤカの話では、竜の化身は洞窟の外の者にも飲ませた方がいいということでした。あの時は外傷もなく飲むのを辞退しましたが、飲んだほうが良かったのですよ。なんらかの攻撃を受けていたに違いありません。それを治すために飲むように言ってくれていたのではないでしょうか?」
俺にはよくわからなかったので、マヤカに詳しく聞いてみた。

「そうね……たしかに、呪いにかかっていたかもしれません。」
しかし歯切れの悪い答えが返ってくるだけで真相は謎のままだった。

帰路42日目
~ドワーフ・ガラフの視点~

 呪い………そうか、戦闘になると前に出ていけなくなるのは呪いのせいかもしれん。そう考えて、腰にぶら下げていた奇跡の水の入った瓶を手に取った……

帰路55日目
~魔法使い・ティーエの視点~

 あれからマヤカの体調も治った様子です。夜にうなされることもなくなりました。危ないところでした。あのまま放置していたら、全員が呪いにかかっていたに違いありません。この天才魔導士がいなければ、パーティーは全滅していました。

 ジークは私が2本も奇跡の水を使ったことに疑問の色を示していましたが、早め、早めの対策が重要なのです。もう少し私を信用してくれてもよいものです。

帰路72日目
~僧侶・マヤカの視点~

 1カ月前からずっと悶々とした日々が続いていた。ティーエが私に奇跡の水を飲ませた時からだ。ティーエが寝たと確認してから行動していたつもりが、どうやら私の喘ぎ声をティーエは聞いていたらしい。そして、それをうなされていると勘違いしたようだった。

 ティーエがまだ男を知らない生娘である事が私にとっては幸運だったのかもしれない。そのおかげで私の夜の痴態がばれることはありませんでした。

 そして、貴重な奇跡の水を使ってまで治そうとしてくれたので、私はティーエに話を合わせることにした。ティーエに悪いと思ったからである。あの場で、本当のことをいうのはティーエにとっても私にとってもプラスにはなりそうもなかった。

 私が呪いにかかっており、それが治ったという嘘をつけば全て丸く収まると考えたのだ。

 しかし、問題が1つあった。私は実際には呪いにはかかってないので、奇跡の水を飲んだところで性欲を抑えることはできなかった。私だけの部屋をティーエにお願いしようと考えたが、貴重な魔力を削ってもらってまで自分の部屋を作ってもらうのは今の状況ではとても頼むことのできないことだった。

 ガラフは私のタイプではないし、ジークは王女に操をたてているので誘惑しても無駄な事だった。
私はこの旅が終わるまで禁欲生活をすることを余儀なくされたのだった………

  『 奇跡の水 』 残数 7本
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