転生して竜人に育てられた俺は最強になっていた (旧題 two of reincarnation )

カグヤ

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第二章 魔導士学園 編

アバロン湯けむり殺人事件 ~真相編 sideーC

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ハリス殺害事件より1週間前

~十二柱の一人・アスタロスの視点~

4回の呪いによって、この温泉内部で殺人が起きることがなくなってしまったようね。5回目の呪いは発動するまでかなり時間がかかってしまったわ。外部から呼び寄せるのに多少の時間がかかるようだけど、もう一度念のために呪いをかけておこうかしら。

『 司書室の少女ザ・クイーン・オブ・ミステリー 』

それにしても今回の事件笑っちゃうわね。犯人なんて一目瞭然だというのに誰も犯人を見つけ出すことができないでいるのよね。
今回の犯人は死んだ男が連れていた奴隷に決まってるじゃないの。そんな事見ないでも分かる事だわ。人族は『隷属の首輪』だとかいう大昔に作られたおもちゃなんかで奴隷の行動を縛っているみたいだけど、私の固有呪術にはそんな過去の遺物の力なんて何の意味もなさないのよね。
奴隷の恨みが私の呪いで増幅されるのだから、そりゃご主人様を殺しちゃうわ。ま、私にとってみればどうでもいいことだから、犯人を教えてあげるなんて事はしないけどね。
それにしても『隷属の首輪』をつけているというだけで容疑者から除外されるなんて本当にバカみたいね………

そして、また馬鹿な旅行客が訪れたようね。この私の固有呪術内に奴隷をつれてやってくるなんて本当にバカの極みね。それも3人も。確実にあいつが死ぬのは間違いないことだわ。人族的に言うと死相が見えるってやつかしらね。殺害される前から犯人を当てることもできるわ。あの奴隷のうちの誰かよ。もしくは全員かもしれないわね。

それにしても、2カ月も温泉に浸かっていたら流石に飽きてきたわね。3カ月は少々長すぎたかしら。何か面白い事はないかしら。

いつものように温泉に浸かっていると、面白い妖精猫ケット・シーが温泉に入ってきたわ。何が面白いかって、普通に南の大陸の言語を操っているのよね。私くらいになると何種類もの言語を使うことができるんだけど、妖精猫でとなると聞いたことがないわ。
私はその妖精猫を観察した。
すると、妖精猫は魔法を詠唱しだした。
あれは、ベルゼブブと同じ時空魔法………
その妖精猫は温泉には浸からずに何かを時空間から取り出したのだ。時空魔法を使えるなんて本当に珍しいわね。

しかし、私の意識は妖精猫の取り出したものにくぎ付けになった。丸い輪っかのようなものを美味しそうに食べ始めたのだ。
私はその食べ物に興味が湧いた。

「猫ちゃん。猫ちゃん。それは何なの?」

「何ですかにゃ?これですかにゃ。これはドーナツというものにゃ。とてもいいものにゃ。」
初めて聞く食べ物ね。私はあまりに美味しそうに食べるのを見て自分も食べてみたくなった。先ほどの時空間にまだあるかもしれない。

「それ、美味しそうね。私にも1つくれないかしら?」

「この一つで最後にゃ。」
妖精猫は残りを一気に食べきってしまった。………そう、仕方ないわね………
私が諦めていると、妖精猫はもう一つ時空間からドーナツを取り出した………
「まだあるじゃない。」

「これはさっきとは違う味にゃ。さっきの味は本当にもう最後だったにゃ。」

「じゃあ、その手に持ったやつでいいから私に頂戴よ。」

「これは貴重なものにゃ。マスターが新しく店をオープンした時に出すための試作品にゃ。あっちには味を分析する重要な役目があるにゃ。」

「………私が味を評価してあげるわ。」

「素人には無理にゃ。マスターの使い魔であるあっちにしかできない事にゃ。」

「じゃあ半分でいいから、これと交換しましょう。これがあれば何でも買うことができるわよ。」
私は首にかけた袋から金貨一枚を渡した。

「にゃ?金貨一枚ですかにゃ。わかったにゃ。半分だけにゃ。ちゃんと感想を言って欲しいにゃ。マスターに伝えるにゃ。」

「わかったわ。」
私は半分になったドーナツというもの口に入れた。その時私の口の中に得も言われぬ幸福感が広がった。何なのこの気持ちは。
「なんなのこの味は。」

「気づきましたかにゃ。隠し味にスライムが使ってあるにゃ。」

「??スライム?スライムって食べものじゃないんじゃないの。じゃあ、このドーナツの周りを覆っているのは何なの?」

「それがスライムにゃ。」
いや、全然隠れてないじゃないの。というより、何故スライムがこんなに美味しくなるの?あなたのマスターって何者なの。

「それで味の感想はどうでしたにゃ?」

「えっ、そうね。今まで味わったことがない味だったわ。口に入れた瞬間に幸福感に包まれてしまうような、そんな味だったわ。」
悪魔族は基本食事はあまりしなくてもいいのよ。だから味を表現する言葉をあまり知らないのよね。

妖精猫は私の評価を聞いてやれやれという顔で首を振った。なんか腹が立つわね、この猫。
「じゃあ、あんたの感想を言ってみなさいよ。」

「あっちですかにゃ。このドーナツは凄く美味しいにゃ。とてもいいものにゃ。」
あんたさっきのドーナツもとてもいいものとか言ってたじゃない。
まあいいわ。そんな事よりあんたのマスターとやらに興味があるわね。さぞ高名な料理人に違いないわ。

「あなたのマスターに会わせてよ。女湯にいるの?」

「マスターは男湯か、混浴にいると思うにゃ。」
使い魔のくせにご主人様から離れてるなんて本当におかしな妖精猫ね。
「いつまでこの宿にいるの?」

「明後日の朝には帰るにゃ。」

「そう………」
私は考えた。温泉も飽きてきたし、そのマスターとやらの家に何とか転がりこめないかしら。
スライムですらこんなに美味しくしてしまう技術を持っているなら、他にもいろいろと期待できるんじゃないかしら。

私は妖精猫を頭に乗せたマスターが帰る時を見計らって声をかけることにした。最初に見てびっくりしたのは、想像していたよりずいぶん若かったことだ。どう見ても少年の顔つきをしていた。まだ料理人の見習いなんだろうか。でも、あの味を出すなんて天才料理人なのかもしれないわね。
「私、迎えが来るまで帰る場所がないの。だから、お兄ちゃんのところに行ってもいい?」
断られても無理やりついていっちゃうけどね。少年は少し考えたあと言った。
「わかった。じゃあ、迎えが来るまで俺のところにいてもいいよ。」

「本当に?ありがとう。」
話の分かる少年ね。

「名前は何というの?」
少年が聞いた。

「私? ………私の名前はアス………」
そこで私は自分の名前を言うのをためらった。私の名前を知っている人族もいるかもしれないしね。私の事を知ったら怖がらせてしまうわ。私は嘘の名前を教えることにした。

「私はアスカよ。迎えが来るまでよろしくね。」
私はアギラと名乗る少年のところへ転がり込むことに成功した。
そして、アギラの仲間たちと一緒に馬車へと乗った。私はこの人族の作る料理を楽しみにしながら眠りについた………

私は目を覚ました場所を見て驚愕した。こ、ここはメガラニカ王国の魔導士学園??どうしてここに………私は全身が震えた。
「こ、ここは?」
私はアギラに尋ねた。

「ここは魔導士学園だよ。俺はここの生徒なんだ。」
えっ。えっ。あんたは料理人じゃないの?
その時、私はベルゼブブの話を思い出した。どうせ魔王に会うつもりがなかったので、あまりちゃんと聞いていなかったが、目の前の少年はベルゼブブの話に出てきた魔王の特徴と一致している気が………
私の震えはおさまらなかった。

「どうしたんだ?俺の部屋が嫌だったら、先生の部屋にするか?頼めば泊めてくれるんじゃないかな。」
?? ………私はそこで冷静になって考えた。アギラに出会ってから私は一度も『魔王の支配デモンズ・ルール』を受けた様子はなかったのだ。その証拠に今でも自由に私の意志で動くことができる。
それに魔王なら私のことを知っているはずだから最初に見た時に何らかのリアクションがあるはずよね。それがなかったということは………
もしかすると、ベルゼブブの勘違いだったんじゃないかしら。魔王の魔力を探ったていう悪魔族は下級悪魔だって聞いたわ。大方、魔導士学園の生徒の魔力を魔王だと勘違いしたんじゃないかしら。雑魚ならありえる話ね。きっとそうよ。そうに違いないわ。
なーんだ。じゃあ、必要以上に恐れる必要なんてなかったってことね。

なんなら1カ月後の待ち合わせの時に私が魔王を倒したって言って驚かせようかしら。いや、それよりも魔王を下僕にしたって言おうかしらね………私は十二柱達が驚く姿を想像して自然と笑みがこぼれた。
このアギラという少年なら私の言う事なら何でも聞いてくれそうじゃない。ベルゼブブの前に連れて行って何か演技してもらえばいいわ。私の想像は膨らんだ。

「で、どうする?」
おっと、返事をしなくちゃね。

「いやよ。お兄ちゃんと一緒がいいわ。」
アギラは少し照れた顔をしていた。ちょろいわね。

私はそれからアギラのご飯を毎日食べて過ごした。アギラの作る料理はどれも素晴らしく、いくら食べても飽きることがなかった。本来悪魔族はあまり食事などせずとも生きていくことができる。だからこそ今まで味わったことない料理を食べて、私は生まれて初めて食べるという事に夢中になった。

そして私はあまりに夢中になりすぎて、約束の場所へと行くのを忘れてしまった………






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