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苦手な勉強
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城の自室に戻るとすでに教育係がすでにいた。
「おはようございます。……もしかして俺は時間に遅れたのでしょうか?」
「そんなことありません。お待ちしていただけです」
にっこり笑う若い教育係の心の中は読めない。ただ叱られなかったということは、遅れてはいないということだろうと、ディサンテは考える。
急いで大きい机の前に行き椅子に座る。すぐとなりに教育係がついた。
「勉強の前にいくつか聞きたいことがあるのですが、聞いてもいいですか?」
ディサンテが彼の様子をうかがいながら聞くと、彼はすんなり頷いた。
「今朝も市場に行って来ました。民と俺たちの体格はどうしてこんなに違いがでているのでしょうか? それから……魔力をもつ人間が存在するのは本当ですか?」
彼は少し考えてからディサンテに答える。
「この国の歴史は覚えていますよね?」
「はい」
覚えていなかったら、また最初から勉強の復習をさせられる。そんなことになるくらいなら、必死に覚えたほうが効率がいい。
「この国が安定したのは、水龍と王族が契約したからです。そして力を授けてくれたことが、体に影響を及ぼしたのでしょう。その辺りは証明のしようがありませんが……」
そう教えてくれるが、水龍と契約というところでディサンテは困惑する。この目で龍を見たことがないからだ。
力といってもそれの発動を見たわけじゃない。曖昧過ぎて理解に苦しむ。
「ディサンテ様が理解できないのも仕方ないです。成人の儀のときに水龍と会うことが許されますから……今は詳しく説明することは禁じられています。成人したあとに特別な勉強が始まりますので、心にとめておいてください」
では、今日の勉強をという教育係が差し出した本には、この国の地図が書かれていた。
――今日はこの国の勉強か。
正直言えば勉強は苦手だ。だけど、朝市のような民に混じることは楽しいと思う。
――そんなことより、水龍は実在しているのか……。水龍と王族の契約をしたから国が安定したということは、逆に言えば『国が安定したころからずっと、その水龍は存在していた』なのか?
龍という未知なる存在にディサンテは、心が惹かれた。
そんなうわの空で勉強を受けていたのだから、教育係にかなり説教をされてしまった。
勉強がおわる。ほっと息をはくディサンテの目の前に、歴史書以上に分厚い本が三冊置かれた。
背中に冷たい汗が流れる。
「あの、この本はなんでしょうか?」
「本日の勉強は集中できていないようでしたので、こちらは今夜中に熟読ください。明日の時に内容の確認をいたします」
恐ろしいことをさらりと言う。しかも笑顔でありながら全く笑ってない目が怖い。この容赦なさがこの教育係なのだ。
――うっかりしてた。
そう思っても、もう遅い。
「……はい、わかりました。今日もありがとうございました……」
震える声で定型文を話すのが精一杯だ。目の前の本はいったいどんな内容だろうか……。これも王族の義務とか言われるんだろう。
後悔しても意味がない。やるしかないんだ。
そんなディサンテに、教育係は姿勢を正す。
――え? 今度はなに? 怒らせてないよね?
「ディサンテ様、実は成人の議が早まることが決定いたしました。ですので、この本は宿題というより……基礎的勉強を急いでいると考えていただきたいのです」
意外すぎる言葉にディサンテは、彼を凝視する。
真剣な表情に目。冗談を言っているようにも見えないし、彼が過去に冗談を行ったこともない。なら、今言われたことは事実だということだ。
「何かあったのでしょうか?」
そう聞いても彼は頭を横に振る。
――何があったか把握していない。けど、確実に何かがあったのだろう。
「王族の基礎的な義務は覚えていますよね?」
「はい。『水龍を神として祀り、水龍は王族に力をあたえ、王族は民に幸いを』」
「そうです。この意味がわかりますか?」
「抽象的過ぎて、正直わかりません」
彼はそうですね。というと、前に置かれていた本の表紙を開く。
そこには先ほどディサンテが答えた『王族の義務』が書かれている。
「この本は本来、成人の議を終えてからじゃないと読めないものです。ですが、これを一晩でどうか頭に入れてください。これは、王からの指示です」
父がこれを読むように……。しかし父も兄もそれぞれ、視察に出かけていたのではなかったのだろうか? それでもこれを読むようにと指示を出すその真意は何だろうとディサンテは考える。
「わかりました。一晩ですべて読みます」
「よろしくお願いします。では私はこれで失礼します」
――今日の午後から、明日の夜明けまで。自由時間はお預けか。
なんとなく机の中にしまった、魔除けの人形を取り出す。素朴で可愛らしいそれに、ディサンテはほっと息をついた。
魔除けとか意味がわからないけど、市場の女主人の笑顔を思い出す。そしてそれをそっと胸元にしまう。
「さてと、読むか」
「おはようございます。……もしかして俺は時間に遅れたのでしょうか?」
「そんなことありません。お待ちしていただけです」
にっこり笑う若い教育係の心の中は読めない。ただ叱られなかったということは、遅れてはいないということだろうと、ディサンテは考える。
急いで大きい机の前に行き椅子に座る。すぐとなりに教育係がついた。
「勉強の前にいくつか聞きたいことがあるのですが、聞いてもいいですか?」
ディサンテが彼の様子をうかがいながら聞くと、彼はすんなり頷いた。
「今朝も市場に行って来ました。民と俺たちの体格はどうしてこんなに違いがでているのでしょうか? それから……魔力をもつ人間が存在するのは本当ですか?」
彼は少し考えてからディサンテに答える。
「この国の歴史は覚えていますよね?」
「はい」
覚えていなかったら、また最初から勉強の復習をさせられる。そんなことになるくらいなら、必死に覚えたほうが効率がいい。
「この国が安定したのは、水龍と王族が契約したからです。そして力を授けてくれたことが、体に影響を及ぼしたのでしょう。その辺りは証明のしようがありませんが……」
そう教えてくれるが、水龍と契約というところでディサンテは困惑する。この目で龍を見たことがないからだ。
力といってもそれの発動を見たわけじゃない。曖昧過ぎて理解に苦しむ。
「ディサンテ様が理解できないのも仕方ないです。成人の儀のときに水龍と会うことが許されますから……今は詳しく説明することは禁じられています。成人したあとに特別な勉強が始まりますので、心にとめておいてください」
では、今日の勉強をという教育係が差し出した本には、この国の地図が書かれていた。
――今日はこの国の勉強か。
正直言えば勉強は苦手だ。だけど、朝市のような民に混じることは楽しいと思う。
――そんなことより、水龍は実在しているのか……。水龍と王族の契約をしたから国が安定したということは、逆に言えば『国が安定したころからずっと、その水龍は存在していた』なのか?
龍という未知なる存在にディサンテは、心が惹かれた。
そんなうわの空で勉強を受けていたのだから、教育係にかなり説教をされてしまった。
勉強がおわる。ほっと息をはくディサンテの目の前に、歴史書以上に分厚い本が三冊置かれた。
背中に冷たい汗が流れる。
「あの、この本はなんでしょうか?」
「本日の勉強は集中できていないようでしたので、こちらは今夜中に熟読ください。明日の時に内容の確認をいたします」
恐ろしいことをさらりと言う。しかも笑顔でありながら全く笑ってない目が怖い。この容赦なさがこの教育係なのだ。
――うっかりしてた。
そう思っても、もう遅い。
「……はい、わかりました。今日もありがとうございました……」
震える声で定型文を話すのが精一杯だ。目の前の本はいったいどんな内容だろうか……。これも王族の義務とか言われるんだろう。
後悔しても意味がない。やるしかないんだ。
そんなディサンテに、教育係は姿勢を正す。
――え? 今度はなに? 怒らせてないよね?
「ディサンテ様、実は成人の議が早まることが決定いたしました。ですので、この本は宿題というより……基礎的勉強を急いでいると考えていただきたいのです」
意外すぎる言葉にディサンテは、彼を凝視する。
真剣な表情に目。冗談を言っているようにも見えないし、彼が過去に冗談を行ったこともない。なら、今言われたことは事実だということだ。
「何かあったのでしょうか?」
そう聞いても彼は頭を横に振る。
――何があったか把握していない。けど、確実に何かがあったのだろう。
「王族の基礎的な義務は覚えていますよね?」
「はい。『水龍を神として祀り、水龍は王族に力をあたえ、王族は民に幸いを』」
「そうです。この意味がわかりますか?」
「抽象的過ぎて、正直わかりません」
彼はそうですね。というと、前に置かれていた本の表紙を開く。
そこには先ほどディサンテが答えた『王族の義務』が書かれている。
「この本は本来、成人の議を終えてからじゃないと読めないものです。ですが、これを一晩でどうか頭に入れてください。これは、王からの指示です」
父がこれを読むように……。しかし父も兄もそれぞれ、視察に出かけていたのではなかったのだろうか? それでもこれを読むようにと指示を出すその真意は何だろうとディサンテは考える。
「わかりました。一晩ですべて読みます」
「よろしくお願いします。では私はこれで失礼します」
――今日の午後から、明日の夜明けまで。自由時間はお預けか。
なんとなく机の中にしまった、魔除けの人形を取り出す。素朴で可愛らしいそれに、ディサンテはほっと息をついた。
魔除けとか意味がわからないけど、市場の女主人の笑顔を思い出す。そしてそれをそっと胸元にしまう。
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