六花詠う空に(前世編)

青桜さら

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5.六花を詠う(終章)

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 里神は最期まで雪乃の婚姻に納得はしなかった。
 納得はしていなかったけれど、雪乃の幸せを思い了承してくれた。
 里神の立ち会いのもと、龍神と雪乃は表向きの婚姻を結ぶ。
 龍神の花嫁に、雪乃はなった。
 そして里神を見送った。
 龍神が新たな里神になることを、里の人々に雪乃は伝えた。

 どんなときも龍神は雪乃のそばに寄り添っでいてくれていた。
 


 あれから幾年。
 雪乃は神子の職を他のものに任せ、里長や神職もそれぞれ適任のものへ任せた。
 改革は思っていたよりも難しく、新たな里神の助力とともになんとか形になってきた。

 それでも、まだやらなければいけないことがある。
(ですけれど……わたくしの残された時間はわずかしかありません)
 任せた者たちを信じて託す他ない。
 
 雪乃は白く痩せた手の甲を眺める。
(ああ……でも悪くない人生でした)
 愛してくれる存在がいることは最高の幸せ。
(心残りがあるとすれば、龍神様を遺してしまうことです)

 最期のときが訪れる。
 目の前には、出会った頃と同じ愛しい龍神がいた。
 空からは龍神と出会った頃のような、白い雪が舞っている。
 雪が舞っているのに空には美しい三日月も見えていた。
 日は暮れ、夜が訪れようとしていた。

 龍神はずっと雪乃の手を握って、そばに居てくれていた。
 龍神には雪乃の最期がわかるのだろうか。
 悲しそうな目をしていた。
(伴侶になれなくて、ごめんなさい)
 そう思うものの、想いの深さが嬉しくて雪乃の頬が緩んでしまう。

「龍神様。わたくしは幸せでした。貴方様を置いていってしまうことが心残りです。ですが、また会えます。必ず出会えます」
 これは神子としての先読み。
 必ずまた会えることが、雪乃にはわかる。
「わたくしを探してくださいね。つぎは龍神様を1人にしないと約束します」
 龍神は涙を堪え、雪乃に微笑む。
「必ず雪乃を見つけると約束しよう」

 雪乃は静かに目を伏せる。
 
 三日月の夜に六花が舞ってくる。
 幻想的な景色に、 雪乃は龍神のために詠う。
 


【End】
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