「守りたい、君のすべてを」

夕暮れ狼

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第1章:任務開始

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第1章:任務開始
東京・港区。ビルの谷間に佇む重厚な建物、その最上階に氷川玲奈はいた。
27歳にして父の後を継ぎ、業界最大手の広告代理店「ヒカリプロ」の社長に就任して1年。成果は上々だが、ここ数週間、彼女の周囲は不穏な空気に包まれていた。
——脅迫状、盗聴、そして今朝は、自宅の車に仕掛けられたGPS。
警察も動いてはいるが、決定的な手がかりはない。そんな中、信頼する秘書・滝本の進言で、玲奈は民間の警護専門会社を雇うことにした。
「彼が、担当になります」
そう言って滝本が部屋に通したのは、黒のスーツに身を包んだ長身の男だった。鋭い眼光、無駄のない動き。そして口数の少なさ。
「榊京介です。今後、貴女の警護を担当します」
玲奈は男を一瞥し、眉をひそめた。彼の無表情と低い声が、何か冷たいものを呼び起こす。
「……あなた、本当に私を守れるの?」
挑むような視線。だが榊はまるで動じない。
「守ります。物理的な脅威から。感情的なものまでは、契約に含まれていませんが」
玲奈は小さく鼻で笑った。言葉にトゲはあるが、彼の目には誠実さと覚悟が宿っている。
「いいわ。試してみましょう、榊さん」
榊は無言で軽く頭を下げる。その動作一つに、軍人のような規律と冷徹さが滲んでいた。
この瞬間から、ふたりの距離は始まった。
近すぎず、遠すぎず。互いの素性も、心も、まるで霧の中だった。
しかし玲奈はまだ知らなかった。
この男が、自分の人生に深く入り込み、やがて心すら守る存在になることを——。
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