未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢に転生したみたいだけど、これってフラグ回避方法分かんなくね?

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第一章

約束

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暫くして泣き止めば、少女は少し恥ずかしそうに顔を覆った


「ごめん、恥ずかしいとこ見せちゃったね」

「何言ってんの!泣けって言ったの私だし、それに女の子同士なんだから恥ずかしがることないって!」

「え?」

「それよりもう大丈夫?すっきりできた?」

「あっ…うん、思った以上に。なんだか身体も軽くなった気分だよ」

「それは良かった!」

私につられて少女にも笑顔が広がる
今度はあの何かを我慢している笑顔ではなく、本当の心からの笑顔がそこにはあった


だけど、まだ全てが解決したわけじゃない
この子自身はもう心配ないとは思うけど、問題はこの子の周りやこれからのことだ


「ねえ、もしさ、行くところがなかったら」

うちに来る?という言葉は

「僕、帰ることにするよ」

少女の力強い言葉に遮られた

これがもし無理して言っているのだとしたら何が何でも家に連れて帰るつもりでいたけど
でも、顔を見ればそれは違うと分かった

少女の顔は何かを耐えているようなものではなく、逆に晴れ晴れとしていた
もしかしたら、泣いて気持ちに余裕が出来たからかもしれない
それでも私は心配だった、彼女の話を聞く限り彼女の家族はとても良い家族とは思えなかったから


「でも…本当に大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。君に言われて気づいたんだ。僕は本当に作り笑いを浮かべることしか出来なかったんだって。それ以外何もしようとしなかった。機嫌を損ねないように、憐れまれないようにただ笑っていることしか。それじゃ愛されようなんて当然無理な話だよね。まず僕が心を閉ざしていたのだから」

改めて隣に座った私の手を少女はギュッと握ってきた

「周りから憐れんでほしくなかったけど、多分僕が一番僕を憐れんでいた。僕は自分はかわいそうな奴だって心のどこかで思っていたんだ。だから何をしても無駄だって勝手に決め付けてた。自分は被害者で自分は何も悪くないって思いたかったから、何もかも周りのせいにして来た。……でも、もうこれからは違う」

うん、大丈夫だこの子なら
こんなにもはっきりと自分の弱さを認め

「これからは自分で行動を起こしていくよ、愛されるように、認められるように。もう立ち止まったりなんかしない、弱音も吐かないし自分の境遇を嘆いたりもしない。力をつけてきっと変わってみせるし、変えてみせる、僕自身も僕の周りも…!」

こんなにも真っ直ぐ自分の将来を見据えられるこの子なら、きっと心配なんていらないだろう


ギュッと力をこめられた手を私も激励の意を込めてギュッと握り返す


「あなたならきっと出来るよ、私が保証する!!」

「はは、ありがとう。それはとても心強いよ」

穏やかに笑う少女の顔に見惚れそうになりながら少しだけムッとする

「あー!その顔は信じてないな!!ちょっと待ってね」

「いや、そんなことは」

「はい!じゃあこれはその証だってことにしといて!」

「え?」

そう言って私が彼女に差し出したのは身に着けていたブローチだった
誕生日の時に父から貰って、シンプルなデザインだけど繊細な装飾が全体に施されている私のお気に入りだ

「でも、これ君にとって大切なものなんじゃ」

「そうだよ、お気に入りだもん。だからこそあげるんじゃない。大切なものを賭けてもいいくらい私はあなたを信じてるってこと!」


二カッと笑えばなぜか少女は目を見張って頬を赤らめた
おいおい、真っ赤になったらなったでめっちゃかわいいなおい、本当に妹にしたくなっちゃうじゃん!!(勝手に年下だと思ってる)



思考がまた変な方向にいきそうな時だった


「君の名前を、教えてくれないか?」

少女からそう聞かれ、そう言えば言ってなかったことを思い出す
うわあ、人に名前聞いておきながら自分がまず名乗ってなかったなんて人として何たる失態!!
あっ、でもこの場合本名を名乗ってもいいのだろうか。確かむやみやたらに本名を言っちゃいけないってお父様達から言われたような…
でもこの子に教えたところで危険なんかは絶対にないって言い切れるけど

真っ直ぐと少女を見てから私は名乗った


「私はセツ。ただのセツだよ」

クロスがつけてくれた私の愛称を

そうだ、今日の私はお嬢様のセツィーリア・ノワールじゃない。ただの女の子のセツだ
これが今一番正しい名前なんだ



「セツ…そうか、いい名前だね」

「あっ、ありがとう…!」

面と向かってそんなことを言われたのは初めてだったから顔がついついニヤけちゃう

しまりのない顔をどうにかしようと表情筋を引き締めようとした時だった



「ソフィ…遅くなってしまったけど、僕の名前はソフィだよ」

「ソフィちゃん!!かわいい名前だね」

「はは、その…ただのソフィと呼んでくれないか?…君にはそう呼んでほしいんだ」

少し苦笑いを浮かべた少女…ソフィは私を優しく見つめながら言った
そんな顔を向けられて普通にしていられるはずもなく、同性なのにすごくドキドキしてしまったし自分でも分かるくらい顔が赤くなっていた

「わ、分かった、じゃあ、ソフィって呼ぶね」

「うん、ありがとう。嬉しいよ」

あー!しどろもどろになってしまったのが余計恥ずかしいー!!


なんだか恥ずかしくてソフィのことを見れなくなってもじもじしていたら


「お嬢様ー!」

遠くの方からミリアーナさんの声が聞こえた
バッ!と顔を上げた向こうにミリアーナさんらしき人物がいて私は照れなども吹っ飛んで焦っていた


どどどどどどうしよう!!!ミリアーナさんとの合流すっかり忘れてた!!てか、そう言えばもう日が暮れ始めちゃってるじゃん!!やばいやばいやばい!!約束破りまくった上にミリアーナさんに迷惑かけてしまうなんてなんたる失態!!ああー!!
そ、それにソフィのことだってこのまま一人にして置くなんて


「僕のことなら心配要らないよ。ちょうど僕の方の迎えも来たんだ」


まるで心を読んでいたかのように私を安心させる言葉を言ってくれるソフィ
その言葉にホッと息をつけば、ソフィは握っている手に少しだけ力を込めて言った


「ねえ、セツ。また君に会える?」


不謹慎だけど、心配そうに問いかけてくるソフィがとてつもなくかわいかったからつい勢いあまって彼女を抱きしめた


「もちろん!!次に新しく生まれ変わったソフィと会うのが楽しみだよ!!」

私は公爵家の一人娘で、ソフィだって漂ってる雰囲気からして多分どこかの貴族の娘だろう。名前しか知らないそんな二人が再び出会える保証はなかったけど、なぜか私は絶対またソフィに会える気がしていた

少し名残惜しかったけど、ミリアーナさんがもう結構近くに来ていたのでソフィの身体を離す


「それじゃ」

「セツ、約束だよ。絶対にまた会おう…ううん、会いに行くから」


チュッ



別れの言葉を言おうとした私の言葉を遮り、ソフィは言い終わるや否や私の頬にキス一つ落として駆け出していた


「セツー!!じゃーねー!!約束、絶対に果たして見せるからー!!」

走りながら私に手を振ってくれるソフィに私は驚きのあまり呆然とその姿を見送ることしか出来なかった
そして我に返った時、そこに既にソフィの姿はなく、ミリアーナさんが代わりのように私の近くに立っていた



「はっ!ミリアーナさん!!ご、ごめん!!本当にごめん!!私」

そこでまた罪悪感が湧き上がり慌ててミリアーナさんに謝罪しようとしたけど、ミリアーナさんは優しく微笑んで大丈夫ですよと言ってくれた

どうやら結構早い段階で私を見つけてはいたようだけど、どうも私が取り込み中だって察したらしく遠くで見守っていてくれたみたいだ
それでもソフィと色んなところに遊びに行ってたから、その間の心配をかけさせていたことに対し誤るとまたしても「反省しているのなら、もうそれでいいんですよ」と聖母マリア並みの寛大さを見せてくれた
やばいミリアーナさん愛してる!!


「でも、お嬢様。口調がまた少し崩れてきてるので、お屋敷につく時までには直しましょうね?」
じゃなかったらまた奥様に言われちゃいますよ?


そう言われて初めてミリアーナさんに対してもただのセツモードで接していることに気づく

慌てて口を押さえてコクコクと頷けば、満足したのかミリアーナさんは少し笑って昼の時みたいに手を差し出して来た


「さっ、もう帰りましょう?予定より帰るのが遅くなったのできっと奥様達が心配してますよ」

「うう、なんて言い訳しましょう」

「ふふ、それは馬車の中でゆっくり考えましょ?」

「ミリアーナさんも一緒に考えてくれる?」

「はい、もちろんですよ」

「なら安心ですわ!」



夕暮れのオレンジ色に染まる市場をミリアーナさんと手を繋ぎながら抜けて行く


散々市場の外で待たせていた馬車に乗り込んで少ししないうちに私は眠りこけてしまった

睡魔に敗れそうになった時に心の中で"ごめんミリアーナさん、ちょっと眠すぎて言い訳考えられないかもだから後はよろしくお願いします!"と謝りながら、頭の片隅ではソフィが最後にしたキスのことを思い出していた


寝ぼけながらもキスされた頬に手を持っていく











むふふ、女の子の唇って柔らかいなあ~







そう思った直後に、私の意識は完全に沈んでいった






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