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第一章
月明かりの下で
しおりを挟む「僕がつい最近まで母親のところにいたのは知ってるよね?」
ユーリの言葉にコクッと頷く
おじ様のところにいたのは約二ヶ月程だって聞いたから、それまでは母親と一緒に暮らしていたのが分かる
「僕さ、別にあの家で暴力を受けたのが初めてなわけじゃないんだ」
「え?」
それって
「母親のところにいた時から僕は暴力を受けてたよ、それも毎日ね」
よく死ななかったなあって自分でも思うよ、と言って乾いた笑いを零すユーリ
それ、その笑い、嫌いだわ
「笑うな」
「……」
「面白くもないのに笑うな」
「…うん……まあ、殴ってたのは母親じゃなくてその恋人だけどね。母親はただずっと横で見てただけだったから」
「そう…」
「あれ?お姉ちゃんならここでまた何か言うのかと思った」
「お望みなら言ってあげましょうか?丸一日はかかるわよ?」
「遠慮しとく」
「懸命な判断ね」
おかしそうに小さく笑うユーリを横目で見つめる
そりゃ言いたいことは山ほどある
さっき丸一日って言ったけどそれですら足りるかどうか
いくら自分は手を下してないからと言って、自分の子供が殴られるのを黙ってみてる母親なんて、私はそんなの母親とは認めない
止めなかった時点でそいつも同罪だ
金でユーリを売ったって聞いた時点で最低だった好感度はさらに地にのめり込むことになるとは
悪いけど、私って人間出来てないから、何かのやむを得ない事情やらがあったとしても到底その母親を許すつもりはない。でも……二つだけその母親に感謝したいことがある
一つはユーリを産んでくれたこと
二つ目はここまでユーリを育ててくれたこと、育て方は本当に「マジふざけんなよ!?」って怒鳴ってやりたいくらい感心しないけど
でも、彼女がユーリを産んで育ててくれなかったら私はこうしてユーリを出会うことも家族になるべくして話し合うこともなかったはずだ
だから、その点だけは、本当にそこだけは彼女に感謝だ
「で、その理由っていうのもどうもはっきりしてるらしくてさ、僕はてっきりただの憂さ晴らしのためかと思ったら、どうやらそれだけじゃないらしくてね」
「憂さ晴らしで子供を殴るっていうのも万死に値するけど…まあ、とりあえずその理由っていうのは?」
まあどんな理由があろうとその男…覚えてなさい…?ノワール家の力で探し出して徹底的に潰してやるわ…!
心の中で密かに半殺し計画を練っていたら視線を感じた
横を向けばじっとこっちを見るユーリ
「ユーリ?」
「お姉ちゃんは、僕を始めて見た時どう思った?」
「どう思ったって…男の子がいるなって」
「そうじゃなくって!……僕のこの髪と目を見てだよ」
ユーリの髪と目?
深夜だけど、月明かりのおかげでユーリの髪の色も瞳もちゃんと認識出来ていた
ユーリの白髪は月明かりを受けて淡く光っているみたいだったし、至近距離で見つめる瞳は相変わらず大きなルビーのようだと思った
うん、やっぱりあれだな
「いつ見ても綺麗ね」
「……綺麗って、僕男なんだけど」
「あら、何顔背けてんのよ、照れた?ねえもしかして照れちゃった??」
「うるさい!それ以上ニヤニヤしたら部屋から追い出すから!」
「まあ怖い!弟がもう反抗期だわ!…ふふ、大丈夫よ、綺麗は万物共通に使える言葉だから胸を張りなさい」
こっちを見ようとしないユーリの頭を撫でながらクスクス笑う
柔らかいユーリの髪は撫で心地も最高だし、正直羨ましいくらいサラサラとしている
「ユーリは綺麗な髪をしてるわね」
「……こんな髪、全然綺麗じゃないよ」
そう言って未だに頭を撫でている私の手を取って自分の頭から離すユーリ
振り払われることはなかったけど…やっぱり様子がおかしい
「ユーリ、全部話してくれるんでしょ?黙ってたら分からないわ」
膝を抱えるユーリが一瞬だけ身体を強張らせた
そして、少し間をおいてから立てた膝に頭を預けて顔だけこっちに向けた
「知ってる?白い髪と赤い目は化物の証なんだって」
「…は?」
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