未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢に転生したみたいだけど、これってフラグ回避方法分かんなくね?

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第二章

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外から馬車の扉が開かれた

外からルーク様が手を差し出してくれている

その手を取りゆっくりと馬車から降りる
エスコートされながら一歩、二歩と小さく歩みを進めた
下に向いていた視線を少しずつ上へと上げる


遠めに見える屋敷の前にはみんながいた

お父様とそれに寄り添うお母様
その後ろにはエドさんとミリアーナさん
ユーリの隣にはクロスがいて
六人のさらに後ろには屋敷の使用人たちの姿も見えた

あぁ…みんなだ……みんながいる…
いつもの見慣れている顔…今朝だって笑顔で"行って来ます"って言ったみんながそこにいる…

ルーク様の手から離れ徐々に歩くペースを速める
早歩き、小走り、そして気づけば私は全速力でみんなのとこへ駆けていた


「お父様!お母様!」

「「セツィーリア!!」」

向こうの方からも同じように駆けてくる二人の胸に飛び込んだ

温かい…それにお父様とお母様の匂いだ…


「セツィーリア、セツィーリア…!ああ、こんなに汚れてしまって…本当に、本当に無事で良かった…!!あなたに何かあったら私は生きていけないわ…!!」

お母様が涙を流しながら私の頬を撫でる

「よく…よく頑張ったなセツィーリア…!怖い目に遭わせてしまってすまない、父なのに、お前を守ってやれずにすまない…!だが、お前が無事で良かった、本当に良かった…!」

お父様は泣きそうになる顔を歪ませてきつく私を抱きしめてくれた

二人の体温を肌に触れてようやく戻ってこれたと実感する


「お父様、お母様…ただいま…ただいま!!」

この力強く抱きしめてくれる腕も包みこんでくれる身体も私を心から安心させてくれる
負けないくらい強くギュッと抱きしめ返していれば、体をこっちに向けたまま唇を噛み締めて下を俯いてるユーリが見えた

もぞもぞと動いて二人の腕から抜け出す
ユーリの元へ行く前にチュッと二人の頬にキスを落とした
本当は少し…ううん、かなり名残惜しかったけど、ユーリも私の大事な家族だ
その家族があんな苦しそうな顔をしているのに放っておくことなんて出来るわけがない


「ユーリ」


ユーリの前に立ってもユーリは一向に私を見ようとしない
よく見れば身体は微かに震えていて手はきつく自分の服を握り締めていた


「ユーリ」

もう一度呼びかければユーリはゆっくりと顔を私に向けてくれた
前から見えたユーリの顔は目いっぱいに涙を溜めていて必死に泣くのを我慢していた


「ごめん…ごめんなさい……一緒にいたのに僕…何も出来なかった…!」

「そんなことないよ、それにユーリが謝ることなんてない」

「違う!!謝らせてよ!!…そうしなきゃ、僕は自分のことが許せない…!二人を…セツ姉を守れなかった…僕は役立たずだ、僕が…僕がもっとしっかりしてれば…!!」

「……ユーリ、落ち着いて…ユーリは何も悪くない、これは事故で誰も悪くない、強いて言うなら犯人が一番悪い!…だからユーリが気に病む必要なんてない、むしろ私はあなたが巻き込まれなくて良かったって思ってるよ」

ポロポロと涙が溢れて止まらないユーリを強く抱きしめた
声を抑えながら泣き続けるユーリの頭を撫でる

「ユーリ、私はユーリに感謝してるよ?ユーリがいなければシェリーは犯人の残した手がかりに気づくのがもっと遅れてたかもしれない、お父様たちに事情を説明することも出来なかったし、助けが来るのがもっと遅くなっていたことだってありえる。その中での一つでも現実になっていたら…多分私はもうここにはいない」

腕の中にいるユーリの身体がビクッと震えたのを感じて安心させるように背中を撫でた

大丈夫、大丈夫だよユーリ

「でも、実際は?私はちゃんとここにいるし、こうしてユーリに触れることが出来ている。これも全部、ユーリ、あなたがいてくれたから…あなたが頑張ってくれたからだよ。…ありがとう…ありがとうユーリ、私達を助けてくれて…あなたのおかげで私はここに戻って帰れた、だから自分のことを役立たずだなんて言わないで?ユーリは私のヒーローだよ」


目線を合わせるように少し屈んでユーリの涙を拭う
前はユーリが私の涙を拭ってくれたのに今は逆だね

そんなことを考えながら笑いかければユーリは一層表情を崩して

「………うっ、うわああああああん!!セツ姉…セツ姉ーーーー!!!怖かった…セツ姉がいなくなって、もう会えないかもしれないって考えたら死ぬほど怖かったよおおおおおお!!!」

やっと我慢することなくちゃんと泣いてくれた
声を押し殺して泣くのは辛いからね
だったらこうして声に出して泣いて欲しかったんだ
"泣く"は心の叫び、その叫びを無理やりかき消してはいけないんだ

「ごめんね、不安にさせて…でも信じて、私は絶対ユーリに黙っていなくなるようなことはしないから、ちゃんと、ユーリの側にいるから…ね?」

「…うぐっ…ぅっ…や、約束だよ?またいなくなったりなんか、したら…今度は泣き喚くじゃすまないからね?」

「分かってるって!だから、大丈夫だよ…お姉ちゃんを信じて?」

「……うん…信じるよ…セツ姉が言うから、セツ姉だから…」


もう一度ユーリを抱きしめてその背中をポンポンッと軽く叩いた






「おかえり」

「…ただいま」

ずっと、近くにいたのに
私は敢えてその人の顔を見ていなかった

ユーリを慰めてる時だって側にいたのに私は彼の顔を直視出来なかった
理由は私にだって分からない

ただ、なんとなく本能が…今は見ちゃダメだって言っているような気がしたから


「大変だったな」

「この騒ぎをその一言で片付けられるクロスって将来絶対大物になるよ」

「でも事実大変だったんだろ?」

「超ー大変だった!!」

「はは、それはお疲れ」

胸を張って言えばそれがおかしかったのかクスクス笑うクロス
ちょっとちょっと~、本当に笑い事じゃなかったんだからねー?!……まあ、しんみりされるより全然いいけど


「……」

「……」


と思ってたのに何このいきなり訪れる沈黙
クロスならここで何か私をいじる言葉の一つや二つかけてくるのが普通だろ!
だから……いつもみたいに…


「……」

「……」

「…心配した」

「…うん」

「お前がいなくなったって聞いて、気が気じゃなかった」

「…うん」

「無事で良かった」

「……うん」

「……お前ももう我慢しなくていいと思うけど」

「…うん……え?」

そう言われて初めて気づいた
自分の頬が濡れていたことに

「あれ?え?なん、で…」

ペタペタと自分の顔を触って濡れた手を見て驚く
え、泣くつもりなんて全然…

「お前はいつも人のことばっかだよな、そこはお前の良いとこでもあるけど…たまには自分のことも考えろ」

「な、何言ってんの、私なんか常に自分のことしか考えてないけど?」

「バーカ、こんな時まで変に意地張るな」

「ちょっ、前々から言おうと思ってたけど女の子のおデコ凹ませに来るのやめない?」

しかも泣いてる女の子に!…余計に泣いちゃったらどうすんの

「……セツ」

ちょっと待ってー!!
今そうやって優しく私の名前を呼ばないでー!!
あんたの時たまにやってくる優しさの破壊力は凄まじいんだから!

「待って…今はちょっと待って、、タンマ……泣き止む、泣き止むから少し」

「無理して止めんな」

「……」

「いっぱい泣け、お前は充分頑張ったんだから」

「……ふぅっ」

「明日からいつものセツに戻るためにも、今日は沢山泣いとけ。大丈夫、もし泣き顔を見られたくないんだったら、俺がこうして隠してやるから」

「うっ……」

「そうそう…今だけは何も考えずに、自分のために泣いていいんだよ、セツ」


もう…本当にやめてほしいんだけど…
頭を引き寄せられるとか何その少女漫画展開、こんなシチュエーションじゃなくてやられるならもっとロマンチックなものが良かったんだけど!

頭の片隅でそんなことを考えながら私の手はしっかりとクロスのシャツを掴んでいた
困った…困ったよまったく
涙が全然止まらない…むしろクロスが何か話しかけてくるたびに、私の頭を撫でるたびにどんどんエスカレートしていく
クロスのシャツがあっという間に私の涙で濡れていく


「ふうぅ…うぐっ……怖かった」

「だろうな」

「こ…心細かった」

「ごめんな、側にいてやれなくて」

「…うぅっ……不安で仕方なかった」

「だよな…当然そうなるよな」

「……本当に、死ぬかと思った…」

「縁起でもないこと言うな」

「もう……みんなに会えないのかと…っ…思った…」

「そんなことあるわけないだろ」

頭上からクロスのはっきりとした否定の言葉を聞いて安心した

うん、そんなことあるわけないよね
私もそう信じてたよ
でも、やっぱり嫌でも過ぎっちゃうんだ…

元々私はこの世界ではイレギュラー
ただでさえ学園に入った後の死亡フラグが決定しているのにその前に死なない可能性なんてどこにある?……ないんだよ
だからある日私は突然死を迎えるかもしれない、前世のときみたいに訳も分からないまま気づいたら死んでいたっていうことになったってありえる
その時…私はその事実を受け止められるのだろうか…みんなと離れ離れになるっていうその事実を


「うぅ…ああぁ…うっっ…」

そんなことを思っていたらさらに泣く勢いが増した
あーやばいやばい、追加分の涙が来ちゃった

……クロスは自分のために泣けって言ってくれた
思えば、私はこの世界で目を覚ましてから一度も自分のための涙、というのを流したことがなかったと思う
それをクロスは見抜いていたのかもしれない…でもなんでだろうね、普段の私は自分でも涙とは無縁な生き物だと思ってるのに、他の人から見た私は違うのだろうか…


「お前は笑顔のほうが似合ってるけど、たまにはこうしてガス抜きしないとな」

「…ああぅ…うぅううっうううう」

「返事しようとしなくていいから、今は泣くことにだけ集中してろ」


なんだそれ!とつい心の中で笑いそうになった
……でも…そうだね、難しいことなんて今考えるのはやめよう
他の人が私をどんな目で見ていたって関係ない、私は自分らしく生きるだけなんだから

…だから、そのためにも、ここでいーっぱい泣いて!…明日からクロスの言う笑顔の似合ういつもの私に戻ろう


だから、もう少し

もう少しだけこの安心できる温もりと一緒にいさせて




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