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第三章

寂しい

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「それで?お前がそんなにも興奮している理由は?」


場所は移動して寮の近くにある中庭
ここなら静かだし、今のとこ人通りもないから話をするには最適だろう

「ふっふっふ!当ててみるがいい!」

「帰る」

「行かないでくださいごめんなさい」

ベンチから立ち上がってガチで立ち去ろうとするクロスに慌ててしがみ付く
もうほんっとこの子ったらもうー!

「はあ…」

「いやほんっとふざけてすんませんっした」

ため息をついて再び座るクロスに謝る


「まあ、だいたい予想はつく。友達でも出来たか?」

ふっと笑ってそう言うクロスに一気に私のテンションは爆上がりした

「なんで分かるの!?」

「顔に書いてある」

「もうー!本当に気持ち悪いくらい鋭いんだから~!このエスパー!おかん!ツンデレマザコンめ!!」

「お前はほんとに俺を怒らせるのが上手いな」

クロスに頭グリグリ攻撃をされても私のニヤケ面は健在で

「ねえねえクロス聞いて聞いて!今日友達になった女の子はね、同じクラスでコレットっていう名前でね!すっごい可愛くてすんんんんっごい天使みたいな良い子なの!!」

グリグリ攻撃を受けながら嬉しそうに語る私を見て呆れたのか、クロスは手を止め私に顔を向けた


「相当惚れこんでるな」

「そーりゃーもうー!!メッロメロよ!!」

「ふはっ!そうか、良かったな」


鼻息荒くそう宣言する私を見て吹き出すクロス
そして笑いながら私の頭を撫でてくれた

クロスは知ってるもんね
私がどれだけ女友達を欲していたか


その後も、クロスには私とコレットの出会いのきっかけからハルやアイシャとのいざこざでのことまで全部を話して聞かせた
クロスはあんまり喋ることはなかったけど、全部しっかりと聞いてくれたし時々相槌を打ってくれた
それだけで、私には充分だった


そして、どれだけ話したのか


「セツ、そろそろ夕食の時間だから戻るぞ」

「えっ、もう!?まだまだ話したいことが沢山あるのに!!」

「明日また聞いてやるから」

「じゃあ、毎日今日の時間にここで会おう!?」

「分かった分かった」

「家では毎日いつでも会えたのに今じゃこうしてでしか二人で話せないなんてやっぱり寂しいね」

「俺は別に」

「素直になると死ぬ病気にでもかかってんの!?」


無愛想なクロスに怒りながらそれぞれの寮へ向かって歩いて行く


「そう言えば、なんで私があそこにいるって分かったの?たまたま?」

「寮で噂になってたんだよ、セツィーリア・ノワールがすごい目つきで男子寮を睨んでるって」

「なっ!?に、睨んでなんかないし!私はただクロスをどうおびき出そうか考えてただけで!」

「その言い方は誤解しか招かねえからやめろ」

コツンッとクロスに小突かれて口を噤む

「まあ、それでまたお前がなんか突っ走ってるなと思って様子見に行ったってわけ」

「おおー、伊達に何年も私の保護者やってないね~」

「お前自分でそれを言うか」

「クロス、人間はふっきれる生き物だよ」

親指を立てて見せてやれば残念なものを見るような目つきで見られため息を吐かれた

だがしかし!
もう何年もこの目で見られ続けてきたからな!悲しくなんかないもんね!!ちっとも傷ついてなんか、ないんだからね!!

心の涙を流しながら自分に言い訳をしていた時に丁度女子寮と男子寮の分かれ道に差し掛かった


「それじゃ、気をつけて帰れよ」

「うん、明日はクロスの話も聞かせてね」

手を振ってクロスに背を向けた時だった








「俺もちゃんと寂しいって思ってるから」






そんな声が聞こえて振り向いた時には、クロスは私に背を向けて歩き出していた



"俺もちゃんと寂しいって思ってるから"


面と向かって言ってはくれなかったけど



「…素直じゃないんだから」



言葉にしてくれたから許してあげるよクロス







「あっ、セッちゃん!スキップまでしてご機嫌だね、何か良いことでもあった?」


食堂で合流したコレットに言われるまで、私は自分のスキップとニヤケ面に一切気付いていなかったという



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