6 / 6
第六話「自立したい、でも甘やかされる」
しおりを挟む
柊兄弟は怒った。そりゃあもう怒りに怒りまくった。
なんで相談しないんだ、なんで勝手に参加申し込みするんだ…ひよりはどんどん小さくなっていく。
「ご、ごめんなさい…」
左腕切断と聞いた瞬間より、今怒られているこの瞬間の方が涙が出そうである。不思議だなあ。
「あのな、ひより。なんで俺たちが怒ってるかわかるか?」
「相談もなしに勝手に話を進めてることに怒ってるんだよ、ひよ兄。そこわかる?」
「あの、義手自体は…?」
「反対だ」
「俺も反対」
結局反対するんじゃないか。ひよりは心の中でぶつくさ呟いた。
「とりあえずキャンセルの連絡を入れてこよう。こういうのは一度同意しても取り消せる」
そう言って緋色が立ち上がり仕事部屋へ消えていった。
パタンとドアが閉じ、はあああ、と碧人が盛大にため息を吐いた。
「あのさあひよ兄、約束したよね? 誓ったよね? 誓いのキスしてくれたよね?」
「うっ…」
「呆れを通り越して笑えてくるわ。あともう一つ聞きたいんだけど、そんなに義手欲しいの? 俺たちが世話するからいらねえだろ」
「……僕だって」
「え?」
「僕だって二人のお世話したい…」
碧人がぽかんとしていると「キャンセルできた」と言いながら緋色が帰ってきた。碧人の様子に「どうしたコイツ」と指を差している。
「ひよ兄…俺たちの世話したいんだってさ」
「は?」
「俺たちの世話したいから義手が欲しいってさ」
今度は緋色がぽかんとする。
ひよりは赤い顔でぽつりぽつりと呟いた。
「たまにさ、膝枕して、って碧人くんが言うでしょ? 僕…それがすごく嬉しいんだ。たまに二人から甘えられるのがすごくすごく嬉しいから…僕だって緋色くんと碧人くんのお世話がしたい…」
緋色と碧人の二人がその場に崩れ落ちる。バターンと床に寝っ転がり、体を震わせては大声で笑い始めた。
「そうかそうか! ひよりは俺らの世話がしたいのか!」
「はははっ! そりゃあ世話したいのに世話されちゃあつまんねえよな!」
「もー…二人とも笑いすぎ…」
ひよりも床に座り込み、二人の頭を交互に撫でる。
「ほら、今だって…二人一緒になでなでしたいけど片腕しかないからできないもん…」
すると足を投げ出して座るひよりの右脚に緋色が、左脚に碧人が頭を乗せてきた。
「ひよりは俺らの世話がしたかったんだな。かわいいなあひより」
「俺らがひよ兄を世話したいように、ひよ兄も俺らの世話をしたかったんだな。気持ちはすごくわかる」
「その思いは尊重しないとな」
「そうだな」
二人の腕が伸びてきてひよりの頬を撫でる。くすぐったくて「んう」と変な声が出てしまう。
「ひよりにも出来ることを一緒に探していこう」
「思ってたよりひよ兄に愛されてんだなあ俺たち。かわいいよひよ兄は。ほんとかわいい。…俺が結婚したかった」
「後から生まれたことを一生後悔しとけ」
「あ?」
バチバチと火花が飛び交うので「膝の上で喧嘩しないでね」と苦笑した。
少しずつ笑顔が消えるひよりは、小さく項垂れた。
「……約束破ってごめんなさい」
閉じた瞳からぽとりと涙がこぼれ落ちた。
左腕がなくなった時だって親に見捨てられた時だって泣かなかった。
でも今…涙が出てくる。
…理由はわかってる。
「わがまま言ってばかりだけど…僕は二人が大好きなんだ。ねえ緋色くん、離婚するって言わないよね」
「言うわけないだろ」
「ねえ碧人くん、僕のこと嫌いにならない?」
「大好きに決まってるだろ」
涙を流しながらくしゃくしゃの笑顔で「よかった」と笑った。
ぽろぽろと落ちる涙が、緋色と碧人の頬を濡らした。
はは、と緋色が笑う。
「そっか、ひよりが泣くのは俺たちに嫌われるのが怖い時か」
「俺たちの言うこと一切聞かねえけど、ひよ兄なりの甘え方なんだろうな」
「そう考えると話は別だな」
二人が起き上がり、ひよりの小さな体を抱きしめた。
「ひより、たくさんわがままを言いなさい。自分勝手なことも好きなだけ言いなさい」
「全部俺たちが受け止めてあげるよ、ひよ兄。そんでもって全力でひよ兄を繋ぎ止める」
ひよりは両腕を伸ばそうとして右腕しかないことを思い出す。もどかしくて、けれどもどうにもできない現実に短い上腕をジタバタさせると、碧人がそっと包み込んでくれた。
「ひよ兄のこの短い腕、ちゃんと俺に届いてるよ」
断面に口付けられてひよりは笑った。
「僕の左腕、愛されてるね」
柊兄弟は笑いながら「当たり前だろ」とひよりの両頬にそれぞれキスをした。
「ーーで? ひよ兄は何を検索してるんですか?」
呆れた顔で碧人にそう尋ねられたひよりは「パスポート!」と叫んだ。
「この前から二人が海外海外言うからさ、パスポートってどうやって取るのか調べたくなって!」
壁に向かって設置する小さなテーブルの上に固定されたタブレットを見つめながら叫ぶ。
「海外って行ったことないから気になっちゃった!」
「だから勝手にどこか行かないでくれって…」
「ここはフツー三人で仲直りセックスするんだろうが…」
しかしひよりの耳には届かない。
碧人がちらりと緋色を見た。
「俺さあ、ずっと気になってたことがあるんだけど。ひよ兄の親」
「それがどうした」
「ひよ兄さあ、今回の事故ですげー額の慰謝料貰ってるし、申請も受理されたから国からの金も貰ってるわけじゃん? それをあの親が何も言わないってどういうことなんだ? どうせ兄貴が一枚噛んでんだろ?」
「ああ、それか。あの親がそれらの金に気付く前に俺がポケットマネーからいくらか出して手切れ金として渡して一筆書かせた。ひよりには二度と関わらない、ってな。ちゃんと法的効力もある」
「あー、そういうこと。…ひよ兄小さい頃から搾取されてることに気付いてねえからな」
「気付いてないなら気付かないままでいい。俺がひよりを買い取った形になるが、ひよりには黙ってろよ?」
「言うわけねえだろ」
「ひよりを絶対に幸せにする。見返りなんか必要ない世界で甘やかされた人生を送らせてやりたい」
「同感」
緋色がひよりの背後に座り、あぐらをかく真ん中にひよりを置いて後ろから抱きしめる。
「どうだひより。パスポートの取り方わかった……なんで家具を見てるんだ?」
タブレットには家具屋のベッドが映し出されていた。
「パスポート調べてたらさ、海外ってどんな国があるかなー、って思ったら次にホテルが気になって調べたらすっごく大きなベッドを見たんだ。それでどこに売ってるんだろうなー、って」
「ほら、ひよ兄は相談もなしにでかい家具買おうとしてる」
「み、見てるだけだよっ」
ケラケラ笑いながら碧人が左側に座り、ひよりのその短い左腕を包み込む。
「ひよ兄忘れてるけどさあ、あんたまずは外に出られるようになんねえと」
「…はっ!」
「忘れてんじゃねえよ」
「ひよりは自立心だけは一人前以上だな」
ひよりはちらりと二人を見上げた。
「…外に出る練習したいって言ったら、二人は付いてきてくれる?」
「当たり前だろ」
「どこまでも行くぜー」
「でもその前に」
緋色が唇にキスをし、碧人が短い左腕にキスをした。
「三人で愛し合おう」
ーーぐっ、と押し込もうとするも辛そうな表情となるひよりを見て、碧人が待ったをかける。
「兄貴、やっぱやめとこう。ひよ兄めちゃくちゃ痛そう」
「やっぱ一度に二人は無理か」
すでに碧人のものを飲み込んでいる穴は緋色のものを受け入れるには難しいようだ。
「ごめんなひより。痛かったな」
ちゅ、ちゅ、と背中に首筋にキスをされ「ん…」と少し安堵の息を吐いた。
碧人一人のものでギチギチなのにこれ以上は無理だと体は訴えている。
「で、も…三人で一緒に、気持ちよくなりたい……だめ?」
緋色と碧人を交互に見ると「ダメなわけがない」と頬にキスされた。
碧人に唇にキスをされて舌がぬるりと入ってくる。口内に舌を差し入れられてたくさんの唾液を注がれ、こくこくとひよりの小さな喉が動いた。
「ひより、俺も」
「ん…んぅ…」
その喉を優しく撫でられ後ろを向かされ、今度は緋色にキスされた。
ひよりの赤い舌を差し入れると、緋色の舌できゅっと軽く絡められる。「ふっ…ぅ…」と緋色の唾液を飲み込んでいく。
唇を離せば銀色の糸で結ばれており、思わずぼーっとする頭で眺めていた。
「ひよ兄、ちょっと体の向き変えるね」
そう言って向き合う状態だった体制をぐるりと反転させられる。背後から碧人を受け入れる形で、目の前には緋色がいる。
緋色がそっとひよりの性器を包んだのを見て、ひよりも緋色に体を預けて緋色の性器を柔らかく握りしめた。
そして笑った。
「三人で気持ちよくなろうね」
緋色に上半身を預けるひよりの腰を掴み、碧人が打ち付ける。
「はあっ、あっあ…あ、あ…っ」
「気持ちいいよ、ひよ兄。ひよ兄の中すげー熱い」
「俺も気持ちいいよ、ひより」
右手のひらは緋色の性器を包んではいるものの、大きく勃起しているために片手では握れない。左腕もあればなあと思ってもどうしようもないので、せめて気持ちは伝えわればと思い、すりすりと緋色の肩口に擦り寄った。
緋色が、ちゅ、と頭にキスをしながら左腕を持ち上げる。
「ひより、気持ちは伝わってるよ」
「俺にも届いてるよ、ひよ兄」
交互に左腕にキスをされて、ひよりは笑った。
「僕、緋色くんと碧人くんが大好き」
内側の碧人がさらに膨らむ。緋色の手の中のひよりだってもう達する寸前だし、ひよりがさする緋色自身だって絶頂はもう目の前だった。
「あ、あ…もう、ぼく…イっちゃう…あ、あ、あっ」
二人の体に挟まれた中で、ひよりは我慢することなく吐き出した。
「ひよ兄よろしく」
そう言って渡されたブラシを見たひよりはぱあっと顔を輝かせ「うんっ」と大きく頷いた。
そのブラシを手に取ると碧人がソファーに座り、ひよりはその背後に回って髪の毛をとかした。
「これだったら片手の僕でもできるね!」
「ひよ兄、あんまり力入れると痛い」
「ごっ、ごめんっ」
慌てて謝ると碧人にケラケラ笑われた。
実は緋色と碧人の世話がしたいために義手が欲しかったーーそれを理解した二人はあれからひよりにできることを考えた。
それは、二人の髪の毛をとくこと。朝と晩の一日二回、これはひよりの仕事となった。
「緋色くーん、緋色くんも髪の毛ブラシするからこっちおいでー」
「はいはい」
朝ごはんを作る最中でエプロン姿の緋色も無理矢理参加させられる。
碧人の隣に座る緋色の髪の毛もとかしてやった。
「ふふ、嬉しいなあ。僕も二人のお世話ができる」
「まさかひよ兄が世話するのが好きだとはな」
「これからもひよりができることを一緒に考えていこうな」
「うんっ」
「でも」
こちらを向いた緋色がソファー越しに手を伸ばしてひよりの華奢な体を持ち上げ、いつもの通り膝に乗せた。
「やっぱりひよりの定位置はココなんだよな。んー、ひよりいい匂い」
「ずるい兄貴。俺もあとでひよ兄抱っこしたい」
「これはひよりと結婚した者の特権だからな。なー、ひより。ひよりは俺の嫁さんだもんな」
「あーくそっ! 俺がひよ兄と結婚する予定だったのに!」
「お前は一生指を咥えて見とけ」
「なんだと!?」
今日も頭上で兄弟の言い争いが開始される。
はああ、と息を吐きながらひよりは残る右腕でまずは碧人の頭を撫で、それから緋色の頭を撫でた。
「こういう時に両腕ないと困るからなあ、やっぱり義手は検討したほうが…」
「だめだ」
「義手はんたーい。せっかくのひよ兄のかわいい左腕が」
「俺たちのひよりの短くてかわいい左腕が」
そう言って二人が、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と短い左腕に何度もキスをする。
ひよりは苦笑した。
「ホント緋色くんも碧人くんもこの腕好きだよね」
「当たり前だろ! かわいいんだよこの腕。この短さ。この重さ」
「あー…右腕も切り落としたい…」
「出た。兄貴の恐ろしい願望」
そう言って緋色からひよりを取り上げ碧人の膝の上に避難させられた。
「俺はそんなこと思ってないからなーひよ兄。…でも両腕ないならないでそれもアリか?」
「な、碧人。お前もそう思うだろ?」
「あの、さ、二人とも…怖いこと言わないでくれる…? それにね、僕はまだ自立は諦めてないの」
そう言うと柊兄弟は盛大に眉間に皺を寄せた。
「は?」
「まだ諦めてないのか?」
「そりゃあね…一人で外に出られるようになりたいし、一人で喫茶店でお茶したり、一人で…」
「反対反対はんたーいっ! ひよ兄! 俺絶対反対だからな!?」
「ひより、俺も反対だ。お前は何もできずに俺たちの腕の中でぬくぬくしとけ。な?」
頬を撫でられ気持ちよくて頷きそうになるけれど、慌てて首を横に振った。
危ない危ない。
二人は僕の意見を尊重すると言っておきながら、隙あらば何もさせない方向へ持っていくのだ。
む、とひよりは唇を尖らせる。
「僕は自立は諦めないもん」
そう言って碧人の胸にこてんと頭をくっつけてすりすりすり。その様子を見た二人が笑う。
「これで自立は無理だろ」
「ひよ兄は俺たちに甘えまくってくれ」
「……考えとく」
碧人に頭を撫でられ、緋色に短い左腕を優しく包み込まれる。
ーー自立計画、一時中断?
もうしばらく二人に甘えて、後のことはこれからゆっくり考えようとひよりは笑った。
大好きな緋色と碧人の二人がいてくれたら、きっとどんなことだって三人でできるから。
なんで相談しないんだ、なんで勝手に参加申し込みするんだ…ひよりはどんどん小さくなっていく。
「ご、ごめんなさい…」
左腕切断と聞いた瞬間より、今怒られているこの瞬間の方が涙が出そうである。不思議だなあ。
「あのな、ひより。なんで俺たちが怒ってるかわかるか?」
「相談もなしに勝手に話を進めてることに怒ってるんだよ、ひよ兄。そこわかる?」
「あの、義手自体は…?」
「反対だ」
「俺も反対」
結局反対するんじゃないか。ひよりは心の中でぶつくさ呟いた。
「とりあえずキャンセルの連絡を入れてこよう。こういうのは一度同意しても取り消せる」
そう言って緋色が立ち上がり仕事部屋へ消えていった。
パタンとドアが閉じ、はあああ、と碧人が盛大にため息を吐いた。
「あのさあひよ兄、約束したよね? 誓ったよね? 誓いのキスしてくれたよね?」
「うっ…」
「呆れを通り越して笑えてくるわ。あともう一つ聞きたいんだけど、そんなに義手欲しいの? 俺たちが世話するからいらねえだろ」
「……僕だって」
「え?」
「僕だって二人のお世話したい…」
碧人がぽかんとしていると「キャンセルできた」と言いながら緋色が帰ってきた。碧人の様子に「どうしたコイツ」と指を差している。
「ひよ兄…俺たちの世話したいんだってさ」
「は?」
「俺たちの世話したいから義手が欲しいってさ」
今度は緋色がぽかんとする。
ひよりは赤い顔でぽつりぽつりと呟いた。
「たまにさ、膝枕して、って碧人くんが言うでしょ? 僕…それがすごく嬉しいんだ。たまに二人から甘えられるのがすごくすごく嬉しいから…僕だって緋色くんと碧人くんのお世話がしたい…」
緋色と碧人の二人がその場に崩れ落ちる。バターンと床に寝っ転がり、体を震わせては大声で笑い始めた。
「そうかそうか! ひよりは俺らの世話がしたいのか!」
「はははっ! そりゃあ世話したいのに世話されちゃあつまんねえよな!」
「もー…二人とも笑いすぎ…」
ひよりも床に座り込み、二人の頭を交互に撫でる。
「ほら、今だって…二人一緒になでなでしたいけど片腕しかないからできないもん…」
すると足を投げ出して座るひよりの右脚に緋色が、左脚に碧人が頭を乗せてきた。
「ひよりは俺らの世話がしたかったんだな。かわいいなあひより」
「俺らがひよ兄を世話したいように、ひよ兄も俺らの世話をしたかったんだな。気持ちはすごくわかる」
「その思いは尊重しないとな」
「そうだな」
二人の腕が伸びてきてひよりの頬を撫でる。くすぐったくて「んう」と変な声が出てしまう。
「ひよりにも出来ることを一緒に探していこう」
「思ってたよりひよ兄に愛されてんだなあ俺たち。かわいいよひよ兄は。ほんとかわいい。…俺が結婚したかった」
「後から生まれたことを一生後悔しとけ」
「あ?」
バチバチと火花が飛び交うので「膝の上で喧嘩しないでね」と苦笑した。
少しずつ笑顔が消えるひよりは、小さく項垂れた。
「……約束破ってごめんなさい」
閉じた瞳からぽとりと涙がこぼれ落ちた。
左腕がなくなった時だって親に見捨てられた時だって泣かなかった。
でも今…涙が出てくる。
…理由はわかってる。
「わがまま言ってばかりだけど…僕は二人が大好きなんだ。ねえ緋色くん、離婚するって言わないよね」
「言うわけないだろ」
「ねえ碧人くん、僕のこと嫌いにならない?」
「大好きに決まってるだろ」
涙を流しながらくしゃくしゃの笑顔で「よかった」と笑った。
ぽろぽろと落ちる涙が、緋色と碧人の頬を濡らした。
はは、と緋色が笑う。
「そっか、ひよりが泣くのは俺たちに嫌われるのが怖い時か」
「俺たちの言うこと一切聞かねえけど、ひよ兄なりの甘え方なんだろうな」
「そう考えると話は別だな」
二人が起き上がり、ひよりの小さな体を抱きしめた。
「ひより、たくさんわがままを言いなさい。自分勝手なことも好きなだけ言いなさい」
「全部俺たちが受け止めてあげるよ、ひよ兄。そんでもって全力でひよ兄を繋ぎ止める」
ひよりは両腕を伸ばそうとして右腕しかないことを思い出す。もどかしくて、けれどもどうにもできない現実に短い上腕をジタバタさせると、碧人がそっと包み込んでくれた。
「ひよ兄のこの短い腕、ちゃんと俺に届いてるよ」
断面に口付けられてひよりは笑った。
「僕の左腕、愛されてるね」
柊兄弟は笑いながら「当たり前だろ」とひよりの両頬にそれぞれキスをした。
「ーーで? ひよ兄は何を検索してるんですか?」
呆れた顔で碧人にそう尋ねられたひよりは「パスポート!」と叫んだ。
「この前から二人が海外海外言うからさ、パスポートってどうやって取るのか調べたくなって!」
壁に向かって設置する小さなテーブルの上に固定されたタブレットを見つめながら叫ぶ。
「海外って行ったことないから気になっちゃった!」
「だから勝手にどこか行かないでくれって…」
「ここはフツー三人で仲直りセックスするんだろうが…」
しかしひよりの耳には届かない。
碧人がちらりと緋色を見た。
「俺さあ、ずっと気になってたことがあるんだけど。ひよ兄の親」
「それがどうした」
「ひよ兄さあ、今回の事故ですげー額の慰謝料貰ってるし、申請も受理されたから国からの金も貰ってるわけじゃん? それをあの親が何も言わないってどういうことなんだ? どうせ兄貴が一枚噛んでんだろ?」
「ああ、それか。あの親がそれらの金に気付く前に俺がポケットマネーからいくらか出して手切れ金として渡して一筆書かせた。ひよりには二度と関わらない、ってな。ちゃんと法的効力もある」
「あー、そういうこと。…ひよ兄小さい頃から搾取されてることに気付いてねえからな」
「気付いてないなら気付かないままでいい。俺がひよりを買い取った形になるが、ひよりには黙ってろよ?」
「言うわけねえだろ」
「ひよりを絶対に幸せにする。見返りなんか必要ない世界で甘やかされた人生を送らせてやりたい」
「同感」
緋色がひよりの背後に座り、あぐらをかく真ん中にひよりを置いて後ろから抱きしめる。
「どうだひより。パスポートの取り方わかった……なんで家具を見てるんだ?」
タブレットには家具屋のベッドが映し出されていた。
「パスポート調べてたらさ、海外ってどんな国があるかなー、って思ったら次にホテルが気になって調べたらすっごく大きなベッドを見たんだ。それでどこに売ってるんだろうなー、って」
「ほら、ひよ兄は相談もなしにでかい家具買おうとしてる」
「み、見てるだけだよっ」
ケラケラ笑いながら碧人が左側に座り、ひよりのその短い左腕を包み込む。
「ひよ兄忘れてるけどさあ、あんたまずは外に出られるようになんねえと」
「…はっ!」
「忘れてんじゃねえよ」
「ひよりは自立心だけは一人前以上だな」
ひよりはちらりと二人を見上げた。
「…外に出る練習したいって言ったら、二人は付いてきてくれる?」
「当たり前だろ」
「どこまでも行くぜー」
「でもその前に」
緋色が唇にキスをし、碧人が短い左腕にキスをした。
「三人で愛し合おう」
ーーぐっ、と押し込もうとするも辛そうな表情となるひよりを見て、碧人が待ったをかける。
「兄貴、やっぱやめとこう。ひよ兄めちゃくちゃ痛そう」
「やっぱ一度に二人は無理か」
すでに碧人のものを飲み込んでいる穴は緋色のものを受け入れるには難しいようだ。
「ごめんなひより。痛かったな」
ちゅ、ちゅ、と背中に首筋にキスをされ「ん…」と少し安堵の息を吐いた。
碧人一人のものでギチギチなのにこれ以上は無理だと体は訴えている。
「で、も…三人で一緒に、気持ちよくなりたい……だめ?」
緋色と碧人を交互に見ると「ダメなわけがない」と頬にキスされた。
碧人に唇にキスをされて舌がぬるりと入ってくる。口内に舌を差し入れられてたくさんの唾液を注がれ、こくこくとひよりの小さな喉が動いた。
「ひより、俺も」
「ん…んぅ…」
その喉を優しく撫でられ後ろを向かされ、今度は緋色にキスされた。
ひよりの赤い舌を差し入れると、緋色の舌できゅっと軽く絡められる。「ふっ…ぅ…」と緋色の唾液を飲み込んでいく。
唇を離せば銀色の糸で結ばれており、思わずぼーっとする頭で眺めていた。
「ひよ兄、ちょっと体の向き変えるね」
そう言って向き合う状態だった体制をぐるりと反転させられる。背後から碧人を受け入れる形で、目の前には緋色がいる。
緋色がそっとひよりの性器を包んだのを見て、ひよりも緋色に体を預けて緋色の性器を柔らかく握りしめた。
そして笑った。
「三人で気持ちよくなろうね」
緋色に上半身を預けるひよりの腰を掴み、碧人が打ち付ける。
「はあっ、あっあ…あ、あ…っ」
「気持ちいいよ、ひよ兄。ひよ兄の中すげー熱い」
「俺も気持ちいいよ、ひより」
右手のひらは緋色の性器を包んではいるものの、大きく勃起しているために片手では握れない。左腕もあればなあと思ってもどうしようもないので、せめて気持ちは伝えわればと思い、すりすりと緋色の肩口に擦り寄った。
緋色が、ちゅ、と頭にキスをしながら左腕を持ち上げる。
「ひより、気持ちは伝わってるよ」
「俺にも届いてるよ、ひよ兄」
交互に左腕にキスをされて、ひよりは笑った。
「僕、緋色くんと碧人くんが大好き」
内側の碧人がさらに膨らむ。緋色の手の中のひよりだってもう達する寸前だし、ひよりがさする緋色自身だって絶頂はもう目の前だった。
「あ、あ…もう、ぼく…イっちゃう…あ、あ、あっ」
二人の体に挟まれた中で、ひよりは我慢することなく吐き出した。
「ひよ兄よろしく」
そう言って渡されたブラシを見たひよりはぱあっと顔を輝かせ「うんっ」と大きく頷いた。
そのブラシを手に取ると碧人がソファーに座り、ひよりはその背後に回って髪の毛をとかした。
「これだったら片手の僕でもできるね!」
「ひよ兄、あんまり力入れると痛い」
「ごっ、ごめんっ」
慌てて謝ると碧人にケラケラ笑われた。
実は緋色と碧人の世話がしたいために義手が欲しかったーーそれを理解した二人はあれからひよりにできることを考えた。
それは、二人の髪の毛をとくこと。朝と晩の一日二回、これはひよりの仕事となった。
「緋色くーん、緋色くんも髪の毛ブラシするからこっちおいでー」
「はいはい」
朝ごはんを作る最中でエプロン姿の緋色も無理矢理参加させられる。
碧人の隣に座る緋色の髪の毛もとかしてやった。
「ふふ、嬉しいなあ。僕も二人のお世話ができる」
「まさかひよ兄が世話するのが好きだとはな」
「これからもひよりができることを一緒に考えていこうな」
「うんっ」
「でも」
こちらを向いた緋色がソファー越しに手を伸ばしてひよりの華奢な体を持ち上げ、いつもの通り膝に乗せた。
「やっぱりひよりの定位置はココなんだよな。んー、ひよりいい匂い」
「ずるい兄貴。俺もあとでひよ兄抱っこしたい」
「これはひよりと結婚した者の特権だからな。なー、ひより。ひよりは俺の嫁さんだもんな」
「あーくそっ! 俺がひよ兄と結婚する予定だったのに!」
「お前は一生指を咥えて見とけ」
「なんだと!?」
今日も頭上で兄弟の言い争いが開始される。
はああ、と息を吐きながらひよりは残る右腕でまずは碧人の頭を撫で、それから緋色の頭を撫でた。
「こういう時に両腕ないと困るからなあ、やっぱり義手は検討したほうが…」
「だめだ」
「義手はんたーい。せっかくのひよ兄のかわいい左腕が」
「俺たちのひよりの短くてかわいい左腕が」
そう言って二人が、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と短い左腕に何度もキスをする。
ひよりは苦笑した。
「ホント緋色くんも碧人くんもこの腕好きだよね」
「当たり前だろ! かわいいんだよこの腕。この短さ。この重さ」
「あー…右腕も切り落としたい…」
「出た。兄貴の恐ろしい願望」
そう言って緋色からひよりを取り上げ碧人の膝の上に避難させられた。
「俺はそんなこと思ってないからなーひよ兄。…でも両腕ないならないでそれもアリか?」
「な、碧人。お前もそう思うだろ?」
「あの、さ、二人とも…怖いこと言わないでくれる…? それにね、僕はまだ自立は諦めてないの」
そう言うと柊兄弟は盛大に眉間に皺を寄せた。
「は?」
「まだ諦めてないのか?」
「そりゃあね…一人で外に出られるようになりたいし、一人で喫茶店でお茶したり、一人で…」
「反対反対はんたーいっ! ひよ兄! 俺絶対反対だからな!?」
「ひより、俺も反対だ。お前は何もできずに俺たちの腕の中でぬくぬくしとけ。な?」
頬を撫でられ気持ちよくて頷きそうになるけれど、慌てて首を横に振った。
危ない危ない。
二人は僕の意見を尊重すると言っておきながら、隙あらば何もさせない方向へ持っていくのだ。
む、とひよりは唇を尖らせる。
「僕は自立は諦めないもん」
そう言って碧人の胸にこてんと頭をくっつけてすりすりすり。その様子を見た二人が笑う。
「これで自立は無理だろ」
「ひよ兄は俺たちに甘えまくってくれ」
「……考えとく」
碧人に頭を撫でられ、緋色に短い左腕を優しく包み込まれる。
ーー自立計画、一時中断?
もうしばらく二人に甘えて、後のことはこれからゆっくり考えようとひよりは笑った。
大好きな緋色と碧人の二人がいてくれたら、きっとどんなことだって三人でできるから。
4
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
僕に双子の義兄が出来まして
サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。
そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。
ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。
…仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。
え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。
執着騎士団長と、筋肉中毒の治癒師
マンスーン
BL
現代日本から異世界へ転生した治癒師のレオには、誰にも言えない秘密がある。
それは「定期的に極上の筋肉に触れて生命力を摂取しないと、魔力欠乏で死んでしまう」という特異体質であること!
命をつなぐため、そして何より己のフェティシズムを満たすため、レオがターゲットに選んだのは「氷の騎士団長」と恐れられる英雄ガドリエル。
「あぁっ、すごい……硬いですガドリエル様ッ!(大胸筋が)」
「……っ、治療中にそんな熱っぽい声を出すなッ」
生きるために必死で揉みしだくレオを、ガドリエルは「これほど俺の身を案じてくれるとは」と都合よく勘違い
触られたいムッツリ攻め×触りたい変態受け
藤崎さんに告白したら藤崎くんに告白してた件
三宅スズ
BL
大学3年生の鈴原純(すずはらじゅん)は、同じ学部内ではアイドル的存在でかつ憧れの藤崎葵(ふじさきあおい)に、酒に酔った勢いに任せてLINEで告白をするが、同じ名字の藤崎遥人(ふじさきはると)に告白のメッセージを誤爆してしまう。
誤爆から始まるBL物語。
大人になることが分かったから何でもできる!
かんだ
BL
病弱で十歳も生きられないと言われていた受けだったが、自分が大人になるまでの人生を夢で見た。それは精霊が見せてくれた『本当』のことで、受けは歓喜した。
心のままに生きる受けと、それに振り回される周りの話。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる