2 / 7
紫陽花の咲く頃に 起1-1
しおりを挟む「お前、なんでユーレイ連れてるんだ?」
まだまだ暑い九月一日。
夏休み明けの石田スミレ(いしだ・すみれ)が学校へ行くと、教室の前でそう声をかけられた。
スミレは首を傾ぐ。
ーーユーレイ?
「ユーレイってどういうこと?」
「お前の背後にいるぞ。夏休み前にはいなかったから、その間に取り憑かれたんだな」
ちらりと背後に目をやる。よかった、何もいない。
む、と頬を膨らませた。
「何もいないよ」
「お前が見えてないだけだろ。俺には見える」
そう言う男の目はスミレと合わず、確実に背後を見ている。
スミレは何度か振り向いてみるものの、やはりそれらしきものはいない。だが相変わらず男とも目が合わない。
少し背筋が震えた。
「えーっと、…ごめん、キミの名前…」
「葵だ。立花葵(たちばな・あおい)。夏休み前にも言っただろうが」
「ご、ごめん…」
「葵って呼べ。わかったな」
「はあ…」
初対面なのになんでこんなに偉そうなんだ? とまで考え眉間に皺を寄せる。
ん? 初対面…じゃない!
「うわあああ!」
スミレは顔を真っ赤にして即座に後退りした。
ーーそうだよ! そうだよこの人は…!
「お前に告白した男をもう忘れたか」
後退りした分、ずいっと男に寄られる。ついでに顔も寄られ、整った切れ長の目が本当に目の前だ。
近い近い近いっ。
「まあ忘れても仕方ないよな。告ったの夏休み前だし、この暑さだし」
「え、あ、え」
「なんだ、何が言いたい」
「こ、こ、この距離感をどうにかしてください…」
「好きな奴の顔なんて目の前で見たいに決まってんだろ」
「っ!」
ーー夏休みの終業式後、確かにこの男…葵に告白された。
隣のクラスで、男なのに髪の毛を伸ばしてポニーテールにしていると有名だった。それに加え背も高く顔も綺麗なので、クラスは違えど顔ぐらいは知っていた。
接点はない。喋った事もない。
それなのにあの暑い日の帰り道、葵に告白されたのだ。
「お前が沸騰しそうだからとりあえず避けるか。大丈夫か、スミレ」
体を避けてはくれたけれど、その代わりスッと手が伸び汗ばんだ頬に触れる。
びくっ、とスミレの体が大袈裟なまでに飛び上がった。
「熱いな。ホントに大丈夫か」
「だっ、だ、だいじょぶ…」
目がぐるぐる回る。触れられたせいで体温が一気に急上昇。
本当に沸騰しそう!
「そっ! それより! ユーレイがどうのこうのって…」
「お前の後ろにいる。あぁ、そうか、スミレは知らないのか。俺は寺の孫だ」
「えっと、学校の近くにあるあのお寺?」
「あぁ。俺のジジイが住職をやってる。だからユーレイが見える。血筋だけど、ま、全部が見えるってわけじゃない」
そう言う葵の目線は相変わらず背後で、思わずスミレはゾッとした。
「除霊って…」
「ジジイならできる」
「キミは…? キミは除霊…」
「名前で呼べ」
「立花くん…? 立花くんは除霊…」
「さっきも言ったけど葵って名前で呼べ。くん付けじゃなく呼び捨てで」
「…あ、葵は? 葵は除霊できる?」
葵の言うことを信じたわけではないが、やっぱりユーレイが乗っているのは精神衛生上よろしくない。
単純に怖いじゃないか!
フリでもなんでもいいから除霊っぽいことをしてほしいーースミレは葵を見つめた。
蝉が鳴く。たらりと汗が流れる。
まだまだ太陽は真夏のようで、立つだけで熱気が地面からこみ上げてくるから暑い。
不意に葵の顔がまた近づいて来た。
「キス」
「へ?」
「キスしたら除霊ができる」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
しかし言葉の意味がわかった途端にスミレは今まで以上に顔を真っ赤にした。
「ええええ! な、なななに言ってんのー!?」
「だから、キスしたら除霊ができると」
耳元で囁くように告げられ、スミレの全身から汗が噴き出した。
ーーなになになにこの人!?
「失礼しますー!」
言うが早いか全速力でその場から逃げた。もしかして、と途中で振り向くも追いかけてくる様子はなく安心するも万が一を考えてそのまま家まで走り続けた。
自室へ入り勢いよくドアを閉め、へなへなとその場に座り込む。
「な、なん、なんだ、今の…」
夏休みを挟んだためにすっかり忘れていたが、そういえば告白されていた。
どっきんどっきん、と鼓動が大きい。うるさくて耳を塞ぎたくなる。
触られた頬が熱い。囁かれた耳も痛いほどに熱い。鏡を見なくてもわかる、きっと真っ赤だろう。
…これは暑さのせいだけではなさそうだ。
「ユーレイとか意味わかんないし…あ、でも…」
思い当たる節がないわけではない。そう、ないわけでは…スミレはぱたりとその場合に倒れ最後の力を振り絞ってエアコンのリモコンへと手を伸ばした。
夏休みも終わったというのに暑い。
そういえば告白されたあの日もすごく暑かったなぁと思い出したスミレは、さらに顔を赤くさせた。
3
あなたにおすすめの小説
痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜
四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。
「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない!
__と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで……
※他サイトにも掲載しています。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
兄弟の恋のキューピッドはかわいい天使
ユーリ
BL
魔法省に勤める千歳は仕事で天使の子育てを言い渡された。しかしその天使はあまりにも元気で千歳の手に負えなくて…そんな時、自分を追いかけてきた弟が子育てに名乗り出て…??
「まさか俺と兄さんの子供!?」兄大好きな弟×初の子育てでお疲れな兄「お仕事で預かってる天使です…」ーー兄弟の恋のキューピッドはかわいい天使!
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる