悪魔はかわいい先生を娶りたい

ユーリ

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後編

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突撃の家庭訪問から三ヶ月も過ぎればエリオにもだいぶ心の余裕が出てきたらしく、授業の合間を縫ってスミレが家へ行ってもキチンと寝室で眠っていることが増えた。
それに伴い少しずつ家事もできるようになり、以前のように家の中が大荒れということは少なくなった。
スミレは困っていた。
(僕はいつまでふたりに介入すればいいのでしょうか…)
きっかけはシエルが心配だから、のはずがいつの間にかエリオにも心配してしまい挙句の当てには学校が休みの前の日はお泊まりすることが増えてきた。
シエルは毎回嬉しそうに「すみれせんせいをひとりじめ」と嬉しそうにはしゃぎ「俺も独り占め」と言いながらエリオに抱きしめられる。
天気の良い今日だって三人で大きな公園へ来て遊びスミレ特製のお弁当を食べて、足を投げ出して座るスミレの右足にエリオが頭を乗せ、反対側の左足にシエルが抱きつきまったりしていた。
ふふ、と笑いながらシエルの頭を撫でてやる。
「寝ててもいいですよ」
「やだおきてる…かぞくさんにん…きのうもカワノジした…」
柔らかな日差しにあたたかな風、シエルの目がうとうとし始める。
「すみれせんせ…オレのママになって……」
とうとう抗えずくうくうと気持ちよさそうな寝息を立てて眠り始めた。
「ん? シエル寝たか?」
「ええ、気持ちよさそうに寝ています。大はしゃぎで遊びましたものね」
「ここ最近のシエルは本当に楽しそうだからなあ。ありがとな、スミレ」
そう言ってスミレの手を取り、指先に口付けられる。
スミレは唇を尖らせた。
「ここは外ですよ…そういうのはやめてください…」
「いいじゃねえか、家ん中でしても真っ赤になるだけだし」
「…モラルやマナーの問題ですよ」
そう言って、スミレは苦笑した。
「それは僕の方ですね。…正直、担任の僕が介入するにはキミたちに首を突っ込みすぎた感があります」
シエルの頭を撫でながらそう呟いた。
「僕は天使五名悪魔五名の担任です。十名みんなに…同じだけの愛情を注がなければならないはずです。今の状況はあまりにも偏りすぎています」
手を伸ばしたエリオの指先がスミレの頬に触れた。
「そろそろ答えを出さないと、って感じだな」
「ええ…このままずるずるとした関係はシエルくんにとって一番悪いです」
「…帰ってから話すか」
起き上がったエリオが眠るシエルを「寝る子は重いな」と笑いながら抱っこし、反対側の手をスミレに向ける。
「ほら、スミレ。一緒に帰ろう」
差し出された手に何の疑問も躊躇いも一切なく自らの手を重ねてしまったことにより、スミレは笑った。
ーーああ、そうか。
「ふふ」
「どうしたスミレ」
「いえ…僕の中ではもう答えは決まってたんだなあ、と思いまして」
「その感じだと帰って話すまでもないか」
「はい。…僕はただ勇気がなかっただけですね。今…エリオくんと当たり前のように繋いだ手で、自分の気持ちがわかりました」
スミレは見上げて笑った。
「僕はキミたちと三人家族になりたいです」




「えっと…前にも言いましたが、僕は今日で先生を辞めます」
教室内が静まり返り、中にはシクシクと小さく泣き出す子もいて思わずスミレも涙を流しそうになった。
「短い間でしたが、みんなの先生でいられて幸せでした。僕も学校に遊びに来るから、そのときは仲良くしてくれたら嬉しいな」
不思議そうに首を傾いだ生徒の一人が呟いた。
「すみれせんせえ、がっこうにあそびにきてくれるの?」
「養育者としてね、参観日とかには来たいなって思っています」
生徒たちがさらに不思議そうに首を傾いだ。言ってしまおうかどうか迷い、やっぱり言わなきゃダメだよなあとスミレは深呼吸して思い切って口にした。
「大河内シエルくんのパパさんと結婚することになりました。だから、シエルくんのママとして参観日に来ます」
気恥ずかしい…そう思いながら生徒たちの顔を見ると、全員がぽかんとしている。
あらかじめシエルには伝えておいたので、シエルだけは誇らしげな顔をしていた。
生徒のひとりが勢いよく立ち上がった。
「やったなシエル! ママがほしいってずっとゆってたもんな!」
「おめでとうシエルくん!」
ぱちぱちとたくさんの拍手の中、さよならの会のはずが急遽、シエルを祝う会となった瞬間だった。




「ママおはよおっ!」
リビングのドアを開けた瞬間、ぴょんとジャンプしてくる小さな体を抱き上げぎゅっと抱きしめる。
「おはよう、シエル」
「おはようママ! すみれせんせいはオレのママ!」
「そうですよ、僕はシエルのママですよ」
そう言って頬擦りをすると、にしし、とシエルが嬉しそうに笑う。
「きょうのあさごはんはなあに?」
「今日はねえ、シエルの大好きなホットケーキです。ママ特製のジャムを付けて召し上がれ」
「わーいっ」
「ところでパパは?」
「まだねてる」
「じゃあ一緒に起こしに行きましょうか」
「うんっ」
抱っこしたまま寝室へ行くと、小さな寝息を立ててエリオが寝ている。
ふたりは大きな体を揺さぶった。
「パパおきて!」
「エリオくん、朝ですよ」
薄っすら目を開けたと思ったらニヤリと笑い、シエルとスミレを抱き込んでベッドへと引っ張り込まれた。
あっという間に三人布団の中である。
「油断したなお前ら」
「パパおきてた!」
「びっくりしました…」
本気で寝ていると思ったのでバクバクする心臓を抑えると「ごめんごめん」と額にキスをされた。
「パパ、きょうはママがほっとけーきつくるんだってさ!」
「お、いいなあ」
「ほら、早く起きて朝ごはん食べ…ないのですか?」
起き上がろうにもぎゅっとエリオに抱きしめられているため体を起こせない。
はは、とエリオが笑う。
「いやー、シエルというかわいい息子がいて、スミレというかわいい奥さんがいて幸せだなー、と」
「オレも! オレもしあわせ!」
「つーわけでもう少し寝る」
「オレも」
二人してぐーぐーと狸寝入りし始めたので、ふふ、とスミレも笑った。
「じゃあママも少しだけ」
そう言って旦那と息子に抱きついた。




「おい、大円団っぽい感じになってるが結局お前は俺のことどう思ってんだよ」
「へ?」
「お前、まさかシエルのママになりたかっただけじゃねえよな? おい、目え逸らすな」
「な、何のことでしょう…」
「図星かよ…。あーあ、俺はこんなにも好きなんだけどなあ」
「…嫌いとは言ってませんよ?」
「じゃあ好きなのか?」
「……」
「ったく、真っ赤な顔してそれだけ意識してんのに好きじゃねえってことはねえだろ」
「……これが好きってことですか?」
「俺の奥さんになってる時点でそうだろ」
「じゃあそういうことで…」
「おいコラ逃げんな。シエル! ママそっちに行ったぞ捕まえてくれ!」
「あいあいさー! ママつかまえたーっ!」
「ふふ、シエルに捕まえられたらもうダメですね。かわいい僕の息子ですもの。わっ、エリオくん、いきなり抱きついたらびっくりしちゃいますよ」
「ははっ、俺のかわいい息子とかわいい奥さん。幸せだな」
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