幼馴染は吸血鬼

ユーリ

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後編

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長い足を組み、だるそうに椅子に座っては隣に座る莉央にもたれかかる。
莉央はこそこそと旺志郎に話しかけた。
「旺志郎くん大丈夫?」
「ねみい…」
「がんばって起きて話聞こうね。せっかくの文化祭のことだから」
1年1組の旺志郎は1年2組の莉央の教室にいた。もうすぐ文化祭。これから学年対抗の仮装大会についてクラス合同会議だった。
しかし合同会議の前に「腹が減った」とのことで血液パックも全て飲みきってしまった旺志郎は、おやつと称して少しだけ莉央の血を飲んでから来た。なので眠いのだ。
委員長が、ダンッ、と教壇を叩く。
「先輩共に勝つぞーっ! 優勝商品は俺たち一年のものだーっ!」
クラス中が大騒ぎである。これには旺志郎は眉間に皺を寄せた。
「なんでこんなに盛り上がってんだ? ただの文化祭だろ?」
「旺志郎くん知らないの? ウチの高校の文化祭の学年対抗仮装大会の優勝商品」
「なんだ?」
「出席日数改ざん」
「…魅力的だな」
「だよね」
どこまで本気かはわからないが確かに魅力的である。その証拠にクラス全員の目が血走っている。
そして委員長はおかしなテンションだった。
「仮装大会! ウチのクラスにはコスプレイヤーがいる! 優勝狙えるぞーっ! というわけでよろしく真美子(まみこ)くん!」
委員長が恭しく手を差し出した先に、同じクラスの美少女である真美子がにっこりと笑った。
「立候補させてね? 他に誰もいなかったら…誰もいないわね。じゃあ私ね! 衣装はいつも瑠璃(るり)と一緒に作ってるから瑠璃に作ってもらいたい!」
「衣装係に立候補します!」
同クラスの瑠璃のメガネがキラリと光った。
「あとは男子だけど…桜場くんを推薦します!」
全員が旺志郎を見る。本人はぐーぐー寝ていた。
「ちょ、ちょっと、旺志郎くんっ」
「肉を…肉を…食え…」
こんなときにワケのわからない夢見てる!
慌てて起こそうとしたものの謎のセリフを同意と受け取ったらしく委員長に「決まりだな!」と言われてしまった。
そして黒板に名前が書かれーー旺志郎が目を覚ました際には時すでに遅し。
「は? なんで俺が?」
「旺志郎くん寝てたから…。仮装大会に出ることになっちゃったよ…」
「しかもドラキュラ伯爵とメイド長ってなんだ? 何のことだ?」
「旺志郎くんがドラキュラ伯爵で、真美子さんがメイド長だってさ。なんかちょっと踊るみたい」
「は?」
莉央は旺志郎の耳元でこそこそ囁いた。
「でも旺志郎くんがドラキュラ伯爵ってピッタリだよね。僕見てみたいなあ」
「莉央がそう言うんならがんばってやる」
急に旺志郎はやる気を見せた。




しかし文化祭が近づくにつれ、旺志郎の機嫌がどんどん悪くなっていった。
「あのさあ…飲み終わったなら離してくれないかなあ。結構痛いんですけど…」
放課後、莉央の部屋で肩から血を飲んだのち、いつも通り抱きしめられるが今日はいつまでも腕をガジガジ噛んでいた。
「うるせえ」
「あの、さ? 旺志郎くん?」
「うるせえ。腕に穴開けるぞ」
「…」
別に腕から飲んでもいいけどさあ、とブツブツ文句を言う。
「なんで俺が毎日毎日居残りして文化祭の練習せにゃいかんのだ。毎日のように寸法計りやがって」
「…毎日待たされてる僕の身にもなってよ」
「あ? 俺が腹減ってぶっ倒れてもいいのか? 保存食のくせに」
これには莉央がカチンとくる。
「なんだよ保存食保存食って! 僕はキミのごはんじゃない!」
「お前は俺のメシだろうが。ずっと血を飲ませてくれる約束してるだろうが」
「そうだけど…っ」
腕を離そうとするのに離してくれない。
ーーなんでわかってくれないんだ。
(別に帰りを待ってることに怒ってるわけじゃない。僕だってずっとイライラしてるのに)
文化祭にて主役となった旺志郎と真美子が毎日のように手を取り合って踊りの練習をするのが楽しくない。
見たくない。でも旺志郎は見ていたい。見すぎてふたりの踊りすら覚えてしまう始末だ。
旺志郎に強く腕を握られ、莉央は目元に涙を溜めながら睨みつけた。
「僕の気持ちなんかわかんないくせに」
「知らねえよ」
「旺志郎くんのバカっ」
「うるせえ。お前は俺のなんだよ」
勢いよく腕を噛んだ旺志郎が立ち上がり、部屋を出ていく。
莉央はため息を吐いた。
「痛いじゃん…」
腕を見る。
本気で噛むつもりはなかったのだろうが、犬歯が突き刺さった二箇所から血が滲んでいる。
ぺろりと莉央は舐めてみた。
「…まずい」
血は血である。こんなものを旺志郎は毎日飲んでいるのだ。
いや、飲まなきゃ生きていけない。そういう種族だ。
魔法省に登録されている吸血鬼。だからこそ魔法省から血液パックが毎日のように送られてくるけれど、育ち盛りの旺志郎はそれでは間に合わない。
だから毎日莉央の血も飲んでいる。
理由はわからないけれど、莉央以外の血は飲んでいないようだ。
飲める血をいくつか確保している方がいいだろうに、と考えても、それは嫌だとつい思ってしまう。
(僕は…旺志郎くんだけのごはんだ)
保存食やら緊急食料やら言われてはいるが、結局は莉央がいなければ成り立たない。
旺志郎はいつも言う。
保存食としての自覚を持て、と。
(だったら旺志郎くんだって僕の血だけを飲んでるって自覚を持ってよね)
莉央は自分の腕に擦り寄った。
噛まれた小さな傷跡が、愛おしかった。




文化祭二日目がスタート。
本日の目玉イベントである学年対抗仮装大会がやってきた莉央は、こっそりと舞台裏へ来ていた。
遠くの方から、舞台袖で出番を待つ旺志郎を眺める。
白いシャツに黒のジャボを付け、黒のベストと黒のズボン、表地は黒、裏地は赤のマントを羽織っていた。
前髪を上げたヘアセットをして、ムカつくぐらいかっこよかった。
(…こういうときに仲直りできれば可愛げもあるのにな)
あれから一言も喋っていない。
血だって飲んでいない。…血は間に合っているのか。
健康面は大丈夫かなと思っていたときだった。旺志郎とは反対側の舞台袖が、ざわざわし始める。
「は…? 真美子あんたマジ?」
スマホを手にした衣装係の瑠璃が真っ青な顔をして通話を切った。
「ちょっと、真美子が足怪我して保健室から出られないって電話来たんだけど…」
「うそ」
「え、ヤバいじゃん。ていうか代役…」
「無理。絶対に無理。だってこの衣装、真美子のサイズだから…腰がとんでもなく細いの」
そう言って主役の片割れである真美子が着るはずだったメイド長の衣装を女子全員が眺めた。
「は? 真美子ってこんな腰細いの?」
「あたしの半分以下じゃん」
「誰か入る人いないの?」
「絶対無理…真美子だけが着ると思って、ウエストはゴムじゃなくてファスナーで仕上げちゃった…。胸はシャーリングだからでかかろうが小さかろうが大丈夫だけど、腰だけは絶対に無理」
女子たちが衣装をぐるぐる回しながらお互いの腰を眺めては絶望している。
不意に、瑠璃が莉央を見た。
上から下まで舐めるように見たあと、キラリとメガネが光る。
「真美子並の腰の細いやつ、見つけた」
ーー黒のシンプルなロングワンピースの上から、白いエプロンドレスを着る。
靴下は黒で、本当はヒールの高いシューズを履いてほしかった様だがさすがに危険だと断り、黒のスニーカーで間に合わせる。
白のヒラヒラとしたカチューシャを頭に乗せられ、落ちないようにだろう、大量のヘアピンで固定された。
「かわいいぞ塩原メイド長!」
瑠璃に両手をぎゅっと握られても莉央は全く嬉しくなかった。
クラス一の美少女である真美子が着るはずだった超絶細い衣装、莉央はすんなり入った。
これには女子全員が唖然としたが、その出来上がりに小さな拍手が湧き起こるほどだった。
「ダンスは覚えてないだろうから適当にクルクル舞いなさい! 私が作ったこの素晴らしい大量の布地のスカートが全てを掻っ攫う!」
そう言って舞台袖に立たされた。
(ひーっ! まさかこんなことになるなんて…!)
暗闇の中だから、反対側の袖にいる旺志郎はまだ気づいていないだろう。ていうか誰か報告してる?
講堂に音楽が鳴った。アナウンスが響き、パッと舞台に照明が照らされる。
(もう行くしかない!)
莉央は飛び出した。同じように反対側の舞台袖から出てきた旺志郎が目を丸くしている。
ふたりは手を取り合った。台本通りである。
旺志郎が莉央の細い腰を抱き、耳元で囁いた。
「莉央、お前なにしてんだ?」
「代役…」
「よくわからんが似合ってる」
くすくす笑われ思わず旺志郎を見るが、いつもと雰囲気の違う姿に顔が赤くなる。
あれだけ覚えているはずだった踊りがさっぱりわからない。台本通りだろうが、旺志郎が手を離したため一瞬混乱したものの、適当にクルクル舞いなさい! という瑠璃の言葉を思い出し、莉央は舞台の中央でゆっくり回った。
布地をたっぷりと使った黒のワンピースが、白のエプロンドレスと共にクルクルなびく。
回転すればするほど観客席から歓声が上がり、莉央はホッとする。
しかしそれも束の間、着たことのないワンピースは意外に重量があることを思い知り、回る莉央のバランスが崩れ倒れそうになる。
咄嗟に旺志郎がその手を掴み、引き上げる。
ちょうどいいタイミングで音楽がクライマックスへと入った。旺志郎が耳元で何かを囁き、莉央は頷く。
旺志郎が勢いよく莉央の首元を噛む。莉央は目を閉じ倒れたフリをした。
そして音楽が消え、スポットライトが徐々に小さくなる中ーードラキュラ伯爵は自らのマントでメイド長の体を隠した。
明かりが消える。舞台の幕が閉じる。
たくさんの拍手と歓声の中、ふたりはマントに隠れたまま唇を重ねていた。



「あー腹減った」
莉央の部屋で旺志郎の腕の中、指先をガジガジ噛まれながら莉央は「ちょっと待ってね」とスマホを見た。
「今連絡来たんだけど、真美子さんの足の怪我、大したことないらしいよ。よかったね」
「ふーん」
「え、興味なし?」
「当たり前だろ。ま、お前のかわいい格好見れたから良しとして、あとでクラスのグループトークには参加してやる」
「なんか偉そう」
ぎゅ、と強く抱きしめられ、耳元で囁かれた。
「……悪かった」
「僕もごめんなさい……」
「お前との時間が取れんくてすげーイライラしてた」
「僕も…旺志郎くん取られちゃったみたいですごくイライラしてた…」
額に口付けられ、くすぐったさに目を細めた。
そういえば、と莉央は思い出す。
「何を貰ったんだろう」
学年対抗仮装大会は見事一年生が優勝した。
出席日数改ざんの権利を手にした全員が泣いて喜び、副賞としてクラスに渡された封筒だったが、主役である旺志郎と代役の莉央で分けろと貰ったのだ。
「あ、学校の近くのお肉屋さんの商品券だ」
「ちょうどいいな。肉を買うぞ。そして食う。お前は脂身を食べろ。そんでもってうまい血を俺に飲ませてくれ」
「もう、旺志郎くんってばそればっかり」
「当たり前だろ」
制服のシャツのボタンを外され、肩を露わにされた。
「ちょっ」
「俺はもう我慢できん。腹が減ってしょうがねえんだよ」
言うが早いか噛みつかれ、しょうがないなあ、と莉央は痛みに耐えながらも笑った。
「飲む血は僕だけでしょ?」
「当たり前だろうが。俺の保存食」
「もー、その言い方どうにかしようよ」
くすくす笑いながら押し倒され、首元から血を飲む旺志郎の頭を莉央は撫でた。
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