コーヒーとチョコレート

ユーリ

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中編

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お前は悪魔に向いていない。
出会う悪魔全てに言われたんじゃないかと思われるぐらい何回も聞いたセリフ。
黒い髪の毛、黒い瞳、黒い羽根…見た目はどんなに悪魔でも中身は悪魔らしくないようだ。
だから昔からターゲットにされた。大人になった今でも下級悪魔の中でもさらにランクの低い悪魔からもバカにされ羽根をむしられる。
でも、やり返せない。少しずつなくなっていく羽根では飛べないし、そもそも魔法が使えない。
ーーなんで悪魔に生まれたんだろうな。
ずっとそう思いながら生きてきたーーふと名前を呼ばれた気がして、クロエは薄っすらと目を開けた。
「クロエ」
そこには微笑みながら名前を呼ぶジェットがいた。ーー悪魔から自分を買った死神だ。
「起きたか、クロエ」
頬を撫でられ眠い目元を擦る。ジェットが笑いながらその目元にキスをしてきた。
「ん…」
「コーヒー淹れたぞ。飲むだろ?」
「チョコレートありますか?」
「あるけど、一日一箱だぞ」
交渉すればもう少し増えるだろうか、なんて考えながら起き上がる。リビングからコーヒーの香ばしい香りが漂い、クロエは嬉しそうに笑った。
「ジェットさんの淹れるコーヒー好きです。僕が淹れるとなんか苦い…」
「コーヒーは奥深いからなあ」
椅子に座ってチョコレートを口に含みながらコーヒーを啜る。
「おいしい」
思わず顔が綻ぶと、それを見つめるジェットも笑った。
その笑い方が優しくて、ぽぽぽ、とクロエの顔が少し赤く染まる。
「かわいいなお前は。お前を見てるだけで俺は幸せだ」
なんだか恥ずかしくてコーヒーを飲むも、やはり単体では苦いので眉間に皺が寄る。
「今日は魔法省に行かなくちゃいけないんだ」
「出勤ですか?」
「死神対策の会議だ。会議が終わったらすぐに帰るから、後でチョコレートを買いに行こう」
「はい」
飲み終わるとジェットはすぐに出て行った。ひとりきりの部屋で、クロエはソファーに座った。
いつの間にかベルベットの一人掛けソファーは撤去され、二人用のソファーに代わっていた。
クロエはぼーっとベランダを見る。今日もいい天気だ。
ーージェットはいい人だ。いくら自分を買った死神とは言え何かするでもなく優しく丁寧に接してくれる。
悪魔として能力の低い自分をバカにするでもなく羽根をむしるでもなく。それどころかブラッシングをして手入れまでしてくれる。
そんな人に言われた。
好きだ、と。
「……好きってなんだろう」
ソファーの上で膝を抱えたクロエがぽつりと呟く。
誰かが誰かを好きになる。それぐらいはわかる。でも、なんで自分なんだろう。
悪魔として能力の低い自分にそんな魅力はある? そもそもこんな自分が誰かに好かれる権利はある?
「わかんない…」
外から鳥の鳴き声がする。同じような羽根があるのに僕は飛べない。
ぽかぽかの太陽を浴びながらぼーっとしているとかなり時間が経ったらしくいつの間にかジェットが帰ってきていた。
「なんだ? 日光浴か? ははっ、クロエあったけー」
小柄な体を抱っこされ頬ずりされる。体温の低い悪魔よりも死神のほうがさらに体温が低くひんやりしていた。
「おかえりなさい、ジェットさん」
「ただいま、クロエ。そうだ、忘れないうちに見てほしいものがある」
抱っこされたまま別室へ移動。壁にたくさんのモニターが設置された部屋だ。
ジェットが操作すると、パッと画面が切り替わった。三人の男が映し出される。
「コイツらの顔をよく覚えとけ」
クロエは首を傾いだ。
「コイツらは死神対策会議にいた悪魔だ。まあ悪魔として紹介はされていないが確実だろう。外に出たときにこの顔がいたら絶対に逃げろ」
「なんで?」
「駆除される側の死神の俺と一緒にいるんだ。フツーに考えて危ないだろ?」
「なるほど…」
ジェットは悪魔と偽って魔法省に勤めていると言った。こういう情報を得るためだろう。
「俺の情報だってどこで漏れるかわからない。ま、安心しろ。お前は俺が守るから」
そう言って目元にキスをされ「さ、チョコレート買いに行くか」と外へ出た。
気になっていた店舗の限定チョコレートを手に入れ、クロエは大事に大事に手に持っていた。
「そういやもうスマホは使えるか?」
「はいっ。電話もかけれますしメッセージも送れます」
「お、やるなあ」
「QRコード決済も覚えたからあとは実践だけです」
「ははっ、クロエがどんどん覚えていくな」
手を繋いで街中を歩く。外へ出るとジェットは必ず手を繋ぐのだ。
「人間の生活っておもしろいですね。すごく便利だけど、自分で自分の首を絞めてるような気もします」
「それは言えるな。だが刺激的で離れられない。クロエみたいだな」
「へ?」
思わず変な声を上げてしまった。
びっくりしながら見上げると、ジェットは笑っていた。
「お前は刺激的でかわいくて離れられない。どんどん沼にハマっていくからもう逃げられない。ほら、な?」
「え、えっと…うん?」
どういう意味だろう? 首を傾いでいるとジェットの笑顔が止まった。
「やっぱ尾行されてんなあ」
スクランブル交差点の赤信号で足が止まる。目の前をビュンビュンと車が走っていく。
ジェットがクロエの顔を覗き込んだ。
「チョコレート、落とさないようにしっかり持っとけ?」
「は、はい」
「さて行くか」
青信号へと変わった瞬間に横抱きにされ、ジェットが走る。クロエは見た。サングラスをかけるスーツ姿の男数人が慌てて追いかけてくる姿を。
「見ただろ? あれ悪魔」
「え、悪魔!? なんで悪魔が…」
「お前を売りつけた悪魔の仲間かもなあ。声取り返したついでにあの世行っちゃったもんで」
クロエを横抱きに、ジェットが走る走る。他の歩行者に対してひらりくるりとまるで踊るように避けている。
「ははっ、楽しいな」
クロエに伸びた男の手首を取って捻り上げ、男がその場に崩れ落ちる。
見上げた先のジェットは楽しそうだ。
「しっかり捕まっとけよ」
「え? あ、わ、わああああ!」
目の前に現れた高層ビルをいきなり垂直で走り始めた。慌てて下を見ると男たちは付いて来られずあたふたしている。
途中、目を丸くするオフィスの住人と目が合い会釈しながら駆け上がりあっという間に屋上までたどり着いた。
勢いよくフェンスも垂直に走り抜け、そのまま羽根を出して空を飛び始めた。
「ははっ、逃避行ってこういうこと言うんだろうなあ。クロエ? 大丈夫か?」
「し、心臓が縮みました…」
「それはかわいそうに」
ちゅ、と頭にキスを落とされた。どう考えても原因はジェットである。
「さーて帰るか」
バサバサと羽根を羽ばたかせる。クロエは色々な意味で爆発しそうな心臓を抑えていた。




「ん!? 消えました…」
「綿菓子か? それはそういう食べ物だ」
「すごい…食べ物って消えるんですね…。でもおいしい…」
「正確には溶けてるんだけどな。口の中でパチパチ弾ける甘いアイスもあるけど今度食いに行ってみるか?」
「や、やです…怖い…だって爆発するんでしょ…?」
「ははっ、そりゃ怖いな」
「ジェットさんは色んな食べ物知ってますね」
「まあ人間生活長いからな。ココア飲むか?」
「飲む! …な、なんですか」
「いや? お前はかわいいと思ってな。クロエはかわいい。ずっと一緒にいような」
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