双子の狐は愛を語らう

ユーリ

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前編

「どうもこんばんわ。盗賊集団『狐』の長のコンでございます」
手元の金で縁取られた赤い扇子をゆっくりと開く。
目元のみ隠された狐面の口元が、唯一見える小さな赤色の唇がにんまりと笑う。
同じく狐面を被った男女から歓声が上がった。
「この世の金銀財宝全て僕のもの。この世の金銀財宝全て狐のもの」
扇子を満月に向けて差し、右へ左へくねらせながら口元へ誘う。
「さあ兄様姉様、存分に舞いましょう。狐の長、コンの命令でございます。ーーこの世の全て、奪いましょう?」




「あー…だるい…」
そう言って狐神壱歌(きつねがみ・いちか)はベッドの上をゴロゴロする。
時計を見るとすでに午前十時を回っている。
フツーの高校生ならばとっくに学校へ行って勉強をしている時間だが、壱歌はそんな場所へ通ったことはなかった。
「絶対僕たちって社会不適合者だよねえ。お仕事が盗賊なんて」
ブツブツ文句を言っていると、部屋のドアがノックもなしに開いた。
「兄さん起きてる?」
「あ、弍歌(にか)くん。うーん、起きてると言えば起きてる。起きてないといえば起きてない」
「なんじゃそりゃ」
「難しいお年頃なのよ」
「じゃあ俺も難しいお年頃ってことか。双子だから同い年だし。というわけで俺も寝る」
狭いシングルベッドに弍歌も寝転ぶ。
「もー、弍歌くん邪魔。でっかいから邪魔!」
「うるせえ兄さんのくせに。俺兄さんのベッド好き。すげー兄さんの匂いがする。あー勃つ。勃つ!」
「人のお布団で勃たせないでよねっ」
「じゃあまあとりあえず兄さんの枕カバー匂いながらシコるわー。あーすげーいい匂い。マジ兄さんの匂い好き」
「兄を隣に置いたまま枕カバーでシコんないでよ。何そのプレイ」
「じゃあ兄さん相手してよー。ねえ、兄さん」
べろりと耳を舐められ「んっ」と甘い声が上がる。ジロリと睨んでも双子の弟は悪びれもせず舌を見せて笑っている。
壱歌も笑った。
「しょうがないなあ、僕の弟は」
壱歌も舌を出し、絡み付ける。水分をまとった真っ赤な舌でちろちろと先端をくっつけて遊ぶ。
唇がくっつく。舌も内側へと入り込み、奥へ奥へと向かっていく。溢れ出た唾液は、ふたりしてごくりと飲み込んだ。
「んっ…は、あ…」
「兄さんかわいい。兄さん好き」
「僕も弍歌くん大好きだよ」
キスをしながら手を伸ばし、お互いの性器を取り出す。上下に擦るとすでにすでににちゃにちゃと粘っこい音が響いた。
何度も唇を重ねがら、お互いの頭を擦り付ける。額を、頬を、互いに何度も擦り付けた。
「双子なのにひとつにならねえな」
「やっぱ別の人間なんだろうねえ。双子なのに」
とろけそうなほど熱いから、こういうときぐらい生まれる前みたいにひとつになれればいいのに。
弍歌がぺろりと壱歌の目元を舐める。
「でもさ、俺たち双子でもこうやって別の人間だからエロいことできるよな」
「まあね。そこは感謝、かな?」
「大感謝。ふたりでひとつだと永遠に兄さんとエロいことできねえ。でもたまにひとつに戻りたい」
「僕も」
頬を擦り合わせてぺろぺろと舐める。次第に互いの舌が絡み互いに吸い付く。
壱歌の手の中の弍歌自身がさらに大きく膨らむ。弍歌の手の中の壱歌自身も同じくだった。
「は、ああ、あ、…きもち、い……んっ、んんっ、にかくん…」
「俺も気持ちいいよ、兄さん。ーー一緒にイこうな」
喘ぎ声がキスに吸い込まれる中、ふたりは吐き出す。
枕元のティッシュで手を拭きながら、ふたりは同じタイミングでため息を吐いた。
「俺たちこんなに愛し合ってんのにね。なんで誰も認めてくれねえんだろ」
「生まれてきた家が悪いよ、家が。別に狐神家は同性婚も近親婚も認めてる。でも、例外的に僕たちだけが認められない」
「つーか兄さんだけだ。兄さんが狐の長だから許されない」
ぎゅ、と弍歌に抱きしめられた。
「僕もう長辞めたいなあ…」
「俺さ、盗む前に言う兄さんのあの口上すげー好きなんだけど。なんかエロい」
「あー、アレね…。うん、兄様姉様からめちゃくちゃ評判いい」
「士気が上がるし、なんていうか、ああ俺たちって狐の長の奴隷なんだな、ってすげー思う」
「いや、奴隷とは思ってないからね? みんなただの兄弟だからね?」
「…俺たち腹違いの兄弟含めて十人以上いるのになあ。俺たちだけ愛し合っても認められねえ。悲しいな」
「それでも僕は弍歌くんが好きだよ?」
「俺だって壱歌兄さんが好きだ」
そう言って額に口付けられる。くすぐったさに壱歌は笑った。
どれだけ愛し合っても認められない。そういう家柄に生まれてしまった。
それでも、と壱歌は愛しい弟の弍歌の大きな手を取った。
この手は絶対に離さない。



何百年と続く歴史のある盗賊集団『狐』。
代々、狐の長であるコンだけに受け継がれる魔力を最大の武器に彼らは集団で盗みを働いていた。
彼らは魔法を使える。しかし、コンと呼ばれる長だけは尋常でない力を持ち、コンだけが触れることを許される扇子を手に盗賊集団を率いていた。
狐たちは多い。一夫多妻、多夫一妻、同性婚に近親婚などありとあらゆる形の愛が認められているが故に多いのだ。
そんな中、壱歌と弍歌は同じ親から生まれた末っ子の双子。
狐の中でも初の双子だった。それまでコンと呼ばれる、誰よりも大きな狐の尻尾を持つ者が生まれず一族は困っていたが、生まれた双子の片割れである兄の壱歌が巨大な狐の尻尾を持って生まれたため、末弟でありながら長であるコンとされた。
一方の弟の弍歌は、一族の中でも狐の尻尾は一般的な小ぶりであった。
ーーというのが一族の中での常識だった。
「邪魔するぜ」
弍歌は狐神家の本家へ来ていた。
中央の部屋へ進み、畳張りの部屋の真ん中にどっかりとあぐらをかく。
「さて、俺と壱歌兄さんのことだが話は聞いてるだろ?」
誰もいない部屋に弍歌は呼びかける。
「俺たちは愛し合ってんだ。んでもって兄さんは狐の長を辞めたがってる。処遇はどうすんだ?」
『処遇だと?』
低い声だけが部屋に響いた。
弍歌は笑った。
「相変わらず姿を見せねえな。できれば俺は狐神家を出たい。破門でもなんでもいい」
『わかった。狐神弍歌、お前は破門だ』
「ついでに兄さんも破門にしてくれよ」
『何を言っている。アレは狐神家にとって特別な存在だ。易々と手放せるわけがない』
「俺たち愛し合ってんだぜえ? そこらへん多めに見てくれよ」
『お前ごときが壱歌を愛すとはおこがましい』
「うわー、おこがましいとか言われちまった。これでも狐神家にすげー尽くしたと思ってんだけど?」
『さっさと壱歌を手放せ。アレにとっても悪影響だ』
「兄さんを手放せだって? 無理」
にんまりと弍歌が笑う。
「兄さんは俺のだ。それこそ生まれる前からな」
ーーふたりで住むマンションへと帰ってきた弍歌は、自分のコレクション部屋へと向かい扉を開けた。
「あー、これ見たら落ち着くわー」
金色銀色に光る指輪やブレスレットやネックレスといった本物のアクセサリー、乱雑に放られた大量の宝石たち、大量の金貨に銀貨、誰が使ってたかはわからないがたくさんの宝石が埋め込まれた王冠にティアラ…ありとあらゆるいわゆる宝の山が、六畳の部屋に詰め込まれていた。
「俺のコレクション~」
どさっ、と宝の山に全身を埋める。ズブズブと体が飲み込まれるこの瞬間が大好きだ。
「弍歌くん? 帰ってきたのー?」
遠くの方から声が聞こえる。パタパタとかわいらしい足音からコレクション部屋に来たのだろう壱歌から「またやってる…」と呆れた声が上がった。
「弍歌くん埋まってるよ」
「俺のコレクションに埋もれんのが好きなんだよ」
「窒息するよ」
「その瞬間が好き。自分で盗んできたお宝に窒息されるってサイコーじゃん」
「癖が強いねえ」
「兄さんもこっちおいで」
「僕はいいよ。そこ埋もれたら体が痛いんだよねえ…」
「じゃあ兄さんはこっちだ」
そう言って弍歌が宝の山の上で体を反転させて両腕を広げる。
壱歌はその腕の中に迷うことなく飛び込んだ。
「そうこれこれ。僕はこれだったらいいのです」
「わがまま兄さん。俺のこと大好きだなあ。俺も兄さん好き。大好き。愛してる。腹ん中にいたときから好きだよ」
「僕も」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と頭に額に頬にたくさんのキスを落とした。
くすぐったさに目を細める壱歌に、ああそうだ、と弍歌は思い出したように言った。
「俺、狐神家を破門になったわ」
「…え?」
「破門。イェーイ」
「ちょっ!? 弍歌くん!?」
壱歌が勢いよく顔を上げる。
「弍歌くんピースしてる場合じゃないよ!? なんで破門!? キミ何も悪いことしてないでしょ!?」
「兄さんと愛し合ってることがすでに悪いことらしいぜ。あーあ、許されざる恋ってつれーわ」
「いやまあウチから考えたらそうかもだけど、でも破門ってやりすぎなんじゃ…」
「兄さん愛すのおこがましいって言われた」
「ええー…誰が誰を愛そうがいいじゃん」
「兄さんは狐神家にとってのお宝だからなあ。ま、本家飛び出してこうやってふたりで住んでること自体ヤバいんだけどね」
「あ、やっぱりこの状況ってヤバいんだ。よく許可降りたなあとは思ってたけど」
「俺の強行突破。兄さんを連れ出しちゃった」
「あー…破門にする材料は揃ってたんですね…」
とほほ、と再び弍歌の体に崩れ落ちる。ぎゅっと抱きしめてくれる腕や体は逞しいけれど、と思いながら弍歌の手を握った。
「…いいなあ。僕も一緒に破門にされたかった」
握り返された壱歌の小さな手に、弍歌が口付けた。
「絶対に俺が連れ出してみせるからもうちょい待っとけ」
「うん。弍歌くんを信じてる。絶対に僕を奪ってくれる、って」
「そしたら二人だけで一緒に生きよう。これ全部見越して俺すでに魔法省からスカウトもらってる。いつでも働ける」
「そうなの!? 弍歌くんすごいっ! 僕は何のお仕事しようかなあ…」
「ま、いざってなったらこのコレクション全部売ろう。人生五周以上遊べるぜ?」
「だめだよ、弍歌くんの大事なコレクションでしょ?」
「兄さん以上に大事なものなんてねえよ」
そう言って服の裾を捲り、露わとなった腰を撫でた。
「ん…弍歌くんの部屋行こうよ。僕このコレクションに埋もれる、っていうかネックレスとか突き刺さって痛い」
「へーへー」
弍歌が壱歌を抱き上げコレクション部屋を出て、ウキウキと弍歌の部屋へ行き大きなベッドに投げた。
壱歌は枕をぎゅっと抱きしめる。
「弍歌くんの匂い~。はー、いい匂い。僕この匂い好き」
「俺と同じこと言ってんじゃん。なに? 俺の匂いで勃つ?」
「僕はそんな変態じゃないよ」
そう言って壱歌が自分の股間を見て目を丸くする。
弍歌が吹き出した。
「変態じゃん」
ーーちゅぱちゅぱと壱歌の乳首を吸う。強く吸ったり弱く吸ったり、先端を噛んでみたりとそのたびに壱歌の体がビクビクと震える。
「兄さんの乳首かわいい」
「んっんんっ、は、あ……あ、も、ゃ、イっちゃ…あっ、あっ」
歯で甘噛みし、反対側は指でクリクリと摘む。先端を指でカリカリと引っ掻けば壱歌の背がのけ反り弍歌の引き締まった腹に射精した。
「俺の兄さんかわいい。俺だけの兄さん」
「弍歌くん…僕だけの弍歌くん…」
手を伸ばすとその指先を取ってくれ、口付けられる。そのままするりと首元に腕を巻きつけて引き寄せた。
「弍歌くん、早く僕を奪って」
「何から?」
「全部から」
弍歌は笑った。
「俺の兄さん強欲でかわいい。ーーなあ、破門になったら何したい?」
「僕は学校に通ってみたい。今からでも通えるのかな?」
「俺も兄さんと一緒に通ってみたい。青春ってやつ? 制服着て手え繋いで、帰りに買い食いするんだろ?」
「そうそれ! そういうのやってみたい! 僕たちずっと狐神家の中で育ったからね…フツーの暮らしをしてみたい」
盗みを働くことによって成り立つ一族。
集団の中で育ったものの、ほとんどが血の繋がった縁者の集まり。外の世界を知らない。
ふたりで飛び出して一緒に住み始めたものの、やはり狐神家がよく思っていないことに壱歌は薄々気づいていた。
壱歌は双子の弟である弍歌を見つめる。
「僕たち一緒にいたいだけなのにね」
「なんで祝福されねえのか。こんなにも兄さんのこと好きなのに」
そう言ってキスをしながら穴に性器をあてがわれる。一気に貫いた。
「んんんっ! あ、は…っ、ま、って…うごか、ない、で…っ」
「無理。兄さんの中気持ちよすぎ」
腰を打ちつけられる。そのたびに壱歌から声が上がる。ずちゅずちゅと奥を攻められ壱歌の小柄な体がベッドヘッドに当たってしまうのを見た弍歌が壱歌を持ち上げ跨がせるように座らせた。
「あああっ」
「兄さん、兄さん」
ぎゅっと抱きしめられ、耳元で囁かれては目がとろんと落ちる。
「ほら、俺たち今ひとつになってる」
壱歌も手を伸ばし、弍歌の体を抱きしめた。
「元はひとつだったはずだもんな、俺たち」
壱歌は頷く。
元は母親の体内でひとつだったはずなのに、いつの間にかふたりとして生まれてきた。
ひとつの存在として戻りたいこともある。境界線なんか一切わからず元のひとりに戻ってみたいと思ったこともある。
でも。
弍歌の大きな手のひらを握りしめた。
「僕たちふたりに生まれてよかった」
「ああ。兄さんを愛せる。大好きな兄さんを愛せる」
汗だくの前髪をかき上げられ、べろりと舐められた。壱歌も弍歌の前髪をかき上げて舐めた。
「はあっ、あっ、あっ……んっあ、あ、あ、あっ」
「一緒にイこう、兄さん」
ふたりは抱きしめ合い、手を握り合った。
互いに果てても見つめ合っては笑っていた。

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